「公務員制度改革」闘争ニュースNO.123【2013年11月5日】


ILO要請団がスイス・ジュネーブへ出発

= 政府の「公務員制度改革」に反対し、労働基本権回復を求める =


 安倍内閣が「公務員制度改革」関連法案の閣議決定、法案提出を強行するもと、全労連は、法案の問題点を明らかにしつつ、国際基準となっている公務労働者の労働基本権回復を求めて、ジュネーブのILO(国際労働機関)本部に要請団を派遣します。

 要請団は、11月4日に日本を発ち、5・6日の両日にILO本部を訪れ、その後、ドイツとポルトガルに分かれ、各国の公務員制度の調査や公務労働組合との交流をおこない、11日に帰国します。

8度のILO勧告に応えない日本政府に厳しい措置を

 要請団は、国公労連・岡部副委員長を団長、自治労連・猿橋書記長を副団長にして、全教をふくめた公務三単産で構成、全労連からは公務員制度改革闘争本部の黒田事務局長、布施国際局長が随行し、総勢13名でILO本部を訪問します。

 一行は、11月6日にILO結社の自由部を訪れ、全労連が02年にILOに提訴した「公務員制度改革」にかかわる案件について、新たな「追加情報」(別 掲)を提出し、8度におよぶILO勧告に背をむける自公政権の実態や、労働基本権を踏みにじって強行された「賃下げ法」の不当性を伝えます。

 とりわけ、今国会で「公務員制度改革」関連法の成立がねらわれるもと、労働基本権回復を先送りして、使用者権限を強化する法案の問題点も示し、日本政府への厳しい措置を求めることにしています。

 また、前日の5日には、ILO労働者活動局のアナ・ビヨンディ次長らに面会し、同じ労働者の立場から懇談を深め、ILO総会などあらゆる機会を使って、労働基本権回復にむけて努力してもらうよう要請します。

 安倍自公政権が、憲法を改悪してまでも公務労働者の労働基本権の回復を否定しようとしていることから、今回の要請団もすでに8月から計画してきたものですが、奇しくも「公務員制度改革」関連法案の提出強行とタイミングが重なりました。

 その点からも、あらためて国際世論に応えない日本政府の実態を、ILOに直に伝えるうえで、要請団の奮闘が大いに期待されます。

以 上


【別添:ILOへの「追加情報」】

日本政府の「公務員制度改革」に関する提訴

(2183号)案件に係る「追加情報」

2013年11月
全国労働組合総連合


 全国労働組合総連合(ZENROREN)が申し立てた2183号案件に関わって、12年12月の政権交代もふまえた公務員制度改革のその後の状況について、申し立て組合からの情報を以下のとおり提供する。

1、国家公務員制度改革をめぐる状況

(1) 2012年12月の衆議院選挙の結果、民主党政権から自公政権へと政権が交代し、公務員制度改革の検討作業も、2012年12月に発足した第2次安倍内閣へと引き継がれた。

 安倍首相を本部長とする国家公務員制度改革推進本部は6月28日、新政権のもとでの公務員制度改革の方針を示した「今後の公務員制度改革について」を決定した。

 その内容は、第1次安倍内閣(2007年9月〜2008年8月)における国家公務員制度改革の延長線上に位置づけられるものであるとい る。そのうえで、「国家公務員制度改革基本法の条文に即し、機動的な運用が可能な制度設計を行う」として、@幹部人事の一元管理、A幹部候補育成課程、B 内閣人事局の設置、C国家戦略スタッフ、政務スタッフ、Dその他の法制上の取扱い等を掲げている。

(2) 一方で、公務員の労働基本権の保障については、政府方針では一言も触れられていない。そのことは、廃案とはなったものの、協約 締結権回復をめざした政府による公務員制度改革関連4法案の提出という到達点を後退させるばかりか、「政府は、協約締結権を付与する職員の範囲の拡大に伴 う便益及び費用を含む全体像を国民に提示し、その理解のもとに、国民に開かれた自律的労使関係制度を措置する」とした基本法第12条を無視したものであ る。

