公務員制度改革にかかわる資料


日本政府の「公務員制度改革」に関する提訴

(2183号案件)に係る「追加情報」

2005年12月13日
全国労働組合総連合(全労連)

【報告の趣旨】

 ILO勧告を無視し続ける日本政府の「公務員制度改革」の経緯と現状について

(1)日本政府が進める「公務員制度改革」に関わって、全国労働組合総連合(以下、全労連)は、2002年3月にILO結社の自由委員会 に提訴(2183号案件)を行い、またもう一つのナショナルセンターである日本労働組合総連合会(以下、「連合」)も2002年3月に同趣旨の提訴 (2177号案件)を行っている。
(2)これら2177号案件、2183号案件に関してILO結社の自由委員会は、2002年11月に「中間報告・勧告」を行い、翌2003年6月にも再勧告を行っている。
 これらの「勧告」に対して日本政府は、今日にいたってもILO勧告を履行しようとせず、労働基本権回復に係る労使協議は2004年11月以降頓挫したままである。
(3)そればかりか日本政府は、労働者の意見を聴取・協議することなく大幅な労働条件の不利
 益変更を押し付けようとする新たな改革を強めている。
 我々は、こうした日本の公務員制度改革をめぐる新たな事態についてILOに追加情報を送るものである。

【追加情報の内容】

1.労働基本権を制約したまま、「公務員の総人件費削減」を進める新たな方針決定


(1)日本政府は、労働基本権を制約したまま公務員の定員・総人件費の削減、公務・公共業
務の民営化・民間化、「能力・成果主義」に基づく人事評価・給与制度の導入など、公務員労働
者の労働条件に重大な影響を与える「改革」を推進しようとする「今後の行政改革の指針」「新地方行革指針」を2004年12月の閣議で決定した。
 さらに、政府は、「経済財政運営と構造改革に係る基本方針2005」(以下、「05骨太方針」)を05年6月に決定し、歳出削減の主要課題に「公務員の総人件費削減」を位置付け、これを具体化する「総人件費改革基本指針」(以下「基本指針」)を05年11月に策定した。
 この「基本方針」は、①国家公務員の総人件費をGDP比で10年以内に半減させる。②国家公務員の5%を5年間で純減させる。③地方公務員についても数値目標を設定して総人件費削減に取り組む。など、公務員の雇用・賃金に重大な影響を与える方針である。

(2)重大なのは、これら一連の政府の方針決定が「労働基本権」の保障を棚上げにしたまま行われたことである。
 これらの方針決定には、日本の大企業経営者で組織される日本経営者団体連合会の代表が深く関与し、中立機関の人事院の総裁も議論に参加してい る。しかし、「労働基本権を制約」されている公務員労働者の代表の参加は一切なく、また公務員労働組合との交渉や協議は一切なされていな。
01年12月の「公務員制度改革大綱」の決定時と同様、労働者の意見聴取・協議が一切われ
ないまま公務員労働者の労働条件の大幅な不利益変更が一方的に決定される事態が繰り返され、公務員労働者の団結権が侵害されつづけている。こうした事態は、政府がILO勧告に従う意思のないことの証左である。

2.政府「方針」に忠実に従った人事院勧告は「労働基本権制約の代償」足り得ない

(1)政府は、総人件費削減の「方針」を決定するだけでなく、これに従う「勧告」を行うよう人事院に再三に渡って「要請」を行っている。しかも、人事院は、この「要請」に忠実に従って「給与制度の抜本的見直し」を伴う人事院勧告を05年8月に行った。
 05年の人事院勧告の内容は、①06年度から、国家公務員の賃金を全国一律に4.8%も下げること、②0~18%もの地域格差をもうける「地域 手当」の創設、③『能力・成果主義』の賃金に転換する「査定昇給」の導入などであり、50年ぶりと人事院が宣言する「給与制度の抜本的な見直し」勧告で あった。
 「給与制度の抜本的な見直し」によって、国家公務員では1800億円、地方公務員では6000億円もの人件費削減となる。また「地域手当」の未支給地域に勤務する国家公務員及び、地方公務員の生涯賃金は、1290万円(人事院試算)も大幅に削減される。

(2)この「給与制度の抜本的な見直し」は、2002年6月に閣議決定した「人事院や地方公共団体の人事委員会等は、地域毎の実態を踏まえて給与 制度の仕組みを早急に見直すなどの取り組みを行う必要がある」とする歳出削減方針や「公務員制度改革大綱」に基づく、能力・業績主義強化の給与制度の導入 方針など、政府の一連の決定に基づいている。
 これらの政府の方針に関わっては、労働者の代表や労働組合の意見は全く反映されてこなかったことは前述のとおりである。

(3)人事院は、「勧告」に先立って国家公務員の労働組合などと「会見」を行ったものの、全ての公務員労働組合の強い反対にもかかわらず、勧告の基本的な枠組みは何ら変更されることなく重要な労働条件の不利益変更を迫る「給与制度の抜本的な見直し」を強行した。
 人事院と労働組合との「会見」は、第278期ILO結社の自由委員会「中間報告」が想定した「参加」の形態ではなく、単なる意見聴取にとどまっている。
 労働基本権制約の代償措置とはいえない人事院勧告制度のもとで、政府の意図に忠実に従った勧告を人事院が行ったこと自体が公務員労働者の結社の自由を侵すものである。

