地域の教育、医療、農業はいまどうなっているのか
栗原市は県北部に位置し、2005年に10町村が合併して誕生した新しい市です。いま栗原市は、国の地方切り捨ての「構造改革」により急激な過疎化と少子化に直面し、地域の基幹産業である農業をはじめ地域経済は深刻な影響を受け、幼・小中学校の学校再編、産婦人科医や小児科医の不足などで住民のくらしが脅かされています。
こうした栗原市で、「一体いま地域に何が起きているのか」「今後の私たちの暮らしは一体どうなるのか」とともに考え、全国に発信していくためシンポジウムが企画されました。
シンポジウムでは、宮城公務共闘の菊池英行代表世話人(宮城県高教組)がコーディネータをつとめ、3人のパネラーによるパネルディスカッションが繰りひろげられました。パネラーの一人、元小学校PTA会長の菅原さんは、「学校は地域住民の全体の共有財産であり、学校がなくなれば地域はどうなるかを考える必要がある。地域文化の拠点でもあり、どんなに小さくても学校は地域になくてはならない」と、学校存続の意義を訴えました。
医療ソーシャルワーカーの金野由紀枝さんは、「郡部や地方の医師の数は絶対的に不足しており、栗原市は人口10万人の比率でみると全国平均の217人を大きく下回り128人となっている。正規の医療を受けられない医療難民も増え、医療格差は確実に拡大している」と、医療現場の厳しい実態を報告しました。
栗原農民連副会長の菅原勇喜さんは、「米価の安定と保障がなければ農業は先行き成り立たない。もっと地域の基幹産業である農業を大切にして、働いた分だけ労働所得が補償される仕組みを国の予算で作っていくべき」とのべ、農政の転換を求めました。
憲法の理念を国民全体にひろげるための運動が必要
フロア発言では、市内の小学校の先生は「小規模校こそいい教育が出来るというのが現場の共通の意見だ」と再編計画に疑問を投げかけました。また、元教員の参加者は、20数年前の大合併・統合における現場の混乱を振り返り、学校は歩いて通えて、自然に親しめる環境が望ましいと訴えました。地元で鍼灸師を営む佐藤一さんは、「教育も医療も農業も生活権を守るという25条の関連で切り離すことはできない。これらが軽視されていることは重大な憲法違反だ」とし、憲法を守らせる運動のリンクさせる重要性をのべました。
自治労連の参加者は、栗原市の総合計画では8万2千人の人口が2016年には7万4千人になる計画を立てていることを指摘し、「国の自治体への締め付けが厳しく、行政も、今後10年で1万人くらい減るという後ろ向きの計画を立てざるを得ない。こういう行政をどう変えていくか、運動にしていかなければならない」とのべました。県国公の参加者は、栗原の法務局など地方出先機関が削られている事実を示し、「地方分権や民間開放の議論がすすむもと、その地方にはどのような機関が必要なのかとの議論もなく、地方から国の機関が切り捨てられようとしている。憲法の理念を国民全体に広げ、どういう姿がのぞましいのかしっかり議論し、労働組合運動にも生かしたい」と決意をのべました。
地方も都市も平等、だから堂々と意見を発表しよう
震災で大変ななかで参加した地元の住民からは、「栗原では、この1年間で商店が37軒減った。市長の公約では、『楽しく元気な栗原』『住民総参加の民主的な政治をめざす』としているが、そうなっていない。こういう機会をつうじて栗原市民が一致団結して議会や行政を変えていかなければならない」と意見がのべられ、また、他の住民は、「このたびの地震で、みなさん方からの支援に感謝したい。過疎で人口が減っているから出先機関も学校もいらなくなるという考え方はおかしい。地方も都市も平等であるべきで、過疎になったら、政治や国民の力で直していけばいい。過疎だからといって小さくなることなく、堂々と意見を発表していくことが大事だ」と発言しました。
コーディネータの菊池氏は、「長野県の栄村では小さな村の利点を生かしたふるさと作りをすすめている。どんなに村が小さくても、子ども達は、自分の生まれたふるさとに誇りを持ち、笑顔と喜びが満ちあふれている」とのべ、そんな地域づくりへみんなが一緒になって声をあげていくことの大切さを訴え、2時間半にわたる熱心な討論をまとめました。
6月の大地震では、栗原市は農業をはじめ林業や観光資源に大きな被害を受けました。雇用の面でもその痛手ははかり知れません。こうした困難を乗り越えて、70人以上の多くの参加者が栗原市に集い、意見の交流を通じて自治体の将来をみんなで考えることができたことは、震災の復旧・復興をめざす住民への大きな励ましにもなりました。そのことを参加者全員で確認し、シンポジウムを終えました。
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