「公務員制度改革」闘争ニュースNO.141【2014年4月9日】


「公務員制度改革」の問題点がいっそう明らかに

= 参議院内閣委員会で参考人質疑が開かれる =


 参議院内閣委員会は4月8日午前、「公務員制度改革」関連法案をめぐって参考人質疑がおこなわれ、この間、全労連「労働基本権プロジェクト」にも参加し てきた専修大学の晴山一穂教授が、憲法にもとづく国民のための民主的な公務員制度のあり方について意見陳述しました。また、引き続いて午後からは、関連法 案の各党質疑がおこなわれました。

 与党は10日の内閣委員会での質疑締めくくり、法案採決を主張しており、今週中にも成立がねらわれる重要局面をむかえています。こうしたもと、公務部会では8日も終日、傍聴行動にとりくみ、法案審議を監視しました。

「全体の奉仕者」を担保するため第三者機関が不可欠

 午前中に開かれた参考人質疑では、専修大学・晴山一穂教授、東京大学・牧原出教授、早稲田大学・清水敏教授の3人の参考人が、はじめに15分ずつ意見陳述しました。

 牧原教授は、人事行政は基盤行政であり、極めて慎重な態度が望まれ、法案の審議を尽くす必要があるとして「各省のセクショナリズムを防 ぐにはスーパー官僚を作るべきでなく、政治的中立性を担保するために第三者機関が必要で、人事院の活性化が求められる。現場に混乱を起こさない内閣人事局 と人事院の分担が必要だ」とのべました。

 清水教授は、ILOが示す公務員労働者の勤務条件決定のグローバルスタンダードとは、使用者が一方的に決定するのではなく、公務員労 働組合との団体交渉によって決定することであり、「この原則を尊重した上で、予算上のコントロールや議会との調整で一部修正することをILOも認めてい る。しかし、労働基本権制約の代償措置論は、グローバルスタンダードでも肯定されていない」として、「当事者自治の原則を排除している今回の法案は、グ ローバルスタンダードに照らして大変大きな問題を抱えている」と指摘しました。

 晴山教授は、公務員制度を考えるにあたっては2つの視点が重要だとして、「1つは憲法の視点で、公務員は全体の奉仕者であり一部の奉 仕者ではないということだ。2つは公務員制度の歴史を踏まえて現在の公務員の役割を考えるという視点だ。選挙で政権政党が交替するたびに国家公務員も変え るというアメリカの猟官制は、政官の癒着によって腐敗を招いたため、猟官制から成績主義に変えられた。公務員の身分保障と、第三者機関は不可欠の前提であ り、これが欠けている今回の法案には重大な問題がある。幹部職員の人事管理の一元化では、内閣官房長官が客観的で公正な適性検査ができるのか大きな疑問が ある。また、幹部職員の降任は身分保障の原則に風穴を開けるものだ。人事院が担っていた採用、任命、研修などの人事権限を内閣府に移し、それが政令事項に なっていることも問題だ」とのべました(晴山教授の意見陳述全文は別掲)。

憲法上の権利として公務員の労働基本権を保障すべき

 参考人への各党議員からの質疑では、幹部人事の問題点を質問した民主党・難波奨 二議員や共産党・山下芳生議員に対して、晴山教授は「限界がありながらも現行の人事院制度は機能しており、人事院の第三者性を強化すべきだ。今回の法案は 逆の方向であり、恣意的な任用が起こる危険性がある。幹部人事は、具体的な基準にもとづいて第三者機関がチェックする必要がある」と主張しました。

 労働基本権にかかわって、共産党の山下議員は「基本的人権が制約されたまま、公務員が国民の権利を守ることができるのか。労働基本権 回復は一刻も早くなされるべきではないか」と問いかけると、清水教授は「労使間の団体交渉を基本的には保障しながら、議会の権限との調整をどうするかを考 えるべき」と権利回復の必要性をのべ、晴山教授は「公務の特質等から様々な制約はあるが、一番基本のところで公務員も憲法上の権利として労働基本権を持っ ているということが大事だ」と憲法が保障する労働基本権回復を主張しました。

