「公務員制度改革」闘争ニュースNO.118【2011年9月28日】
労働組合との話し合いにもとづいて制度設計を
= 地方公務員の労働基本権回復を求めて「意見書」を提出 =
全労連公務員制度改革闘争本部は9月28日、地方公務員の労働基本権回復にむけて、総務省に「意見書」(別添)を提出しました。
国家公務員制度改革関連法案が先の通常国会に提出されるもと、総務省では、協約締結権回復、自律的労使関係制度の確立をめざした「地方公務員の労使関係制度に係る基本的な考え方」を6月に公表し、その後、パブリックコメントも実施されてきました。
闘争本部では、総務省の「基本的な考え方」の内容を検討しつつ、地方公務員・教員の労働基本権回復にかかわる「意見書」のとりまとめにむけ、議論を重ねてきました。
総務省の「意見書」の提出にあたって、闘争本部は、地方自治体の特性もふまえた制度を確立するため、労働組合との交渉・協議のもとで検討をすすめるよう求めました。 権利回復へ総務省が積極的な役割を果たすよう要請
総務省への「意見書」提出には、全労連闘争本部から黒田事務局長、猿橋(自治労連書記長)、今谷(全教書記長)、熊谷(自治労連中執)、蟹澤(全教書記次長)の各委員が参加、総務省は、自治行政局公務員部公務員課の前(すすめ)理事官、東田課長補佐ほかが対応しました。
猿橋・今谷の両委員から「意見書」の要点が説明され、公務員の労働基本権回復に対しては、自治体の使用者側に否定的な意見も見られるなかで、基本的人権としての公務労働者の労働基本権の回復がはかられるために、総務省が積極的な役割を果たすよう求めました。
また、新しい制度を作り上げていくうえで、労使関係の一方の当事者である労働組合の役割が尊重されるべきであり、今後とも労働組合との交渉・協議にもとづいて制度設計していく点についても強く要請しました。
これに対して、総務省側は、「現時点では、自律的労使関係制度などにかかわる制度設計の内容はみなさんに提示できる段階にはない」と現状をのべつつ、
「国家公務員制度改革関連法案をふまえつつ、地方公務員独自の問題もあるので、しっかりと検討していく。本日いただいた意見書も参考にしながら、今後、検
討をすすめていきたい」と表明しました。
最後に黒田事務局長は、「関連法案には問題点が多々あるが、国家公務員が協約締結権回復の方向にむかっていることは、この間の公務員
制度改革をめぐる一定の到達点だ。その到達点から後退することなく、地方公務員の権利回復へ全力をあげるべきだ。そのために、ILO勧告が指摘しているよ
うに労使間の話し合いが重要であり、今後とも意見交換をすすめたい」と重ねて要請しました。
以 上
【別添資料】
2011年9月28日
総務大臣 川端 達夫 殿
全労連公務員制度改革闘争本部
本部長 小田川 義和
地方公務員の労働基本権回復に係る「意見書」の提出について
公務員制度改革にかかわっては、政府の国家公務員制度改革推進本部が4月に「国家公務員制度改革基本法に基づく公務員制度改革の『全体
像』」(以下、全体像)を決定し、その後、労働組合など関係者との交渉・協議を経て、協約締結権回復による自律的労使関係制度などをさだめた国家公務員制
度改革関連4法案が6月3日に第177回通常国会に提出され、現在、継続審議となっています。
こうしたもと、「全体像」では、「地方公務員制度としての特性等を踏まえた上で、関係者の意見も聴取しつつ、国家公務員の労使関係制
度に係る措置との整合性をもって、速やかに検討を進める」ことが決定され、これにもとづいて総務省では、6月に「地方公務員の労使関係制度に係る基本的考
え方」が取りまとめられてきたところです。
公務員の労働基本権の一部である協約締結権の回復がはかられることは重要な意義を持つとともに、今後、争議権をふくめた労働基本権の
全面回復が強く求められます。同時に、国家公務員制度改革にかかわる関連法案が国会提出されたもとで、地方公務員や教員の制度に関わる検討が急がれてお
