「公務員制度改革」闘争ニュース NO.109【2011年3月10日】

人事行政の公正性をどのように確保するのか

= 「全体像(案)」をめぐって推進本部事務局と交渉 =


 全労連公務員制度改革闘争本部(以下、闘争本部)は10日、公務員制度改革の「全体像(案)」をめぐって、8日に引き続いて国家公務員制度改革推進本部事務局(以下、推進事務局)と交渉しました。  この日の交渉では、「全体像(案)」のうち、幹部職員人事の一元管理や雇用と年金の接続、新たな人事行政関係機関の体制など、自律的労使関係制度以外の部分を中心にして、推進事務局の見解を質しました。

本人の意にそわない降任もおこる「幹部職員人事の弾力化」

 推進事務局との交渉には、闘争本部から、黒田事務局長、猿橋(自治労連書記長)、北村(全教書記長)、岡部(国公労連書記長)、蟹澤(全教中 執)の各闘争委員、国公労連から秋山書記次長が参加し、推進事務局は、笹島審議官、村山参事官ほかが対応しました。  はじめに、幹部職員人事の弾力化について、「全体像(案)」では、廃案になった昨年の改正法案と同様に、事務次官から部長級までを「同一の職制上の段階 に属するとみなす」としています。こうしたことがおこれば、転任と称して幹部職員の降任がまかり通ることとなり、本人の意に反する降任は、公務員の身分保 障を侵害することにもなります。

 結局は、幹部職員への管理統制と時の政権党への政治的な従属が強められることとなり、中立・公平性が確保されなくなるという 問題があります。  この点を指摘し、事務次官、局長、部長などを「同一の職制上の段階」としないよう求めましたが、推進事務局側は、「今回の法律で、事務次官から局長・部 長への異動を店員とみなす規定を設ければ、降給には該当しないと解される。事務次官から局長・部長に異動しても、なお指定職俸給表が適用されるなど、給与 上の一定の処遇は確保されることから問題はない。また、標準職務遂行能力は、現行の部長の標準職務遂行能力を基礎とする方向で検討する予定だ」とのべまし た。

 闘争本部側は、「降任と転任と言いくるめることは、納得できない。部長クラスを基礎にして標準職務遂行能力を定めるとして も、事務次官や局長は、部長級とはやっている仕事の内容や重要性が基本的に違う。事実上の降任となる不利益変更を規制するためのルールづくりが必要だ」 「昨年の国会審議では、人事院総裁が、『そうした人事が降任人事と受けとめられる可能性は残る。人事評価の公正性が担保されるとともに、全体として納得性 のあるものが大事だ』と答弁している。公正性は担保できるのか」とただすと、推進事務局側は、「公正な手続きのもとで適格性審査をおこない、官邸との任免 協議による複数の視点によるチェックが働く仕組みや、人事公正委員会の人事行政改善勧告の対象ともなり、人事の公正性とのバランスが考慮された仕組みと なっている」とし、さらに、「異動が著しく合理性を欠くものであれば、不服申し立ての対象となることはあり得る」との見解を示しました。

 また、採用試験において、「総合職試験」を新設するとともに、幹部候補者育成過程を置くことは、現行のT種キャリアの特権的 な人事運用を制度化することでしかなく、新たな「特権階層」を生み出すこととなることが懸念されます。この点を指摘すると、推進事務局側は、「幹部候補者 育成過程は、内閣総理大臣の定める選定基準にしたがい、採用試験の種類にはとらわれず、人事評価等にもとづいて退所者を選定するものだ。指摘されるような 特権的な運用の制度化は考えていない」としました。

社保庁職員の大量解雇をふまえて分限回避努力義務を明らかにせよ

 全体像(案)では、組織の改廃等の場合において離職を余儀なくされることとなる職員に対して、内閣総理大臣(公務員庁)が就職援助をおこなう としています。  これについて闘争本部側は、「社会保険庁職員のように、まともな再就職援助もなく、仕事がありながらも500人以上が分限免職された例がある。人事院の 公平審理でも、政府による分限回避の努力がなかったことが明らかになった。まず、政府としての分限回避努力義務を明らかにせよ」と求めました。

