公務労組連絡会は8月6日、「24夏季重点要求」をめぐって人事院との最終交渉に臨みました。人事院側は「2.7%台後半」の官民較差にもとづいて、俸給表全般にわたる賃上げを実施、一時金は0.1月分の引き上げを勧告すると回答しました。
交渉には、公務労組連絡会から宮下副議長を先頭に5人が参加、人事院は橋本給与第一課課長補佐と上村職員福祉課課長補佐が対応しました。
なお、交渉に先立って、「公務労働者の大幅賃上げ等を求める署名」4,727人分を追加提出、累計では107,868人分となりました。
宮下副議長は「労働基本権制約の『代償措置』としての人事院勧告という性格をふまえ、公務員労働者の生活と権利を守るための勧告となることを期待している」とのべ、夏季重点要求に対する最終回答を求めました。
人事院側は、勧告日は8月8日(木)となる予定であるとのべ、要旨以下の通り回答しました。
【人事院最終回答】
(給与改定について)
月例給の民間給与との較差は、民間企業の賃上げの状況を反映して2.7%台後半となる見込みである。
特別給は、一昨年、昨年に引き続き0.10月分の引上げとなる見込みである。引上げ分は、今年度については、12月期の期末手当及び勤勉手当に配分する。来年度以降は、6月期及び12月期が均等になるよう配分する。
(俸給表の改定について)
行政職俸給表(一)について、民間における初任給の動向や、公務において人材確保が喫緊の課題であること等を踏まえ、また、社会と公務の変化に応じた給与制度の整備に係る措置も前倒しで講じることにより、総合職試験(大卒程度)に係る初任給を29,300円、一般職試験(大卒程度)に係る初任給を23,800円及び一般職試験(高卒者)に係る初任給を21,400円引き上げることとする。
初任給以外の号俸は、若年層が在職する号俸に特に重点を置くとともに、おおむね30歳台後半までの職員が在職する号俸にも重点を置いた引上げ改定を行う。その他の職員が在職する号俸は、改定率を逓減させつつ、全ての職員について昨年を上回る水準の引上げ改定を行う。
その他の俸給表は、行政職俸給表(一)との均衡を基本に所要の引上げ改定を行う。
定年前再任用短時間勤務職員の基準俸給月額は、各級の改定額を踏まえ、所要の引上げ改定を行う。
(寒冷地手当について)
寒冷地手当の支給月額について、本年の職種別民間給与実態調査の調査結果を踏まえて引上げ改定を行う。
また、支給地域は、気象庁が公表した「メッシュ平年値2020」の内容を反映した見直しを行う。さらに、官署指定における居住地要件を廃止する。
支給地域の見直しにより寒冷地手当が非支給となる職員については、生活への影響等を考慮し段階的に手当額を減額する。
(「給与制度のアップデート」について)
適切な処遇は優秀な人材確保に不可欠である。そのため、社会と公務の変化に応じた給与制度の整備として、次のとおり措置を行い、処遇面を包括的に見直す。
係長級から本府省課長補佐級の俸給は、行(一)の3級から7級の初号近辺の号俸をカットすることにより、俸給の最低水準を引き上げる。また、本府省課室長級の俸給体系は、行(一)の8級から10級の俸給額の最低水準を引き上げ、隣接する級間での俸給額の重なりを解消するとともに、号俸を大くくり化する。なお、これらについては、行(一)以外の俸給表においても、行(一)と同様の対応を基本に見直しを行う。
ボーナス(特別給)は、一般職員と特定管理職員の勤勉手当に係る「特に優秀」区分の成績率の上限を、平均支給月数の3倍に引き上げる。また、特定任期付職員のボーナスは、特定任期付職員業績手当を廃止し、期末・勤勉手当に再編する。
地域手当は、級地区分を都道府県単位で広域化し、級地区分を現在の7区分から5区分に再編成する。その際、中核的な市について、民間賃金の実態を踏まえ級地区分の補正を行う。また、激変緩和のため、支給割合の引下げ幅は最大でも4ポイントまでとする。異動3年目についても異動保障を支給することとし、その支給割合は、異動前の60%とする。
扶養手当は、配偶者に係る手当を廃止し、子に係る手当額を3,000円引き上げ、13,000円とする。
なお、地域手当及び扶養手当の見直しは、支給割合の引下げ又は手当が減額となる職員への影響を考慮し、支給割合の引上げ及び子に係る手当の増額とともに段階的に実施する。
通勤手当は、支給限度額を1か月当たり150,000円に引き上げる。新幹線等の特別料金についても、支給限度額の範囲内で全額を支給する。あわせて、新幹線特例による通勤手当の支給要件の緩和も行う。
