「公務員制度改革」闘争ニュースNO.136【2013年11月29日】


労働基本権回復こそ公務員制度改革の中心課題

= 国公労連・宮垣委員長が衆議院内閣委員会で意見陳述(28日) =


 先週から衆議院内閣委員会で審議がはじまった「公務員制度改革」関連法案は、27日は終日にわたって野党による法案質疑がおこなわれ、近藤洋介(民主)、大熊利昭(みんな)、山之内毅(維新)、中丸啓(維新)、田沼隆志(維新)、階猛(民主)、奥野総一郎(民主)、塩川鉄也(共産)、畑浩治(生活)、松田学(維新)の各議員が質問に立ちました。

 委員会では、政府側から稲田朋美公務員制度改革担当大臣、菅義偉官房長官、新藤義孝総務大臣が答弁に立ち、法案内容にとどまらず、公務員制度のあり方から公務員総人件費まで幅広い議論がありました。労働基本権回復にかかわっては、稲田大臣が「有識者や労使双方から幅広い意見をいただいた。これらをふまえて引き続き検討することが必要」と答弁するにとどまりました。

 また、28日には同委員会で参考人質疑が開かれ、国公労連の宮垣忠委員長をはじめ、朝比奈一郎青山社中株式会社筆頭代表CEO・中央大学客員教授、島田陽一早稲田大学法学学術院教授、下井康史千葉大学大学院専門法務研究科教授が公務員制度全般にかかわって意見をのべました。4人の意見陳述の後、中山展宏(自民)、津村啓介(民主)、輿水恵一(公明)、大熊利昭(みんな)、塩川鉄也(共産)、村上史好(生活)の各議員との質疑応答がありました。

 以下、宮垣国公労連委員長の意見陳述の内容を掲載します。

労働基本権制約の「代償機能」を奪う法案は認められない

 政府から提出された「国家公務員法等の一部を改正する法律案」には、私たち国家公務員労働者からみて、重大な問題があります。

 それは、08年6月13日に成立した国家公務員制度改革基本法第12条で、「国民に開かれた自律的労使関係制度を措置するものとする」と規定されているにもかかわらず、今回の法律案にはこの自律的労使関係制度の措置について何らふれられていません。

 政府は、09年3月31日に今回の法律案と同じように、幹部職員等の一元的管理、内閣人事局の設置等の「国家公務員法等の一部を改正する法律案」を閣議決定して国会に提出しましたが、7月21日の衆議院の解散により廃案となりました。

 この法律案を国会に提出する際に、総理を本部長とし全閣僚で構成される国家公務制度改革推進本部が、09年2月3日に、「公務員制度改革にかかる工程表」を策定しました。

 工程表には、労働基本権の検討として、「級別定数管理に関する事務をはじめ、人事院から内閣人事・行政管理局(仮称)に事務の移管を行うことを踏まえ、また、国家公務員の使用者たる政府が、主体的かつ柔軟に勤務条件に関する企画立案を行い、コストパフォーマンスの高い行政を実現していく観点からも、自律的労使関係制度への改革は重要かつ必要不可欠な課題である。国民に開かれた自律的労使関係制度の措置へ向け、協約締結権を付与する職員の範囲の拡大等に関する具体的制度設計について、平成21年度中に国家公務員制度改革推進本部労使関係制度検討委員会の結論を得る。その上で、平成22年度中に所要の法律案を国会に提出し、準備期間を経て平成24年度までに施行する」とのスケジュールが示されました。

 しかし、今回の法律案の策定にあたって、自律的労使関係制度の措置に向けたスケジュールは示されていません。

「自律的労使関係制度の先取り」と言いながら一方的に交渉打ち切り

 また、政府は、11年5月13日に、国公労連に対して、総務大臣が東日本大震災の復興財源も含めた「厳しい財政事情」を理由として、13年度末までの時限的措置として、俸給及び一時金の1割カットを基本に、一般職国家公務員の給与を減額する旨の提案を行ってきました。

 その後、5月17日、20日、27日に国公労連と総務大臣政務官との交渉が行われましたが、この交渉は、「人事院勧告制度の下では極めて異例であるが、自律的労使関係制度への移行を先取りする形で職員団体の理解を得る」との総務大臣見解のもとでスタートしたものです。

 11年6月2日の総務大臣と国公労連との交渉で、当時の片山総務大臣が、「合意は得られなくても、法案を提出し、最終的には国会で判断していただく」と一方的に宣言し、交渉が尽くされていないことを承知で、国公労連との交渉を打ち切りました。

 そして、6月3日に国家公務員の給与減額を内容とする「国家公務員の給与の臨時特例に関する法律案」と、協約締結権の付与による「自律的労使関係の創設」を内容とする「国家公務員の労働関係に関する法律案」を含む国家公務員制度改革関連法案を閣議決定し、国会に提出しました。しかし、両法案とも衆議院と参議院の「ねじれ国会」のもとで、審議入りすることができずに膠着状態が続きました。

 その後、自民党、民主党、公明党の3党合意に基づき、人事院勧告にもとづかずに平均7.8%の給与を減額する「国家公務員の給与の改定及び臨時特例に関する法律案」が議員立法として12年2月22日に国会に提出され、2月29日に可決・成立しました。

 しかし、一方の協約締結権を付与する国家公務員制度改革関連法案は、12年11月16日の衆議院解散によって廃案となり、労働基本権が回復しないなかで、人事院勧告にもとづかない賃金の引き下げが、12年4月から実施されています。

