No. 787
   2011年5月20日 
「心苦しい。なんとかお願いしたい」の一点張り

= 使用者としての責任が感じられない回答に参加者から怒りの声 =

 17日の交渉につづき、国家公務員賃金の「1割カット」の撤回を求めて、国公労連・自治労連・全教の書記長を中心に、20日に内山総務大臣政務官との交渉にのぞみました。
  はじめに、前回の「宿題」として説明を求めてきた事項について回答があり、その回答をもとにしてやり取りしましたが、内山政務官は、具体的な賃下げの理由 を追及されると、最後には、「大変心苦しい」「みなさんの話はわかるが、お願いしたい」などの回答を繰り返すだけで、まともな交渉となりませんでした。
 こうしたことから、引き続き納得できる具体的な理由を示すよう求めて交渉を継続していくこととなりました。


前回の質問に対して政務官から回答が示される

 総務省との交渉には、国公労連の岡部書記長を先頭に、自治労連の猿橋書記長、全教の今谷書記長らが出席、総務省側は、内山晃総務大臣政務官(衆議院議員)、村木人事・恩給局長ほかが対応しました。
 はじめに、内山政務官が、「前回の交渉の際に、後日お答えすることとした事項について回答する」として、以下の通りのべました。
1、人件費削減、給与1割カットの根拠
 ●  国家公務員の人件費の削減については、昨年11月の人事院勧告の取扱いを決める段階で、菅政権としては、給与の引下げを行うべく表明しているところ。こ れは、当時の極めて厳しい我が国の財政事情を念頭に置きながら検討したもので、その結果、次の通常国会に法案を提出することを決定した。
 ● そのようななか、今年3月に東日本大震災が発生し、これに対処するために巨額の財源が必要となり、更なる歳出削減が不可欠となっている。このため、国家公務員の給与引下げにより捻出された財源は、震災復興のためにも使われることが予想されるところ。
 ● また、今回、1割カットを基本としているのは、このような厳しい財政状況と東日本大震災への対処のため、更なる歳出削減が不可欠であることから、職員の皆さんに最大限の協力としてお願いすべく提案させていただいているもの。
   削減率の設定にあたっては、地方公共団体においても厳しい財政事情に鑑み、様々な給与削減の取組を行っており、そういった取組についても参考とさせていただいている。
2、給与引下げの根拠となる財政状況等について
 ●  我が国の現下の財政状況は極めて厳しく、3年度連続で一般会計税収が公債発行額を下回っており、平成23年度当初予算においては、一般会計税収が 40.9兆円であるのに対して、44.3兆円を公債に依存している状況。また、公債依存度は47.9%、公債残高668兆円にのぼるなど、主要先進国のな かで最悪の水準であり、財政の健全化は逃れることのできない課題。
 ● 更に、東日本大震災に対処するため、年度早々に編成した4兆円規模の第1次補正予算に加え、今後、本格的復興のために必要な第2次補正予算を編成することとしており、財政事情は更に厳しくなることが見込まれ、歳入歳出の更なる見直しが必要となっているところ。
 ●  17日に閣議決定した「政策推進指針」においても、「従前からの大きな課題である財政・社会保障の持続可能性の確保、信認維持の必要性は、大震災によっ て更に高まっており、着実な取組を進める」との基本方針の下、今後3年程度の措置として、「震災復興に必要な財源確保、社会保障・税一体改革を実行に移 す」こととされており、財政規律を維持しつつ、復興財源を確保することが課題として示されている。
 ● これまで、政府は、財政運営戦略(平成 22年6月22日閣議決定)を策定して財政健全化目標を設定し、平成23年度当初予算案の編成にあたっては、事業仕分け結果の反映等による歳出の見直しや 公共事業費の縮減を行うなど、財源確保、財政規律の維持のための努力を行ってきた。
