No. 744
 2010年3月23日
切実な賃上げ要求にまともな回答示さず

= 政府・人事院が最終回答、非常勤職員の「日々雇用の廃止」を明言 =

 2010年春闘統一要求をめぐって、公務労組連絡会は23日、政府・人事院との最終交渉に臨みました。
 交渉では、月額1万円の賃金底上げ、時給1,000円以上の最低賃金改善などの要求に対する具体的な回答をせまりましたが、「官民較差にもとづく給与水準確保」「勧告制度の尊重」などとする従来どおりのきわめて不満な回答にとどまりました。
 一方、臨時・非常勤職員をめぐっては、政府・人事院の双方から「日々雇用の廃止」が言明され、今後、雇用・勤務形態の改善にむけたとりくみが重要となっています。

 公務労組連絡会は、政府・人事院からの回答をうけて、別掲の「幹事会声明」を発表しました。


(人事院交渉) 病気休暇制度の見直しなど今後の課題も明らかに

 政府・人事院との最終交渉は、公務労組連絡会から、山口議長を先頭に、野村副議長、黒田事務局長、蟹澤・松本の各事務局次長、木原・門田の各幹事が参加しました。
 人事院との交渉では、人事院側は、給与局給与第1課の近藤課長補佐、職員福祉局職員福祉課の柳田課長補佐が対応しました。
  はじめに、山口議長は、「民間大手の賃金回答は、ベアゼロ・定昇維持にとどまり、不満の声がひろがっている。公務労働者が働きがいをもって仕事をするに は、賃金をはじめ労働条件改善が強く求められる。第三者機関としての人事院の役割をふまえ、今日は要求に対する具体的な回答を示してもらいたい」とのべ、 最終回答を求めました。
 これに対して、人事院側は、次のように回答しました。

【人事院最終回答】
1、(賃金等改善について)労働基本権制約の代償措置としての給与勧告制度の意義および役割を踏まえ、官民較差にもとづき適正な公務員給与の水準を確保するという人事院の基本姿勢に変わりはない。
   平成18年度から実施してきている給与構造改革は、平成22年度において当初予定していた施策がすべて実施されることになる。今後も様々な課題にとりく むこととなるが、特に公務員の高齢期の雇用問題に関連して給与制度上の様々な問題に対処する必要があり、みなさんとも十分意見交換しながら検討をすすめて いきたい。
  公務員の給与改定については、初任給を含め民間給与の実態を精確に把握した上で、適切に対処する。
  給与勧告作業に当たっては、較差の配分、手当のあり方などについてみなさんと十分な意見交換を行うとともに、要求を反映するよう努める。
  一時金については、民間の支給水準等の精確な把握をおこない、適切に対処する。
2、(労働時間の短縮等について)公務員の勤務時間・休暇制度の充実に向けて、関係者やみなさんの意見を聞きながら引き続き検討する。
  超過勤務の縮減については、現在、各府省において在庁時間の削減目標を設定するなどして、政府全体としてとりくみがなされている。
  本院としても、昨年2月に定めた他律的業務に係る720時間の目安時間の遵守状況などを注視しつつ、関係機関と連携して超過勤務の縮減に努めていく。
  病気休暇制度や運用のあり方については、今後、みなさんの意見も聞きながら、本年夏の勧告時を目途として検討していきたい。
3、(男女平等、健康確保等について)平成17年末に改定された「女性国家公務員の採用・登用の拡大に関する指針」にもとづく施策が着実に実行されるよう努めたい。
  各府省における「次世代育成支援対策推進法」に基づく行動計画の実施については、人事院としても、国家公務員の勤務条件を所管する立場から、引き続き適切に対応する。
  心の健康作り対策について、現在、「円滑な職場復帰及び再発防止のための受入方針」(平成17年7月)を改定するための検討会を設け、専門家による検討をすすめているところであり、その検討結果を施策に反映していきたい。
4、(非常勤職員について)日々雇用の非常勤職員の任用・勤務形態の見直しについては、日々雇用が更新されるという現行の制度を廃止し、会計年度内で、臨時的な業務に応じて最長1年間の任期を設定して任用する仕組みを新たに設けることとしたいと考えている。
  また、任期満了後、新会計年度に設置された非常勤官職への再採用は妨げられないが、人事院としては、例えば、同一府省において雇用することができる期間について、3年という上限を設ける必要があると考えている。
  今後、職員団体及び制度官庁、各府省と詰めの協議を行うこととし、実施時期については、新しい仕組みの内容を関係者に十分周知するなど円滑な実施のため所要の準備をおこなう必要があることを念頭に置きつつ、早期に実施できるよう準備をすすめたい。
5、(新たな高齢期雇用施策について)高齢期の雇用については、昨年の勧告時の報告で述べたように、平成25年度から段階的に65歳まで定年を延長することが適当であり、本年中を目途に、そのための意見の申出をおこなうことができるよう検討をすすめている。

