No.594
2006年11月2日
「ベアゼロ」の給与法案が衆議院を通過
= わずか3時間たらずの質疑で採決、本会議に緊急上程 =
 扶養手当の改善、広域異動手当の新設、特別調整額の定額化などを内容とし、10月27日に提出された給与法改正法案は、2日の衆議院総務委員会で審議されました。
 比較対象企業規模の「50人以上」への切り下げによって、月例給・特別給ともに改善が見送られたことをふまえ、委員会では、比較方法の見直しについて野党の質問が集中しましたが、わずか3時間にも満たない審議で法案は採択されました。
 また、法案は、同日午後の本会議で可決され、ただちに参議院に送付されました。
 公務労組連絡会では、総務委員会の傍聴行動にとりくみ、6名(国公労連4、全教1、事務局1)が参加し、法案審議を監視しました。

民間企業の格差と低賃金の是正こそ政府の責任だ

 午前中に開かれた衆議院総務委員会では、あかま二郎・橋本岳(自民)、西村智奈美・森本哲生(民主)、吉井英勝(共産)、重野安正(社民)の各議員が質問に立ちました。
 焦点となった比較方法の見直しについて、民主党の西村議員は、「1964年の『100人以上』への引き上げの際には、池田首相・太田総評議長のトップ会談による政労間の合意があった。今回は、そうした合意もなく、なぜ比較方法を見直したのか」と人事院に質しました。
 谷人事院総裁は、「64年の政労協議は、現業公務員にかかわるものだ。非現業職員の見直しは、人事院として判断したものだった。今回は、見直しにあたって、研究会や給与懇話会の検討があり、職員団体など関係者の意見も聞いてきた。そのうえで、中立機関である人事院として判断した」とのべ、「政労協議」など合意の場の必要性を否定しました。
 西村議員は、「これまでの比較方法が40年以上にわたって続いてきたのは、労組との合意があったからだ」として、繰り返し「政労協議」を求めましたが、菅総務大臣も「その必要はない」と拒否しました。
 また、民主党の森本議員は、「7月に閣議決定した『骨太の方針』では、すでに、比較規模の見直しが示されていた。人事院が、政府の総人件費削減方針に追従した結果ではないのか」とただすと、谷総裁は、「国の財政事情がどうあろうと、給与勧告とはまったく関係がない」とのべ、政府方針に従ったものではないとの立場を強調しました。
 共産党の吉井議員は、「『100人以上』ならば、1.12%の賃上げがあった。それを物差しを変えて、結果的には改善を見送った。官民比較方法の見直しは、賃下げがねらいだったことは明らかだ」と追及すると、谷総裁は、「『100人以上』は、社会的なコンセンサスが得られていないと考え、研究会などで議論するとともに、実際の調査結果から「50人以上」でも同種同等の職種による比較が可能と判断した」と、吉井議員の指摘を否定しました。
 吉井議員は、「大企業と中小企業で『民民格差』がひろがっている。これを公務員に持ち込むのではなく、下請けいじめなどによる中小・零細企業の低賃金の是正こそ政府がとりくむべきだ。国の責任で、格差社会のゆがみをただせ」と求め、さらに、「偽装請負やサービス残業などで摘発され、違法行為で賃金を抑制している企業は、人事院の民間賃金実態調査の対象からはずすべきだ」と主張しました。しかし、菅総務大臣は、「格差社会は健全な社会ではない」としつつも、「能力によって評価され、『再チャレンジ可能な社会』へ全力でとりくむ」と、安倍内閣のスローガンを主張し、具体的な答弁はありませんでした。
 吉井議員は、最後に「労働組合との合意もなく、一方的に比較方法を見直し、政府の総人件費削減方針に手を貸した人事院の責任は重大だ。『100人以上』の企業との比較によって勧告を出し直し、政府は、それにしたがって給与を改善すべきだ」と強く求めました。

労働基本権問題は幅広い視点から検討する

 公務員の人材確保にかかわって、公務員試験の応募者が昨年の3万2千人から約5千人も減っているもとで、西村議員は、「優秀な人材が集まらないことは問題だ。欧米に比べても公務員が少ないなか、志を持って活躍してもらうための制度改善が必要だ」とのべ、また、森本議員は、地方財政の悪化によって、各自治体が独自で給与カットしている実態を明らかにしたうえ、「地域を支える人材がますますいなくなっていく。地方自治体がこのまま存続できるのか心配だ。公務に携わるにふさわしい給与が必要だ」と主張し、人材確保の面から、公務員給与のあり方について政府の姿勢をただしました。菅総務大臣は、「そうした心配がないように、政府としてとりくんでいく」との答弁にとどまりました。
 また、労働基本権問題では、森本議員が、3度のILO勧告をふまえて、「代償措置としての人事院勧告について、ILOからも疑問が出ている」と指摘すると、総務省の戸谷人事・恩給局長は、「ILOには追加情報を提供し、日本の立場を理解してもらっている。今後とも、人事院勧告が代償措置として機能するように政府として最大限努力する」と答弁し、労働基本権の回復を求めた西村議員に対しては、菅総務大臣が、「公務員として一定の制約は免れない」などとのべ、「幅広い視点での検討が必要であり、『専門調査会』の議論を見守っていく」と答弁しました。
 さらに、社民党の重野議員も、労働基本権付与にむけた政府での議論促進を求めつつ、「自民党の中では、公務員に労働基本権を与えて、身分保障をなくし、首切りも自由にできるようにすべきという主張が出ている。しかし、身分保障と雇用保障とを取り違えた誤った議論だ」と、最近、中川政調会長などから出ている主張を戒めました。
 勧告と同時に出された育児のための短時間勤務制度などの「意見の申出」について、早期の法律制定をめざすよう求めた議員の質問に対して、戸谷人事・恩給局長は、「総務省として最終的な整理をおこなっている段階であり、次期通常国会に法案を提出する」と答弁しました。

全会一致で給与法改正法案・附帯決議を可決

 これらの質疑が一巡したのち、ただちに採決に入り、一般職・特別職ともに、給与法改正法案は、全会一致で採択されました。また、別記の附帯決議を全会一致で採択しました。
 法案は、午後から開会された衆議院本会議に上程され、全会一致で採択されました。

○一般職の職員の給与に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議
 政府及び人事院は、次の事項について、十分配慮すべきである。
1、人事院は、俸給の特別調整額の定額化について、民間の役職手当の動向などを十分踏まえ、管理職員の職務・職責が的確に反映されたものとなるよう努めること。
2、政府は、育児のための短時間勤務制度及び自己啓発等の休暇制度について、人事院の意見を踏まえ、検討を行い、関係法案の早期提出に努めること。
3、公務員制度改革を検討するにあたっては、労働基本権の在り方も含め、職員団体の意見を十分に聴取し、理解を得るよう最大限努力すること。(以上)
以 上