3.中央政府の干渉によって地方公務員の「労使自治の原則」が形骸化している

(1) 地方自治体の公務員の賃金決定は、地方公務員法(24条第3項)により「生計費、並びに国及び他の地方公共団の職員並びに民間事業者の給与その他の事情を考慮して定めなければならない」という原則を定めている。
 同時に、地方人事委員会が第三者機関として「労働基本権制約の代償」として一部自治体(47都道府県・14政令市・1特別区・2市)に設置され「勧告」を行っている。
 これらの勧告も踏まえて地方自治体の当局と地方の公務員労働組合とによる集団的な交渉のうえに合意された賃金、勤務条件を「勤務条件条例主義」にもとづき地方議会で決定するという「地方自治の原則」に則ることがこれまでの基本であった。

(2)しかし、近年、政府は、地方公務員の賃金、労働条件に対して極めて強い介入と干渉を地方自治体に行っている。
 政府は、国と地方自治体の財政的結びつきとも関連させて、毎年、主要な自治体の給与担当責任者や地方人事委員会の責任者を政府が招集し、人事院 勧告や国家公務員の給与への「準拠」や、さらにこれを上回らず、むしろ下回る給与水準の設定を要請する等の形で繰り返し行われている。
 その結果、近年、自治体の財政事情を口実とした地方の人事委員会勧告を無視する給与改定(結社の自由委員会、第328次報告、第2114号案 件)や、勧告に基づかない賃金水準の切り下げが57%の地方自治体で実施されるに及んでおり、人事委員会の機能そのものが政府によって歪められ、地方公務 員の給与水準は国家公務員に比して低下しつづけている。

(3)また、政府は、人事院が05年に行った「給与制度の抜本的な見直し」の勧告に関わっても地方の人事委員会にも「準拠」することを求めるとともに、地方自治体に圧力をかけるなど、「地方自治の原則」や地方公務員の団体交渉に事実上介入する行為を繰り返している。
 さらに、政府は、地方の人事委員会が未だ「勧告」を行っておらず、地方公務員の労働組合と自治体当局の交渉・協議が行われていない段階で、地方公務員の給与の制度を改変する地方自治法の「一部改正案」を閣議決定し(05年9月28日)、国会において法改正を行っている。
 この地方自治法の「一部改正」は、地方公務員に支給される「手当」を規定した条項を一部変更するものであり、公務員賃金を全国一律に4.8%切 り下げすることを前提に「調整手当」を廃止と、あらたに「地域手当」を創設する「改正」であり、人事院勧告への「準拠」を地方自治体に強制する目的をもっ ていることは言うまでもない。
 これによって、地方公務員の賃金の大幅な引下げと「地域手当」の創設による20%近い賃金格差が地方公務員に強制されることとなった。

(4)「地方自治法」の改定が、地方公務員に給与水準の大幅な引き下げを迫る労働条件の不利益変更であるにもかかわらず、政府は、地方公務員の関係労働組合との交渉・協議も行わず、地方自治体での労使の交渉・協議がなされていない段階で「法改正」を強行した。
 こうした経緯は、地方公務員の「労働基本権制約の代償機関」としての人事委員会の存在を無視するものであるとともに、なによりも地方公務員の労働基本権、団結権・団体交渉権への重大な侵害である。

4.ILOに対する要請について

(1)我々は、政府が公務員労働者の労働基本権を保障するための措置も行動もとらないまま労働条件を一方的に切り下げる「給与構造の抜本見直し」や「総額人件費削減方針」を決定したことは、公務員労働者の労働基本権に関わる重大な侵害であると考える。
 第1に、公務員労働者の労働条件の大幅な不利益変更を迫るものであるにもかかわらず、その方針の決定過程や、人事院勧告・人事委員会勧告の決定過程に関係する労働者が真に参加する機会と権利を保障されない状態が放置され続けていることある。
 第2に、「労働基本権の代償」としての人事院勧告・人事委員会勧告は、労働者の意見を何ら反映せず、「使用者たる政府」の要請に忠実に従うものとなっており「労働基本権の代償」たりえないことがいよいよ明らかになっていることである。
 第3に、地方自治体の独立した第三者機関で、かつ地方公務員の「労働基本権制約の代償機関」とされる地方人事委員会や、独自の使用者性を有する 地方自治体に、政府が介入・干渉を繰り返し、国家公務員を対象とした人事院勧告に「準拠」することをもとめることは、地方公務員の労働基本権を二重に侵害 していることである。
 第4に、地方の人事委員会が自らの勧告を行う前に、また、地方自治体と地方公務員労働者の労使交渉が実施されない以前に、地方自治「法改正」を一方的に改定することは地方公務員の労働基本権を侵害したことである。
(2)我々は、以上の点からして、日本政府が「公務員には、労働基本権の制約があるものの人事院勧告制度等の適切な代償措置が確保されている」として労働基本権の制約を正当化してきた政府の主張の根拠が完全に喪失していると考える。
 我々は、日本政府が、労働基本権の保障を棚上げにしたまま、「公務員の総額人件費削減」方針にもとづく様々な労働条件の不利益変更を労働組合と の誠実な交渉・協議抜きに進めている新たな事態の進行のもとで、日本政府がILOの勧告に合致する日本の法改正をすることが一層緊急の課題となっているこ とにかんがみ、ILO結社の自由委員会が、日本政府に対し勧告の即時履行を求める適切、強力な対応を行うことを求めるものである。

以 上