民間より低い初任給引き上げは待ったなしの課題だ

 この回答に対して、公務労組連絡会側は、次のように主張しました。
○ これまでと同様に、「官民較差にもとづく適正な給与水準の確保」との回答は、きわめて不満だ。単に民間準拠にとどまらず、職員の生活を改善していくことが労働基本権制約の「代償措置」としての人事院の役割だ。
○ とりわけ、民間との格差がますます広がる傾向にある初任給の引き上げは、若年層の生活を改善するうえでも、優秀な人材確保の面でも待ったなしの課題だ。勧告にむけた真剣な検討を求める。
○ 一時金については、昨年と比較して、民間でも明らかな改善の傾向が見られる。「民間賃金の精確な把握」というのなら、そうした動向も重視して改善へ努力せよ。
○ 非常勤職員の日々雇用の改善が示されたが、3年という上限を設けることは、働き続けたいという希望を持つ職員にとっても、また、公務・公共サービスを維持していくうえでも問題を持っている。これまでの制度とどこが改善されたのか。
○ 定年延長・高齢期雇用は、年金支給が65歳に繰り延べられるもとで重要課題となっている。ただし、定年年齢が延長されることには、職場ではさまざまな意見もあり、今後、労働組合との話し合いにもとづいた制度化を求める。
○ この間、強調してきたセクハラ・パワハラへの対策強化については、今日は回答がなかった。労働組合のアンケートでも、加害者意識がない点が明らかとなっている。指針の策定をはじめ、窓口設置などの相談体制の確立を求める。

  これに対して、人事院側は、「初任給をはじめ、給与全体の改善にむけて民間の実態把握をすすめる。とくに、一時金は、今年は特に正確に把握する必要がある 点は、みなさんと認識は同じだ。非常勤職員は、日々雇用が更新される制度を廃止することにより、身分上の不安定さを取り除くことが改善のポイントだ。パワ ハラについての指摘はうけたまわった」などとのべました。

 最後に山口議長は、「あらためて、本日の回答は、きわめて不満であるこ とを表明しておく。職場では、要員不足による長時間・過密労働が、メンタル不全やパワハラなど職場の荒廃につながっている。こうした問題をどのように解決 するのか、人事院の役割発揮が求められる」と指摘し、「非常勤職員の問題をはじめ、人事院勧告にむけた課題は多い。引き続き、公務労組連絡会の要求をふま えて、交渉・協議を続けるよう求める」とのべて交渉を終えました。

(総務省交渉) メンタルヘルスにも対応して福利厚生基本計画を改善

 政府・総務省との交渉では、総務省側は、人事・恩給局総務課の竹中総括課長補佐、遠山課長補佐ほかが対応しました。
  山口議長は、「この間、総務省と交渉を積み上げてきたが、月額10,000円の水準引き上げ、時給1,000円への最低賃金改善など公務労組連絡会の要求 に正面から答えた回答は聞かれなかった。経済情勢や公務員をめぐる環境が厳しいなかでも、職員のために何をすればいいのかを考えるのが使用者たる総務省の 責任だ」とのべ、最終回答を求めました。
 竹中総括課長補佐は、「2月10日に要求書を受け取り、その後、みなさんと議論を重ね、種々検討を行ってきたところだが、本日は、それらをふまえ、最終的な回答とさせていただく」として、次のように回答しました。

