交渉の冒頭、桜井議長は「物価の急上昇に対応して、3月2日には『緊急勧告を求める要請書』を人事院に提出してきた。民間大手の大手の回答も出そろいつつあるなか、賃上げ要求に対する真摯な検討を求める」とのべ、現時点での検討状況を質しました。
これに対して人事院側は、「公務労組連絡会からの要求書については、現在、最終回答に向け、検討を行っているところである。最終回答は3月下旬に示させていただく」とのべつつ、各項目全般にわたって以下の回答を示しました。
1 賃金の改善について
国家公務員の給与について、本年も情勢適応の原則に基づき、民間給与の実態を精緻に調査した上で、民間給与との精確な比較を行い、必要な勧告を行うという基本的スタンスに変わりはない。
官民給与の比較方法については、これまでも必要な見直しを行ってきており、比較対象企業規模を含め、現行の取扱いが適当と考えている。
民間の春闘においては、3月中旬以降、経営側からの回答・妥結が行われるので、その動向を注視しているところである。
諸手当については、民間の状況、公務の実態等を踏まえ、職員団体の皆さんの意見も聞きながら、必要となる検討を行っていくこととしたい。
社会と公務の変化に応じた給与制度の整備については、公務における人員構成の変化や各府省の人事管理、民間における給与の状況等を踏まえつつ、制度の様々な側面から一体的に取組を進めることとしている。取組に当たっては、昨年の職員の給与に関する報告においても述べたとおり、関係者等の意見を聴取しつつ、本年夏に具体的な措置についての骨格案を示すことができるよう検討を進め、その後更に関係者と意見交換を行った上で、令和6年にその時点で必要な措置の成案を示すことを目指しているところであり、職員団体の皆さんの意見も伺ってまいりたい。
2 非常勤職員制度の抜本改善について
○ 非常勤制度の抜本改善について
非常勤職員の任用、勤務条件等については、その適切な処遇等を確保するため、法律や人事院規則等で規定しており、これまでも職員団体の皆さんの意見も聞きながら見直しを行ってきているところである。今後とも職員団体の皆さんの意見も聞きながら、民間の状況等も考慮し、適切に対処してまいりたい。
○ 雇用の安定と身分保障の確立について
国家公務員法において、公正な人事管理を行うために、平等取扱の原則(第27条)や、任免の根本基準(第33条=成績主義の原則)等が定められており、これは非常勤職員の任用に対しても適用される。
国家公務員法の平等取扱原則及び任免の根本基準に照らし、非常勤職員を含む職員の採用・再採用に当たっては、国民に広く平等に官職を公開し、最も能力・適性の面から優れた者を公正に任用することが求められることから、原則として公募を経ることが必要であると考えており、公募要件を撤廃することは適当でないとの従来からの考え方に変わりはない。
○ 均等・均衡待遇の確立について
非常勤職員の給与については、平成20年8月に非常勤職員の給与に関する指針を発出し、各府省において適正な給与の支給が行われるよう、必要な指導を行ってきている。この指針は、これまで2度改正し、期末手当及び勤勉手当に相当する給与の支給に関して取り組むべき事項を追加するなどの見直しを行い、現在、これに基づく各府省の取組が進んでいるところであり、引き続き、常勤職員の給与との権衡をより確保し得るよう取り組んでまいりたい。
非常勤職員の休暇制度等については、業務の必要に応じてその都度任期や勤務時間が設定されて任用されるという非常勤職員の性格を考慮しつつ、民間の状況等を考慮し、必要な措置を行っている。近年の措置を挙げれば、結婚休暇の新設及び忌引休暇の対象職員の要件の削除(平成31年1月施行)、夏季休暇の新設(令和2年1月施行)、出生サポート休暇(不妊治療に係る通院等のための休暇)、配偶者出産休暇及び育児参加のための休暇の新設並びに産前休暇・産後休暇の有給化(令和4年1月施行)などがある。
今後も、引き続き民間の状況等について注視し、必要に応じて検討を行ってまいりたい。
3 高齢期雇用について
○ 定年年齢の引上げについて