 最後に質問した山本太郎議員(無所属)が、今回の法案は賛成できるかどうかを各参考人に問いかけると、牧原・清水の両教授が「棄権」としたことに対して、晴山教授は、「棄権するわけにはいかない。反対する」と明確に回答しました。

労働基本権回復を全面的に否定する自民党議員

 午後からは法案質疑がおこなわれ、山下芳生(共産)、秋野公造(公明)、難波奨二(民主)、佐藤ゆかり・堀井巌(自民)、江口克彦(みんな)、濱田和幸(改革)、山本太郎(無所属)の各議員が質問に立ちました。

 共産党の山下議員は、社保庁職員525人が分限免職され、そのうち71人が人事院に不服を申し立て、25人が処分取り消しとなったこと を取り上げ、分限免職の回避努力が全くなされていなかったことが明白になり、あらためて分限免職された職員すべてを救済すべきで今後絶対分限免職があって はならないと迫りました。これに対し、稲田朋美公務員制度改革担当大臣は、「本件の担当は厚労大臣であって厚労委員会で答弁している。当時の枠組みの中に おいて分限免職の回避努力は厚労省でなされたと理解している」などと明確な答弁を避けつつ、大量解雇を正当化しました。

 自民党・佐藤ゆかり議員は、「たとえ自律的労使関係ができたとしても、憲法がさだめる勤務条件法定主義のもとで、労使間の協約が国会 で否決や修正される場合もある。現行制度下であえて協約権を付与する意義はあるのか」「労働基本権が付与されない職員に協約のメリットはおよぶのか。同じ 職場で労働条件が違ってくれば、職場は大混乱になる」「今でも約1,500の職員団体が存在するなかで、各団体と交渉すれば膨大なコストがかかる」など と、次々と自律的労使関係の「問題点」をあげ、結果的に労働基本権回復を全面的に否定する質問を繰り返した挙げ句、「自律的労使関係制度の措置をさだめた 公務員制度改革基本法12条の削除を検討せよ」と主張しました。

 これに対して、稲田大臣は、基本法12条は、当時の自公政権下の政府案では「自律的労使関係を検討する」となっていたが、民主党との 修正協議のなかで「措置する」に修正されたという経過を示しつつ、「多岐に渡る論点があり、12条の問題は慎重に検討する。いずれにしても、協約締結権を 付与する職員の範囲をどうするのか、費用と便益をどのように示すのかについて、引き続き検討していく」と答弁しました。

 民主党・難波奨二委員は、内閣総理大臣および労働組合が人事院に対して人事院規則の制定・改廃を要請できるとしていることについて、 その意義を質しましたが、政府は「中央人事行政機関相互の意思疎通が深まり、よりよい人事行政が実現する」と回答しました。また、労働組合からの要請につ いては「人事院が労使双方から意見を聞いたうえで人事院規則の検討を行うことのできるバランスのとれた仕組み」と答弁しました。

 また、そのほかの議員の質問では、多くが、幹部人事の一元管理など政治主導、能力・実績主義の人事管理強化や官民人材交流のさらなる 促進を求める立場からのものであり、それに対して稲田大臣は、従来からの「戦略的人材配置によって、縦割り行政の弊害をなくし、各府省一体となった行政運 営を実現する」との回答を繰り返すなど、「もの言わぬ公務員づくり」進めようとするねらいがいっそう明らかになりました。

以 上


【資料:晴山教授の意見陳述】

国家公務員法改正法案に関する意見



専修大学法科大学院教授 晴山一穂


1、公務員制度のあり方を考える2つの視点

 現在、公務員のあり方をめぐってさまざまな議論がされておりますが、私は、公務員のあり方を考える場合、次の2つの視点をふまえることが重要であると常々考えております。

(1)その1つは、わが国の最高法規である日本国憲法の視点であります。ご承知のように、日本国憲法は、15条の1項で「公務員を選定 し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と、また、2項で「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」と規定していま す。これは、いうまでもなく、明治憲法のもとで、戦前の官吏が、国民から遊離した「天皇の官吏」であったということの反省のうえに立って、日本国憲法の国 民主権の原理をふまえて、公務員はすべて、一部の奉仕者ではなく、国民全体に奉仕すべき存在であることを定めたものであります。

