「公務員制度改革」闘争ニュースNO.134【2013年11月12日】


労働基本権回復を求めてILOに追加情報を提出

= ジュネーブのILO本部を訪問し、公務員制度改革の現状を伝える =


 全労連は、政府の「公務員制度改革」がすすめられるなか、労働基本権回復を求めてILO(国際労働機関)に02年に提訴した案件にかかわる「追加情報」を、11月6日にILO結社の自由部に提出しました。

 「追加情報」は正式に受理され、今後、結社の自由委員会や理事会などで審議されます。02年11月以降、ILOはすでに8度にわたって日本政府に是正勧告を出しており、安倍自公政権が労働基本権の課題を先送りしながら、使用者権限を強化する「公務員制度改革」関連法の成立をねらうなか、新たな勧告をふくめて日本政府に対するILOからの厳しい措置が期待されます。

 「追加情報」の提出にあたって、全労連公務員制度改革闘争本部は、公務三単産によるILO要請団をスイス・ジュネーブのILO本部に派遣、要請団は11月5・6の両日、ILOを訪問し、結社の自由部やILOの労働者活動局などの代表と面会しました。  要請団は、その後、ドイツ・ポルトガルの各国を訪れ、11日に日本に帰ってきました。

権利を後退させる「公務員制度改革」関連法案の問題点を報告

 岡部国公労連副委員長を団長とする13名の要請団は、6日に結社の自由委員会の事務局を担当する国際労働基準局結社の自由部を訪問しました。結社の自由部からは、同部の副責任者を務めるアルベルト・オデロ氏、法律担当のチタラ・フォンサバ氏が対応しました。

 はじめに、岡部団長が今回の訪問の趣旨をのべ、対応に感謝するとともに、「追加情報」をオデロ氏に手交しました。

 岡部団長は、ちょうど前日の11月5日に安倍自公政権が「公務員制度改革」関連法案を国会提出したことを伝えつつ、自公政権が労働基本権回復を棚上げにしていること、「賃下げ法」の違憲性をめぐる裁判のなかで、政府が「ILO勧告は法的な強制力は持たない」と主張していることなど最近の状況を報告したうえで、「ILOとしても、日本政府に対してさらに強い措置をとってもらいたい」と要請しました。

 国公労連の九後書記次長は、「公務員制度改革」関連法案の内容を中心に報告し、労働基本権を制約しながら、重要な労働条件となる級別定数の設定を人事院から使用者機関である内閣人事局に移行させようとしていること、人事院の意見を尊重するとしつつも、その保証はまったくないことなど、公務労働者の労働基本権を後退させるものだと訴えました。また、国公労連と政府との5回にわたる交渉でも、政府側は、聞き置くだけの態度でまともな交渉になっていないことも示しました。

 要請団副団長で自治労連の猿橋書記長は、地方自治体では、大阪市の橋下市長のような強権的な首長が、労働組合活動を一方的に制限したり、公務員の政治的活動を禁止する事態が起きていることをのべ、「公務員制度改革」による管理・統制の先取りであると指摘しました。また、政府による国に準じた賃下げの押しつけで、1千を超える自治体で賃下げがひろがり、その中で、具体的な理由も示されず、まともな交渉もなく一方的に賃下げが強行されるなど、不当労働行為がまかり通っている実態も示しました。そのうえで、「世界標準の労働基本権を制約している政府の責任を追及し、たたかいの支えとなるような強力な措置を要請する」と強く求めました。

 全教の米田書記次長は、ILO・ユネスコ勧告が、当局と労働組合との間での意味のある交渉・協議の必要性を指摘しつつ、全教の勤務実態調査で月90時間もの超過勤務の実態が明らかになるなかで、これを是正していくためにも文科省と労働組合との交渉が重要であることを強調しました。そのうえで、引き続き日本政府を厳しく追及し、ILOの積極的な意見表明を要請しました。

社保庁職員の分限解雇の不当性を当事者みずから訴える

 これを受けて、結社の自由部のオデロ氏は、「みなさんの話は思っていた以上にレベルの高い話だった。直接、話をうかがえたことに満足している」とのべつつ、日本をはじめ各国で公務の民営化がすすめられ、公務サービスの低下が起きており、公務サービスをより適切に住民に提供するには、公務労働者の労働条件が適正に確保される必要性を指摘しました。そのためにも、労使対等の団体交渉に裏付けられた労働条件の確保が不可欠である点を強調しました。