定年の段階的引上げに係る各種制度が各府省において円滑に運用されるよう、引き続き、制度の周知や理解促進を図るとともに、運用状況の把握に努め、必要に応じて適切に対応してまいりたい。
令和3年に成立した定年引上げに係る国家公務員法等の改正の基となった平成30年の意見の申出においては、定年引上げ後の60歳を超える職員の給与水準について、民間企業における高齢期雇用の実情を考慮し、当分の間の措置として、60歳前の7割の水準となるよう、給与制度を設計することとしたものである。
他方、改正法に設けられた検討条項では、給与水準が60歳前後で連続的なものとなるよう、定年の段階的引上げが完成するまでに給与制度について所要の措置を講ずることとされている。人事院としては、今後とも、民間企業における状況等や公務の人事管理の状況等を踏まえ、職員団体の皆さんの意見も聞きながら、60歳前の給与カーブも含めた給与カーブの在り方について検討を行っていくこととしている。
定年引上げに伴う級別定数措置については、昨年12月23日に人事院から各府省に提示した「令和6年度における級別定数措置に関する考え方」のとおり、役降り後の職務や異動先、ポスト数のほか、定年引上げ後の昇格ペースを含む人事運用などに関する各府省・人事グループの検討を踏まえた上で、必要な級別定数を措置することとしている。
○ 再任用職員制度について
再任用職員の給与については、公務における人事運用の実態や民間企業の再雇用者の手当の支給状況を踏まえ、これまでも見直しを行ってきているところである。
昨年の職員の給与に関する報告においても述べたとおり、人事院としては、定年前再任用短時間勤務職員等をめぐる状況を踏まえた再任用職員の給与について取組が必要と考えており、各府省における人事管理の状況等を踏まえつつ、職員団体の皆さんの意見も聞きながら、引き続き給与の在り方について必要な検討を行ってまいりたい。
また、再任用は、一旦、退職した職員を新たに職員として採用するものであるため、新たに年次休暇を付与するものとなっている。
現行再任用は、暫定的な措置として存置することとしているところ。人事院としては、定年の引上げの開始前も含めフルタイム再任用の拡大の取組を進める必要があると考えており、フルタイム中心の再任用が実現できるよう定員上の取扱いについて関係機関への働きかけを行うなど引き続き必要な取組を行ってまいりたい。
4 労働時間短縮、休暇制度等について
○ 超過勤務の縮減等について
勤務時間調査・指導室において、勤務時間の管理等に関する調査を昨年6月から実施しており、客観的な記録を基礎とした超過勤務時間の適正な管理について指導を行っている。
また、同室の調査や、各府省の令和3年度の整理、分析及び検証の状況の報告を踏まえて実施している各府省人事担当課長等へのヒアリングの機会を通じて、特例業務の考え方や、他律的な業務の比重が高い部署の指定の考え方、業務の状況を踏まえた指定の見直しについて、各府省における運用の統一がより図られるよう指導・助言を行っている。
公務における勤務間インターバル確保の方策については、昨年1月から学識経験者により構成する研究会を開催し、各府省の運用状況や民間の動向等を踏まえつつ議論を行ってきており、本年度内に最終報告を得たいと考えている。最終報告を取りまとめる過程で職員団体の皆さんから聴取した意見も踏まえ、引き続き、検討を進めていくこととしたい。
令和5年4月から柔軟化されるフレックスタイム制は、希望する職員に対し適用するものである。適用を希望していない職員にまで申告をさせ、適用を強制するような運用はあってはならず、この旨各府省にも周知している。
テレワーク時における勤務時間管理については、昨年1月から学識経験者により構成する研究会を開催して議論を行ってきており、本年度内に最終報告を得たいと考えている。最終報告を取りまとめる過程で職員団体の皆さんから聴取した意見も踏まえ、引き続き、検討を進めていくこととしたい。