 ● 更に、第1次補正予算の編成にあたっては、東日本大震災関係経費約4兆円に必要な財源を確保するため、成立したばかりの予算について見直しを行い、約3兆7千億円の既定経費の減額を行っている。
 ● このように、我が国の財政事情は極めて厳しい状況にあり、さらに今般の東日本大震災への対処を鑑みると、更なる歳出削減は不可欠である。国家公務員の人件費についても例外ではない。
 ● 現在の人事院勧告制度の下では極めて異例ではあるが、自律的労使関係制度への移行を先取りする形で、皆さんの理解が得られるよう十分話し合った上で、一定期間給与の引き下げを行うこととしたいので、ご理解とご協力をお願いしたい。
3、厳しい財政事情となった背景、責任について
 ● 昨年6月に閣議決定した「財政運営戦略」によれば、厳しい財政事情の原因として、@非効率な公共投資と、A歳入確保策の欠如が挙げられている。
 ● 「非効率な公共投資」については、「不況対策の名の下、財政出動として行われた非効率な公共投資の拡大は、成長にも国民生活の向上にもつながらず、巨額の財政赤字が積み上がる一方で、地域はますます活力を失うという悪循環に陥った。」と指摘している。
 ● 「歳入確保策の欠如」については、「我が国においては、政府の予算の使い途に対する国民の不信感があったことや、政治の果断なリーダーシップの欠如のために、財源確保のために必要な改革が実施されず、負担の先送りが続けられてきた。」と指摘している。
 ● 今後は、このような反省の上に立って、歳入・歳出改革を行い、財政基盤を確保し、持続可能な財政・社会保障制度の構築に努めてまいりたい。
 ● いずれにせよ、現下の厳しい財政状況、さらに今般の東日本大震災への対処を鑑みると、更なる歳出削減は不可欠である。今回の給与減額措置についても、なにとぞ、皆様のご理解とご協力をお願いしたい。
4、労使交渉のルールについて
 ● 今般検討している給与減額措置は、@極めて厳しい財政状況等に鑑み、A極めて異例の措置として、B時限的な措置として行うものであり、皆さんとも真摯に話し合った上で行おうとしているもの。
 ● 我々としては、皆さんとの交渉を通じ、本措置の必要性について十分に理解いただけるよう、努力したいと考えている。
5、今回の給与引き下げの公務員の士気への影響
 ● 職員の皆さんには、今回の東日本大震災への対応を含め、日夜公務に精励していただいていると認識している。
 一方で、現下の経済社会情勢や厳しい財政事情に加え、東日本大震災の復旧・復興支援のために多額の経費が必要となることを踏まえれば、歳出の削減は待ったなしの課題である。
 ● 今回の給与引下げについては、大変心苦しく思うが、このような事情につき、是非ともご理解いただき、ご協力をお願いしたいと考えている。
6、公務員給与の引下げによる景気への影響
 ●  一般論として、所得の低下は個人消費の減少要因の一つであると考えている。一方で、東日本大震災の被災者の生活支援対策や復旧・復興対策については、政 府として全力で取り組んでいるところ。今後、今回の給与削減分も財源となり、政府の復興政策が実施に移されれば、全体として景気に対してプラスの効果が期 待されると考えている。
7、地方公務員・独立行政法人職員の給与への影響
 ● 地方公務員の給与は、地方公務員法の趣旨を踏まえ、それぞれの地方公共団体が条例で定めるものであることについては、総務大臣から既に回答したとおりである。
 ● 今回の措置と併せて、地方公務員の給与について、国と同様の措置を取ることを前提とした財政措置を取るつもりがないことについても既に回答したとおり。
 ●  独立行政法人の職員の給与は、各法人において労使交渉により決定されることとなっている。一方、独立行政法人には公的性格があり、運営費の多くを国庫に 依存しているということもあり、国の職員の給与見直しの動向も見つつ、法人の自律的・自主的な労使関係の中でしっかり議論して欲しい。

