No. 739
2010年2月19日
国家公務 員法「改正」法案を通常国会に提出

= 幹部人事の弾力化で事務次官から部長級への「降任」が可能に =

  鳩山内閣は19日、国家公務員法の一部を改正する法案等を閣議決定し、ただちに国会に提出しました(法律案の概要は、別添の資料参照)。
  すでに報じてきたように、法案は、本府省の幹部職員(指定職)の人事管理権限を内閣総理大臣に一元化し、人事の弾力化と称して、官僚トップの事務次官から 部長クラスへの降任を可能とすることなどを内容とし、政府は、12日の閣議決定をめざしていました(闘争ニュースNO.86参照)。
  ところが、閣内から異論が出されるなかで、人事院規則などで「特例規定」を設けるとしていた部長級への降任については、事務次官から部長級まですべての官 職を「同一の職制上の段階に属するとみなす」と強引にあらため、当初の「特例規定」さえも取り払いました。こうした方向修正によって、閣議決定も1週間先 送りされました。
 法案は、中立・公正であるべき公務員の人事管理への政治介入を許し、政権党によって恣意的な昇任や降任がまかり通 る危険も持っています。
 全労連闘争本部は、別記のような本部長談話を発表し、法案の問題点を内外に明らかにしました。政府が、予算 関連法として3月中の成立をねらっているもと、引き続き法案への監視を強めるとともに、国会での徹底審議を求めていきます。

国家公務員法「改正」法案の閣議決定にあたって(談話)

2010年2月19日
全労連公務員制度改革闘争本部
本 部長  小田川 義和

 鳩山内閣は本日、政治主導による人事管理強化と公務員の「天下 り」(再就職あっせん)規制をめざした国家公務員法「改正」法案等を閣議決定した。
 法案は、内閣人事局設置による幹部職員人事の一 元管理、「降任」を含む幹部職員人事の弾力化をすすめることや、国家公務員の「天下り」規制強化のために、官民人材交流センターおよび再就職等監視委員会 を廃止して、民間人材登用・再就職適正化センターおよび再就職監視・適正化委員会を新設することなどを内容としている。

  この10年間、公務員制度改革は、政治主導の確立などを口実に、歴代政権の中心的な政治課題であり続け、政治が「改革」を競い合う状況が繰り返されてき た。その結果、憲法第15条に規定される「(国民)全体の奉仕者」という公務員の本質の具体化よりも、時の政権に隷属する公務員づくりを強く意識した「制 度いじり」となり、政権交代を前提とした議院内閣制のもとでの職業公務員の政治的中立性の確保という大目的が軽視される状況となっている。
  今回の法「改正」でも、閣議決定直前になって、事務次官から部長級までの幹部公務員の標準職務遂行能力を「同一」であるとみなして、実質的な「降任」を転 任と言いくるめる「改正」事項が、政治の力によって付加された。
 新政権となっても、公共事業の「箇所付け」を通じた政権党によるあ からさまな利益誘導と思える事態がおきているが、人事管理等を通じた行政への過度な政治介入は、利権構造を生み出しやすいことは、歴史が物語るところであ る。そのような問題も吟味しないままの、時の政権による恣意的な「公務員制度いじり」では、結果として国民の利益が損なわれることは明らかである。

  また、組織的関与のもとに行われる「天下り」禁止は当然のこととしても、それは官僚の特権排除と行政の中立性を高めることが目的とされるべきである。しか し、現実は、感情的な公務員バッシングとも一体で、公務員の再就職すべてを「天下り」と拡大解釈した再就職全面禁止の動きとなっている。「出口(退職管 理)」のみを厳しくすれば、公務員人事管理が円滑に行われるというものではなく、人事管理と密接な関連をもつ定員、予算や行政組織のあり方などや、定年延 長とそれを前提とした制度を同時に検討する必要がある。
その点で、今回の「改正」法案は、「出口」規制に偏った極めて不十分な内容で ある。

 「改正」法案では、公務員の労働基本権の引き続く検討にも言及されている。この点では、この間の様々な レベルでの議論の到達点や、ILO(国際労働機関)からのたび重なる勧告をふまえて、労働基本権回復にむけたすべての利害関係者との誠実な論議と、早期の 制度化を強く求めるものである。