 これに対して、推進事務局側は、「民間の整理解雇にあたる組織の改廃等による分限免職については、政府も分限免職を回避する ため努力する必要があると考える」とし、これに対して、「民間の解雇4条件に相当する政府の努力義務を明確にすべきだ」と求めると、「民間労働法制におい ては、解雇は原則自由であることを前提としたうえで、多数の裁判例の積み重ねで確立した解雇権濫用法理が労働契約法に規定されている。公務員法制では、本 人の意に反する免職の事由が法律上規定されている」として、民間と公務の法制上の違いをのべるにとどまりました。

 闘争本部側は、「45年ぶりという分限免職が実際に強行され、しかも、500人以上の職員が対象となって首を切られるという きわめて重大な事態に際して、新たな法律がどのように応えようとしているのかが重要だ」と追及すると、笹島審議官は、「組織の改廃等にともなって、分限免 職はありうる話だ」などと一般論にすり替えました。

行政の公正・中立性を確保するための措置が必要だ

 前回の交渉でも問題となった人事行政の中立・公正性を担保する機能について、推進事務局側は、「使用者が一方的ではなく、労使交渉をふまえ、 人事・給与制度の総合的かつ主体的な見直しをおこない、国民への説明責任を果たすことによって公正を確保することが基本だ。一方、人事公正委員会は、必要 があれば、内閣総理大臣への意見の申出や関係大臣への改善勧告が可能であり、これらにより、人事行政の確保がはかられる」と回答しました。

 闘争本部側は、「自律的労使関係制度は、労働条件を労使で決めていくることが原則だが、この制度では労使が対等にならない。 行政の公正・中立性を確保するために、規制や保護の措置が必要だ」と求めましたが、「労使間の交渉で決めるとともに、独立性の高い第三者機関としての人事 公正委員会のチェック機能が働くこととなる」としました。  これに対して、闘争本部は、「前回の交渉で、任用や分限のルールは労使間で決めることが基本であり、公務員庁が担えば、労働組合のチェック機能の働くと の回答があったが、実際には、労働組合には争議権もなく制限も設けられているため、かならずしも対等とは言えない。そのことを補うために、試験制度や任免 などは、独立した第三者機関がおこなうべきだ」とせまりましたが、推進事務局側は、「公務員法制のなかで自律的労使関係を構築していくうえでの制限はある が、そのなかでも労使で決められることは労使間の話し合いができるように、公務員庁に権限を移している。先日は、移しすぎるとの意見もいただいたが、どこ で切り分けるのか難しい話だ」と前回と同じ内容を繰り返しました。

「給与水準の引き下げ」を前提とした議論は認められない

 定年まで働き続ける環境の整備について、闘争本部は、高年齢職員の給与抑制を前提とした検討をおこなわないよう求めましたが、推進事務局側 は、「すでに本年度から必要な措置を講じてきているが、今後、自律的労使関係が構築され、給与制度の見直しをはかるなかでも引き続き検討していくことを盛 り込んだものだ」とのべたもとから、闘争本部側は、「定年延長の最大の課題は、年金支給年齢開始の期限が決まっており、最大のポイントは60歳代の給与水 準にある。民間では、出向や嘱託などで賃金が下がるが、年齢で区切った賃下げはごくわずかだ。制度化するにあたっては、合意と納得のもとですすめよ」「全 体像(案)では、『給与水準を引き下げつつ』としている。自律的労使関係による労使間の交渉もはじまっていないのに、給与引き下げを前提としている点は認 められない」と厳しく追及しました。

 これに対して、笹島審議官が、「給与に関する議論は不可欠だ。現在、人事院が意見の申出にむけた検討をすすめているが、その こともふまえて議論をすすめる。民間では定年延長を導入しているところは少数であり、公務が先行する形となり、国民に対して方向性を示す必要がある」との べたことから、闘争本部は、「給与のあり方につて議論することは否定していない。しかし、給与水準引き下げが議論の出発点となることは、認められることは できない。少なくとも、この文言は削除すべきであり、給与のあり方を検討するとのすべきだ」と強く主張しました。

 笹島審議官は、「国民の理解を得るためにも、政府としての方向を示す必要がある」などとし、高齢層の給与引き下げの必要性を あれこれとのべはじめたことから、闘争本部側は、「そうした議論は、自律的労使関係が確立されたもとでの労使交渉でやればいいことだ。『全体像』のなか で、水準引き下げが示されることが重大だ」と主張し、平行線をたどりました。  最後に黒田事務局長は、「推進本部決定までの時間は限られているが、本日の交渉で指摘したことは誠意を持って検討していただきたい。とくに、給与引き下 げに関する部分は再検討するよう強く求める」とのべて、交渉を終えました。

以 上