No. 763
 2010年8月10日
2年連続 の「マイナス勧告」実施は中止せよ

= 人事院勧告の取り扱いをめぐって、政府に要求書を提出 =

 人事院は8月10日、「マイナス0.19%・757 円」の官民逆較差にもとづく若年層をのぞく月例給の引き下げ、55歳を超える職員の給与の1.5%減額、一時金の0.2月の引き下げなどを内容とした2年 連続の「マイナス勧告」を強行しました。
 勧告は、同日早朝、内閣と国会に提出され、その後、ただちに第1回の給与関係閣僚会議が開 かれ、勧告の取り扱いが議論+されました。同会議では、「労働基本権制約の代償措置としての勧告を尊重すべき」との意見がある一方、「国民の理解を得るた めにも、公務員給与は厳しい姿勢で臨むべきだ」などさらなる引き下げさえも求める意見が出されるもと、各大臣が所見をのべただけで、引き続く検討が確認さ れています。
 こうしたもと、公務労組連絡会は、政府(総務省・厚生労働省)に対して要求書を提出し、55歳以上の職員の定額賃下げ をふくむ「マイナス勧告」の実施に反対し、民間労働者にも影響する公務労働者の賃金改善を強くせまりました。

「55歳を超える職員の賃下げ」を使用者として検証せよ

 総務省への要求書提出・交 渉には、公務労組連絡会から、山口議長、野村副議長、黒田事務局長、蟹澤事務局次長、門田幹事、自治労連から鈴木中執が参加、総務省側は、人事・恩給局総 務課の黛(まゆずみ)総括課長補佐、遠山課長補佐ほかが対応しました。
 はじめに、山口議長は、別添の「要求書」を提出し、「勧告 は、2年連続で月例給・一時金ともに引き下げられた。55歳を超える職員を対象とした定率の給与減額には、職場からかつてない怒りの声があがっている。政 府全体として景気回復がめざされているなか、勧告内容に追随するのではなく、賃金改善による消費拡大にむけて検討をすすめるべきだ」とのべ、使用者責任に もとづく総務省としての対応を強く求めました。
 黒田事務局長が、以下のように要求書のポイントを説明しました。
 ○  55歳以上を対象とした1.5%の給与減額は、年齢による賃金差別であり、職務給原則にも反する。また、民間でも年齢で区切った賃下げは少数(管理職で 4割、非管理職で3割)にとどまっており、「民間準拠」という理由がたたない。こうした道理のない勧告の実施には断じて反対する。
 ○  職場からは、「減給処分と同じだ」「55歳を超えれば出て行けというのか」など怒りの声が届けられてきた。仕事への誇り、働きがいを失わせる賃下げに対 して、政府が、使用者として職員の思いをきちんと受けとめることが、勧告の取り扱い検討の第一歩だ。そのためにも、勧告の取り扱いにあたっては、労働組合 と十分な話し合いを求める。
 ○ 日々雇用の廃止による「期間業務職員制度」が今年10月から実施され、非常勤職員の育児休業・介護 休暇制度も措置される方向で人事院が意見の申出をおこなうなど、臨時・非常勤職員をめぐる労働条件が整備されてきた。引き続き、使用者・政府として、均等 待遇の実現など、賃金・労働条件の改善にむけた施策の拡充を求める。
 黛総括課長補佐は、「本日、政府として人事院勧告を受け取り、 給与関係閣僚会議を開催してその取り扱いの検討に着手したところだ。同会議では、原口総務大臣から、国家公務員の労働基本権がなお制約されている現状にお いては、人事院勧告制度を尊重するという基本姿勢に立ち、検討すべきとの発言があった。本年度の国家公務員の給与の取り扱いについては、みなさんの意見も 十分にうかがいながら、検討をすすめていきたい」と回答しました。
 これに対して、交渉参加者からは、「民間準拠と言って高年齢層の 給与を引き下げ、初任給をはじめ若手の給与は、明らかに民間よりも低いのに放置されている。なぜそうなるのか、今後、政府は使用者として説明責任を果た せ」「十分な交渉もなく55歳以上は引き下げ、若手の改善は来年に先送りした。民間準拠であっても道理のないやり方だ。2年連続で賃金を下げて、公務の仕 事に責任を持てと職員に言えるのか」「勧告は出たが、使用者として、その内容が、職務給原則や生計費原則からみてどうなのかを、しっかりと検証すべきだ。 とりわけ、賃下げが職員の士気に影響することをふまえた検討を求める」などと厳しい意見がつづきました。
 黛総括課長補佐は、「勧告 制度を尊重するのが政府としての基本的な姿勢だ。政府としての検討ははじまったばかりであり、今後、みなさんの意見も聞きながら検討をすすめていく」との 回答を繰り返すにとどまりました。
 山口議長は、最後に「本日提出した要求書をふまえて、今後、引き続く公務労組連絡会との交渉を求 める。労働組合との十分な話し合いのもとで勧告の取り扱いの検討を求める」とのべ、交渉を閉じました。