 戦前の官吏は、専ら天皇とその政府に奉仕すべきものとされていたため、官吏制度のあり方を決定するのは天皇の大権事項である、という いわゆる「官制大権」が、そしてまた、官吏を任命するのも天皇の権限であるといういわゆる「任官大権」が、明治憲法10条で定められていました。これに対 して、日本国憲法は、15条1項で「任官大権」を否定して、公務員を選定・罷免することは国民固有の権利であることを定め、また、2項で、すべて公務員は 「全体の奉仕者」であると定めたことをうけて、憲法73条4号で、「官制大権」を否定して、公務員制度の基本的内容は、国民主権に基づいて国会が法律で定 めることとしたわけであります。

 以上のように、現行憲法下の公務員は、一党一派のためではなく、国民全体のために奉仕すべき存在であること、そして、公務員の地位 は、究極的には国民の意思によってのみ成立するものであること、この2つのことが日本国憲法の定める公務員像にほかならないということであり、このこと は、明治憲法の天皇主権から現行憲法の国民主権への転換の当然の帰結ということができるわけであります。

(2)公務員制度を考えるに当ってのもう1つの視点は、公務員制度の歴史をふまえたうえで現在の公務員の役割を考える、という視点であります。

 この点で参考になるのが、アメリカの公務員制度の歴史であります。すなわち、かつてのアメリカでは、猟官制という制度がとられていまし た。これは、一言でいえば、大統領選挙で政権が代わるごとに大量の連邦公務員を更迭するというものであります。アメリカでは早くから2大政党制が発達する わけですが、そのもとで、ある政党の大統領が当選するとその政党の支持者を公務員に任命する、そして、次の選挙で別の政党の大統領が当選したら、それまで の公務員を更迭し新たに勝利した政党の支持者に入れ替える、というのが猟官制の基本的仕組みであります。これは、ある意味では民主主義の究極の形態という ことにもなるわけですが、官職を得るために政治家と金銭でつながるなど行き過ぎた猟官運動が広がる中で、次第に当初の民主的理念を失い、腐敗の度を強めて いくことになります。

 他方で、公務員の担う職務の内容が、当初の比較的単純な職務から、複雑高度で専門的な職務へと時代とともに大きく変化し、選挙のたびに大量に入れ替わるような公務員によってそれを担うことは、もはや不可能になってきます。

 こうした時代背景のもとで、アメリカでは、長い歴史を経て、猟官制から成績主義への移行が進められることになります。成績主義というの は、党派的立場によってではなく、公務の担い手としての客観的な能力や資格を備えているかどうかを基準に公務員の任用を行う、というものであります。ここ では、公務員は、時の政権の支持者として政権のために尽くすのではなく、政権交代の如何にかかわらず、自らの専門的能力を踏まえて、永続的な立場に立って 国民全体のために尽くすことにその基本的役割がある、ということになります。

(3)こうしてアメリカでは、長い時間をかけて猟官主義から成績主義へと転換することになるわけですが、現在の日本の公務員制度は、ま さにこうして確立したアメリカの公務員制度に範をとって、日本国憲法の制定に伴って戦後作りあげられたものにほかなりません。その特色を一言で表現すれ ば、“民主的でかつ科学的”な公務員制度ということに集約できると私は考えております。

2、公務員の役割とそれを支えるための制度

 以上のように、憲法の視点と公務員制度の歴史という視点を踏まえるならば、現在の公務員という存在は、一党一派に奉仕するのではなく、自らの専門的能力や資格を踏まえて、国民全体に奉仕すべきものであるということになります。