また、採用に伴い新幹線通勤または単身赴任となった者について、距離等の他の支給要件を満たす場合には、それぞれ新幹線特例による通勤手当又は単身赴任手当を支給する。
管理職員特別勤務手当については、平日深夜に係る手当の支給対象時間帯を午後10時から午前5時までとして2時間拡大し、対象職員に指定職職員等を追加する。
定年前再任用短時間勤務職員等に、異動の円滑化に資する手当として、地域手当の異動保障、住居手当、特地勤務手当、寒冷地手当等を支給する。
(勤務環境の整備について)
時代に合った働き方に変えていくため、勤務環境の整備も一層推進する。
特に超過勤務の縮減に当たっては、まずは各府省のトップが強い取組姿勢を持ち、そのリーダーシップの下で業務の削減・合理化や職場の雰囲気・認識の変革を強力に進めることが必要である。
人事院としては各府省に対してこのような考え方を伝え、また、勤務時間調査・指導室から指導・助言を行い、超過勤務の縮減に向けた一層の取組を強く求めていく。さらに、国会対応業務など府省の枠を超えた取組が必要なものについては、引き続き関係各方面の御理解と御協力をお願いしていく。
勤務間のインターバル確保についても、課題の把握を行うなどして取組を進める。
両立支援も個性や能力を十分に発揮でき、魅力ある公務職場を実現するために重要である。本年5月に成立した民間育児・介護休業法等の一部改正法の内容も踏まえ、子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充や、介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化のための措置の実現を図る。
ゼロ・ハラスメントの実現に向けては、すべての職員に正しい認識と自覚を徹底するため、意識啓発に更に取り組むとともに、カスタマー・ハラスメントについても更なる対応について研究するなど、各府省を支援していく。
Well-being(地域幸福度)調査の結果も踏まえ、人事院の相談窓口や各府省の健康管理体制の充実について、実効的な改善策を講じていく。
このほか、人事行政諮問会議中間報告を踏まえて進める取組については、施策の実現に向けて職員団体の意見も伺いながら進めていく。
宮下副議長は、「昨年を上回る賃上げ勧告とは言え、3%に満たない引上げは、この間の物価上昇分に満たず、民間の春闘結果ともかけ離れ、強い不満を表明する。人事院勧告制度の矛盾と限界を示すものだ」とのべ、交渉参加者は以下のような点を中心に追及しました。
○ 2.7%台の賃上げでは、岸田政権が目標とする「物価上昇を上回る賃上げの実現」にも到底及ばず、公務労働者の生活改善には不十分な水準だ。初任給も最低賃金水準から抜け出せていない。生計費原則にもとづく勧告を行うべきだ。
○ 地域手当について都道府県単位での「大くくり化」といいながら、実際には県内の地域間格差は解消されず、むしろ県庁所在地や政令指定都市、中核市等を除いた地域が低位水準化され、格差は拡大する。手当額がマイナスとなり、給与水準が低下する事態は避けよ。
○ 「給与制度のアップデート」にかかわって、公務労組連絡会との十分な協議を求めてきたが、残念ながらそうした場は実現しなかった。人事院勧告が労働基本権制約の「代償措置」である限り、労働組合の合意・納得を得るよう努力すべきだった。旧態依然とした労働組合対応をあらため、労使協議のあり方こそアップデートせよ。
○ 非正規公務員について「3年公募要件」は撤廃したものの、労働条件の改善、とりわけ強く要求してきた休暇制度の改善については、今日の回答でも言及がなかった。子育てや介護、いのちと健康に直接影響する休暇は、正規職員と同じ有給扱いにするよう改善を求める。
これに対し、人事院は「春闘における賃上げ額には定昇分が含まれていることなどを考えれば、それなりの引上げ額ではないか」などと強弁。また生計費重視の給与制度には、「民間給与のなかに生計費の要素が入っており、官民較差に反映されている」と従来の考え方を繰り返しました。
さらに地域手当については、「見直すのだから、手当が上がる地域がある一方で下がる地域も出てくるのはやむを得ない。その点もふまえ、激変緩和措置を設ける」などとのべました。
交渉の締めくくりに宮下副議長は、「現場第一線では、国民の安全・安心をまもり、公務・公共サービス、教育の充実のために、限られた人員のなかで奮闘している。こうした現場実態を踏まえるならば、職員の働きがいやりがいを引き出すためにも、また、公務の魅力を取り戻すためにも、今こそ大幅な処遇改善が求められている」と強調し、勧告前の最終回答交渉を終えました。