No. 823
    2012年2月28日
国公労連の宮垣委員長が国会で意見表明

= 参議院総務委員会で「賃下げ法 案」の採決を強行 =

 23日に参議院に送付された民自公3党の共同提案によ る「賃下げ法案」は、28日の総務委員会で審議されました。衆議院につづいて、各党の質問に民主・自民・公明の提案者が答弁するやりとりが繰り返されまし た。
 一方、国会での参考人質疑を求めるなかで、この日の総務委員会では、共産党の山下議員の質問に答えるかたちで、国公労連の宮垣 委員長の意見表明の場が実現しました。
 宮垣委員長は、震災のなか不眠不休で奮闘してきた国・地方の公務労働者に賃下げをせまる理不 尽さや、失政が招いた財政赤字のツケを回すことへの職場の怒り、「代償措置」としての人事院勧告制度が画餅に等しくなるもとで労働基本権をただちに回復す ることなどを強く訴えながら、「賃下げ法案」の廃案を求めました。
 総務委員会の傍聴行動には、国公労連5名、自治労連・全教各1名 が参加しました。

「民主 主義のバロメーター」としての労働基本権回復を求める

 総務委 員会で質問に立ったのは、江崎孝(民主)、礒崎陽輔・宇都隆史(自民)、木庭健太郎(公明)、寺田典城(みんな)、山下芳生(共産)、又市征治(社民)の 各議員でした。
 共産党の山下議員は、参考人として出席を要請した宮垣国公労連委員長に対して、(1)「賃下げ法案」に対して、現場 の第一線で働く職員はどのように思っているのか、(2)労働基本権を制約したままで、人事院勧告を無視して賃下げを押しつけることをどう考えるかの2点に ついて質問しました。
 これに対して、宮垣委員長は、要旨、以下のように答弁しました。

○  東日本大震災では、国の出先機関や地方自治体で働く公務員が奮闘してきた。ライフラインを整備し、仙台空港をいち早く復旧させた国交省の職員、仕事を 失った多くの労働者に親身で接した労働行政の職員、国民の財産や権利を一生懸命守った法務局の職員、被災にあった住民を支えた自治体の職員・教員など、み ずからの家が流され、家族も失いながら、不眠不休で救援活動にあたってきた。全国各地からは公務員が被災地に派遣され、救援・復旧業務を続けた。今後、長 期にわたる被災地の復興の先頭に立つのも公務員だ。
  自衛官や公設秘書に特例を設けるのであれば、せめてみずからも被災し、被災者 のために一生懸命に尽くした被災地の公務員に対する特例を考えてもいいはずだが、この法案にはそれさえもない。
  なぜ、労働基本権 制約の代償措置である人事院勧告を超えて、賃金を下げられなければならないのか。最大で10%以上の賃金カットは、懲戒処分に相当する水準だが、懲戒処分 の期間は2か月から3か月だ。懲戒処分相当の賃下げが2年間も続くこととなる。職場は理不尽な賃金引き下げへの怒りが満ちあふれている。

○  国家公務員の人件費が財政赤字の原因ではない。02年からの10年間に、国家公務員は約80万人から約30万人に減ったが、一方で、国債等残高は約 525兆円から約726兆円に急増した。先進各国の公務員賃金は、金融危機のもとでも上がっているが、日本の公務員賃金は下がり続けている。国家公務員の 人件費が財政赤字を増大させた原因でない。
  震災復興の財源を確保するなら、まず、はじめに、政党助成金や米軍への思いやり予算な どムダな支出を削ることや、国会議員歳費を見直すべきだ。
 消費税増税のために、「みずからの身を切る」と言って、限られた予算と人 員のなかで一生懸命、現場の第一線で国民の安心、安全を守るためにがんばっている公務員に財政赤字のツケを押しつけられることに怒りを禁じ得ない。