 それでは、このような公務員の役割を踏まえたうえで、政治部門である内閣と公務員の関係、いわゆる政と官の関係をどのように考えたらよ いのか、ということがつぎに問題となります。この点については、議院内閣制のもとでは、当然のことながら、公務員は最終的には内閣の意思に従わなければな らないことは当然です。しかし、重要なことは、そのことを踏まえたうえで、日常の職務遂行において公務員が「全体の奉仕者」としての役割を最大限発揮でき るようにすること、具体的にいえば、内閣や上司の言うことに盲目的に従うのではなく、常に行政の専門家としての立場から自らの意見を述べ、それを政策の決 定や執行過程に反映させること、そして、内閣は、それをできる限り尊重したうえで、最終的には内閣の責任で政策を決定し執行する、こういう関係が、日本国 憲法のもとでの政官関係の望ましいあり方ではないか、と私は考えております。

 そうしますと、このような公務員の役割を十分に発揮できるようにするためには、少なくとも、次の2つのことが必要になると考えられま す。その1つは、公務員が、とくに政治によってみだりにその身分を脅かされないための身分保障であり、もうひとつは、人事行政の公正中立を確保するための 政府から独立した第三者機関の存在であります。この2つは、現代の公務員制度の最も重要な柱であり、憲法の定める「全体の奉仕者」を実現するための不可欠 の前提であると考えます。

3、法案の問題点

 以上の点から今回の法案を見てみますと、いま述べた2つのいずれの点から見ても、今回の法案には大きな問題が含まれている、というのが私の率直な意見であります。

(1)まず第1に、幹部職員の人事管理の一元化でありますが、法案では、内閣総理大臣の委任を受けた内閣官房長官が幹部職についての適格 性審査を行ったうえで幹部候補者名簿を作成し、任命権者である各大臣が、内閣総理大臣・内閣官房長官と協議して幹部職員の任命を行うこととされています。 ここで問題となるのは、果して内閣官房長官が各省にまたがる幹部職員やあるいは各大臣が推薦した者について、正確で客観的な適格性審査ができるのかという 点であります。審査は、各大臣の人事評価を基本にして、幹部職に係る「標準職務遂行能力」の有無を確認するものとされていますが、現行の「標準職務遂行能 力」自体、かなり抽象的な内容にとどまっていますので、内閣官房長官がどういう具体的基準に基づいてどれだけ公正な審査ができるのかが、大きな問題となる と思われます。

 また、審査に当っては、政府全体の人事方針と整合性がとれているかを確認することとされていますが、政府全体の人事方針は誰がどういう手続で定めるのか、また、その時々の内閣の都合で恣意的な審査に陥る危険性はないのか、十分な検討が求められると思います。

(2)2つ目の問題は、幹部職員の降任についてその要件を弾力化し、任命権者の裁量で降任できるような規定が盛り込まれている点でありま す。この点は、幹部職員も含めてすべての公務員に対して与えられてきた身分保障の原則を幹部職員について除外することを意味し、現行国公法の基本原則であ る身分保障に風穴をあけることになりかねないと危惧するものであります。

(3)そして、第3は、内閣から独立した人事行政機関である人事院に関わる問題であります。今回の法案の大きな特徴は、これまで人事院 がもっていたさまざまな権限を人事院から内閣に移すという点にあります。この点については、公務員の労働条件とも関わって級別定数の設定・改定に関する権 限が大きな注目を集めているわけですが、それだけではなく、むしろそれ以上に、採用、任免、研修といった人事行政の重要な柱をなす分野において、人事院の 権限を内閣に移し、それに伴って、これまで人事院規則で定められてきた事項を政令で定めることとされています。

 先ほど述べましたように、内閣から独立した第三者的な人事行政機関の存在は、人事行政の公正中立性、ひいては国民に対する行政そのも のの公正中立性を確保するための不可欠な要素をなすものであり、それは、単に独立した機関が存在するというだけでは不十分であり、それに対して十分な権限 と役割が与えられていることを必要とするものです。この点で、今回の法案における人事院の権限・役割の縮小には、人事行政の公正中立性、そして、国民に対 する行政そのものの公正中立性が形骸化しないか大きな危惧を感じるものであります。

 このほか、法案には懸案事項である労働基本権について全く触れられていないことを始め、いくつかの問題が含まれていると思いますが、 今回の法案について私が最も危惧する点は、以上述べました3点であることを再度指摘して、私の意見とさせていただきます。審議の参考にしていただければ幸 いです。

以 上