り、また、より良い制度にしていくためにも、労働組合などとの十分な話し合いが重要となっています。
全労連公務員制度改革闘争本部は、この間、自律的労使関係制度の検討にあたって、政府・公務員制度改革推進本部との交渉・協議を積み
重ねてきたところですが、こうした議論の到達点もふまえつつ、総務省が示した「基本的考え方」にも沿って、別添の「意見書」を取りまとめました。
今後、「意見書」をふまえて、地方公務員・教員の労働基本権回復、自律的労使関係制度の確立にむけて、全労連公務員制度改革闘争本部など関連の労働組合との交渉・協議のもとで検討をすすめるよう要請いたします。
以 上
地方公務員の労働基本権回復に係る問題について(意見書)
2011年9月
全労連公務員制度改革闘争本部
はじめに
地方公共団体は、自治体の地理的条件や人口規模、財政力等多様であり、任命権者も団体の長や教育委員会など分立しています。また、法的にも憲法や地方自治法により国とは異なった独自の権限が付与され地方行政を各々の地域の特性を踏まえつつ行っています。
また、職員に対しては、労働基準法や労働安全衛生法の適用が前提とされており、現在の労使関係も国家公務員とは違った状況にあります。
したがって、「国家公務員の労働関係に関する法律案」(以下、「国公関係労働法案」)を単に横引きした総務省の「地方公務員の労使関係制度に係る基本的な
考え方」は不十分といわざるを得ません。地方の自主性や多様性を尊重した地方公務員の労働基本権の回復を図ることを基本に置くべきだと考えます。
そもそも公務労働者にとって労働基本権の回復は、憲法第28条に基づく正当な権利回復であるとともに、再三のILO勧告を踏まえた公務
労働者の基本的人権の確立です。同時に、それは憲法15条の「全体の奉仕者」性とともに、地方自治の発展と住民福祉・教育の向上に寄与するよう、その理念
を明らかにすべきであると考えます。
1 基本となる考え方
1)憲法原則に立つ、争議権も含めた基本的人権としての労働基本権の全面的な回復を行うこと。その際、ILO条約や「教員の地位に関する勧告」などの国際基準に則った検討を行うことが必要である。
2)労働組合法(以下、労組法)第1条では、労使が対等の立場で団体交渉を行い、協約締結を結ぶことが明記されている。一方、地方公務員
法は「地方公務員の任用、職階制、給与、勤務時間その他の勤務条件、分限及び懲戒、服務、研修及び勤務成績の評定、福祉及び利益の保護並びに団体等人事行
政に関する根本基準を確立することにより、地方公共団体の行政の民主的かつ能率的な運営並びに特定地方独立行政法人の事務及び事業の確実な実施を保障し、
もつて地方自治の本旨の実現に資する」ことを目的としており、これは憲法の理念を具現化したものである。
同時に、憲法が第15条で「全体の奉仕者」、第28条で「勤労者の権利」など基本的人権を保障していることをふまえるならば、労働基
本権回復の検討にあたっては、労組法等の全面適用を図りながら、労働条件の決定方法や交渉不調の場合の調整システムなどにおいては、地方公営企業等の労働
関係に関する法律(以下、地公企労法)を最低基準に、新たな労使関係制度を構築すべきである。決して「国公関係労働法案」の横引きであってはならない。
3)「国公関係労働法案」において付与される協約締結権の回復は、当然、地方公務員に対しても速やかに措置されるべきである。同時に、
地方自治の発展と住民福祉・教育の向上をめざすという地方公務員・教職員の役割をふまえ、基本的人権としての権利性を高めることを検討の中心に据えるべき
である。結果として、各地方公共団体における現在の労使関係の到達点が後退することはあってはならない。
その際、職員に対しては、労働基準法や労働安全衛生法の適用が前提とされており、一方で地方自治体が、首長と議会の二元代表制を持っていること等、国との違いをふまえた検討が必要である。