 国家公務員制度改革基本法に即して改革を行うというのであれば、労働基本権の回復課題が検討課題に掲げられることは当然である。

(3) 政府は、推進本部の方針決定を受けて、法案の検討作業をすすめるとしているが、法案は、自公政権下で09年3月に提出され、同年 7月に衆議院解散に伴って廃案となった国家公務員制度改革関連法案を踏襲するとしている。この法案の問題点については、2009年3月に全労連が提出した 追加情報でも指摘してきたが、労働条件である級別定数管理事務を内閣人事局に移管することなど人事院の機能を縮小させることは、公務員の労働基本権にかか わる重大な問題を持っている。

 政府は、今年度中の内閣人事局の設置にむけて、2013年秋の臨時国会での関連法案の成立をめざしている。

(4) 一方、人事院は8月8日、みずからの実態調査によって、国家公務員給与が民間よりも7.78%(29,282円)下回っていたに もかかわらず、公務員給与改訂の勧告を見送った。こうした措置は昨年に続くものであり、労働基本権制約の代償措置としての人事院勧告制度の形骸化がさらに 進行していることを表している。

 以上のさまざまな経過が示すように、労働基本権回復の課題を放置し、公務員を引き続き無権利状態に置きながら、その代償措置さえ機能せず、使用者・政府の権限を強化する公務員制度改革が、自公政権下ですすめられようとしていることは極めて重大な事態である。

2、給与引き下げ法の違憲・無効を求めた東京地裁提訴事件をめぐる状況

(1) 2012年5月25日に、国会が人事院勧告を超える給与引き下げ法案を一方的に成立させたことは、労働基本権保障 を定めた憲法28条及び結社の自由を保障するILO条約に違反するとして、日本国家公務員労働組合連合会(KOKKOROREN)が給与引き下げ法の成立 に抗議し、東京地方裁判所に提訴したことに関しては、前回情報提供した。

(2) 裁判は、これまで6回口頭弁論が開かれ、双方の主張が明らかになっている。

 原告・国公労連等の主張は、第一に、労働基本権制約下にあって、その代償措置である人事院勧告を無視した給与引き下げ法は憲法及び ILO条約に違反し、無効である、第二に、給与引き下げ法案について、国公労連と団体交渉が行なわれなかったことは団体交渉権の侵害であり、憲法及び ILO条約に違反し、無効であるというものである。

 これに対して被告・国の主張は、第一に、労働基本権制約の代償措置である人事院勧告には国会や内閣に対する法的拘束力はなく、国家公 務員の勤務条件は国家公務員法第28条によって、「国会により社会一般の情勢に適応するように随時これを変更することができる」と規定しており、最終的に は国会が決定すればよいことになっていることから憲法には違反しない、第二に、国家公務員には団体協約締結権が認められていないことから、労使による勤務 条件の共同決定を内容とする団体交渉権は保障されておらず、憲法に違反しないというものである。これらの主張は労働基本権制約の代償措置を否定し、かつ、 団体交渉権をも否定するものである。

(3) 被告・国は、ILO条約等に関し、「ILOの条約勧告適用専門家委員会は、条約の適用状況等に関し、ILOとしての統一的な見 解を与える権限を有しておらず、加盟国もその見解に拘束されるものではない」、「ILOの結社の自由委員会の行なった勧告は、条約の解釈を示したものでは なく、また、法的拘束力も有しないものである」として、ILOの報告や勧告に従う必要はないとの主張を繰り返している。

(4) 以上のような主張も背景にして、政府は、給与引き下げが2年間の臨時的措置だと繰り返し説明していたにも関わらず、特例法による減額措置終了後の新たな給与引き下げ措置の可能性を示唆している。

 2013年6月13日、参議院総務委員会において、委員の「給与減額特例措置は、政府としていつまで続けるのか」との質問に対して、新 藤総務大臣は、「給与減額措置は来年3月までの臨時異例の措置だが、それ以降については、景気の動向、財政健全化の計画、その他の諸情勢を含めて総合的に 判断する」と答弁しており、給与引き下げ措置が2年で終了するとは明言しなかった。

