「公務員制度改革」闘争ニュースNO.112【2011年5月12日】


争議権回復、消防職員の団結権回復などを求める

= 総務省の「意見を伺う場」に自治労連・全教などが出席 =


 公務員制度改革の「全体像」が推進本部決定され、地方公務員の労働基本権のあり方について、すみやかな検討をすすめることが確認されるもと、総務省が、労働組合や使用者団体など関係者からの「意見を伺う場」を開催しています。  5月10日には、自治労連・全教・消防職員ネットワークが出席し、全労連闘争本部のこの間の議論をふまえながら、地方公務員の労働基本権回復にむけた基本的意見をのべました。

鈴木副大臣・逢坂政務官に対して意見を表明

 総務省が開いた「地方公務員の労働基本権の在り方に係る関係者からの意見を伺う場」にには、自治労連から野村委員長、猿橋書記長、全教から北村委員長、 今谷書記長、消防職員ネットワークからは、原田会長、細井副会長が出席、総務省側は、鈴木克昌総務副大臣(衆議院議員)、逢坂誠二総務大臣政務官(同)が 対応しました。

 はじめに、鈴木副大臣は、「東日本大震災では、大変な状況のなかで、消防のみなさんは現地でご奮闘をいただき、自治体のみなさんや教 職員にもご苦労をいただいている。国家公務員制度改革の全体像が決定されたが、これにもとづいて、本日はみなさんの率直なご意見をうかがいたい」とのべま した。

 これをうけて、野村委員長は、「全体像は、これまでの公務員制度改革をめぐる議論の到達点と受けとめるが、そもそも憲法は労働三権を 保障しており、争議権もふくめた権利回復が必要だ。また、憲法15条は『全体の奉仕者』として公務員を規定しているが、これは権利保障の上でも重要だ。被 災地では、自治体労働者がみずからの生活を犠牲にしても、常に住民生活第一でやってきた。避難所になった学校では教職員が奮闘している。公務員としての専 門性をいかした奮闘が二次被害を最小限に食い止めている。労働組合も改善提案をおこなうなど重要な役割を担っている。憲法28条と同時に15条を具体化す ることを、労働基本権の回復の課題として位置づけるべきだ。自治体では、協約締結権がないもとでも実質的な改善を確保してきたし、職員も知恵と力を出しな がら行政運営を考えてきた。地方公務員制度の改革は、一義的な役割を総務省が持っていることを認識して、文科省も含めて検討することを求める。今後の検討 では、決定されたことを押しつけるのではなく、政策形成過程における実務的な協議にもとづき、労使合意を基本に検討をすすめるべき」と求めました。

住民の願いを行政に反映させるために労働基本権回復を

 猿橋書記長が個別の論点をのべ、「国家公務員の制度の検討で大きな論点になっ たことは、地方公務員の制度を検討する場合でも、具体的に明らかにされるべき課題だ。その点で、別紙の8点については、今後、議論を深めるべきだ。国家公 務員と地方公務員の労使関係は従来から大きく違う。例えば、管理運営事項についても、労使間の交渉・協議で一致点を見いだすことが住民の利益につながって いる。人事・機構、組織の改廃、さらには政策決定上の提案などについて、労使交渉をおこなってきたからこそ、住民の願いを行政施策へ反映させ、労働組合に よるチェック機能も働き、ひいては地方自治の発展に寄与してきた。また、職員の範囲も、地方の場合は、非常勤職員の任用形態が細分化されており、任期の定 めのない短時間一般職員制度への一元化なども検討すべきだ。勤務条件の決定原則では地方公務員法24条の5つの要素をどうするのか。全体像では、民間賃金 調査は使用者がおこなうとしているが、それでいいのか。協約の実施義務では、当局の実行義務と議会の尊重義務が必要だ。第三者機関について、不当労働行為 については、どこが担うのか。不当労働行為以外の代償措置、人事行政の公正性をどう確保するのか。検討の基本的視点として、従来の労使関係を狭めてはなら ないし、拡充する観点で実効ある協議を求める」とのべました。