また、憲法15条による「全体の奉仕者」としての職務遂行上の権利保障として、地方自治体の政策立案、決定及び執行過程にあたっての参加の保障や意見表明の権利、違法な職務命令に対する拒否権なども検討すべきである。
4)消防職員の団結権は、協約締結権とともに回復すべきである。
2 総務省「基本的な考え方」への具体的意見
T 趣旨
国家公務員に係る自律的労使関係制度の措置を踏まえ、地方公務員についても新たな労使関係制度を設けることとする。
地方公務員は「地方自治の本旨の実現に資する」ことをめざしており、憲法第15条2項(全体の奉仕者)の要請と一致することから、憲法
第14条(法の下の平等)、第28条(勤労者の権利)を基本にすえ、原則として労組法等の全面適用をめざしつつ、労働条件の決定方法や交渉不調の場合の調
整システムなどにおいては地公企労法を最低基準に、新たな労使関係制度を構築すべきである。
U 制度の概要
1 協約締結権を付与する職員の範囲
一般職の地方公務員(ただし、団結権を制限される職員、重要な行政上の決定を行う職員及び地方公営企業等に勤務する職員等を除く。以下「職員」という。)に協約締結権を付与する。
1)すべての自治体労働者・教職員に団結権・団体協約締結権を保障すべきである
基本はすべての一般職の地方公務員に協約締結権を回復させるべきである。「重要な行政上の決定を行う職員」については、地方公務員の場
合、団体の長を含む三役に限定すべきである。「地方公営企業等に勤務する職員等」とあるのは、地公企労法対象職員は引き続き地公企労法を適用すると解釈で
きるが、現行より制度が後退することがあってはならないことは当然である。
いずれにしても憲法的要請に基づき「結社の自由」「団結権の保障」を最大限認めることを強く要請する。
2)組合員の範囲は「結社の自由」原則に基づき、労働組合の自主的判断とすべきである
組合員の範囲は、現行地公企労法には地方公務員法第52条のような管理職員規定はなく、労働委員会の告示のみである。本来的には労組法
第2条の規定によるべきと考える。また、管理職員等の範囲の一方的範囲拡大を許さず、「結社の自由」を守るために、労働組合からの意見徴収を都道府県労働
委員会に義務づけるべきである。
3)「国公関係労働法案」における「特定独法職員」の除外を、地方公務員に準用すべきでない
地方公務員に単純横引きされると地方独立行政法人の職員と同一の労働組合を結成できないことになり、「結社の自由」に反する。
2 団体交渉の当事者
(1)労働側の当事者
○ 労働組合は、職員が主体となって自主的にその勤務条件の維持改善を図ることを目的として組織する団体又はその連合体とする。
○ 都道府県労働委員会に認証された労働組合は、団体協約の締結、不当労働行為の救済申立て、あっせん・調停・仲裁手続への参加、職員の在籍専従等が可能となる。
○ 認証の要件は、規約が法定の要件を満たすこと、構成員の過半数が同一地方公共団体に属する職員であること等とする。
1)労働組合の事前認証制、「過半数」要件は設けるべきでない
@ 労働組合の事前認証制はとるべきでない
労組法と同様に、不当労働行為救済などを求める際にのみ、「認証」を要件とすべきであり、「事前認証制」はとるべきでない。
とくに、「事前認証」されない労働組合は、団体協約締結権が保障されないこととなり、これでは団結権の侵害にあたる。こうしたことは、民間労働組合にはない制度であり、憲法第28条に反するとともに、ILOの6回にわたる勧告でも批判されてきたものである。
また、「事前認証」の審査内容について、「資産」や「公認会計士又は監査法人の監査証明」などの提出を求めることは、労働組合が「法人
格」を取得する場合に限るべきである。とりわけ、少数組合の場合、公認会計士等と契約する財政的負担は大きく、認証にあたっての障害になることは明らか
で、組合活動の阻害要因となる。現行「職員団体登録制」にないこうした要件は、課すべきではない。