最低賃金改善に冷や水をかけた「マイナス勧告」

  総務省交渉に先立ち、厚生労働省への申し入れをおこないました。厚生労働省側は、谷中労使関係担当参事官ほかが対応しました。
 山口 議長は、「今年の人事院勧告は、月例給・一時金ともに引き下げられた。公務労働者の生活改善の願いに応えないばかりか、職場での労働強化がすすむなかで日 夜奮闘している職員の働きがいにも影響する内容だ。貧困と格差の解消が政府全体でめざすべき重要課題となっているもとで、公務員賃金引き下げの社会的影響 力という視点からの検討も必要だ。給与関係閣僚の一員である厚生労働大臣として、各項目の実現にむけた努力を求める」と申し入れしました。
  これに対して、谷中労使関係担当参事官は、要求事項にもそって、「人事院勧告は労働基本権制約の代償措置であり、政府としてはそれを尊重すべきだ。その立 場に立って、勧告の取り扱いを検討していきたい。労働基本権回復など公務員制度改革は、政府の公務員制度改革推進本部で検討がすすめられている。労働行政 の所管官庁として、推進本部事務局とも連携して対応していく」などと全般的な考えをのべました。
 参加者からは、「臨時・非常勤職員 は、法の狭間にあり、不安定な身分に置かれている。公務職場の非正規労働者の改善にむけて、厚生労働省として一定の見解を示すべきだ」「最低賃金の目安額 は、はじめて最低額が二桁となった。いよいよ地域最低賃金の審議が始まる矢先に、議論に冷水をかけるようにマイナス勧告が出されたことは許しがたい。雇用 確保のためにも、勧告制度尊重とする立場を乗り越えた判断を求める」「公務員の俸給の最低額が、地域最低賃金よりも下がる場合もでてくる。それに対して、 労働行政の立場から厚生労働省が、改善にむけた旗振り役をすべきではないか」などの要望がだされました。
 谷中労使関係担当参事官 は、「みなさんの話はうけたまわった。労働行政に対する要望もお聞きしたが、公務員給与が人事院勧告で決まるという現状をふまえれば、むつかしい問題も多 い。そのことも理解いただきたい」とのべました。

以 上

【別添:総務省あての要求書(厚労省もほぼ同内容)】

内 閣総理大臣 菅  直人  殿
総務大臣   原口 一博  殿

公 務 労 組 連 絡 会
議  長    山口 隆
公務員賃金等に関する要求書

  人事院は本日、国会と内閣に対して、「マイナス0.19%・757円」とする官民逆較差にもとづく若年層をのぞく月例給の引き下げ、0.2月分の一時金引 き下げなどを内容とした勧告および報告をおこないました。
 これらは、過去最大規模の年収減となった09年勧告につづく「マイナス勧 告」であり、年収では平均9万4千円の減となり、一時金は年間で3.95月にまで落ち込んで、昭和30年代の水準にまで逆戻りさせることとなりました。
  とりわけ、今回の勧告で55歳以上の職員に対して、給与に一定率を乗じて減額する方法をとったことは、職務給の原則に反し、年齢による新たな賃金差別を持 ち込むもので、きわめて重大です。このような道理のない賃下げに反対する声に背をむけ、人事院が賃下げ勧告を強行したことは、断じて認められるものではあ りません。
 完全失業率が5%を超える高水準で推移するもと、私たちは、春闘期から一貫して「賃上げでこそ景気回復を」と主張してき ました。2年連続の「マイナス勧告」は、民間賃金にも否定的な影響を与え、「賃下げの悪循環」で「デフレ不況」を深刻にさせることは必至です。
  今後、政府部内で勧告の取り扱い方針が議論されることとなりますが、すべての職員が働きがいを持って職務に専念できるように、使用者責任にもとづく検討が 求められています。
 賃下げ勧告が強行された新たな局面を受けて、公務労組連絡会として下記要求をとりまとめました。貴職の誠意ある 対応を強く求めるものです。


1、 2年連続の月例給・一時金の引き下げ、55歳以上の給与減額などを内容とした10年人事院勧告は実施せず、職員の働きがいや仕事に対する誇りとともに、公 務員賃金の持つ社会的影響力を考慮して賃金の改善をはかること。

2、使用者としての責任をふまえ、勧告の取り扱 いをはじめ公務員労働者の賃金・労働条件は、労使対等の交渉にもとづき決定すること。

3、雇用期限の撤廃をはじ めとして、臨時・非常勤職員の賃金・労働条件改善をはかり、均等待遇を実現すること。

4、地方自治体、独立行政 法人等の賃金決定に不当な介入・干渉をおこなわないこと。

5、労働基本権回復など憲法とILO勧告に沿った民主 的公務員制度を確立すること。

以 上