「公務員制度改革」闘争ニュースNO.97【2010年6月1日】


参議院内閣委員会で公聴会を開催

= 有識者3名がそれぞれの立場から問題点を指摘 =


 参議院内閣委員会は5月31日、公務員制度改革関連法案にかかわる公聴会が開かれました。公聴会では、政策研究大学院大学の飯尾潤教授、国際基督教大学教養学部の西尾隆教授、東京大学大学院教育学研究科の山本清教授の3氏が公述人として出席し、意見をのべました。

 公聴会の開催は、法案採決の条件となるものですが、当初、準備されていた内閣委員会と総務委員会との連合審査会は、民主党などによる「郵政改革法案」の衆議院本会議での採決強行もあって、開催の見通しがたっておらず、審議の行方は流動的です。 将来的には公務員の給与、定員のあり方を見直すべき

 政策研究大学院大学の飯尾教授の公述では、幹部人事の内閣による一元管理について、「公務員の人事が公正・中立であるべきことは当然だが、幹部になると一定の政治的な応答性が求められ、メリットシステムと政治的応答性のバランスをどうとるのかという難しい問題がある。その点で、今回の法案で、これまで法律が定めてこなかった仕組みができた点が良かった」と評価しました。そのうえで、事務次官から部長級までを職制上の同一の段階とみなすという方法については、「非常に差のある職位を同一の職制と考えることになると、人事が恣意的になるのではないかという心配も出てくる」と指摘しました。

 そのことにかかわって、「ある局で特定の法律の改正案などを作成する場合に、幹部職の中にその法案に対してより優れた知識を持つ人が出てきた場合は、局長を交代することも一つの考え方である」として、法案がそうした場合を想定しているとの見方を示しました。

 飯尾教授は、将来の公務員制度改革の課題について、「公務員の給与、定員のあり方を見直していくべきであり、この法案が通った後、次の法案で処理されるべきだ」と主張しました。 また、「改革の全体像をつくるために、もう少し改革のスピードを上げる必要がある」として、「与党と野党の法案は、原則的に言うと非常に似ており、与野党が歩み寄って、次の法案の提出にむけて、できるだけ早く議論を積み重ねるべきだ」とし、最後に、「誰が政権を取っても、公務員が安定した制度のもとに置かれることは非常に重要だ。与野党の合意の上でこうした改革は、どんどんすすめられることを期待する」と意見をのべました。

日本の公務員数は世界と比べて驚くほど少ない

 国際基督教大学の西尾教授は、はじめに、「08年の公務員制度改革基本法は、真の議院内閣制を確立するための公務員制度を想定しており、大きな前進だった。この基本法を起点として、これまでのさまざまな議論の成果を生かしつつ、できるところから一歩ずつ5年、10年後を見据えながら改革を計画的にすすめていくべき」と今後にむけた期待をのべました。

 そのうえで、幹部職員の一元管理については、「官僚制の問題点として、省庁間の割拠性と調整機能の弱さが指摘されてきたが、この一元管理が実現すると、この課題を克服する大きな一歩となる」と評価しつつ、「幹部職員が出身省庁との関係をどう断ち切ることができるのかがこれからの重要な課題となる」とし、「基本法で提案されている幹部候補育成過程の整備とともに、採用時の一元化を近い将来の課題として検討すべき」と指摘しました。

 また、事務次官その他を同一の職制上の段階に置くことに対して、「やや無理がある。業務内容や責任の程度から見ても、次官と局長、部長を同一の職制上の段階とは呼びにくい」と問題点をあげたうえで、「降任人事にあたって、政治性や恣意性が入らないように、明確な抑制的なルールを設けるべきだ」と主張しました。また、自民党などが提出している対案については、「一気に次官から部長までを特別職にすることには疑問を感じている。事務次官のみを特別職にするだけで、内閣による主導は確保できる」と問題提起しました。

 さらに、天下りについて、「一気に根絶するのは困難だ。できるだけ透明性を高め、その温床となっているムダな組織や事業を整理し、より公正に人材の社会的活用が可能となるような工夫が必要だ」と指摘しました。

 西尾教授は最後に、「日本の公務員数は、国際比較のデータを見ても、驚くほど少ない。そのことから来るストレスが、公務員の心と体をむしばむことが危惧される。政治が、公務員の負担の重さについて、真実を国民に伝える努力も必要ではないか」と、公務員削減が声高に主張される国会審議に一石を投じました。

労働三権を付与して、人事院の中立的・専門的機能の活用を

 東京大学大学院の山本教授は、公務員制度改革に求められる視点として、「財政危機のもとで、財政執行の効率化ということについても、公務員制度改革を通じて貢献していくべきだ」とし、「国民に対して、より効果的、効率的な行政サービスを提供するために公務員制度改革が必要だ」と主張しました。

 また、幹部職員の人事管理一元化では、「公正であることや、中立性ということが非常に大きな問題であり、公権力の行使をともなう点からも、それに対する一種の担保として、どのように民主的な統制をしていくのかということを忘れてはならない」とのべました。

 政治主導ともかかわって、山本教授は「政治家と官僚の分担関係をどのようにしていくのかが、基本法や今回の法案を見てもなかなか見えてこない」と指摘し、「政策の立案、分析、助言の機能など官僚としての能力は低下している。官僚のシンクタンク的機能が低下していった結果が、国力の大きな減退につながっているのではないか」との考え方を示しました。

 労働基本権については、「原則的に三権を付与すべきだ。同時に、人事院の中立的、専門的機能をもっと活用した方が良いのではないか」と指摘しました。また、公務員総人件費削減にかかわって、「人件費を2割削減しても、国の総予算の2.5%に過ぎない。これを削減するだけでは現在の財政改革は達成できない。必要なことは、人件費もふくめた総コストの削減が重要だ。行政の執行コストをどうやって減らすかということのなかで人件費削減を位置づけるべきだ」と主張しました。

以 上