 憲法で保障されている労働基本権が不当に制約されている国家公務員労働者にとって、給与などの労働条件決定に関わる人事院の代償機能は重要な意味を持っています。

 人事院から内閣人事局に移管するとしている級別定数は、昇格基準や職務評価とも密接に関わるとともに、給与の配分に関わる問題であり、官民給与比較の重要な要素である「役職別給与」に反映して給与勧告にも直接影響するもので、給与とは切り離すことができない明確な労働条件です。

 一般職の職員の給与に関する法律の第8条に「内閣総理大臣は、職員の適正な勤務条件の確保の観点からする人事院の意見については、十分に尊重するものとする」という修正が加えられたとしても、級別定数の設定や改定の実質的な権限は、使用者たる政府に移り、国家公務員労働者の労働基本権制約の代償機能を奪うことから、自律的労使関係制度についても同時に措置して、国家公務員労働者に労働基本権を回復すべきです。

日本政府は8度のILO勧告を遵守すべき

 また、国際労働機関であるILOの結社の自由委員会は、日本政府が行おうとしている公務員制度改革について、労働基本権を回復するよう勧告をしています。

 全労連、連合が02年2月と3月に申し立てをした2177号、2183号案件については、8度におよぶ勧告が行われました。

 13年3月の8度目の勧告では、12年12月26日に発足した新政権がこれまでの経緯の総括も行ったうえで、国家・地方公務員制度改革の具体的内容を検討するという日本政府の表明に留意し、委員会は日本政府に対し、これらの問題での完全、率直で意味のある協議を追求し、批准済みの87号、98号条約に示された結社の自由原則を完全に適用させるため、公務員制度改革が勧告の線に沿って、これ以上遅滞なく完了させるために必要な措置を取るよう要請し、特に次の点を強調しています。

 それは、1)公務員への労働基本権の付与、2)消防職員及び監獄職員への団結権、団体交渉権の付与、3)国の行政に関与しない公務員に団体交渉権と団体協約締結権を保障し、および団体交渉に関して法的制限がある職員に関して適切な代償措置が保障されること、4)国の名において権限を行使しない公務員が結社の自由原則に則ってスト権を行使でき、この権利を正当に行使した組合員や役員が重い民事・刑事罰を課されることがないよう保障することなどです。

 国公労連は、今年の11月6日にILO労働基準局結社の自由部を訪れ、アルベルト・オデロ次長に面談して、新たな「追加情報」を提出いたしました。そのなかで、オデロ次長は、日本政府がいうようにILOの条約や勧告には法的拘束力はない。しかし、ILO条約勧告適用専門委員会と結社の自由委員会であらゆる勧告をおこなっているが、専門性と権威を持っているからこそそれができると述べられるとともに、次のようにILO勧告の重要性について話されました。「たとえば、国連総会の決議も国際法の面からは拘束力がない。ただし、あらゆる国が集まって議論した結果としての決議であるからこそ、各加盟国はそれを守る義務がある。ILOも、拘束力を持たすための制裁措置を行うなどの手段を持っておらず、その代わりに権威と専門性を持った専門家とスタッフが議論したもとで、権威のある委員会に提起し、さらには三者構成という形をとるからこそ、勧告を守るべきであると各国に主張することができる」と言われました。

 また、02年11月21日の全労連、連合が申し立てした案件に対する1回目の勧告である結社の自由委員会第329次報告でも、結論部分で、「結社の自由原則は各国に一律かつ一貫して適用される」「一国がILOへの加盟を決定するとき、それは結社の自由原則をはじめとしてILO憲章およびフィラデルフィア宣言に具体化された基本的原則を受諾しており、すべての政府はILO条約の批准によって約束した制約を完全に尊重する義務を負う」として、日本政府の「各国の実情に配慮すべき」との主張を退けています。

 さらに、「上級裁判所によって解釈されるものを含め、国内法が結社の自由原則に違反する場合には、当該法を審査し、結社の自由原則に合致するよう指針を与えることは、ILO憲章および適用できる条約に定められているように、委員会としては、つねにその権限の範囲内である」と述べ、条約批准国の国内法が結社の自由原則に合致するかを審査する権限が同委員会にあることを明らかにしています。

定員削減計画中止と増員による行政体制の確立を求める

 次に、新たに設置される内閣人事局の所掌事務として、内閣法第12条第11項で「国家公務員の総人件費の基本方針及び人件費予算の配分の方針の企画及び立案並びに調整に関する事務」が規定されていますが、政府によるいっそうの定員削減によって行政サービスへの悪影響が懸念されます。

 11月15日の第3回給与関係閣僚会議及び閣議で、「現在、実施されている給与減額支給措置については、平成26年3月31日をもって終了するものとする」ことが決定されました。この閣議決定には、総人件費抑制の観点から、「大幅な定員純減」をめざし、まだ法案も成立せず設置もされていない内閣人事局が、新たな定員合理化計画を策定することも盛り込まれています。

 12年3月11日に発生した東日本大震災では、国の出先機関や地方自治体で働く公務員も活躍しました。震災直後に道路などのライフラインを整備し、仙台空港をいち早く復旧させた国土交通省の職員、被災した多くの労働者に心温かく接した労働行政の職員、国民の財産や権利を一生懸命守った法務局の職員、被災にあった住民を支えた自治体の職員など、自ら被災にあって、家が流され、家族も失いながら、不眠不休で被災者の救援活動にあたってきました。また、全国各地の国や地方自治体の公務員が被災地に派遣され救援・復旧業務を続けました。長期にわたる被災地の復興の先頭にたっているのも、やはり私たち公務員です。

 政府・行政に対する、東日本大震災からの早期復興をはじめとする国民の期待に応えるには、マンパワーが必要であり、定員削減計画の中止と増員による行政体制の確立こそが重要です。

以 上