「公務員制度改革」闘争ニュースNO.139【2014年3月13日】


「公務員制度改革」関連法案が衆院内閣委員会で可決

= 労働基本権回復の方向も示されない法案に反対して国会議員に要請 =


 昨年の臨時国会において、自民・公明・民主の三党による修正協議を経て継続審議となっていた「公務員制度改革」関連法案は、2月21日の衆議院内閣委員会で修正案が趣旨説明され、その後、3月12日の同委員会で法案が審議されました。

 三党の密室協議による修正内容は、65歳までの段階的な定年年齢の延長を政府法案の附則に付け加え、「自律的労使関係制度」措置へ合意形成に努めること などを「附帯決議」として確認するだけのもので、労働基本権を引き続き制約しながら、政府の使用者権限を強化する政府法案の根本的な問題点を何ら解決する ものとなっていません。

 こうしたことからも、継続審議となった法案の徹底審議が求められていましたが、法案は12日の衆議院内閣委員会でわずか2時間あまりの審議の後に採決され、賛成多数で可決が強行されました。法案は14日の衆院本会議で採決され、参議院に送付される見通しです。

 全労連公務員制度改革闘争本部では、法案に反対して12日に衆参の内閣委員を対象にした国会議員要請に取り組み、法案の徹底審議を求め るとともに、内閣委員会には9人(国公労連8人、全教1人)が傍聴参加し、審議を監視しました。(以下、国公労連速報NO.3027を編集して審議の概要 を報告します)

幹部人事への政治介入のねらいがいっそう明らかに

 12日の内閣委員会では、後藤祐一(民主)、杉田水脈・中丸啓(維新)、大熊利昭(みんな)、赤嶺政賢(共産)、村上史好(生活)の6名が質問に立ちました。

 民主党の後藤議員は、新設される内閣人事局の事務に行政機関の機構および定員に関する事務など多くの事項が具体的に盛り込まれていることから、「これ以上個別の事務を追加するな」と主張しつつ、内閣人事局に新設されるポストの数を明らかにするよう求めました。

 稲田朋美公務員制度改革担当大臣は、内閣人局の定員である161名については、人事・恩給局から109名、行政管理局から20名、人事院から10名、内 閣官房・内閣府から22名を振り替えることによって、全体としての増員は行わないこととし、「政策統括官2名、内閣審議官1名、内閣参事官14を配置する が、スクラップアンドビルドを徹底する」と答弁しました。

 また、後藤議員は、「国家公務員の総人件費削減を進めるのであれば、現在、財務省がおこなっている給与実態調査を内閣人事局がおこな い、級別定数の査定などの資料とすべき」「幹部職の任用にあたっての外部人材(他省庁、民間など)の登用について数値も含めて方針として決めるべき」「任 用について内閣の一体性が確保できるよう、政治主導のチェックができるようにすべき」などと迫りました。これらの質問に対して稲田大臣は「省庁横断的な国 益のための戦略的な人事を行う観点から、人事交流を推進する基本法の趣旨をふまえた仕組みを作る」「幹部人事を一元管理する仕組みが政治主導をチェックす ることになる」と答えました。

 生活の党の村上議員は、労働基本権にかかわって質問し、「修正案」提出者の立場から民主党の後藤議員は、「政府案が成立しても将来的 には労働協約締結権を回復することは否定されていない。民主党としてはやがて自律的労使関係について措置していきたい」と答弁するだけで、労働基本権回復 にむけた具体的な検討方向は示されませんでした。

 みんなの党の大熊議員は、「降任特例について、稲田大臣はこの間『能力が劣っていなくても降任する制度』と答弁しているが、そうした 人事院規則を作るのか」と人事院総裁に質問し、原恒雄人事院総裁は、「同じ職制上の段階に属する他の幹部職員にくらべて勤務実績が劣っている場合が要件と されていると承知する。国会審議もふまえ、適正に人事がおこなわれるよう人事院規則をさだめる」と答弁しました。

 また、適格性審査との兼ね合いについて「人事評価の標準職務遂行能力として次官などの幹部職について『内閣全体の視点』等の観点が 入っていないのではないか。今回の法案とセットでそうした文言が入るよう改定するべき」との質問に対し、稲田大臣は「標準職務遂行能力については、指摘の 観点も現在の項目にも盛り込まれている」と答えましたが、大熊議員は「政令であっても趣旨をきちんと入れて欲しい」と主張しました。

