No.549
2005年10月28日
「賃下げ・給与構造見直し」の給与法が成立
= 衆参合わせて約5時間の短時間審議で問題点が明らかにならず =
 10月28日午前10時から開かれた参議院本会議において、国家公務員一般職の給与法案、退職手当法案が、共産・社民をのぞく各党の賛成多数で可決・成立しました。
 05人勧にもとづく給与法案は、月例給引き下げの4月遡及実施、50年ぶりと言われる「給与構造の見直し」など、数多くの問題点を持っていたにもかかわらず、衆参合わせても約5時間という短時間の審議を経て、成立が強行されました。
 公務労組連絡会は、20日の衆議院に続いて、27日の参議院総務委員会の傍聴行動に取り組み、法案の審議を監視しました。傍聴行動には、衆院・参院あわせてのべ21人(国公労連11、自治労連3、全教3、特殊法人労連1、事務局3)が参加しました。
 公務労組連絡会は、給与法等の成立にあたって事務局長談話を発表しました。
 以下、参議院での審議の主な部分のみ報告します。

政府は小さいほどいいのか?〜「改革」議論に異議を唱える麻生大臣

 27日10時から開会した参議院総務委員会では、二之湯智(自民)、那谷屋正義、蓮舫、高嶋良充(以上、民主)、吉川春子(共産)、又市征治(社民)の各議員が質問に立ちました。
 民主党の那谷屋議員は、勤務実績反映の給与制度、新たな評価制度について、「民間では、評価結果の開示や苦情処理制度がとられている。労働組合と十分に協議し、合意のうえで検討をすすめるべきだ」と政府・人事院を追及しました。これに対して、「勧告をふまえて、公務の職場に則したものにするため、各府省や職員団体と十分な意見交換をはかっていきたい」(戸谷総務省人事・恩給局長)、「職員団体の理解と納得は不可欠だ。人事院の立場から、評価制度の内容などをしっかりとみきわめたい」(佐藤人事院総裁)と答弁し、また、麻生総務大臣も、「新しい試みであり、紆余曲折はあるだろう。これまでも組合とも直接会って話し合ってきたが、今後とも、職員団体と協議をしていくことは当然だ」とのべ、本省課長などを対象として、来年から評価制度の試行が予定されているもとで、労働組合との交渉・協議にもとづいてすすめる姿勢を繰り返して表明しました。
 また、那谷屋議員は、公務員削減について、「経済財政諮問会議や財政審で、公務員の数だけをとりあげる粗雑な議論がすすんでいるが、住民ニーズへの的確な対応が公務には必要であり、数値目標だけで議論すべきではない」とし、大臣の見解を求めると、麻生大臣は、「小さいほどいいという議論は疑問だ。行政コストを下げることが『小さな政府』の目標であり、ニーズに応じて必要なところは増やす必要がある」とのべ、数だけが先行している定数削減に異議を唱えました。

賃下げまねく「比較対象企業規模の見直し」に固執する民主党

 人事院の官民給与比較方法について質問した蓮舫議員は、「この40年間、比較企業規模はまったく変わっていない。最近では、IT産業など少人数の規模でも業績をあげている企業があるが、そうした企業は対象外だ。現在の状況に見合っておらず、官民比較の役割を果たしていない」とし、比較対象規模の拡大を求めました。これに対して、佐藤人事院総裁は、「大枠は変えていないが、民間の変化を調査し、必要な見直しはしてきた。しかし、ラスパイレス比較方式や企業規模をふくめて、全体的な制度の検証が必要だ。人事院に研究会を設置し、検証をすすめる」とのべ、見直しをすすめる方向性を表明しました。
 労働基本権問題で質問した高嶋議員は、「給与構造見直しは、職員の労働条件に大きな影響を与える。労働基本権が剥奪され、正常な労使関係制度がないままに見直すのは、公務員の権利にかかわる問題だ。経済財政諮問会議では、財政事情を考慮した賃金決定や、ナマ首をとばすような議論もあるなかで、労働基本権回復は喫緊の課題だ」として、政府の見解を求めました。麻生大臣は、「公務員の特殊性があり、その一方で憲法では労働基本権を保障している。そのなかで、代償措置としての人事院勧告制度が国民の理解をえて定着してきている。昔のようなとげとげしい労使関係にはないが、労働基本権を返すべきという世論は醸成されておらず、もう少し議論が必要だ」と消極的な姿勢を示しました。

