交渉の冒頭、桜井議長は民間大手の賃上げ状況に触れつつ、「軒並み『満額回答』が伝えられるが、物価高のもとで数パーセント程度の賃上げでは、実質賃金が低下することは必至だ。いつ収束するのか見通しがつかないコロナ禍の中、国民の命と健康、安心・安全を守るため、日々奮闘をしている公務労働者の声に人事院は応えるべき」と主張し、春闘統一要求に対する人事院での検討状況を質しました。
これに対し、福田圭介課長補佐は「2月18日にいただいた公務労組連絡会の要求書については、現在最終回答に向け、検討を行っているところである。最終回答は、3月下旬にさせていただく予定だ」とのべつつ、人事院として以下の回答を行いました。
(人事院中間回答)
1.賃金の改善について
国家公務員の給与について、本年も情勢適応の原則に基づき、民間給与の実態を精緻に調査した上で、民間給与との精確な比較を行い、必要な勧告を行うという基本的スタンスに変わりはない。
官民給与の比較方法については、これまでも必要な見直しを行ってきており、比較対象企業規模を含め、現行の取扱いが適当と考えている。
民間の春闘においては、3月16日の回答日以降、経営側からの回答・妥結が行われるので、その動向を注視しているところである。
諸手当については、民間の状況、公務の実態等を踏まえ、職員団体の皆さんの意見も聴きながら、必要となる検討を行っていくこととしたい。
2.非常勤職員制度の抜本改善について
(非常勤制度の抜本改善について) 非常勤職員の任用、勤務条件等については、その適切な処遇等を確保するため、法律や人事院規則等で規定しており、これまでも職員団体の皆さんの意見も聞きながら見直しを行ってきているところである。今後とも職員団体の皆さんの意見も聴きながら、民間の状況等も考慮し、適切に対処してまいりたい。
(雇用の安定と身分保障の確立について) 国家公務員法において、公正な人事管理を行うために、平等取扱いの原則(第27条)や、任免の根本基準(成績主義の原則・第33条)等が定められており、これは非常勤職員の任用に対しても適用される。
国家公務員法の平等取扱原則及び任免の根本基準に照らし、非常勤職員を含む職員の採用・再採用に当たっては、国民に広く平等に官職を公開し、最も能力・適性の面から優れた者を公正に任用することが求められることから、原則として公募を経ることが必要であると考えており、公募要件を撤廃することは適当でないとの従来からの考え方に変わりはない。
(均等・均衡待遇の確立について) 非常勤職員の給与については、平成20年8月に非常勤職員の給与に関する指針を発出し、各府省において適正な給与の支給が行われるよう、必要な指導を行ってきている。この指針は、これまで2度改正し、期末手当及び勤勉手当に相当する給与の支給に関して取り組むべき事項を追加するなどの見直しを行い、現在、これに基づく各府省の取組が進んでいるところであり、引き続き、常勤職員の給与との権衡をより確保し得るよう取り組んでまいりたい。
非常勤職員の休暇制度等については、業務の必要に応じてその都度任期や勤務時間が設定されて任用されるという非常勤職員の性格を考慮しつつ、民間の状況等を考慮し、必要な措置を行っている。近年の措置を挙げれば、結婚休暇の新設及び忌引休暇の対象職員の要件の削除(平成31年1月施行)、夏季休暇の新設(令和2年1月施行)、出生サポート休暇、配偶者出産休暇及び育児参加のための休暇の新設並びに産前休暇・産後休暇の有給化(令和4年1月施行)などがある。
今後も、引き続き民間の状況等について注視し、必要に応じて検討を行ってまいりたい。
3.高齢期雇用について
(定年年齢の引上げについて) 人事院においては、各府省等及び職員団体からの意見等も踏まえつつ検討を行い、本年2月18日に定年の段階的引上げに伴う規則の制定・改正等を行ったところである(令和5年4月1日施行)。人事院としては、高齢層職員の能力及び経験の本格的な活用に向けて、定年の引上げが円滑に行われるよう、規則等の内容を周知するなど、必要な準備を進めていくこととしている。
定年引上げに伴う給与制度の在り方に関して、昨年成立した定年引上げに係る国家公務員法等の改正の基となった平成30年の意見の申出においては、定年引上げ後の60歳を超える職員の給与水準について、民間企業における高齢期雇用の実情を考慮し、当分の間の措置として、60歳前の7割の水準となるよう、給与制度を設計することとしたものである。
他方で、60歳を超えても引き続き同一の職務を担うのであれば、本来は、給与水準が維持されることが望ましいところであり、改正法に設けられた検討条項では、給与水準が60歳前後で連続的なものとなるよう、定年の段階的引上げが完成するまでに給与制度について所要の措置を講ずることとされている。