テレワークに関する給与面での対応については、昨年の勧告時報告で述べたとおり、テレワークの実施に係る光熱・水道費等の職員の負担軽減等の観点から、テレワークを行う場合に支給する新たな手当について、具体的な枠組みの検討を進めていくこととしている。検討に当たっては、テレワークに関する民間企業及び公務の動向を引き続き注視しつつ、手当の支給に関する事務負担等にも留意し、職員団体の皆さんの意見も聞きながら、措置内容をまとめていくこととしたい。
○ 休暇・休業制度について
職員の休暇、休業制度については、従来より情勢適応の原則の下、民間における普及状況に合わせることを基本に、適宜見直しを行ってきたところであり、引き続き民間の動向等を注視してまいりたい。
○ 障害者雇用について
令和4年6月1日現在において、国の機関全体の実雇用率は2.85%で、すべての機関において法定雇用率(2.6%)を達成しているものの、今後、国の法定雇用率は令和6年4月から2.8%、同8年7月より3.0%に引き上げられる方向で検討されている。
障害を有する職員が自らの希望や障害等の特性に応じて、無理なく、かつ、安定的に働くことができるよう、平成30年12月にフレックスタイム制の柔軟化等を実現するための人事院規則等の改正(平成31年1月施行)を行うとともに、公務の職場における障害者雇用に関する理解を促進し、障害を有する職員が必要な配慮を受けられるよう、「職員の募集及び採用時並びに採用後において障害者に対して各省各庁の長が講ずべき措置に関する指針」を平成30年12月に発出し、各府省に対して、当該指針に沿って適切に対応することを求めている。
このほか、厚生労働省と連携して、各府省における合理的配慮事例の情報共有などの支援を行っており、今後とも、必要に応じて各府省への支援を行ってまいりたい。
5 民主的公務員制度等について
○ 人事評価について
人事評価は、職員の能力・実績等を的確に把握し、任免、給与等の人事管理の基礎とするものであり、各府省において人事評価が厳格に実施されるように、人事院としては、実情把握に努めることが重要と考えている。
国公法においては、人事評価が「任用、給与、分限その他の人事管理の基礎」となるものとして位置付けられており、人事院規則等において、能力・実績に基づく人事管理を推進する観点から、評価結果を任免や給与の決定に活用する基準を定めているところである。
6 両立支援制度の拡充等について
○ 両立支援制度について
職員の休暇については、従来より情勢適応の原則の下、民間における普及状況に合わせることを基本に、適宜見直しを行ってきたところであり、引き続き民間の動向等を注視してまいりたい。
また、国家公務員の定年が段階的に65歳まで引き上げられ、今後は、介護と仕事との両立支援が一層重要になることから、「令和4年度民間企業の勤務条件制度等調査」において、民間企業における介護のための短時間勤務制度について調査を実施したところであり、今後も社会情勢等を踏まえつつ、制度の改善や環境整備に努めていきたい。
両立支援制度の活用については、令和4年4月から各省各庁の長等に対して育児休業を取得しやすい勤務環境の整備に関する措置等を義務付ける改正人事院規則等を同年2月17日に公布・発出しており、これに伴い、平成30年3月に本院が発出した「仕事と育児・介護の両立支援制度の活用に関する指針」を改正した。
さらに、「出生サポート休暇」については、各府省に対して、制度担当者向けのQ&Aを配布し、プライバシーの配慮等について周知啓発や指導を行うとともに、職員向けのリーフレット及びQ&Aを配布し、人事院ホームページにも掲載した。また、本年2月には、不妊治療と仕事の両立に関するシンポジウムを開催したところである。引き続き、両立支援制度を活用したい職員が取得できるよう、各府省への指導、周知啓発等を行ってまいりたい。
○ 男女平等・共同参画について
人事院としては、公務における女性の活躍推進を人事行政における重要な課題の一つと認識しており、国家公務員法に定める平等取扱の原則、成績主義の原則の枠組みを前提とした女性の参画のための採用・登用の拡大、両立支援、ハラスメント防止対策など様々な施策を行ってきているところ。引き続き、各府省の具体的な取組が進むよう支援してまいりたい。
7 健康・安全確保等について
○ ハラスメント防止対策について