「身を削って協力するという高いモチベーションを持ってほしい」

 これに対して、交渉団は、以下の点を指摘しました。
 ○  前回のやり取りをふまえて説明されたとは受けとめたいが、残念ながら内容は及第点をつけられるものではない。まず、厳しい財政事情の背景については承知 しているが、そのことと公務員賃金引き下げとの関係が示されておらず、回答となっていない。過去の政権がつくり出した借金だと言うが、政権交代以降も好転 しておらず、むしろ「構造改革」のもとで悪化している。また、賃下げが3年の時限措置という根拠は何か。3年経てば財政は好転するのか疑問だ。
 ○ マニフェストそのものが破綻している。それなのに総人件費2割削減に固執する姿勢は、とうてい理解ができない。財政の健全化を言うのなら、マニフェストそのものを見直せ。たとえば、思いやり予算や政党助成金に手をつけようしていないことこそ、あらためられるべきだ。
 ○  自律的労使関係制度への移行を先取りすると言うが、現行の人事院勧告制度のもとで、先取りなどと言っても、今回の交渉の法的な根拠はどこにあるのか、依 然解明されていない。仮に自律的労使関係制度が制定されても、機能するのは2014年度以降となる。その間は、政府が賃下げを強行しても、労働組合は対抗 手段を何も持っていない。
 ○ 3年という時限措置が提案されているが、総人件費2割削減までもが3年間の措置になるとは思えない。したがって、自律的労使関係制度をある意味では「悪用」して、いっそうの労働条件の切り下げをねらっているのではないのか。
   以上から、とうていこちらの問題意識に応えているとは言い難い。

  内山政務官は、「前政権がつくった借金と言うことを、言い逃れの理由にはしない。だから、何としても巨額の財政赤字を立て直すため、公務員総人件費削減を 提案してきた。財政の立て直しのためには、いろいろな策が必要だ。たとえ、自民党の安倍内閣時代にIMFに貸した10兆円を返してもらうことも考えるべき だ」などとのべましたが、「みんなでお金を出し合い助け合っていくのが、今の日本の置かれた立場だ。ご要望はよくわかる。みなさんの立場ならば、私も、賃 下げなどとんでもないと思うだろう。しかし、ご理解をいただきたい」とのべ、さらには、「賃下げは、公務員の士気にも影響があるが、みなさんも、身を削っ て協力しているという高いモチベーションを持っていただければありがたい」となどと、とても使用者とは思えない回答が繰り返されました。
 村木人 事・恩給局長は、「3年間の時限措置の理由は、並行して検討されている自律的労使関係制度ができれば、25年度からは、労使交渉によって労働協約を締結し た上で、給与等を決めることができることからだ。26年度からは、労使交渉のもとで決めていただく。さらに、復興で歳出の見直しをすると3年程度は必要 だ」とのべました。

「自律的労使関係制度ができれば減額分を取り返せる」

  交渉団は、「法律が成立しても先の話だ。いまは、現行の国家公務員法のもとでの交渉でしかない。いくら時限的措置としても、憲法28条に反する。交渉が決 裂したとき、あっせん・仲裁など第三者機関による調整システムも、現状では措置されていない。結局は、労働組合の手足をしばったままで、権力を使って賃下 げを強行するだけではないか」とのべ、さらに、「申し訳ないとか、心苦しいなどと本当に思っているのならば、賃下げの提案は撤回すべきだ。被災地の組合員 からは、『全国の公務員のみなさんには申し訳ないと』いうメールが届いている。被災地で苦労している職員の気持ちを本当にわかっているのか。とうてい認め られない」と厳しく追及しました。
 村木人事・恩給局長は、「今の国公法では協約は締結できない。その点では、異論はない。だから、臨時・異例の ものという理解のもとでやっている。82年の人勧凍結の例がある。その時は、労使間の話し合いがうまくいかなかったが、政府の判断でやらせてもらった。不 調の場合の制度はないが、今回は、臨時・異例の措置をとらざるをえないほどの状況にある。最終的には、国会が判断してもらうことになる」と、あくまで「臨 時・異例の措置」を強調しました。
 内山政務官は、「ご無理ごもっとも、おっしゃるとおりであり、大変な思いをされて仕事をしていることはよくわ かる。しかし、そうした人たちに手当を加算したいが、諸手当は人事院が所掌しているのでできない。唯一できるのは、超過勤務手当をしっかりと支給できるよ うに検討することくらいだ。私たちには、残念ながらカードがない。これからどれくらいかかるかわからない復興や、原発問題での放射性物質の飛来の範囲をみ ても、それにかかるお金は日本がつぶれてしまうくらいの天文学的な額だろう」などとのべつつ、「とりあえず25年度までは下げさせてもらうが、それ以降 は、しっかりとした自律的労使関係のもとで、減額した分を取り返すくらいの勢いで交渉していただければと思っている」などと無責任に回答しました。