A 労働組合の構成員の「過半数」が職員であることを協約締結権付与の要件とすべきでない
本要件には、地方公務員法第17条・第22条職員との同一組合結成はできるが、地方公務員法第3条3項3号の規定による特別職の職員が
過半数以上を占める労働組合は認証されない危険性がある。しかし、憲法第28条は、すべての「勤労者」が自らの意思で自らの選択する労働組合を結成し、使
用者と団体交渉を行う権利を保障しているのであり、労働組合がどのようにその組合員を構成するかは、当該組合の自主性に委ねられている。
実態としても、少なくない非正規職員が異なった地方公共団体に属しながら単一の労働組合を結成している。現場に矛盾をきたす規制を行うべきではない。また、「同一地方公共団体」に限定することも、「結社の自由」に反するものであり、規制を設けるべきではない。
2)組合活動の自由に規制を加えるべきではない
@ 在籍専従制度の期間制限や当局「許可」は明記すべきでない
専従を配置するか否かは、労働組合の団結権に属する問題であり、労働組合が自主的に判断すべき事項であって、期間などを法定すべきでない。労働組合活動に関する労使協約の課題にすべきものである。
また、「許可の権限は当局」との規定は、現にその許可権限を不当に行使し、労働組合の専従を認めない当局が存在するもとでは、労働組合活動の不当な抑圧となっており、当局による「許可事項」ではなく「労使協議事項」とすべきである。
(2)使用者側の当事者
地方公共団体の当局は、引き続き交渉事項について適法に管理し、又は決定することのできる者とする。
1)教職員の交渉事項に関して、「当局」の整理が必要である
義務教育費国庫負担金等の制度化にある教職員の場合、任命権者と服務監督権者が異なるうえに、各学校の学校長にもさまざまな権限があ
る。交渉(協約)事項は、当然、権限のある「当局」との間でなされる以上、教職員の交渉(協約)事項に関して、「当局」の整理が必要である。
3 団体交渉等
(1)認証された労働組合と地方公共団体の当局は、下記の事項について団体交渉を行い、団体協約を締結できるものとする。
@ 給料その他の給与、勤務時間、休憩、休日及び休暇に関する事項
A 職員の昇任、降任、転任、休職、免職及び懲戒の基準に関する事項
B 職員の保健、安全保持及び災害補償に関する事項
C @〜Bに掲げるもののほか、職員の勤務条件に関する事項
D 団体交渉の手続その他の労働組合と地方公共団体の当局との間の労使関係に関する事項
1)当局の権限と交渉事項の整理が必要である
前項で、教職員の交渉(協約)事項に関する「当局」の整理を求めたが、ここでの解明点も同様である。単純な「国公関係労働法案」の横引きでは整理できない教職員の交渉(協約)事項は、当局権限の整理と一体でされる必要がある。
(2)地方公共団体の事務の管理及び運営に関する事項は、引き続き団体交渉の対象とすることができないこととする。
1)管理運営事項であっても労働条件に関する事項は団体交渉の対象とすべきであり、「管理運営事項」に関わる労使関係のあり方を法定事項とすることには反対である
「国公関係労働法案」に準じて、「管理運営事項」は協約の対象外としている。現行地方公務員法第55条3項で、「管理運営事項は交渉の
対象としない」とする規定を、そのまま延長する考えを示している。多くの地方自治体当局は、これを口実に、労働条件と密接不可分の関係にある人員配置など
を「管理運営事項」として、交渉することなく一方的に行ってきた。しかし、「管理運営事項」であっても労働条件にかかわるものについては交渉事項とすべき
ことは、1965年のドライヤー報告や、ILOの一連の勧告・報告でも、「雇用条件に関するものなど一定の問題を団体交渉の範囲から除外することは98号
条約の諸原則に反する」としていることからも明らかである。また、これまでの、地方公務員法の解説書でも「結果として勤務条件に関わるものは交渉事項とな
