「公務員制度改革」闘争ニュースNO.50【2007年10月19日】
団結権、争議権の付与は結論を先送り
= 人勧制度は廃止へ、専門調査会が「最終報告」を発表 =
公務員労働者の労働基本権のあり方を検討していた行革推進本部専門調査会は、19日に会合を開き、最終的な報告を取りまとめました。
報告は、公務員の労働協約締結権を新たに認め、第三者機関による勧告制度を廃止したうえ、労使の交渉によって賃金・労働条件を決定できる制度が必要としています。
その一方で、3度にわたるILO勧告でも日本政府に改善を求めていた争議権や、消防職員・刑事施設職員の団結権の保障については、委員の間でも「意見が分かれた」として、両論併記の形で取りまとめるなど、専門調査会としての結論は見送りました。
このことは、国際労働基準に照らし合わせても不十分であり、「最終報告」は、労働基本権にかかわる全労連の要求に正面から応えたものとなっていません。
専門調査会は、「最終報告」によって議論を終了し、その役割を終えることとなります。今後、「公務員制度改革」の議論とあわせて政府での検討がすすめられ、労働基本権をめぐるたたかいは、新たな段階をむかえたこととなります。
全労連は、100万筆を目標とした「公務・公共サービス拡充、公務職場の働くルールを求める署名」を開始し、引き続き、労働基本権回復など民主的公務員制度の確立にむけてたたかいを強めます。
署名を軸にしながら、当面する「11・28中央行動」をはじめ、秋年闘争から08春闘にむけた運動を盛り上げていくために、職場や地域からのいっそうの奮闘を呼びかけます。
(以下、「最終報告」の概要、および、全労連「公務員制度改革」闘争本部の「見解」を掲載します。)
公務員の労働基本権のあり方について(報告)の概要
行革推進本部・専門調査会
一 はじめに
・改革の方向で見直すという認識を共有して議論し、概ねの合意が得られた事項を取りまとめ
二 改革の必要性と方向性
1 改革の必要性
(1) 行政の諸課題に対する対応能力向上の必要性
・行政課題が高度化・多様化する一方、政策に投入できる資源の増大は望めない
・適切な人事管理を実現することにより、コスト意識を徹底し、公務の能率を向上させることが求められ、そのため労使関係制度等の改革が必要
(2) 責任ある労使関係構築の必要性
・近年、社会保険庁や大阪市などにおいて、不適切な労使慣行が次々と明らかに
・背景には、責任ある労使関係が構築されていない、労使が説明責任を果たす仕組みがないなどがあると考えられ、こうした問題の再発防止と同時に、責任ある労使関係の構築が必要
2 改革の方向性
・総合的な公務員制度改革の一環として、労使関係制度等についても改革に取り組む必要
(1) 労使関係の自律性の確立
・一定の非現業職員について、協約締結権を新たに付与するとともに第三者機関の勧告制度を廃止して、使用者が主体的に組織パフォーマンス向上の観点から勤務条件を考え、職員の意見を聴いて決定できる機動的かつ柔軟なシステムを確立すべき
・一方、労使交渉に伴う費用の増大や、争議行為の発生に伴う国民生活等への影響が予想され、長期にわたる準備も必要であり、こうしたコスト等に十分留意し、慎重に決断する必要
(2) 国における使用者機関の確立
・使用者として人事行政における十分な権限と責任を持つ機関を確立するとともに、国民に対してその責任者を明確にすべき
・その上で、使用者機関が行政全体の組織パフォーマンスを高める勤務条件を職員の意見を聴きつつ構築し、行政の諸課題に対する対応能力の向上等を図るべき
(3) 国民・住民に対する説明責任の徹底
・使用者は公務員の勤務条件等に閲し、国民・住民に対し説明責任を果たすべき
・特に、労使関係については、その透明性を高め、説明責任を徹底して果たすべき
(4) 意見の分かれた重要な論点
・消防職員及び刑事施設職員に対し団結権を付与すべきか否かについて、意見が分かれた
・公務員に対し争議権を付与すべきか否かについて、意見が分かれた
3 改革において留意すべき点