8度にわたるILO勧告にもとづいて労働基本権を回復せよ

 共産党の赤嶺議員は、はじめにILOが8次にわたる勧告を行っていることに対して、「02年以降、公務員制度改革について十分話し合うこと、改革の進展について情報提供を続けることと認識している」という基本認識で変わりないかと質し、稲田大臣もそれを認めました。

 そのうえで赤嶺議員は、02年11月の最初のILO勧告では、「現行の労働基本権制約を維持するとの考えを再考すべき」とされているこ とを指摘し、「ILOは労働基本権を回復すべきと求めているのではないか」と追及しました。稲田大臣は「人事院勧告制度など日本の法制度が十分に理解され るように、ILOに必要な情報提供をおこなった」と反論しました。

 この答弁に対して赤嶺議員は、日本政府の情報提供後に出された03年6月の2度目のILO勧告でも、労働基本権制約維持の再考を求め ていることには変わっていないことを指摘し、「日本政府がILO勧告を正面から受け止めているとは思えない」と厳しく批判しました。この主張を避けるよう に稲田大臣は、「ILOが求めているのは、よく協議しそれについて報告せよということだと思う」と強弁し、そのうえで「今回の法案には自律的労使関係制度 の措置を盛り込んでいないが、職員団体とはさまざまなレベルで意見交換して理解を求めてきた」と主張しました。

 赤嶺議員は、一度は政府によって労働基本権問題が検討されたことで、ILOも06年の勧告で「労働基本権付与に向けて進展があった」 と認めたが、12年に自公政権に変わって労働基本権回復がまったくの白紙にもどったため、「13年3月のILO勧告では、労働基本権の回復にむけて、すべ ての関連団体と率直で有益な議論を継続し、必要な措置を講ずることを促すとしているのではないか」と指摘しつつ、「8次にわたるILO勧告では労働基本権 の回復を繰り返し日本政府に要請してきた。政府は、その核心をひた隠しに隠していると言わざるを得ない。関係者と十分話し合うこと、進展について情報提供 することだけだと言うのは、ILO勧告の精神をゆがめるものだ。労働基本権の回復こそ公務員制度改革の柱にすべき」と強く求めました。

みんな・維新は、さらに政治主導をすすめる立場から法案に反対

 審議終了後の討論では、政府法案・三党修正案に対して、民主党の近藤議員が賛成、維新の会の松田議員、みんなの党の大熊議員、共産党の赤嶺議員がそれぞれ反対する立場から意見をのべました。

 松田議員と大熊議員は、「真の政治主導を確立し、新しい国づくりを担い得る公務員制度を構築すべき」「内閣人事局への総務省、人事院、財務省からの機能移管が不十分」などとして、政治による公務員支配を強めるうえで法案は不十分とする立場から反対しました。

 一方、赤嶺議員は、法案は、@国民的な批判を招いている内閣法制局長官やNHK経営委員の任命のように、官邸による幹部職員人事への恣 意的な介入を可能とすること、A人事院の事務を内閣人事局に移管することは、人事院の代償機能を後退させること、B自衛隊員の天下りも原則解禁することな どを理由に反対し、「公務員制度改革はILO勧告にしたがい、何よりも労働基本権の回復を第一とするべき」と強く主張しました。

 その後、法案は採決され、三党修正案は、自民・公明・民主の賛成多数で可決されました。なお、同時に提出されていたみんなの党・維新の会の共同提出法案は否決されました。

 法案採択をうけて、三党の密室合意にもとづく附帯決議(別掲)が提案され、自民・公明・民主・維新・生活の各党の賛成多数で採択されました。

労働基本権回復をめざして参議院段階でも徹底審議を求める

 「公務員制度改革」関連法案の採決・衆議院通過がねらわれるなか、全労連公務員制度改革闘争本部は、12日に衆参の内閣委員会60人を対象に緊急の議員要請行動をとりくみました。

 要請行動では、先の臨時国会でも明らかになった政府法案の問題点を指摘し、三党の「修正案」は国会審議と離れた密室協議のもとで合意さ れたものであることなどから、性急な採決はおこなわず、徹底審議を求めました。要請行動には、緊急の呼びかけに応えて各単産・単組本部から約20人が参加 しました(要請書は別掲)。