人事院は、ハラスメント防止等の措置を講じるための人事院規則等に基づき、これまで、研修教材の作成・提供や、各府省のハラスメント相談員を対象としたセミナーの開催など、各府省に対する支援を行ってきている。また、令和4年12月から同5年1月にかけて、各府省における相談体制等に係る実情・課題を把握するためのアンケート調査を実施し、現在集計中であり、今後、この結果も踏まえて必要な対応を検討していく。
さらに、「幹部・管理職員ハラスメント防止研修」について、組織マネジメントの観点も反映したより実効性のあるものとなるよう研修内容を見直して令和5年度から実施することとし、研修の具体的な内容の企画等を進めている。今後も、各府省のハラスメント相談員を対象としたセミナーを引き続き開催し、研修用教材の改訂等を行うなど、各府省においてハラスメント防止対策が適切に実施されるよう、必要な支援・指導を行ってまいりたい。
○ 感染症防止対策について
新型コロナウイルス感染症への対応については、これまで、感染拡大防止に資するよう、職場における感染拡大防止対策の周知、柔軟な時差出勤のための勤務時間割振りの特例措置、出勤困難な場合の特別休暇の取扱いに関する通知の発出、予防接種を受ける場合等における職務専念義務の免除などの対策を講じてきたところである。現在、政府において進められている同感染症の感染症法上の位置付けの変更に係る検討を踏まえて、 職員団体の皆さんの意見も聞きながら、必要な対応を行ってまいりたい。
以上、主な要求事項に対する検討状況について回答させていただいた。本日以降の進捗状況等については、後日、しかるべく回答したい。
中間回答に対して、香月事務局長ほか交渉参加者は、主に次のような点を追及しました。
○ 「月額25,000円以上」の賃上げ要求提出後も物価上昇が止まらず、実質賃金は4.1%も減少している。国公法第28条の情勢適応の原則をふまえて、国家公務員賃金を大幅に引き上げる緊急勧告を重ねて求める。諸手当の改善では、マイカー通勤での燃料価格の高騰に対応した通勤手当の引き上げ、暖房費高騰にともなう寒冷地手当の改善は急務だ。
○ 22年報告で表明した「給与制度のアップデート」では、給与カーブのフラット化は、ベースアップがしばらく実現していないもとで、切実に求められる中高年層の賃上げ要求とも逆行するもので、公務職場からの人材流出も招きかねない。また、24年に見直すとされている地域手当では、賃金改善を大前提にして地域間格差の解消を求める。いずれも極めて重要な勤務条件に関わる問題であり、一方的な変更は認められず、公務労組連絡会との交渉・協議を求める。
○ 定年引上げに先立って、級別定数措置等に関する考え方が各府省に提示されたが、十全に級別定数および定員が確保されるのかとの不安の声があがっている。世代間の不公平が生じないように、人事院として級別定数を措置するよう求める。
○ 非常勤職員の賃金は、「時給250円以上」の引き上げとともに、勤勉手当の原資はすべて期末手当に回し、一時金を一本化するよう求める。休暇制度では、採用時からの年次有給休暇の付与と病気休暇の有給化は、均等待遇の観点からも当然だ。
○ 男性の育児参加が進まないなかで、両立支援制度を躊躇なく利用できる職場の人的体制の確保、育児休業期間の所得保障、育児休業を踏まえたキャリアパスの形成など、勤務環境の整備により措置できることも少なくない。男女平等・共同参画の推進につなげるうえでも、各種制度の整備とともににとどまらず、利用促進にむけた検討を求める。
これに対して人事院側は、「情勢適応の原則に基づき、民間給与の実態を精緻に調査した上で、民間給与との精確な比較を行い、結果に基づいて勧告を行うという基本的スタンスに変わりはない」とのべるにとどまり、「緊急勧告」の要求への言及はいっさいありませんでした。
最後に桜井議長は、「回答は極めて不満だ。物価高騰のもとで、生活を守るための大幅賃上げを求める声はますます強まっている。職員の利益保護という人事院の役割を自覚して、私たちの緊急勧告の要求を重く受け止めるべきだ」とのべ、春闘統一要求についてさらなる検討を行い、最終的な回答を示すよう求めて交渉を閉じました。