人事院としては、今後とも、民間企業における状況等や(今般の人事評価制度の見直しの運用状況を含む)公務の人事管理の状況等を踏まえ、職員団体の皆さんの意見も聴きながら、60歳前の給与カーブも含めた給与カーブの在り方について検討を行っていくこととしている。
(再任用職員制度について) 再任用職員の給与については、公務における人事運用の実態や民間企業の再雇用者の手当の支給状況を踏まえ、これまでも見直しを行ってきているところである。
人事院としては、民間企業における定年制や高齢層従業員の給与の状況、定年引上げに伴い設けられる定年前再任用短時間勤務制等も含めた各府省における運用状況を踏まえつつ、職員団体の皆さんの意見も聴きながら、引き続き再任用職員の給与の在り方について必要な検討を行ってまいりたい。また、再任用は、一旦、退職した職員を新たに職員として採用するものであるため、新たに年次休暇を付与するものとなっている。
現行再任用は、暫定的な措置として存置することとしているところ。人事院としては、定年の引上げの開始前も含めフルタイム再任用の拡大の取組を進める必要があると考えており、フルタイム中心の再任用が実現できるよう定員上の取扱いについて関係機関への働きかけを行うなど引き続き必要な取組を行ってまいりたい。
4.労働時間短縮、休暇制度等について
(超過勤務の縮減等について) 勤務時間管理については、超過勤務の運用の適正を図るため、課室長等による超過勤務予定の事前確認や、所要見込時間と異なる場合の課室長等への事後報告を徹底させるとともに、超過勤務時間の確認を行う場合は、課室長等や周囲の職員による現認等を通じて行うものとし、客観的な記録を基礎として在庁の状況を把握している場合は、これを参照することもできる旨を職員福祉局長通知で規定したところである。
なお、各府省においては、「令和3年度における人事管理運営方針」により、勤務時間の状況の客観的把握を開始することとされており、人事院としても、これを受けた各府省における運用実態を踏まえた上で、客観的な記録を基礎とした超過勤務時間の管理を制度上の原則として示すことを予定している。
超過勤務の上限の運用状況等について、昨年12月から勤務時間制度の担当課長が各府省人事担当課長等からヒアリングを行い、各府省における令和元年度の結果と比較した分析や、昨年度のヒアリング時に聴取した取組内容の進捗等について聴取している。また、上限を超えて超過勤務を命ずることができる特例業務の範囲や、他律的業務の比重が高い部署の指定の考え方について統一が図られるよう指導を行うとともに、医師による面接指導等を徹底することや、人員配置・業務分担の見直し等を通じて超過勤務を必要最小限のものとすることについて指導を行っているところである。
引き続き、制度の適切な運用が図られるよう、必要な指導等を行ってまいりたい。
なお、要因の整理、分析及び検証を取りまとめた結果については、引き続き、職員団体の皆さんに適切に情報提供することとしたい。
(休暇・休業制度について) 職員の休暇、休業制度については、従来より情勢適応の原則の下、民間における普及状況に合わせることを基本に、適宜見直しを行ってきたところであり、引き続き民間の動向等を注視してまいりたい。
(障害者雇用について) 公務の職場における障害者雇用に関する理解を促進し、障害を有する職員が必要な配慮を受けられるよう、「職員の募集及び採用時並びに採用後において障害者に対して各省各庁の長が講ずべき措置に関する指針」を平成30年12月に発出し、各府省に対して、当該指針に沿って適切に対応することを求めている。
このほか、厚生労働省と連携して、各府省における合理的配慮事例の情報共有などの支援を行っている。今後とも、必要に応じて各府省への支援を行ってまいりたい。
5 民主的公務員制度等について
(人事評価について) 人事評価は、職員の能力・実績等を的確に把握し、任免、給与等の人事管理の基礎とするものであり、各府省において人事評価が厳格に実施されるように、人事院としては、実情把握に努めることが重要と考えている。
国公法においては、人事評価が「任用、給与、分限その他の人事管理の基礎」となるものとして位置付けられており、人事院規則等において、能力・実績に基づく人事管理を推進する観点から、評価結果を任免や給与の決定に活用する基準を定めているところである。
6.両立支援制度の拡充等について
(両立支援制度について) 職員の休暇については、従来より情勢適応の原則の下、民間における普及状況に合わせることを基本に、適宜見直しを行ってきたところであり、引き続き民間の動向等を注視してまいりたい。
昨年8月の意見の申出を踏まえた育児休業法改正法案は今国会に提出されており、人事院としても、法案成立に向けて、努めてまいりたい。なお、民間育介法において今年4月から措置される措置に対応した非常勤職員の取得要件緩和については、2月17日に関係人事院規則を公布した。この改正規則では、本年4月から各省各庁の長等に対して育児休業を取得しやすい勤務環境の整備に関する措置等を義務付ける措置も盛り込んでおり、これに伴い、平成30年3月に本院が発出した「仕事と育児・介護の両立支援制度の活用に関する指針」の改正を行ったところ、これらの内容が各府省において徹底されるよう周知に取り組んでいく。