「禍を転じて福となす」ために力を合わせよう

  交渉団は、「今は何とか理解してくれという頼み方は、余計に職員にとっては士気が下がる。膨大な借金をなくしていくために、政府としてどんな努力をしたの か。それも示されずに、借金のために公務員賃金を削っていけば、やがて公務員はタダ働きしなければならなくなる。復興に必要と言うが、全体でいくらかかる かも示されていない。復興計画の全体像が示されないなかで、公務員の賃金を下げれば士気も下がる。不安感と失望がひろがるだけだ」と指摘しました。
  内山政務官は、「全体計画は、別のところで議論している。その費用は、40兆円かかるのか、100兆円かかるのかわからない。復興計画を作るだけでもかな りの時間がかかる。しかし、実際に被災者に対する手当を第2次補正ですぐしなければならない。大きな財源づくりは別の部門でしっかりとしてもらうとして も、誠に申し訳ないけれど、給与の削減だけは、とりあえず3年間協力していただきたい。これしかお願いできることがない。大変心苦しい。みなさんの気持ち は十分わかっている。少しでも、被災者の生活に役に立つのだと、そのことに逆にモチベーションを持ってもらいたい」
 交渉団は、「十分わかってい る。おっしゃる通りだというのなら、提案を撤回すべきだ。さきほど、諸手当は人事院が所掌しているので手をつけられないなどと言ったが、その一方で、人事 院勧告制度を踏みにじろうとしている。あまりにもご都合主義的な話だ」と追及すると、内山政務官は「揚げ足をとらないでほしい。超勤や何かの部分で、限り なく配慮させてもらいたいと言っただけだ」などと、言い逃れの回答を繰り返しました。
 さらに、交渉団は、労働総研が作成した資料も示して、公務 員賃金の削減がGDPを引き下げ、税収を減少させることを具体的に示し、景気が冷え込めば復興のための財源づくりとも逆行することを主張し、賃上げこそ日 本経済に貢献する道だと訴えましたが、村木人事・恩給局長は、「見方はいろいろある。公務員給与の引き下げは、経済への影響を与えることは否定しないが、 逆にインフレになれば、公務員給与を抑制するのかということにもなる。公務員給与は、経済とは切り離して決めるべきだ」と主張しました。また、内山政務官 は、「さまざまな復興対策費を支出していくので、GDPも上げていくこととなる。ゼネコンだけが儲かるなどという規模の話ではない。震災復興の中から新し い技術、新しい産業も生まれていく。禍を転じて福となすためにできる限りの力をかき集めるのが、私たちに求められている使命だ」などと、公務員の賃下げと はまったく関係のない話を長々とつづけました。
 このように話し合いは平行線のままで、最後に交渉団は、「このままで、賃下げの見切り発車は認め られない。具体的な理由をまずきちんと納得できるように示せ」と求めると、内山政務官は、「ご理解いただけるまでみなさんと協議していきたい」とのべたこ とをうけ、この日の交渉を閉じました。

以 上