○  この間の政府との交渉では、国公労連は賃下げに一貫して反対してきた。一部の労働組合が合意をしても、その組合が国家公務員全体を代表しているわけでは ない。ましてや、労働基本権が保障されていないもとで、いくら一部の労働組合が了承しても、また、3党合意で議員立法による賃下げ法案が国会に提出されて も、人事院勧告を超えてさらに給与を引き下げることは明確に憲法違反だ。
  とくに、複数年度にわたり、人事院勧告にもとづかずに賃 金を引き下げることになり、労働基本権制約の代償措置が機能せず、人事院勧告制度が画餅に等しい状況に陥る。最高裁判例は、代償機能が画餅に等しい状況に 陥れば憲法28条に抵触するとしている。
  労使間で交渉が決裂し、使用者側が一方的に勤務条件を変更しようとしたときに、労働者側 の対抗手段がなく、労働基本権が回復されないままでの政府による一方的な賃金切り下げはもちろんのこと、今回のように労働組合の意見も全く聴かずに3党の 議員立法で賃下げ法案を国会に提出することは、国家公務員労働者の基本的人権を蹂躙するものだ。
  公務員の権利水準は、その国の民 主主義の度合いをはかるバロメーターだ。公務員も基本的人権である労働基本権が全面回復されるべきだ。そして、公務員も市民であり、市民的権利である政治 活動の自由を保障すべきだ。全体の奉仕者である公務員として、職務遂行の権利が認められるべきだ。
○ 憲法に違反するような公務運営 が行われようとする際、その是正を求めることは、憲法第99条の公務員の憲法擁護義務からくる公務員の当然の義務であり権利でもある。具体的には、上司の 職務命令に対する意見の申し出や内部告発権の保障、政策の決定・執行や公務運営に対して関与・参加できるシステムなどが必要だ。
   そうした権利が回復・確立されないなかで、代償措置である人事院勧告制度さえ無視をして、一方的な不利益を公務員労働者に押しつける今回のやり方は看過で きない。

○ 国家公務員労働者に労働基本権の全面的な回復、せめて、協約締結権を回復してか ら、労使交渉で賃金引き下げの問題を議論するのが憲法のルールにもとづくやり方だ。憲法に抵触するような本法案は、徹底した審議の上で廃案にするよう求め る。

議員立 法は何重にも憲法違反、立法府は何をやっても許されるのか

 宮垣委 員長の意見表明をうけて山下議員は、「今の意見を立法府として受けとめるべきだ。憲法に関わる重大な問題が提起されている」として、「3党合意では、公務 員制度改革関連4法案の審議入りと合意形成にむけて環境整備をおこなうとしている。いったい労働基本権回復はいつになるのか」と提案者にただしました。
  民主党の逢坂議員は、「今後の国会審議のなかで、具体的な時期が決まっていくのではないか」などと他人事のような答弁をしたことから、山下議員は、「一刻 も早く成立させたいという熱意が感じられない。法案審議のめどもないまま、給与引き下げの議論だけがすすめられている」と厳しく追及しました。
  また、山下議員が、議員立法での賃下げ法案提出が憲法を踏みにじる点を指摘すると、逢坂議員は、「政府法案について、憲法違反にあたらないという見解を政 府が示している。最高裁判所の判例もそうなっている。議員立法だが、政府法案を踏襲しているので憲法違反ではない」と強弁しました。山下議員は、「労使交 渉の当事者ではない民自公の三党には、そもそも法案提出の資格はない。そのうえ、法案提出にあたっては、当事者の意見を聞く努力がまったくなされていな い。まさに労働基本権を蹂躙して、一方的に人事院勧告を大幅に上回る賃下げ法案を国会議員が提案することは何重にも憲法違反だ。立法府が何をやっても許さ れるというものではない」とするどく指摘しました。
 また、山下議員は、国家公務員の賃下げによる国民生活や経済・財政への影響につ いて、労働総研の試算もしめして具体的に追及しました。川端総務大臣が、「労働総研の試算はいろいろな前提のもとでの数字だ。国家公務員給与の削減分は、 結果として国庫から被災地に復興経費として支出され、結果として経済に上向きの効果がある。全体的な影響は少ない」とのべると、山下議員は「とんでもない 答弁だ。景気が長期低迷しているときに、賃下げは確実に影響を与え、税収も減っていく。真剣に検討せよ」と声を高めました。

労働基 本権回復にむけたまともな議論もなく質疑を打ち切る

 他の各議員の 質問では、衆議院と同じように法案提出者である民主党の稲見議員、自民党の平井・石田議員、公明党の稲津議員が答弁するというやり取りがつづきました。
  川端総務大臣は3党提出法案に関して答弁する資格もなく、各党議員から「人勧が内包されているという政府の主張は誤った考えではなかったのか」(江崎議 員)、「混乱を招いた反省の弁を求める」(宇都議員)、「3党合意で法案提出されたことへの感想をうかがう」(木庭議員)などと追及されると、川端大臣 は、「このような難しい状況を乗り越えて、3党間で知恵を出し合ってもらったことには心から感謝する。みなさんのご努力に敬意を表する」と、使用者責任は まったく感じられない答弁を繰り返すだけでした。
 また、労働基本権との関係を指摘し、憲法ともかかわる問題点を追及したのは、共 産・社民の各党だけで、他の政党は、公務員制度改革関連法案の扱いをふくめて、労働基本権問題を避けるかのような質問に終始しました。
  約2時間半で質疑は打ち切られ、討論では共産党の山下議員、社民党の又市議員が法案に反対する立場から意見をのべました。
 その後た だちに採決に入り、共産・社民を除く各党の賛成多数で法案は採択されました。

以上