「構造見直しは政府の要請に応えたものだ」と人事院を追及

 共産党の吉川議員は、「6月に閣議決定した『骨太の方針』では、給与の見直しを人事院に要請するとしている。第三者機関としての人事院の独立性を侵すことになる」と追及しましたが、麻生大臣は、「経済財政諮問会議では、人事院勧告とは何なのかというそもそもの議論もしている。その結果として、最終的に『要請』となった。決して人事院に命令するものではない」と答弁しました。
 また、地域給与の引き下げについて、吉川議員は、「何の規定もなく、北海道・東北の地場賃金にあわせて4.8%引き下げた。法律できちんと明記すべきだ」と主張しましたが、人事院は、「情勢適応の原則を定めた国公法28条の概念のなかに含まれる」(山野給与局長)と強弁しました。
 総人件費削減問題では、世界の公務員数をグラフにした大きなパネルを示しながら、「先進国と比較しても、日本は一番少ない。公務員全体の数は減り続けていても、そのなかで自衛官はまったく減っていない。住民サービスの拡充など、本来、増やすべきところを減らしておいて、自衛隊が変わらないのはあまりにもおかしい」と指摘しました。麻生大臣は、「自衛隊員は、総定員法の外だ。世界情勢などをふまえ、自衛隊の維持・増強が必要という政治的な判断があった」とし、これを正当化しました。
 最後に、社民党の又市議員は、「公務員バッシングを前面にした、誤った『人件費改革』議論に危惧する。地域給与の見直しは、民間準拠の基本から逸脱し、政府の公務員総人件費削減政策の先取りだ。代償措置としての勧告制度が大きく揺さぶられている」とのべ、人事院に見解を求めました。佐藤総裁は、「決して先取りなどではい」と真っ向から否定し、「政府からの圧力で見直したわけでなく、5年前から人事院として問題意識をもってやってきたことだ。人事院の役割の重要性は認識している」と答弁しました。
 さらに、「すぐに国民の批判の声と言うが、国民は公務員の賃下げを望んでいない。勧告は、広範囲に影響し、民間企業の経営者も、公務員がマイナスならば、喜んでそれに従うだろう。地域別の官民賃金比較も、そうした経営者に利用されるだけだ。人事院は、賃下げのサイクルを加速させ、地域経済を後退させるのか」と厳しく追及したところ、佐藤総裁は、「民間賃金や地方経済に影響するのは否定しない。ありうる話だ」と認めつつも、「ただ、勧告では、その考慮はしかねる。経済対策は、政府全体で取り組むべき課題だ」と、「賃下げの悪循環」をすすめる責任はタナ上げにしました。

共産・社民が反対討論に立つも、賛成多数で議案は可決

 質疑が一巡し、討論に入り、共産党の吉川議員、又市議員が反対討論に立ちました。吉川議員は、「政府からの独立は人事院の命だが、給与構造見直しは、政府の総人件費削減に人事院が追随した結果だ。また、平均4.8%、最高で7%引き下げる見直しは、公務員の人生設計に重大な影響を与えるばかりか、地域経済に悪影響を与え、日本経済を冷え込ませる。さらに、4月遡及実施は、不利益不遡及の原則を覆すものだ。また、退職手当は、調整額によって格差を拡大することとなり、容認できない」と反対の立場を明確にし、又市議員は、「国民への公的サービスを切り捨て、軍事力に税金が投入されている。公務員給与は、平和を守り、国民生活を守ることと密接不可分だ。国民批判を背景にした意図的な公務員バッシングは、政府のスケープゴート政策であり、公務員人件費を政争の具にすることは許されない。賃下げ競争に与する給与構造の見直しは認められない」とのべました。
 討論が集結した後、ただちに採決に入り、一般職の職員の給与法「改正」案は、共産・社民の反対、特別職の同法案は社民の反対、退職手当法「改正」案は、共産・社民の反対により、それぞれ賛成多数で可決しました。
 なお、衆議院と同様に「公務員制度改革に関する決議(案)」が、自民・公明・民主・社民の共同提案で提出され、共産党以外の賛成多数で決議されました。
以 上