「公務員制度改革」闘争ニュースNO.62【2008年6月6日】

公務員制度改革基本法が成立

= 労働基本権回復のたたかいは新たな局面へ =


 国家公務員制度改革基本法は、6日午前に開かれた参議院本会議で、自民・公明・民主・社民など各党の賛成多数により可決、成立しました。法案には、共産党、国民新党など13名の議員が反対しました。

 焦点となった労働基本権回復の課題は、協約締結権の保障にむけて政府原案が修正はされたものの、ILO勧告が繰り返し指摘した争議権や消防職員・刑務所職員の団結権には触れられず、全労連の要求から見て不十分さを残しました。

 現在、スイス・ジュネーブで開かれているILO第97回総会では、条約勧告適用専門家委員会で、第87号条約(結社の自由)をめぐる日本案件として、公務員の労働基本権問題が議論されています。

 日本の公務員の労働基本権制約が世界的にも問題にされるなかで、基本法の成立をふまえ、協約締結権をはじめとする権利の拡充へたたかいの新たな前進が求められています。  全労連「公務員制度改革」闘争本部では、別掲の本部長談話を発表し、労働基本権回復をはじめとする民主的公務員制度の実現にむけた決意を明らかにしました。

労働基本権回復に向けた早急な具体的検討を求める

〜 国家公務員制度改革基本法の成立について(談話) 〜

2008年6月6日
全労連・公務員制度改革闘争本部
本部長 小田川義和

1.本日、国家公務員制度改革基本法(以下、基本法)が自公民3党などの賛成多数で可決、成立した。   法案の審議入りが大幅に遅れたうえ、衆院における自民・民主の修正協議によって、国会の場では実質的で十分な審議がなされたとは言いがたく、国民的な視点での改革の方向性を示すものとはならなかった。

  焦点の一つであった労働基本権に関しては、「政府は、協約締結権を付与する職員の範囲の拡大に伴う便益及び費用を含む全体像を国民に提示し、その理解 のもとに、国民に開かれた自律的労使関係制度を措置するものとする」と修正され、政府原案の「検討する」から一歩踏み込んだものとなった。しかし、団体交 渉権や争議権についての具体的措置について全く言及しておらず不十分さは改められていない。

2.基本法では、内閣官房に「内閣人事局」を新設し、官房長官による幹部人事案をもとに閣僚が首相らと協議して任免を行うよう にすること、キャリア制度を恒久化する「総合職」「一般職」「専門職」に分けた採用試験で幹部候補を育成する仕組みの導入、重要政策の企画立案で首相を補 佐する「国家戦略スタッフ及び政策スタッフ」の官邸配置、国の行政機関の内外からの人材登用などの具体化を求めている。

  公務員制度改革は、国の役割の重点化や歳出・歳入一体改革、構造改革の総仕上げとしての道州制導入・地方分権改革等と一体 的に進められてきたように「この国のかたち」改革の中心に据えられている。その点で、政治任用の拡大や幹部人事の内閣統制・一元管理は、公務員の政治的中 立性を損う懸念があり、官民人材交流の推進によって公務員が「全体の奉仕者」から「財界・一部企業の奉仕者」に変質させられる危険性が高まるなど、基本法 には重大な問題点があることを改めて指摘したい。

3.成立した基本法は、5年以内に「改革」を行うために必要な法制上の措置を3年以内(内閣人事局に関わっては1年以内)に講 ずることとされており、今後はその具体的検討への対応が求められることとなる。労働基本権について、担当大臣は「3年以内の法案提出」「労働組合の意見反 映」について国会答弁で明言している。政府は、ILOの再三にわたる勧告にも誠実に応える立場で、全労連をはじめとした関係労働組合の代表による協議の場 を設定すべきである。

 全労連は、公平・公正・効率的な行政の確立と民主的な公務員制度の実現に向け、引き続き運動を強める決意である。1948年 の旧国公法改悪によって労働基本権が剥奪されて60年、公務労働運動の新たな局面で、行政民主化のとりくみを公務の内外で強め、基本法の不十分さの是正を 求めていく。

以  上
(資料:参議院内閣委員会で採決された附帯決議)

