No.538
2005年8月16日
「マイナス勧告は実施するな」と要求書提出
= 使用者・政府としての誠意ある検討を求める =
 「賃下げ勧告」と「給与構造の見直し」の人事院勧告が出された15日、公務労組連絡会は、ただちに政府に対して、「マイナス勧告」を実施しないよう申し入れました。
 一方で、政府は、勧告当日午前中に第1回の給与関係閣僚会議を開き、勧告の扱いについての議論を開始しました。
 申し入れでは、給与関係閣僚である総務大臣、厚生労働大臣、財務大臣(16日)に対して「要求書」(別掲)を提出し、誠意ある検討を求めました。

(厚労省) 民間に影響する「マイナス勧告」「査定昇給」をやめよ

 厚生労働省、総務省への申し入れには、公務労組連絡会から石元議長を先頭に、若井事務局長、黒田事務局次長、柴田・新堰の両幹事が出席しました。
 厚生労働省では、労使関係担当参事官室の山田雅彦調査官が対応しました。
 石元議長は、「本日、人事院勧告が出された。これを受けて、その取り扱いについて、政府との間で話し合いをすすめることとなる。今年の勧告は、公務労働者にとっては、きわめて厳しいものであり、この通り実施すれば公務員はもとより民間労働者への波及も懸念される。また、これまで人事院あての署名をとりくんできたが、例年にも増して多くの署名が集まっており、職場での不満は大きい。そうした点をふまえ、本日提出する要求にそって誠意ある検討を求める」とのべ、要求書を手渡しました。
 若井事務局長は、各要求項目の趣旨をのべ、「民間相場が『ベアゼロ・定昇のみ』だったのに、『マイナス勧告』は納得しがたい。公務員の賃下げは、民間にも影響する。また、賃下げの4月遡及は、法原理にも反するもので認められない。『給与構造の見直し』では、『査定昇給』は、民間労組から反対の声があがっている。民間では、労使交渉のなかで成果主義賃金をくい止めているところもあり、公務に持ちこまれることには危機感がある」と強調したうえで、「労使合意のもとで検討をすすめ、給与関係閣僚の一員である厚生労働大臣として誠意ある対応を要請する」と求めました。
 これに対して、要旨、以下の通り見解をのべました。
(勧告の取り扱いについて)本年の人事院勧告は、給与改定に関する勧告と、地域給与の見直しをふくめた給与構造の見直しの勧告がふくまれているものと承知している。
 この人事院勧告については、現下の経済・雇用情勢をふまえ、様々な角度から真剣かつ慎重な検討が加えられ、出されたものであると認識している。
 労働基本権制約の代償措置である人事院勧告制度を維持・尊重する立場に立って対処すべきであると考える。いずれにしても、みなさんの意見も十分お聞きすることが重要であると考える。
(労働基本権回復の要求について)公務員制度改革をすすめるにあたっては、関係者の理解と協力が重要であり、しっかりとした話し合いを重ねることが必要であると考える。
 厚生労働省としては、ILOに対して適切な情報提供をおこなうとともに、関係省庁とも十分に意見交換していきたいと考えている。
●その他の要求についても、要請の趣旨については、十分うけたまわった。
 石元議長は、重ねて勧告の取り扱いの慎重な対応を求め、申し入れを終えました。

(総務省)「みなさんと十分に話し合いをしていく」と見解表明

 総務省への要求書提出では、総務省側は、人事・恩給局総務課の酒田総括課長補佐、笹森課長補佐ほかが対応しました。
 はじめに、石元議長が要求書(別掲)を提出し、「勧告前にも政府・総務省と交渉してきたが、本日の勧告を経て、その取り扱いが政府との交渉の対象となる。勧告の内容は、マイナスという厳しい内容であること、その影響が公務員にとどまらず、民間労働者にも影響をあたえることをふまえて、使用者としての誠意ある検討を求める」とのべました。
 若井事務局長が、厚生労働省と同様に、要求項目の趣旨をのべたうえ、「マイナス勧告」を使用者・政府として実施しないよう求めました。
 これに対して、酒田総括課長補佐は、以下の通り見解表明しました。
●本日、政府として人事院から勧告を受け取り、午前中に給与関係閣僚会議を開き、取り扱いの検討に着手した。
●人事院勧告制度は、労働基本権制約の代償措置としての根幹をなすものであり、政府としてこれを尊重することが基本姿勢だ。国の財政状況や、公務員給与を取り巻く環境は厳しいが、この基本姿勢にもとづき、国政全般との関係を考慮しつつ、検討をすすめる。
●あわせて、退職手当の構造見直しについて検討をすすめたいと考えており、そのこともふくめてみなさんとも十分に話し合いをしていきたい。
 若井事務局長は、「人勧尊重が基本姿勢であっても、その取り扱いについては十分な検討が必要だ。話し合いは、形だけにとどまるのではなく、理のある要求は誠実に受けとめるべきだ」とのべ、今後の誠意ある検討を重ねて求めました。
 なお、この日の申し入れでは、自治労連・全教が集約した「退職手当に関する要求署名」を総務省に提出しました。