りうる」としている。
また、労働条件に直接的に関わらない「管理運営事項」でも、予算やその後の進展により労働条件に波及する事項は多くある。そうしたことを労使協議事項に位置づけることや、労働組合の意見表明を保障するなど、団体交渉権を制約しない制度設計が求められる。
(3)現行地方公務員法において規定されている予備交渉の実施、団体交渉の打ち切り、勤務時間中の適法な団体交渉の実施等については、引き続き法定する。なお、職員が勤務時間中の適法な団体交渉に参加する際の手続を整備する。
1)団体交渉の手続きは法定化せず、協約で定めるべきである
@現行地方公務員法の交渉手続きや、打ち切りなどは、引き続き法定化するとしている。しかし、労組法はもとより、地公企労法や特定独法労
働関係法もこうした事項は法定化しておらず、まさに、「自律的労使関係」の根幹をなすものであり「自律的に労使協約」で定めるべきものである。
また、時間内の団体交渉などは、今後も法定化するとしているが、ILO151号条約を批准し、「職務に特段の影響のない範囲」での時間内活動を保障すべきである。
A交渉手続き(場所、時間、人数等)について協約化することは前進であるが、交渉の「打ち切り」や「勤務時間中の適法な団体交渉」を法定化することは協約締結権の「付与」とも矛盾することであり法定化すべきでない。
(4)地方公共団体の当局は、団体交渉の議事の概要及び団体協約を公表しなければならないこととする。
当局に「公表」を義務付けすべきではない。あくまで労使協議に委ねるべきであり、労使の自主判断とすべきことである。協約の公表がある程度やむを得ない場合でも、公表にあたっては労使確認を前提とすべきである。
4 不当労働行為の禁止
(1)地方公共団体の当局が労働組合の構成員であること等を理由として職員に対する不利益な取扱いをすること、認証された労働組合との団体交渉を正当な理由がなく拒否すること、労働組合の運営等に対して支配介入・経費援助をすること等の行為を禁止する。
(2)不当労働行為があった場合の都道府県労働委員会による救済制度を設ける。
不当労働行為を法律上明記することは評価できることであり,不当労働行為が行われた場合の救済規定が設けられることも一定の前進である。但し、救済を行った場合の労働委員会の対応が迅速・的確にはかれるよう体制の充実を図るべきである。
5 勤務条件の決定原則等
(1)情勢適応の原則等、現行地方公務員法において規定されている勤務条件の決定原則については、引き続き法定する。
1)地方公務員の労働条件のあり方の基本原則は労使交渉とすべきであり、法定事項は最小限に留めるべきである
@「基本的考え方」では、現行の「勤務条件の決定原則については引き続き法定する」としており、情勢適応の原則(14条)、平等取り扱いの原則(13条)、職務給原則(24条1項)、均衡の原則(24条3項)等が残ることになる。
人事院(人事委員会)勧告制度を廃止することは、賃金決定を労使自治に委ねることを基本とするものである。地方公務員の給与を含む労働
条件について労使自治に委ねることを基本とするのであり、民間事業の従業者の給与水準は、交渉の際の一つの指標となることはあっても労使がそれに拘束され
るものではない。
労働組合の団体交渉権を保障する以上、現行地公法第24条3項の五基準は、交渉の際の指標にはなっても規制されるものではない。法律の定める事項は最小限、大綱的なものにとどめ、それを具体化する事項については労使の団体交渉に委ねるべきである。
(2)職員に協約締結権を付与することに伴い、勤務条件に関する人事委員会勧告制度を廃止する。
(3)住民への説明責任を果たし、住民の理解を得る観点から、民間の給与等の実態を調査・把握する。調査・把握する主体等については更に検討を進める。