国家公務員制度改革基本法案に対する附帯決議

2008年6月5日・参議院内閣委員会

 政府は、行政の運営を担う国家公務員一人一人の職員がその能力を高めつつ、国民の立場に立ち、責任を自覚し、誇りを持って職務を遂行することとするため、国家公務員制度改革を推進するに当たり、次の事項に万全を期すべきである。

1、国家公務制度改革の基本理念に、「男女共同参画社会の形成に資する」ことを加えたことを念頭に置き、今後、所要の措置を講ずること。

2、政治主導を強化するという本法案の趣旨にかんがみ、国家戦略スタッフ及び政務スタッフについては相当数の人材を登用し得るように制度設計するとともに、内閣官房副長官、内閣官房副長官補、内閣総理大臣補佐官等の増員についても検討すること。

3、職員、特に幹部職員及び管理職員の任用については、縦割り行政の弊害を排除し、国際社会の中で国益を全うできる人材を確保するため、内閣の人事管理機能を強化し、公募等も活用し、行政機関の内外から多様かつ高度な能力及び経験を有する人材の登用に努めること。

4、幹部職員の任用及び評価に当たっては、本法案の趣旨を踏まえ、任命権者である大臣並びに内閣総理大臣及び内閣官房長官が密接に協議して行うよう努めること。

5、内閣の一元的人事管理機能の強化のための内閣官房への他の行政機関の機能の移管に当たっては、その機能を実効的に発揮させるよう十分に配慮すること。その際、人事院が人事行政に関し担ってきた役割を念頭に置き、人事行政の中立公正性の確保に努めなければならないこと。

6、職員が国会議員と接触した場合の記録の作成、保存その他の管理及びその情報の公開に当たっては、接触内容の性質に応じた適切 な記録の作成、保存、公開等の基準を定め、本制度が実質的に有効かつ円滑に機能し、国民に開かれた公正かつ民主的な行政の推進に資するよう制度を設計する こと。

7、キャリアシステムの廃止が法制定の目的であることを踏まえ、職員の人事管理が採用試験の種類にとらわれてはならない旨の規定を完全に実施するよう最大限の努力を行なうこと。

8、幹部候補育成課程の整備及び運用に当たっては、同課程が現行キャリア制の追認的制度とならないよう配慮し、特にその期間、内容等が硬直的なものとならないよう留意すること。

 また、公務員が憲法第15条第2項に規定する全体の奉仕者であることを踏まえ、課程対象者に特権的意識を持たせるものとならないよう研修等において十分配慮しなければならないこと。

9、官民人材交流の推進等の措置を講ずるに当たっては、公務員が全体の奉仕者であることを踏まえ、その公正性及び手続きの透明性を確保するよう努めなければならないこと。

10、国際社会の中で国益を全うし得る高い能力を有する人材を確保するための措置を講ずるに当たっては、海外における滞在経験あるいは生活経験のみを評価することなく、幅広い視野と長期的な視点を持つ人材を確保し、育成するよう努めること。

11、人事評価に当たっては、所属する各府省間あるいは部門間によって不均等が生じないよう、できうる限り公平に行うこと。

 また、守秘義務違反等に対する懲戒処分の適正かつ厳正な実施に当たっては、公益通報者保護法の趣旨を念頭に置き、行政内部に不祥事が隠ぺいされないよう十分配慮すること。

12、職員に対する各府省の再就職あっせんを行わなくすることに併せ、定年の引き上げ、再任用制度の活用の拡大等、勤務環境を早急に整備すること。とりわけ、定年の65歳への段階的な引き上げについては早急に検討を進め、法制上の措置を講ずること。

13、国民の理解のもとに、国民に開かれた自立的労使関係制度を措置するに当たっては、本法第4条の規定に則りこれを行なうこと。

14、国家公務員制度改革推進本部の事務局長その他の事務局体制を整備するに当たっては、民間人登用を含め公務内外の人事管理制度に関し職見を有する人材の配置に努めること。

15、縦割り行政の弊害を排除するため、各省設置法の体系を見直し、行政組織編成を弾力的に行い得る制度について検討を行うこと。(以上)