No. 837
    2012年7月23日
400万円を超える手当削減の方針をあらためず

= 国家公務員の退職手当の引き下げ をめぐって総務省と交渉 =

 夏季闘争最大の中央行動を2日後にひかえた23日、公 務労組連絡会は、野田内閣がねらう退職手当の削減をめぐって総務省と交渉しました。
 交渉では、使用者としての説明責任を繰り返し求 めたことに対して、総務省側は、約400万円の官民較差にもとづき、官民の均衡をとるために設けられた退職手当の調整率を、現行の104/100から 87/100に17ポイントを引き下げること、早期退職募集制度新設による1年間につき最高で3%の手当割り増しを示しつつ、手当削減に固執しました。

調整率 を17ポイント引き下げて「官民較差」を是正

 退職手当をめぐる総 務省との交渉には、公務労組連絡会から黒田事務局長、関口・米田の各事務局次長が参加、総務省は、人事・恩給局の大堀参事官補佐、森参事官補佐、小泉課長 補佐ほかが対応しました。
 はじめに、黒田事務局長が、総務省としての現在の検討状況を質したことに対して、総務省側は以下のように 回答しました。
● 退職手当については、政府としては、その水準のあり方について、官民均衡をはかることが適切であると考えており、 そのことが国民の理解と納得を得ることにつながるものと考えている。
  公務の特殊性については、みなさんからの主張や様々な方向か らの指摘があるが、国民の理解と納得を得るためにも、今回の水準調整にあたっては、人事院の調査結果である平均402万6千円の官民較差の是正をはかるべ きであると考えており、ご理解いただきたい。
  なお、この調査結果は平成22年度の数値であることから、速やかにこの較差を是正す るための法的措置を講ずる必要があると考えている。
● 退職手当を見直す際の決定プロセスについては、従来から、5〜6年毎に官民比 較をおこない、退職手当は長期勤続報償の要素が強いものであるが、国家公務員の処遇の一部として職員の重大な関心事項であると考えていることから、みなさ んからのご意見も伺いながら、最終的には国会に法案を提出し、ご判断をいただいてきたところであり、これが現行制度下における手続、ルールであると考えて いる。
  今後の官民比較の調査頻度等については、更なる改善の必要性についても検討し、納得性、透明性をより高める見地から、次回 の調査までにはできる限り明確化する必要があると考えている。その際にはみなさんのご意見も伺ってまいりたい。
● こうした考え方に たって、本日は、今回の退職手当の見直し内容等について、現時点での考え方を申し上げる。
  退職給付における官民較差については、 人事院から示された退職給付に係る官民比較調査の結果及び見解並びに「共済年金職域部分と退職給付に関する有識者会議」の報告の内容を踏まえ、次に申し上 げるとおり、その全額を退職手当の引下げにより解消したい。
(支給水準引き下げ)退職手当の支給水準の引 き下げについては、官民の支給水準の均衡をはかるために設けられている「調整率」を現行の104/100から87/100に17ポイント引き下げる。調整 率は、退職理由及び勤続年数にかかわらず、すべての退職者に適用する。
(早期退職募集制度の導入)再就職あっせんの 禁止等にともない在職期間が長期化している状況等を踏まえ、年齢別構成の適正化を通じた組織活力の維持等をはかる観点から、早期退職募集制度を導入する。
   この募集に応じ認定された退職者については、現行の定年前早期退職特例措置の内容を拡充し、定年前15年以内に退職する勤続20年以上の者を対象とし て、定年前1年につき最大3%の割増を適用し、具体的には政令で定める。
  退職手当に関する支給水準引下げ及び早期退職募集制度の 導入の措置を通じ、退職給付の官民較差(平均402.6万円)の全額を解消する。
(施行時期、段階的引き下げ)施行時期につい ては、退職給付の官民較差を速やかに解消する必要があると考えており、具体的な施行日については、現在検討中である。
  段階的引き 下げについては、有識者会議報告書において「段階的引下げ措置を講ずるとしても、現下の財政状況の下で国民の理解と納得を得るためには引下げに長期を要す るのは適当でなく、その1回当たりの引下げ幅については、これまでの段階的引下げ措置よりも厳しいものにならざるを得ない」との意見があったこと等を踏ま え、今後、政府部内でさらに検討を進めてまいりたいが、いずれにせよ相当厳しいものとせざるを得ないことをご理解いただきたい。