「民間の給与等の実態を調査・把握する」としているが、それはあくまで住民への「説明」「理解」が目的であり、拘束的な基準となると、第24条と適合しない可能性が高い。今回は、人事委員会勧告制度を廃止して、労使の交渉によって賃金決定を行うことが本来の趣旨である。
仮に当局による調査や把握として、賃金構造基本統計調査などを用いて比較することがあれば問題である。少なくとも、人事委員会の現在持っ
ている調査機能の精緻な手法を活用して労使の代表及び中立(公益)委員をいれて運営するなどの検討をすべきである。なお、国や民間給与等はあくまで参考指
標であり、労使の自主解決に委ねることはいうまでもない。
6 勤務条件の決定方法及び団体協約の効力
(1)職員の給与、勤務時間その他の勤務条件は、引き続き条例で定めることとする。
1)条例詳細主義は排除すること−地方公務員法第24条、第25条の規定は廃止すべきである
勤務条件は引き続き条例で定めるとしているが、現行のように細部まで条例で定めることは、協約締結権付与と矛盾するものであり、現行地公企労法の規定の範
囲とすべきである。現行の地公企労法に基づく給与条例は、種類や基準等のみの規定であり、給料表は条例事項とはなっていない。
一般の公務員について「自律的労使関係制度」のもとで給与等を条例事項とすることは、現業や水道職員についても給料表を条例に明記するというような均衡論が出てくる危険性があることを指摘せざるを得ない。
(2)勤務条件を定める条例の制定改廃を要する内容の団体協約を締結した場合には、地方公共団体の長は条例案の議会への提出義務を負うこ
ととする。(ただし、地方公共団体の長以外の機関が団体協約を締結する場合には当該地方公共団体の長との事前調整を行う仕組みを設ける。)
1)協約尊重を担保すべきである
労使合意の協約が締結された場合でも、地方自治体の二元代表制のもとで、首長と議会と意見が異なることがありうる。協約にもとづいた条例改正を議会に求める際に、締結された協約を尊重する仕組みが必要である。
例えば、議会における審議で、協約内容と異なる意見が強い場合に、差戻して再度の団体交渉によって、労使合意をもとに条例案を出し直すなどの制度が考えられる。
2)地方公共団体の長以外の機関が団体協約を締結する場合には、首長との事後調整とすべきである
「地方公共団体の長以外の機関が団体協約を締結する場合」というのは、教育委員会が交渉当事者となる場合等が想定されるが、その際、
「当該地方公共団体の長」との「事前調整」を義務づけることは、交渉そのものの制約になる。教育委員会と教職員労働組合との交渉は、あくまで「自律的」に
すすめられ、「当該地方公共団体の長」との「調整」は、協約締結を踏まえた「事後調整」とすべきである。
(3)勤務条件を定める規則等の制定改廃を要する内容の団体協約を締結した場合には、地方公共団体の長その他の機関等が規則等の制定改廃の義務を負うこととする。
7 交渉不調の場合の調整システム
認証された労働組合と権限ある地方公共団体の当局の間に発生した紛争であって団体協約を締結することができる事項に係るものについて、都道府県労働委員会によるあっせん、調停及び仲裁の制度を設ける。
1)都道府県労働委員会の体制と機能の強化が求められる
交渉不調の場合の調整システムを設けることは、不当労働行為の禁止と救済規定がない現行からは、大きな前進である。都道府県労働委員会が、公務の労働関係に関する事項をあつかうにふさわしい体制と機能の強化が必要である。
2)交渉不調の場合の当局による強制仲裁は規定すべきでない
仲裁は、労使双方に受託義務があり、そのまま団体協約となるものである。「国公関係労働法案」では、「各省大臣又は会計検査院長又は内
閣総理大臣が、公益上必要があると認める場合」は仲裁申請ができるとされており、「公益上の必要」を口実に、まともな交渉努力なしに、交渉打ち切りに道を
開く危険性が大きい。したがって、地方公務員では同様の規定をすべきでない。
8 人事行政の公正の確保