以  上



【別添資料】

国家公務員法等の一部を改正する法律案の概要

○  内閣の人事管理機能の強化を図るため、内閣人事局を設置し、幹部職員人事の一元管理に関する規定等を創設。
○ 国家公務員の退職管 理の一層の適正化を図るため、官民人材交流センター及び再就職等監視委員会を廃止し、再就職等規制違反行為の監視等を行う新たな組織を整備。

T  内閣の人事管理機能の強化等
1 幹部職員人事の内閣一元管理
(1) 適格性審査及び幹部候補者名簿
   @ 内閣総理大臣(内閣官房長官に権限委任)は、幹部職員、各任命権者が推薦した者及び公募に応募した者等について、幹部職に属する官職に係る標準職務 遂行能力の有無を判定するための審査(「適格性審査」)を行う。  
   ※幹部職員:事務次官、外局長官、局長、部長又はこれらに 準ずる官職であって政令で定めるもの(「幹部職」)を占める職員。
  A 内閣総理大臣(内閣官房長官に権限委任)は、適格性審査に 合格した者について、幹部候補者名簿を作成する。
(2) 任免協議等
  @ 任命権者は、幹部候補者名簿に記載 されている者の中から幹部職員を任用する。
  A 内閣総理大臣又は内閣官房長官は、内閣の重要政策を実現するために内閣全体の視点 から適切な人材を登用する必要があると判断するときは、任命権者に対し、幹部職員の任免について協議を求めることができる。
  B  任命権者は、幹部職員の任免を行う場合は、あらかじめ内閣総理大臣及び内閣官房長官に協議する。
(3) 幹部職員の公募
   幹部職員の公募は、内閣総理大臣が一元的に実施する。

2 幹部職員人事の弾力化
 幹部職 員について適材適所の人事を柔軟に行えるようにするため、事務次官及びこれに準ずる官職、局長及びこれに準ずる官職並びに部長及びこれに準ずる官職は、同 一の職制上の段階に属するとみなす。

3 内閣人事局
(1) 内閣官房に内閣人事局を置く。
(2)  内閣人事局は、幹部職員人事の内閣一元管理に関する事務、国家公務員制度改革推進本部に関する事務を所掌する。これに伴い、国家公務員制度改革基本法の 一部を改正する。 
(3) 内閣人事局長は、内閣総理大臣が内閣官房副長官又は関係のある副大臣その他の職を占める者の中から指名す る者をもって充てる。
(4) 設置時期は平成22年4月1日。

U 国家公務員の退職管理の 一層の適正化
1 民間人材登用・再就職適正化センター
(1) 内閣府に、民間人材登用・再就職適正化センター (以下「センター」という。)を置く。
(2)センターは、次に掲げる事務を行う。
  @ 組織の改廃等に伴い離 職を余儀なくされることとなる職員の離職に際しての再就職の支援
  A 民間企業に現に雇用され、又は雇用されていた者の採用及び官 民人事交流(現役職員の人事交流)の支援
  B 再就職等規制違反行為についての調査・勧告及び再就職等規制の例外承認【再就職等監 視・適正化委員会に委任】
  C 再就職等規制等の適切な運用確保のために必要と認められる措置の勧告
  D  その他法律の規定によりその権限に属させられた事項の処理
(3)センター長は、内閣総理大臣が指名する国務大臣をもって充てる。
(4) センター長の関係行政機関の長に対する協力要求及び意見陳述、関係行政機関の長以外の者に対する協力依頼を定める。

2  再就職等監視・適正化委員会
(1)センターに、中立公正の立場で、独立して職権を行使する第三者機関として、再就職等監視・適正化 委員会(以下「委員会」という。)を置く。
(2)委員会は、次に掲げる事務を行う。
  @ 再就職等規制違反行 為についての調査・勧告及び再就職等規制の例外承認
  A 再就職等規制の遵守に関する指導・助言
  B 再就 職等規制等の適切な運用確保のために必要と認められる措置の調査審議等
  C その他法律の規定によりその権限に属させられた事項の 処理
(3)委員会は、委員長(常勤1名)と委員(非常勤)4名で組織。委員長及び委員は、役職員歴のない者から両議院の同意を得て内 閣総理大臣が任命する。
(4)委員会に、再就職等監察官(役職員歴のない者を任命)及び事務局を置く。
(5)再 就職等規制違反行為の調査・勧告に関する手続等を定める。

3 設置時期
   平成22年4 月1日

以 上