新たな 公務員制度のもとでも退職手当は「ごほうび」なのか

 これらの回答 について、黒田事務局長は次の点を追及しました。
○ この間、職場からは、手当削減反対の声が急速にひろがっている。そうした声に応 えず、「国民の納得と理解」をタテにして、人事院の調査結果を唯一無二の根拠にして、あくまで400万円以上の引き下げを強行しようとしていることは認め られない。
  使用者として、「国民の納得と理解」よりも「職員の納得と理解」を求めることを優先すべきではないのか。本日の発言か らは、そのことがまったく感じられず、あらためて退職手当の削減には断固反対する。
○ なぜこれだけの官民較差が5年間で生じたのか を検証することはもとより、400万円以上も削減することが、職員の生活や働きがいの面から、妥当なのかどうかを使用者として考えるべきだ。その点から、 公務労働者の生活や働きがいの影響がどの程度出てくるのかについても思いを寄せるべきだ。それが、職員の納得と理解をえる道であり、使用者とすれば当然の 任務だ。
○ 長期勤続における「報償」とは何なのか。辞書では「報償」とは、「損害に対して、弁償の意味で差し出される金銭」とあ る。きわめて意味が不確かだ。「長く働かせたことへの弁償」として支払われるのか、「がんばったことへのごほうび」なのか、はっきりすべきだ。そもそも 「報償」という発想は、公務員が「天皇の官吏」であった戦前の公務員制度にもつながる発想ではないのか。公務員制度改革で自律的労使関係がめざされるなか で、そうした考え方こそあらためるべきだ。
○ 「報償」というが、実態としてローン返済など生活保障の意味合いが強く、さらに、近年 では連年にわたる賃下げや、年金給付の引き下げ、さらには年金支給開始年齢の繰り延べで、生活保障としての性格をいっそう強めていることにも目をむけるべ きだ。

 これに対して総務省側は、「官民較差を是正することが、国民の理解と納得をえられることになる。それが なければ、見直しの根底が崩れることになる。また、退職手当は、長期勤続報償、生活保障、賃金の後払いとしての性格が混在しているが、勤続報償が基本的な 性格だ。したがって、長年の労苦をねぎらうために支給しているとの立場だ」とのべました。
 黒田事務局長が、「退職手当は、退職後の 生活を保障しており、勤務条件の一部だ。新たな公務員制度のもとでは、自律的労使関係の確立にむけて、労使間で決めていくルールこそきちんと決めるべき だ」と指摘すると、総務省側は、「新たな公務員制度のもとでは、話し合いのなかで新たなルールが作られるのは当然のことだ」などと一般論にとどまりまし た。
 交渉参加者からは、「教育の職場では、採用される年齢が高いうえに、50歳前半で退職しているのが実態だ。国家公務員とはまっ たく違う事情があるが、制度的には国家公務員の退職手当制度がそのまま連動する。そのことに対して、職場では怒りがひろがり、校長や教頭までが、組合の反 対署名に名を連ねている。そうした声を聞くべきだ」「何度聞いても責任逃れをしているとしか思えない。使用者として、自分の言葉で職員に提案すべきだ。ま た、長年の労苦にむくいる『ごほうび』という考え方こそ、国民の納得と理解をえられない」などと問題点が指摘されました。
 最後に黒 田事務局長は、「あらためて退職手当削減に断固反対する。納得できる説明もなく、ルールもなく、そして、労使交渉して決める権利もない。ないないづくし で、いくらやりとりしても無力感しか感じられない。しかし、それだけに職場は怒りに燃えている。そうした職場の声を真剣に聞くことこそ、使用者の責任であ り、引き続き誠意ある対応を求める」とのべて、交渉を閉じました。

怒りと要求をたずさえて「7・25中央行動」に総結集を

  交渉のやり取りからも明らかなように、総務省は人事院の調査結果を唯一無二の根拠にして、退職手当を400万円以上引き下げる方針を、いささかもあらため ようとしていません。
 政府は、退職手当法「改正」法案を今国会に提出するため、8月早々にも方針決定をねらっています。こうしたな か、職場や地域から署名や宣伝をさらに大きくひろげ、反対の声を政府に集中していくとりくみが重要となっています。
 とりわけ、夏季 闘争最大の行動である「7・25中央行動」は重要です。長野県からは貸切バス2台で上京するなど、各地での参加のとりくみがひろがってきています。仲間た ちの怒りと要求をたずさえて「7・25中央行動」の成功を勝ち取りましょう。

以上