 全教の今谷書記長は、「教員の勤務条件は都道府県条例により定められているが、給料表は全人連がモデル給料表を示し、また、諸手当も 含めて義務教育費国庫負担法等によって、その枠組みが決まっている。ここ3年間つづいた義務教育等教員特別手当の引き下げも、国の予算段階での削減であ り、都道府県での交渉の余地はほとんどなかった。ILOユネスコの教員の地位に関する勧告では、教員の給与と労働条件は、教員団体と使用者の間の交渉過程 を通じて決定されなければならないとされており、国段階における中央交渉や協議が必要だ。また、都道府県における勤務条件決定に関する協約締結を前提にし て、権限ある当局を明確にすべきだ。特に、市区町村立学校の場合、給与は都道府県教委が権限を持ち、服務監督権限は市区町村教委が権限を持っている。その うえで、学校長にも勤務条件に関わる多くの権限が委譲されている。今後の検討の中で、勤務条件決定についての交渉当事者を明確化すべきだ」と指摘しまし た。

文部科学省も協議の場に同席するよう求める

 消防職員ネットワークの原田会長は、「東日本大震災にあたっては、緊急消防援助隊という ことで、福島原発を含めて、被災地へ出動した。日常的には自治体の消防活動を住民の安心・安全を守るために行っている。住民の安心・安全を守る消防行政は 労使対等の話し合いがあってこそ、消防活動を改善することができる。そのためには団結権は不可欠だ。昨年、消防職員の団結権のあり方をめぐって検討会が行 われた。我々としては、団結権を回復して団体交渉できる制度を求める。消防委員会はあるが、団結権とは違うものだ。検討会の最終報告では、団結権を回復し ても問題はないとの結論であったと認識している。今回の検討でさらに前進させるべきだ」と求めました。

 最後に全教の北村委員長から、「今後、早期に、総務省を中心とした交渉・協議が開始されるべきだ。その際は、適宜、文科省が同席する よう要望する。園田内閣府大臣政務官も、文科省も含めて考えていかなければならないだろうし、要望は関係政務三役にしっかりと伝えたいとの見解が表明され ている。今後の交渉にあたっては、政府の結論ありきで、これを組合に押しつける立場ではなく、自律的労使関係制度を構築するにふさわしく、合意に至る交渉 をおこなう立場からの対応を政府に強く要請したい。教員の地位に関する勧告では、『協定上の合意につながる社会的対話である』ことをあらためて明確にして いる。地方公務員の労働基本権のあり方についての交渉・協議こそ、憲法と国際基準に則った『意味のある社会的対話』がおこなわれるべきであるという見解を 表明させていただく」と強く要望しました。

 以上の意見を受けて、鈴木克昌総務副大臣は、「文科省が同席する件は、本日は総務省を中心に場の設定をさせていただいたが、おっしゃ るとおりだ。今後どうするか、ご意見をふまえて考えていく。みなさんの長年の思い、何としても良い方向へというのは、私どもも基本的には同じ考えである。 今後も限られた時間の中でご意見を伺ってすすめていく」と述べました。

以 上


【別添:当日提出資料】

地方公務員の労働基本権の在り方に係る基本的意見


2011年5月10日
全労連公務員制度改革闘争本部
日本自治体労働組合総連合(自治労連)
全日本教職員組合(全教)
消防職員ネットワーク


 4月5日に、国家公務員制度改革推進本部で決定された「全体像」では、地方公務員の制度について、「地方公務員制度としての特性等を踏 まえた上で、関係者の意見も聴取しつつ、国家公務員の労使関係制度に係る措置との整合性をもって、速やかに検討を進める」とされています。さらに、同日の 推進本部会議では「総務省ならびに総務大臣が中心となって検討を進める」ことが確認されています。地方公務員の労働基本権のあり方に関する検討にあたって は、公務・公共の役割を拡充させ、住民の福祉の増進と子どもたちの学ぶ権利を保障する観点から、地方公務員と教職員の特性を踏まえた検討を行うことが重要 であり、以下の基本的な考え方と論点を意見として表明します。  

 なお、今後の検討にあたっては、早急に交渉を開始していただき、合意に至る交渉・協議が誠実に行われることを要望するものです。

1 基本となる考え方

○憲法原則に立つ基本的人権としての労働基本権の全面的な回復を行うこと。その際、ILO条約や「教員の地位に関する勧告」などの国際基準に則った検討を行うことが必要であること。

○地方公務員の労働基本権回復についての制度検討にあたっては、従来からの地方での労使関係の実態と教職員に係る特性を踏まえ、憲法28条を基本に労働組合法や地方公営企業法、地方公営企業の労働関係に関する法律などを出発点に検討を行うべきであること。

