「公務員制度改革」闘争ニュースNO.91【2010年4月23日】
連休をはさんで法案審議が重要局面に
= 参考人質疑で専修大学法科大学院・晴山教授が意見陳述 =
国公法等改正法案など公務員制度改革関連法案は、衆議院内閣委員会での審議がつづいています。4月21日には、内閣委員会・総務委員会による連合審査が配置され、22日には参考人質疑がおこなわれました。
28日には中央公聴会の開催が決まっており、与党は、連休中の30日にも委員会を開く構えを見せています。今後、与野党間の修正協議も浮上することも予想され、公務員総人件費削減の主張が繰り返されるなか、引き続き法案審議を監視していく必要があります。
22日の参考人質疑には4人が意見陳述に立ち、そのなかで、全労連闘争本部の「労働基本権プロジェクトチーム」の一員であり、民主的公務員制度確立にむけた政策面での助言をいただいてきた専修大学法科大学院の晴山一穂教授が意見をのべました。
以下、発言の要旨を掲載します。
人事評価の客観性・公正性が担保できるのか
今回の政府の国公法等一部改正法案について、3点にわたって問題点をのべる。
1点目は、幹部職員人事の適格性審査の問題点である。法案では、内閣官房長官が、内閣総理大臣の委任を受けて、幹部職員や各任命権者の推薦した者及び公募に応募した者について、標準職務遂行能力の有無を判定するために適格性審査を行うこととされている。この点に関わって、幹部職員の適格性をどのような方法と基準で評価するのか、評価の公正・中立性が確保されるのかという問題がある。
現行国公法では、平等取扱の原則(27条)、成績主義の原則(33条1項)、身分保障の原則(75条1項)をさだめている。国公法では、事務次官を含む幹部職員は一般職に属しており、3つの原則は、一般の職員と同様に、幹部職員に対しても同じように適用される。これらの原則の適用を除外するためには、その職を特別職にして国公法の適用を外す必要があるが、幹部職員は特別職ではなく一般職に属している。
以上の点を踏まえるならば、幹部職員の人事は、とりわけ任用の根本原則である成績主義の原則にのっとり、客観的な基準に基づいて公正な人事評価を踏まえて行われなければならない。現在の国公法は、職員の人事評価は標準職務遂行能力に基づいて行うとしているが、現在の事務次官、局長、部長の標準職務遂行能力を見てみると、非常に抽象的な内容となっており、これまで各任命権者が行ってきた人事評価を、政治家である内閣官房長官が果たしてどこまで踏み込んで行うことができるのか、また、その客観性・公正性が担保できるのか大きな疑問だ。
「幹部職員人事の弾力化」で身分保障・成績主義がさらに後退
2点目の問題は、「幹部職員人事の弾力化」で、法案が、事務次官、局長、部長を「同一の職制上の段階」に属するものとみなすこととしている点だ。現在は、「標準的な官職を定める政令」で、事務次官、局長、部長の3つの職は、職制上の段階として明確に区別され、標準職務遂行能力も、それぞれ別に定められている。本法案を実施するには、政令を改正し、事務次官、局長、部長を同一の職制上の段階に属する官職に一本化し、あわせて、事務次官、局長、部長ごとに定められている標準職務遂行能力を幹部職員の標準職務遂行能力として1つに統合する必要がある。これでは、いまでさえ抽象的な標準職務遂行能力の内容が一層抽象的なものになり、人事の客観的基準としてはほとんど機能しなくなる恐れがある。
また、現在は、事務次官から局長・部長への人事は、公務員法上の不利益処分である降任に当たることになり、身分保障の原則や不服申立・行政訴訟による救済の対象になっている。これら3つの職を「同一の職制上の段階」とみなすということになれば、事務次官から局長などへの人事は降任ではなくなり、不利益処分に伴う身分保障が及ばなくなる可能性があり、幹部職員にも適用される身分保障や成績主義がさらに後退することが大いに危惧される。
官民癒着の温床となる「天下り」を根絶できるのか
3点目は、国家公務員の退職管理に関わる改正の問題点だ。法案は、07年の国公法改正による再就職規制を前提とし、新たに民間人材登用・再就職適正化センターと再就職等監視・適正化委員会を設置するとしている。
07年の改正前の国公法は、天下りを原則禁止し、人事院の承認があるときだけ例外的に営利企業への再就職が許されるという建前があった。特殊法人を対象外にしたことや、退職後2年間に限られているなど、さまざまな問題はあったが、少なくとも原則禁止という建前に立っていた点で、官民の癒着を防止するという観点から重要な意義を持っていた。この原則が廃止された07年の国公法改正自体が問題を持っていたが、今回の法案においても、この問題が解消されていない。
さらに、今回の法案では、再就職等監視・適正化委員会が「公務の公正性の確保に支障が生じない」と判断して承認したときは、再就職への規制が適用除外とされ、在職中の求職活動などが認められる。「公務の公正性」の判断という重要な役割から、委員会の中立性・独立性が十分に確保されるのかが重要な問題となってくるが、法案では、この委員会は、「中立公正の立場で独立して職権を行使する第三者機関」とされ、任命には両議院の同意が必要とされている。人事院と比較して、はたしてどこまでその中立・公正さや、独立第三者性が担保されうるのか疑問が残る。天下り規制の長い経験をもち、戦後の行政機関の中で最も中立性・第三者性が強い行政委員会として、その独自の地位を確立してきた人事院に権限をゆだねるべきではないかと考える。
全体を通して危惧されることは、幹部職員に限ってではあれ、成績主義、人事の公正の原則、身分保障といった戦後の公務員制度の基本原則が形骸化されることになる点だ。もしそういうことになれば、行政の中枢を担い、政策決定にも重要な役割を担う幹部職員の人事に、政治的人事や恣意的人事が持ち込まれることになり、国民の立場から見て、行政のあり方を歪めることにつながる点を危惧している。
現在の国公法は、憲法73条4号に基づいて、「公務の民主的かつ能率的運営」(国公法1条)を確保することを目的として定められた法律であり、今回の改正法案は、こうした国公法の根幹に関わる重大な問題点を持っている点を最後に指摘したい。
以 上