3、国家公務員に準じた賃下げの地方公務員・独立行政法人等職員への波及

(1) 安倍内閣は2013年1月24日、地方公務員にも国家公 務員に準じた平均7.8%の給与の引き下げについて、同年7月までに実施するよう各地方自治体に要請するとの閣議決定を行った。また、2013年度予算に おいて、地方公務員や教職員の給与費に係る地方交付税および義務教育費国庫負担金等を一方的に削減した。

(2) 政府によるこの措置は、本来、地方自治のもとで、地方人事委員会勧告や労使間交渉によって決められるべき地方公務員給与に対する政府による介入であり、国による事実上の賃下げの強要である。

 その点を重大視した全国知事会は、政府がこの閣議決定に基づき、2013年1月27日に地方公務員人件費に係る地方交付税を一方的に削 減する方針を決定した際に、また、この決定に基づいて2013年3月29日に地方交付税を削減する内容の地方交付税法が改正された際にも、地方自治の根幹 にかかわる問題であり「極めて不適切である」との声明等を発表して抗議した。全国市長会、全国町村会も同様の意思表明を行っている。

(3) しかし、実際に地方交付税等が削減されたことや、総務省による執拗な介入の継続のもとで、各地方公共団体は国家公務員に準じた 給与の引き下げを受け入れざるを得ず、2013年7月から、826の地方自治体(全自治体の46.2%)において政府の「要請」にもとづいた給与の引き下 げが実施されている。また、この課程において、少なからぬ自治体で、労使交渉が軽視され、一方的な給与引き下げが実施された。

 その後も政府は、8月29日にも全国の自治体代表を集めて、賃下げを実施いていない自治体に対し、国家公務員に準じた賃下げ実施を強くせまっている。

(4) 各府省が所管する独立行政法人と国立大学法人に対しても、政府は国家公務員に準じた賃金引き下げを要請してきた。これらの法人 は、政府や各府省から業績評価を受ける関係から、政府の要請を拒否することはマイナス評価につながりかねず、賃金引き下げの「要請」も一定の強制力を持っ たものにならざるをえない。

 その結果、例えば、独立行政法人・労働者健康福祉機構が運営する全国各地の労災病院では、使用者側が就業規則を無視して一方的に一時 金の引き下げを強行したことから、労働組合側は労働委員会に不当労働行為救済を申し立てている。また、国立大学法人では、一方的な賃金引き下げに対して、 昨年11月以降、全国8大学等の労働組合が裁判所に提訴している。

4、おわりに

(1) ILO理事会は、2013年3月17日の中間報告におい て、結社の自由原則の完全な尊重を確保するために必要な措置をとるとともに、@国家・地方公務員制度改革法案が再提出されるか示すこと、A国公労連が東京 地方裁判所に訴えた裁判等の結果について報告を継続することを日本政府に勧告したことをふまえ、今回、全労連として情報提供するものである。

(2) 上述したとおり、日本政府は、引き続き公務員制度改革を国政上の重要課題に位置づけているものの、公務員への労働基本権回復は 検討課題にさえ掲げておらず、ILO勧告を無視し続けている。また、給与引き下げ法の無効を求めて提訴した裁判に関しては、ILOの報告や勧告に従う必要 はないとの主張を繰り返している。また、政府による事実上の給与引き下げが、地方公務員や独立行政法人にもおよび、労使関係を著しく破壊している。

 このような日本政府の姿勢は許されるものではない。02年の提訴以降、10年が経過し、この間、8度にもおよぶILOからの勧告を無 視し続ける日本政府の姿勢を踏まえ、公務員労働者の労働基本権回復を目的とした公務員制度改革の実現と、それに向けたすべての関係労働組合との交渉・協議 を強めることを日本政府に迫るよう強く要請する。

以 上