(男女平等・共同参画について) 人事院としては、公務における女性の活躍推進を人事行政における重要な課題の一つと認識しており、第5次男女共同参画基本計画が決定されたことを踏まえ、令和3年2月1日、「女性国家公務員の採用・登用の拡大等に向けて」(平成27年12月25日人事院事務総長通知)の一部改正を行い、国家公務員法に定める平等取扱の原則、成績主義の原則の枠組みを前提とした女性の参画のための採用・登用の拡大、両立支援、ハラスメント防止対策など様々な施策を行ってきているところである。引き続き、各府省の具体的な取組が進むよう支援してまいりたい。
7.健康・安全確保等について
(ハラスメント防止対策について) 人事院は、令和2年4月、パワー・ハラスメントの防止等の措置を講じるための人事院規則を制定し、あわせて、セクシュアル・ハラスメント及び妊娠、出産、育児又は介護に関するハラスメントに係る人事院規則についても、所要の規定の整備を行い、同年6月に施行した。これらの人事院規則においては、ハラスメントの防止等のための各省各庁の長の責務や、研修等の実施、苦情相談への対応等が定められているところ、人事院はこれまで、研修教材の作成・提供や、各府省のハラスメント相談員を対象としたセミナーの開催など、各府省に対する支援を行ってきている。今後も、各府省のハラスメント防止対策の実施状況を把握するほか、各府省のハラスメント相談員を対象としたセミナーを引き続き開催し、研修用教材の改訂等を行うなど、各府省においてハラスメント防止対策が適切に実施されるよう、必要な支援・指導を行ってまいりたい。
(感染症防止対策について) 新型コロナウイルス感染症への対応については、これまで、感染拡大防止に資するよう、職場における感染拡大防止対策の周知、柔軟な時差出勤のための勤務時間割振りの特例措置、出勤困難な場合の特別休暇の取扱いに関する通知の発出、予防接種を受ける場合等における職務専念義務の免除などの対策を講じてきたところである。今後とも、感染状況等を注視しつつ、必要な対応を行ってまいりたい。
回答に対して、公務労組連絡会側は以下のような点を追及しました。
◯ 物価上昇が続いているなかで、賃上げがなければ実質賃金はますます減少する。とりわけ、最低賃金額を下回るような高卒初任給の改善は待ったなしの課題だ。また、昇給もない地方出先の高齢層職員は、退職手当も実質的に下がる一方だ。実質賃金増となる本俸改定を強く求める。
◯ 本俸改定とともに通勤手当の改定を強く求める。自家用車で通勤しなければならない職員は、ガソリン高騰が大きな負担だ。少なくとも基礎的な手当額の引き上げを求める。加えて、特急料金の全額支給、テレワークを考慮した支給単位期間の改善について検討を求める。
◯ 非常勤職員の賃金は、時給250円以上の引き上げ、勤勉手当の原資はすべて期末手当に回し、一時金を一本化することを求める。非常勤職員の休暇制度については、採用時からの年次有給休暇の付与、病気休暇の有給化が均等待遇の観点からも当然のことだ。恒常的・専門的・継続的業務に従事する非常勤職員を常勤化・定員化し、少なくとも改正労働契約法で定められている無期雇用への転換が公務職場でも可能となるような制度を早急に整備せよ。
◯ 労働時間の短縮にむけて、所定労働時間を7時間とすること、残業時間の上限規制を実効あるものとすること、窓口受付時間の設定や勤務間インターバル制度(終業時刻から次の日の始業時刻まで一定の休息時間を確保する制度)の導入を求める。
○ コロナ禍が治まらず、小さい子を持つ職員からは、特別休暇が実態に合っていないので改善してほしいという切実な声が届いている。子の看護休暇と育児時間などの適用対象を、中学入学前とするよう引き続き強く求める。
これに対して人事院側は、賃上げ要求に対しては「民間給与との精確な比較を行い、結果に基づいて勧告を行うという基本的スタンスに変わりはない」としつつも、「高卒初任給については、人材確保の観点からわれわれも問題意識を持っている」「通勤手当は、いただいた実状を担当とも共有し、検討していきたい。4月の消費支出の動向を注視していく」「子の看護休暇などの要求は、地方自治体の状況を詳しく聞かせていただいたので、担当とも共有し、検討していきたい」などと見解をのべました。
最後に桜井議長は、「コロナ禍で果たしてきた公務労働者の役割をしっかり認識したうえで、賃金をはじめとする処遇改善にむけて、人事院の役割発揮を求める」とのべ、春闘要求について真摯な検討を行い、3月下旬に最終的な回答を示すよう求めました。