 修正された政府法案は、14日の衆議院本会議で採決される見通しですが、全労連公務員制度改革闘争本部では、引き続き「公務員制度改革」関連法案に反対し、参考人質疑をふくめて参議院段階での徹底審議を求めていきます。

以 上


【参考資料】

○自民・公明・民主三党による修正部分(附則に以下の第42条を付加する)

第42条 政府は、平成28年度までに、公務の運営の状況、国家公務員の再任用制度の活用の状況、民間企業における高年齢者の安定した雇 用を確保するための措置の実施の状況その他の事情を勘案し、人事院が国会及び内閣に平成23年9月30日に申し出た意見を踏まえつつ、国家公務員の定年の 段階的な引上げ、国家公務員の再任用制度の活用の拡大その他の雇用と年金の接続のための措置を講ずることについて検討するものとする。

○国家公務員法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議

 政府は、本法の施行に当たり、次の諸点について適切に対応すべきである。

一 職員の公募について、実施状況を検証し、その結果を踏まえて、内閣総理大臣が幹部職員の公募を実施すること等必要な推進方策を検討すること。

二 自律的労使関係制度について、国家公務員制度改革基本法第12条の規定に基づき、職員団体と所要の意見交換を行いつつ、合意形成に努めること。

三 内閣総理大臣補佐官及び大臣補佐官について、その運用状況を踏まえ、増員の要否及び内閣総理大臣や大臣を支えるスタッフの拡充について検討すること。

四 国家公務員法に定める再就職規制について、再就職等監視委員会の監視を含む運用状況を見つつ、あっせん規制に対する刑事罰の対象の拡大の可否について検討すること。

五 幹部候補育成課程について、その運用において、内閣総理大臣が主体的かつ中心的な役割を積極的に果たすことができるよう、基準において必要な事項を定めること。


【闘争本部が衆参の内閣委員に提出した要請書】

「公務員制度改革」関連法案にかかわる要請書



 貴職の国会内外でのご奮闘に心より敬意を表します。  内閣人事局の設置、幹部人事の一元管理などを柱とする「公務員制度改革」関連法案は、昨年の臨時国会において審議未了、継続審議となりました。一方、水面下では、自民・公明・民主の三党で修正協議がおこなわれ、その結果、今通常国会に「修正案」が提出されています。

 しかし、修正内容は、職員の公募について「内閣総理大臣が幹部職員の公募を実施すること等必要な推進方策を検討すること」や、幹部候補 育成課程について「内閣総理大臣が主体的かつ中心的な役割を積極的に果たすことができるよう」にすることなどを附帯決議として盛り込むもので、先の国会で 議論となった級別定数管理の問題などはいっさい不問にしつつ、時の政権党に忠実な公務員づくりをすすめ、行政の中立・公平性が脅かされるという法案の根本 的な問題点はまったく解消されていません。

 とりわけ、自律的労使関係制度について「職員団体との意見交換を行いつつ、合意形成に努める」としただけで、憲法やILO勧告を無視するばかりか、自律的労使関係制度の措置を求めた公務員制度改革基本法からも後退しており、認められるものではありません。

 そもそも、「修正案」自体が、国会審議を離れて自公民三党の密室協議で取りまとめられたものであり、議会制民主主義という面からもきわめて重大な問題を持っています。

 以上の観点から、今通常国会における「公務員制度改革」関連法案の審議にあたって、下記事項の実現に尽力いただくよう緊急に要請します。



1.憲法とILO条約・勧告にもとづいて、公務員の労働基本権を回復すること。

2.級別定数管理をはじめとした労働条件にかかわる権限を内閣人事局に移管するなど、使用者権限を強化する「公務員制度改革」を行わないこと。

3.公務員の中立・公平性を確保するための制度的保障として、第三者機関が担ってきた任用の基準設定及び採用試験・研修の企画立案などの機能を内閣人事局に移管しないこと。

4.幹部職員人事の内閣一元管理にあたっては、恣意的な任用を防止するために、第三者機関で基準設定や審査を行うなど、中立・公正性を担保させること。

5.公務員の身分保障を脅かし、中立・公正な行政を阻害しないため、幹部職員の任免や降任について人事の弾力的な運用を行わないこと。

以 上