・現行の制約は憲法違反でない旨を判示した全農林警職法事件最高裁判決が判例として定着
・しかしその後、環境も大きく変化しており、判決の指摘する制約理由を改めて検討すると、現行の制約を疲和する余地はある
・但し、基本的制約理由はなくなるものではないから、現行の制約の緩和に当たっては、制約理由を十分に踏まえ、適切かつ合理的な制度的措置を併せて講じることが必要かつ重要
三 改革の具体化にあたり検討すべき論点
・改革の具体化にあたっては、多くの論点があり、集中的かつ慎重に検討を行うことが必要であるとして、具体的な論点を提示
四 終わりに
・本報告は、長年、維持されてきた労使関係制度について、国・地方の双方を対象として、抜本的な改革を提言しているものであり、その実現は、一朝二夕でなしうるものではない(概ね5年程度の期間が必要)
・何より、改革に先立ち、改革の全体像を国民に提示して、その理解を得ることが重要
(以上)
公務員の労働基本権にかかわる「専門調査会」報告について(見解)
2007年10月19日
全労連「公務員制度改革」闘争本部
本部長 小田川 義和
政府の行政改革推進本部専門調査会は、10月19日、「公務員の労働基本権のあり方について」の取りまとめ報告を行った。
報告では、責任ある労使関係構築の必要性や労使関係の自律性の確立を述べて、「一定の非現業職員に協約締結権を付与」することを主張している。この点
は、「労働基本権制約の現状維持」とした「公務員制度改革大綱」(2001年12月25日閣議決定)の枠を越えるものであり、前進的で意義ある報告とは受
け止める。
しかし、今回の公務員労働基本権にかかわる議論の出発点が、国際労働基準への適合を求める我々の要求やILOへの提訴にある
ことからすれば、報告は議論の一通過点にすぎないと考える。また報告は、後述するように、われわれの要求に照らして多くの不十分さや問題のある内容を含ん
でいる。
したがって我々は政府に対し、公務員労働者の労働基本権を全面的に回復することを目標に、全ての関係労働者の参加を保障し、報告でふれる労働協約締結権の早期の具体化と、両論併記部分の問題整理を進めるよう強く求める。
我々が考える報告の不十分さと問題点の主なものは、以下の点である。
一つは、労働協約締結権と一体不可分の関係にある争議権について、賛否双方の主張を列記する両論併記にとどめたことである。また、団結権についても両論併記とし、国内外から意見が強い消防職員や監獄職員への付与に踏みきっていない。
二つに、付与すると結論付ける労働協約締結権についても、「改革に伴うコスト等に十分留意しつつ、慎重に決断する必要がある」
とし、議論を振り出しに戻そうとする「仕掛け」をもぐりこませていることである。協約締結権を付与する職員の範囲や交渉・協約事項にかかわっても、議論の
対立点を列記している。加えて、結社の自由を侵害しかねない「少数組合等の協約締結権の制限」に言及していることは、憲法に抵触する問題点として黙過でき
ない。
三つに、労働協約締結権の付与についても「5年程度の期間が必要」とし、具体化を先延ばしにしようとしていることである。
2000年以降、労働基本権を含む公務員制度改革が議論され具体化される一方で、財政事情も口実にした一方的な賃金引下げや省
庁を超えた配置転換の強要、労働条件不利益変更をともなう独立行政法人への「転籍」、社会保険庁改革に象徴される雇用破壊などが強行され続けている。
民間労使関係であれば、労働者の合意や労働組合との交渉が不可欠な労働条件の不利益変更が、公務では、労働者を無権利状態に置いたままで強行されているのである。
専門調査会の報告では、国際労働基準と調査会議論との関係にまったく触れていない上に、現に国・地方の当局が犯して続けているそのような違法行為への言及も無い。その原因は、偏った委員構成と、当事者の意見反映を軽視した調査会運営の結果だと考える。
キャリア特権制度に象徴される公務の非民主制を解消する上でも公務員労働者の労働基本権回復が不可欠であることを確認し、我々の要求に応えた政府の対応を重ねて求める。
以 上