勤務条件に関する措置要求、不利益処分に関する不服申立てその他の職員の苦情の処理に関する事務等については、引き続き第三者機関が所掌する。
1)人事行政の公正の確保、不利益措置に関する不服申し立てに関する事務の取り扱いは、人事委員会を公平・中立な第三者機関として再編したうえで人事委員会が担うことが妥当である
@第三者機関としての人事委員会が引き続き必要である
総務省の「基本的考え方」では、「人事公正委員会」の文言はなく、「引き続き第三者機関が所掌する」としている。地方公務員では「人事
公正委員会」制度は導入せず、協約締結権が回復されたもとでも、任用、分限、懲戒など人事行政が時の政治の恣意性に左右されず、客観性・公正性を保つこと
によって、民主的能率的な公務の運営が保障される第三者機関が必要であり、人事委員会がその役割を果たすべきである。
A人事委員会を真に「第三者機関」「中立機関」とするために再編すべきである
人事委員会の構成を都道府県労働委員会等と同様に、使用者、中立(公益)、労働の三者構成とすることが必要である。
B公平委員会は廃止し、新たな連合機関などを設置すべきである
小規模自治体が多数存在するもとでは、個々の自治体に設置される公平委員会が十分な機能を果たすことは不可能に近い。不利益処分などは、法に基準を置くも
のであり、公平・中立な第三者機関としての機能確保の観点から、公平委員会に代わる都道府県単位の新たな連合体などの第三者機関のあり方に関する検討が必
要である。
V 消防職員の団結権
消防職員の団結権については、付与することを基本的な方向としつつ、必要な検討を進める。
1)消防職員にも団結権・団体協約締結権を保障すべきである
憲法第28条は、すべての「勤労者」に団結権を保障しており、ILO第87号条約も消防職員の団結権を保障している。
2)労働三権を一切保障せず「代償機関」も設置しないことは憲法第28条違反であり、ILO第87号条約「結社の自由」など国際ルールに反する
これまでの判例からも明確な憲法違反を避けるため、少なくとも消防職員の団結権を保障すべきである。
3 その他「自律的労使関係制度」構築にあたっての諸課題
今回の「基本的な考え方」では触れられていないが、交渉や協約締結の具体的なあり方や、基本的権利の問題については「自律的労使関係制度」を具体化する上で課題となる。
以下に項目ごとに具体的課題を提起するので、総務省としての見解を示されたい。
1)中央交渉・地方交渉について
協約締結権が、中央・地方組織、単組のそれぞれに対応する当局の権限事項と合わせて整理されることは、重要な課題である。
@ 労働条件に関わる法定事項・省令事項での総務省交渉および文科省交渉を制度化すべきである
個別の協約締結権は単組(教職員の場合は地方組織も含む)が有することになるが、全国的な原則事項や、制度、省令などについては、中央での交渉を制度化すべきである。
A 中央と地方における交渉・協議のルール化が必要である
地方公務員制度全体に関わる事項で、労働条件に関わる事項についての協約締結権については中央および地方の産別も位置づけ、都道府県の教職員に係る事項については地方産別に協約締結権を付与すべきである。
同時に、個別具体的な事項についての協約締結権は単組に付与すべきものである。
また、知事・市長・町村長・教育長などで構成する協議体を法定化したうえで、中央および地方産別との交渉・協議をルール化し、労働条件の統一性について調整することも重要である。
B 市区町村単位組合と都道府県との団体交渉を制度化すべきである
都道府県単組や教職員の場合、都道府県単位の団体交渉が行われることは当然のことである。市区町村にとっても、賃金交渉などにおいて、
仮に都道府県人事委員会の調査機能が残れば、各都道府県の調査結果が各市町村の賃金交渉の大きな指標となる。したがって、各市町村にとっても人事委員会や
都道府県との団体交渉権が重要な課題となる。