【総務省最終回答】
1、(国の出先機関改革)国の出先機関改革については、地域主権戦略会議を中心にしっかり議論していきたいと考えている。その際、公務能率の確保に留意しつつ、職員のみなさんの雇用の確保に努めていく。
2、(給与改定等)人事院勧告制度は、労働基本権制約の代償措置であり、労働基本権がなお制約されている現状においては、同制度を尊重することが政府としての基本姿勢である。
  平成22年度の給与改定に当たっても、この基本姿勢のもと、国政全般との関連を考慮しつつ適切に対処していく。
  また、これまで同様に職員団体とも十分に話し合い、適切な給与水準が確保できるよう努力したい。
3、(労働時間等)国家公務員の勤務時間については、ワーク・ライフ・バランス実現の観点から、長時間の超過勤務の縮減を早急に進めることが重要な課題であると認識している。
  先の給与法改正においても、超勤についてのコスト意識を高め、超勤の抑制に資するため、超勤手当の支給割合引き上げを定めているところである。
  総務省としては、一昨年9月に改正された「国家公務員の労働時間短縮対策」に基づき、超過勤務の縮減や年次休暇の計画的使用の促進に努めるとともに、関係機関とも連携しながら、政府一体となって徹底した勤務時間管理に基づいた実効性のあるとりくみを進めたい。
4、 (新たな高齢者雇用対策)定年延長については、公務員制度改革の一環として国家公務員制度改革推進本部において検討を進めているが、総務省としても雇用と 年金の接続は重要な課題であると認識しており、関係機関と連携をはかりながら、職員団体の意見をふまえつつ、政府全体としてとりくんでいきたい。
  なお、人事院から「意見の申出」が行われた場合には、誠意を持って対応していく。
5、(非常勤職員)非常勤職員の処遇については、人事院の指針に基づいて改善がはかられ、これに沿った処遇改善を進めてきているところであるが、今後とも、総務省としても人事院と連携しつつ、各府省において適切な運用がはかられるよう努めたい。
  日々雇用の非常勤職員の任用・勤務形態については、任期が1日単位という不安定な制度は廃止し、適切な任期を定めることができる新たな制度を導入したいと考えている。
  新制度については、関係府省間での具体的内容の検討・調整を急ぎ、早期に結論を得た上で所要の準備を進め、実施に移していく。
  また、今後とも非常勤職員の処遇改善等について、職員団体の意見もうかがいながら検討していく。
6、(労働基本権の回復)国家公務員制度改革は、国民主権、政治主導を徹底する上で極めて重要な課題であると認識している。
  現在、国会に提出している国公法等改正法案を第一弾として、今後、労働基本権の回復に向け、使用者機関の確立を含む自律的労使関係制度の措置など、さらなる抜本的改革にとりくむこととなるが、政府としてのとりくみに最大限努力する。
  なお、安定した労使関係を維持する観点から、職員団体とは誠意を持った話し合いによる一層の意志疎通に努める。
7、 (男女平等の問題)平成21年度の国家公務員T種試験等事務系区分の採用者に占める女性の割合は30.6%であり、男女共同参画基本計画(第2次)に目標 として掲げる水準に達したところである。一方、登用については今後も各府省におけるとりくみを積極的に推進していく必要があると考えており、能力及び実績 に基づく人事管理の徹底により、意欲と能力のある女性の登用の拡大をより一層推進していく。
8、(福利厚生施策)国家公務員の福利厚生計画については、社会経済情勢の変化や職員のニーズに対応するとともに、国民の理解を得るべく効率的かつ効果的に推進していくことが重要と認識している。
  今後の福利厚生のあり方に関し、研究会を開催して幅広い視点から議論いただいているところであり、年度内には報告がまとまる予定である。
  報告の扱いについては、次期の国家公務員福利厚生基本計画の改定に反映させるとともに、例えば、メンタルヘルスの問題など、個別の課題への対応の検討にも、次年度以降、順次とりくんでいきたい。
  国家公務員福利厚生基本計画の見直しの際にはみなさんの意見も十分にうかがっていきたい。
9、(人事評価)人事評価制度については、評価制度が円滑に運用されるよう、制度の周知・徹底のため、昨年夏から評価者の評価能力を高めるための評価者講座を開催してきたところであり、今後とも引き続き行うこととしている。
  本制度については、引き続き、職員団体とも十分意見交換し、円滑に運用していきたいと考えているのでよろしくお願いしたい。

日々雇用のすみやかな廃止にむけて検討を求める

 この回答に対して、公務労組連絡会側は、次の点を主張しました。
○ 前回の交渉でも指摘したが、人事院勧告廃止、協約締結権回復が数年後に実現する段階でも、「人勧制度の尊重」の回答では、使用者としての責任が問われる。
○ 非常勤職員の「日々雇用の廃止」が正式に表明されたことは、前進面として受けとめたい。そのうえで、どのような制度をつくっていくのか、労働組合との十分な話し合いのもとで検討するよう求める。
○  公務員制度改革では、協約締結権保障にむけた労使交渉の制度設計などが、今後、具体的な課題となってくる。一方では、総務省の課題として、消防職員の団 結権回復にむけて検討会で議論が開始された。公務労働者の労働基本権回復にむけて、使用者としての主体的な対応を求める。
○ 定年延長は、人事院でも検討作業がすすんでいるが、定年年齢が延長されることには、職場ではさまざまな意見もある。今後、労働組合との話し合いにもとづいた制度化を求める。
○ 職場の女性の割合は、世界レベルから比べるとまだまだ低い。また、男性の育児休業は、国をあげて促進しているにもかかわらず、年間の取得日数が減っている。男性も女性も能力を生かせる職場づくりを、まず公務が率先してすすめるべき。
○  福利厚生計画の見直しについて言及があったが、職場環境が急速に変化し、メンタル不全をはじめ、セクハラ、パワハラなど、以前と比べて問題が複雑化して いることにどのように対応するのかが見直しの重点だ。労働組合としても、問題意識をもってとりくんでいる課題であり、この点でも十分な意見交換を求める。