 法律担当のチタラ氏も、「みなさんの案件については、結社の自由委員会でも、重きを置いて注目してきた」とし、とりわけ、自公政権のもとで、最近の労働基本権をめぐる状況がILO勧告とも反対の方向に動いていることに着目していることなどがのべられました。そのうえで、「この案件を決して脇に置いていないので、今後とも、情報提供してもらいたい」との要望ものべられました。

 また、社保庁職員の不当な分限解雇をめぐって、今回、「追加情報」と同時に国公労連がILOに「申立書」を提出しました。これにかかわって、京都で不当解雇された当事者の川口さんが全厚生闘争団を代表して要請団行動に参加、全厚生京都支部書記長として労働組合活動をしていたみずからの体験をのべました。

 川口さんは、よりよい公務サービスをすすめるため、労使間で話し合いながら労働条件の改善をはかってきたにもかかわらず、年金制度改悪を目的にして、当時の自民党政権が労働組合敵視政策に転換し、労使合意を当局が一方的に破棄する事態に陥ったことや、「無許可専従」などとして懲戒処分された経験をのべました。与党の失政の責任を労働組合に転嫁することは団結権の侵害にあたり、ILO87号、98号条約に違反するとして、「解雇された全員が一日も早く職場に戻れるように、ILOとして日本政府に対して具体的な厳しい働きかけをお願いする」と要請しました。

 これに対してオデロ氏は、「川口さんのケースは、結社の自由違反を示すきわめてわかりやすい事例だ。処分歴などをまとめた追加情報を、結社の自由委員会にたたちに提出すべきだ。非常に重大な問題であり、労働組合活動によって解雇されたことをもっと強調すべきだ」とのべるなど、ILO結社の自由部の注目が集まりました。

 国公労連の「申立書」は、オデロ氏からのアドバイスもあり、迅速な処理をすすめるため、全労連の「追加情報」の一部として受理され、結社の自由委員会に報告されることとなりました。

ILOの労働者代表となごやかに懇談、多方面に意見交換

 要請団は、結社の自由部への要請に先立ち、前日の5日にはILO労働者活動局を訪問し、アナ・ビヨンディ次長、アジア担当のラグワン・ラグワン氏と懇談しました。

 結社の自由部要請と同じように、日本の「公務員制度改革」など労働基本権をめぐる現状や、国会提出されている関連法案の問題点を伝えながら、これまで以上に日本国内での運動を前進させる決意をのべるともに、国際的にも日本でのたたかいへの支援と協力を求めました。

 ビヨンディ次長は、「みなさんからの重要な情報に感謝する。公務員制度改革でも社保庁職員の解雇の問題でも、より強い言葉で日本政府に対応を求めるように努力したい」とのべ、世界中の公務員が過酷な攻撃を受けながら、各国の公務労働組合が労働組合運動の支柱としての機能を果たしていること、社保庁職員への攻撃は公的社会保障への攻撃でもあることなどを強調しました。ビヨンディ次長は、「自公政権のもとで労働基本権回復の課題が後退していることがよく理解できた。引き続き日本の動きに注視したい」とのべました。

 2時間以上におよんだ懇談では、世界に共通する公務の民営化の動きをはじめ、さまざまな問題が意見交換され、有意義な訪問になりました。また、要請団は、150か国で2千万人が結集するPSI(国際公務労連)のデビッド・ボーイズ氏にも面会し、意見交換しました。

 2日間のジュネーブでの行動を終えた要請団は、その後、ドイツとポルトガルに分かれ、ドイツでは公務員制度の調査にとりくみ、また、ポルトガルでは、北村全教委員長を団長にして、国家公務員・自治体職員・教員のそれぞれの産別組織との交流を深めました。とりわけ、ポルトガルではちょうどストライキでたたかっている自治体労働組合を訪問、労働者を激励し、地元テレビ局の取材を受けるなど、公務労働者の国際的連帯をひろげました。

以 上