同時に、各自治体の労使交渉に影響を与える都道府県の「資料」や「指導」「補助金」等についての団体交渉権は不可欠である。
C 同一地方公共団体における任命権者の違う組合の連合交渉を認めるべきである
教育委員会と自治体首長など、それぞれ、任命権者が違う組合における連合交渉などについても団体交渉権を確立すべきである。
2)教職員労働組合の交渉のあり方
@ 労働側の交渉団体と交渉(協約)事項
@ 中央交渉について
教員モデル給料表、手当の基本、労働時間の基本、労働安全衛生に係る基準、「指導不適切」教員に係る基準などは、交渉事項にす
る。なお、公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律や教育職員免許法、「主幹」教諭制度などの新たな職の設置など、労働条件に密接
にかかわる事項についても交渉事項とする必要がある。
また、学習指導要領など、教育政策のあり方は労使協議事項とされ、教職員組合の関与が十分に保障されねばならない。
A 都道府県(政令市)交渉について
予算や条例措置に関わる事項は知事と、条例で委任された事項と任免などの権限事項については教育長との交渉が基本となる。ただ
し、教育長が、知事との調整を前提に、一括して交渉対応することも可能だが、その場合は、交渉(協約)を踏まえた事後調整であるべきである。
B 市区町村交渉について
県費負担教職員の賃金課題以外の労働条件に関わる事項は、すべて交渉(協約)事項と位置づけられなければならない。条例や規則で
労働条件に関する事項をはじめ、特に、勤務時間の調整や休憩時間の基本、安全衛生に関わる予算と基本、労使関係に関する事項は重要である。また、市区町村
費負担教職員の賃金をはじめとした労働条件は、すべて交渉(協約)事項となる。
なお、施設や設備、子どもたちの教育を支える需用費などの教育予算については、労使協議事項とされるべきである。
C 職場交渉について
学校単位で、学校管理に責任を負う学校長と教職員が構成する労働組合(分会)との団体交渉(職場交渉)と団体協約締結が保障されなければならない。
学校管理にかかわる多くの権限をもっている学校長と、労働条件の具体化に責任もつ労働組合(分会)との団体交渉と団体協約締結
は、現場レベルでの労使関係・労使ルールを形成する重要な意味をもっている。具体的には、勤務時間の割振りや休暇承認の権限等が学校長に委任されている実
態もふまえ、勤務時間の割り振り、労働安全衛生の具体化、学校運営や学校行事にかかわる労働条件の調整などは職場交渉なしには実現せず、分会掲示板の設置
など組合活動にかかわる問題も職場交渉なしには解決しない。
3)政治的行為の制限・刑事罰規定
@地方公務員法第36条は「管理職」に限定すべきである
地方公務員法36条の政治的行為の制限は、国民としての基本的権利を制限する不当なものであり、労働基本権制限と根っこは同じである。
今回の「改正」では、まったく触れられていないが、憲法・国際基準に反する規定は改定し、政治的行為の制限は、利用する「地位」のある特定管理職に限定す
べきである。
A地方公務員法第61条第4項は廃止すべきである
法第61条4項では、法第37条(ストの禁止)に反し、あおり、そそのかしを行った場合には、行政罰だけでなく刑事罰(3年以下の懲役又は罰金10万円以
下)を規定したものであり、労働運動に刑事罰を加えるという前近代的規定である。スト権を保障しない場合でも最低の61条4項の規定は廃止すべきである。
@と同様に、地方公務員企労法にはない規定であり、これに合わせるべきである。
B教育公務員特例法第18条は廃止すべきである
教育公務員特例法第18条(公立学校の教育公務員の政治的行為の制限)は、公立学校に働く教育公務員だけを対象に、一般の地方公務員よりも厳しい制約をし、国民としての基本的権利を制限する不当なものである。憲法・国際基準に則って、本条は廃止すべきである。
以 上