 (財務省)マイナス勧告を実施するな、総額人件費削減やめよ

 16日にとりくまれた財務省への要求申し入れ行動には、公務労組連絡会から石元議長、若井事務局長、柴田幹事、全教から日高教藤田執行委員が出席しました。
 財務省側から主計局飯塚給与共済課長ほかが対応しました。
 石元議長は、「昨日勧告が出された。本俸マイナス・不利益遡及の上に給与構造見直しが示された。民間労働者にも大きな影響を与える。政府はこのまま実施するのではなく、要求に応え誠実な対応を求める」とのべ、要求書を手交しました。
 若井事務局長は、「財政危機のもと公務員給与が政治的に扱われている。土光臨調のとき『増税なき財政再建』と言って、公務員の定数や賃金を削減すれば増税しなくても済むかのごとく喧伝して1982年から3年間、勧告の凍結、値切りを行った。そのときの国の借金は120から150兆円、いまや780兆円にも上っている。増税論議の中、政治的に利用している証左だ。昨日、給与関係閣僚会議で谷垣財務大臣は『公務員の総額人件費削減を念頭に議論を尽くさなければ結論は出せない』と述べた。これは従来の政府の基本的立場を否定する発言だ」として要求に応えるよう求めました。
 これに対して、飯塚給与共済課長は、「財政状況が厳しい中で歳出削減に努力する必要がある。人件費も聖域ではない、議論していかなければならない。さらに『骨太方針』の具体化も始まるという前提がある。勧告については尊重の立場で適切に対処していかなければならないが、国民の理解が得られるよう慎重に議論したい。特殊法人等に対して不当な干渉等は行っていない。運営交付金など予算の範囲内での措置、法令上の定めなど責任は重い」とのべました。
 それに対して、若井事務局長は「過去2回の本俸マイナス勧告・不利益遡及が、公務員給与に『標準性』がある故に、どれだけ社会に多大な否定的影響を与えたか振り返ってみる必要がある。三度繰り返すことは許されない」と指摘し、さらに石元議長は、「公務員給与削減の先に消費税の増税があることは国民が見抜き始めている」としてとして要求に応えるよう求めました。
                       

  以 上


(別掲資料)

公務員賃金等に関する要求書

 人事院は15日、国会と内閣に対して、本俸のマイナス及び不利益遡及、一時金の微増、給与構造の見直しなどを内容とする給与勧告をおこないました。
 「ベアなし・定昇のみ」の05年の春闘結果、大手を中心とする一時金アップからすれば、きわめて不当な水準で、しかも03年に引き続き「不利益の遡及」はとうてい容認できるものではありません。
さらに、俸給表水準を4.8%も引き下げた上、最大18%もの地域間格差をつける地域給与の見直しや、中高年層の給与水準を大幅に引き下げた昇給カーブのフラット化、級間格差の拡大、1号俸の4分割化など、能力・実績主義を強化する給料表の見直しと査定昇給の導入など俸給表構造全般にわたる見直しを行い、地域間、機関間、個人間など幾重にも格差を拡大する見直しを認めることはできません。
 勧告は、公務労働者の生活改善ともに、公務員賃金の社会的影響力もふまえて、最低賃金の引き上げ、賃上げによる地域経済の活性化を求めてきた公務労組連絡会の要求に照らせば、きわめて不満なものです。とりわけ、地域給の導入は「三位一体の改革」にもとづく地方切り捨てや地方経済の衰退を懸念する自治体・住民の声に背をむけたものであり、俸給表構造の見直しと査定昇給の導入は、公務員の変質化の恐れがあり認められるものではありません。
 今後、給与関係閣僚会議などを通して、政府として人事院勧告の取り扱いが議論される段階をむかえて、あらためて、人事院勧告制度が750万公務関連労働者をはじめ多くの民間労働者の賃金、とりわけ地方に勤務する民間労働者にも影響を与えることを重視し、国民生活改善・デフレ不況打開という積極的な立場での検討が、政府には求められています。
 こうした観点から、公務労組連絡会として、下記要求をとりまとめました。貴職の誠意ある対応を強く求めるものです。

1、公務関連労働者をはじめ多くの労働者・国民の生活に影響する公務員賃金のマイナス勧告を実施しないこと。
2、勧告の取り扱いをはじめ公務員労働者の賃金・労働条件は、労使対等の交渉にもとづき決定すること。
3、地方自治体、特殊法人および独立行政法人の賃金決定に不当な介入・干渉をおこなわないこと。
4.労働基本権回復などILO勧告に沿った民主的公務員制度確立に向け、積極的な対応を図ること。
以 上