○消防職員の団結権は、協約締結権とともに回復すべきであること。

○争議権について検討すべきであること。

2 個別の論点

(1)協約締結権を保障する職員の範囲について

@ 非現業一般職員(非常勤職員をふくむ)は「労働組合」を結成できるものとする。地方の場合、非常勤職員の任用形態として、3条3項、17条、22条に細分化されている。

 とりわけ3条3項の任用が置き去りになるもとで、「任期の定めのない短時間一般職員」制度への一元化も検討すべきである。

A 警察職員・消防職員にも団結権・団体交渉権及び協約締結権を認める。

(2)労働組合結成の要件

@ 労働組合の結成の手続きなどは、労働組合法と同様とする。

A 憲法・労組法・地公労法が保障する現在の地方公務員の制度を踏まえつつ、「結社の自由」の考え方から、「全体像」に示された「構成員の過半数」など事前認証の要件は設けない。

(3)団体交渉の対象事項

@ 「管理運営事項」を理由にしたものであっても、それが労働条件に関連するかぎり、団体交渉の対象事項とすることを法定化する。

(4)団体交渉の当事者

@ 労働組合の中央組織との中央交渉・協議のあり方を制度化すべきである。

A 国家公務員と制度の異なる地方公務員・教職員の特性を踏まえて検討すること。

(5)勤務条件の決定原則にかかわって

@ 基本的には、労働協約締結権と議会権限を調整することは、公務員の地位の特殊性からやむを得ないが、その場合でも労働協約締結権は憲法28条に根拠を置くものであり、議会による一方的な労働条件決定や勤務条件詳細法定主義を排除すべきである。

A 交渉・協約できる事項は可能な限り広範囲に定め、首長や任命権者ごとに権限を明確にすること。

B 平等取り扱いの原則など、現行の公務員制度で規定されている諸原則にかかわって、均衡の原則について地公法24条に示される5つの要 素は考慮すべきだが、自律的労使関係を確立するうえで、労働条件決定基準として、法令上明記する必要はないと考える。その場合、生計費や賃金の全国的水準 などを考慮すべきかどうかは労使交渉にゆだねたうえ、民間給与、および、国や他の地方自治体での状況にもとづいて、労使の交渉によって決定すべきであると 考える。

 地公法58条についても同様の考え方とする。 

 C 特に、学校教育法に規定する教職員について、給与に関する特例法や教育公務員特例法などの特別法の存在とともに、給与の国庫負担が法定されていることなど、その特性をふまえた検討が行われるべきである。

(6)団体協約の効力

@ 勤務条件法定主義(憲法27条)との関係での財政の民主的コントロールの観点から、地公労法第10条の規定をふまえて検討することが適当と考える。

A 行政サービスの受益者たる住民および議会と協約締結権との関係では、財政の民主的コントロール以外に、地公労法第8条の規定をふまえて検討することが適当と考える。

B 地公法24条6項の勤務条件条例主義は、人事委員会勧告制度を廃止し、労使交渉によって労働条件を決定するシステムへの変更をふまえて、地公企法38条「職員の給与の種類及び基準は条例で定める」とすることが適当と考える。

(7)第三者機関について

1)人事委員会の役割について

@ 人事院の廃止にともなって、地方人事委員会の廃止も検討対象となる。

 その際、公務員の公平・中立性の確保や民主的な公務員制度運営のため、使用者から独立した人事行政に関わる第三者機関、三権の保障されていない職員に勧告などをおこなう第三者機関が必要である。

A 市町村の公平委員会については、単独または連合での第三者機関の設置、都道府県の第三者機関への権限委任など検討すべきと考える。

B 協約締結権を制約する職員の代償措置について、「全体像」を踏まえて検討をすすめる必要がある。

2)あっせん・調停・仲裁の調整機関

@ 不当労働行為の救済措置、交渉不調の場合の調整機関のあり方や機能の検討にあたっては、どこが担うのかを含めて検討すべきである。

A 複数の労働組合が並存する場合には、それぞれの組合に団体交渉権・協約締結権を保障し、団体交渉不調の場合には、それぞれの組合に調整手続きの申し立てを認めることを前提にした制度設計を検討すべきである。

(8)消防職員の団結権、協約締結権に関わって

@ 団結権回復はもちろん、協約締結権など当面一般職地方公務員並みの権利を回復すべきである。

(9)団体交渉の手続きに関わって

@ 「職務専念義務」を削除するとともに、時間内労働組合活動については労使協定で決定すべきである。

A 在職専従制度について、上限廃止とともに、団結権保障の観点から上部団体役員も含むものとすべきである。

以 上