  これに対して、竹中総括課長補佐は、「協約締結権にもとづく労使関係が議論されているが、話し合いにもとづいて制度を確立していくことが重要だ。人勧制度 が存在する現時点では、総務省として勧告制度を尊重するのが基本だ。福利厚生は、研究会の報告ができつつあり、みなさんの意見を聞いて基本計画を見直して いく。非常勤職員の日々雇用の廃止は、改善にむけた一歩であり、処遇改善は、今後ともすすめていきたい」とのべました。

 最後に山 口議長は、「従来通りの『勧告制度の尊重』とする回答は、使用者としての責任が感じられず、きわめて不満で認めがたい回答だ。賃金改善では、賃上げでこそ 景気回復が可能なことを繰り返し主張してきた。公務員賃金の持つ社会的な影響力ふまえて、公務員の賃金改善をかさねて求める。公務員バッシングが強まるも とにあっても、常勤・非常勤を問わず、第一線の職員は日夜公務サービスの向上に向けて奮闘している。すべての公務労働者の賃金・労働条件の改善にむけて、 使用者として努力せよ」と強く求め、交渉を閉じました。

     *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

2010年春闘における政府・人事院回答に対する声明

2010年3月23日
公務労組連絡会幹事会

1、2010年春闘において公務労組連絡会は、月額1万円の賃金底上げ、臨時・非常勤職員の「時給1,000円以上」への最低賃金の改善、初任給引き上げなどの実現を求めて、政府・人事院との交渉を積み上げてきた。
  本日、春闘期における最終回答が示されたが、その内容は、「官民較差にもとづく適正な公務員給与の水準確保」(人事院)、「労働基本権制約の代償措置とし て、人事院勧告制度を尊重することが基本姿勢」(総務省)とするもので、連年の賃下げのもとで切実さを増す賃金改善要求に具体的に答えない、きわめて不満 な回答となった。

2、回答では、超過勤務を縮減するため実効性のある取り組み推進や、定年延長にむけた諸制度の検討、メンタルヘルスの増 加もふまえた福利厚生基本計画の改善などが示された。公務・公共サービスへの国民の期待に応えて、行政や教育の第一線で日夜奮闘する公務労働者が、働きが い、生きがいを持てる職場環境を実現するため、示された回答にも沿って、政府・人事院は全力をあげるべきである。
 とりわけ、回答では、非常勤職員にかかわって、「日々雇用の廃止」が言明された点は、不安定な雇用・勤務形態の解消へ一歩前進となるものであり、今後、具体的な制度改善にむけてすみやかな検討を強く求めるものである。

3、労働者の雇用と暮らしは厳しさを増し、中小企業や商店の経営もいっそう困難となっている。公務労組連絡会は、「賃上げでこそ景気回復を」の道理ある主張のもと、交渉では、民間労働者や地域経済にも影響する公務員賃金引き上げの重要性を明らかにしてきた。
  同時に、「地域総行動」で地域に足を出し、膨大な大企業の内部留保の国民への還元を訴え、地元の商工業者などへの共感をひろげてきた。そうしたもと、過 日、鳩山首相が「大企業の内部留保への課税」に言及するなどの変化も見られた。引き続き、大企業の横暴をやめさせ、ルールある経済社会の実現にむけ、国民 共同の運動をひろげる決意である。

4、要求自粛のもとで、民間大手組合は今年もベアゼロで妥結し、定昇維持、昨年を若干上回る一時金回答 をもってして春闘の幕が引かれた。こうしたなかにあっても、全労連・国民春闘共闘に結集する民間労組は、回答の上積みを求めてねばり強く交渉を続けてお り、すべての労働者の賃金底上げへ、連帯したたたかいの強化が求められている。
 公務労働者をめぐっては、独立行政法人・公益法人を対象とした「事業仕分け」や、公務サービスの役割縮小、国の責任を放棄する「地域主権改革」に対するたたかい、それらと一体で、公務員の労働基本権回復のたたかいが重要課題となっている。
 公務労組連絡会は、たたかいを継続・強化し、職場の仲間たちの奮闘を力にして、すべての労働者・国民の切実な要求実現へ全力をあげる決意を新たにするものである。

以 上