公務員制度改革にかかわる資料


ILO結社の自由委員会第331次報告(第2177号、

2183号案件)にかかわる追加情報提供

2003年9月29日
全国労働組合総連合

Ⅰ. 独立行政法人(IAI)に移管された職員の団結権及び団体交渉権について

(1) 第331次報告では、行政再編にともなう団体交渉権への影響を示すよう求めている(第331次報告パラグラフ552関係)。
 この点にかんして、全労連は、あらためて次の点を主張する。
 第1に、日本政府が、2003年3月31日付の「追加情報」(第四 中間報告において追加情報を求められた事項について)で言及している内容は、単に、法制度を説明しているだけであり、実際に生じた問題には言及していない。

 a) 1948年の国家公務員法改正にともない新設された職員団体登録制度は、職員団体は職員だけで構成することを強制している。その結果、大多数の職員組合は、府省庁別組合として組織され、半世紀以上活動を継続してきたという歴史的な事実がある。
 各府省単位の職員団体の多くは、職種等にかかわりなく、同一府省庁に勤務する職員で構成する単一組合を構成している。そして、研究所などの下部機関毎には、支部あるいは分会を設けることが一般的である。

 b) 勤務条件について、詳細な点まで法令または人事院規則で規定している日本の公務員制度のもとでは、府省の下部機関の長が、労働条 件の決定に関与、決定できる範囲は限定的である。そのことから、単組の支部・分会段階での交渉事項は強く制約され、労働条件決定への参加が十分に保障され ず、かつ発達していないのが実態である。
 独立行政法人化によって、職員団体の分割が不可避になるということは、労働条件決定に参加した経験を持たない支部・分会が、ある日突然、厳しい労使対立の世界に放り込まれることを意味している。

 c) 例えば、文部省職員労働組合は、2001年3月31日までは、文部省本省のみならず研究所、博物館など、同省の下部機関にはたら く事務職、研究職などで構成される単一の職員団体であった。そして、各研究所、博物館の職員組織は、文部省職員労働組合の分会に位置づけられていた。
 2001年4月1日に、それらの研究所、博物館が、それぞれ別個の独立行政法人とされたことから、文部省職員労働組合は、本省勤務職員を組織 する職員団体(行政職部会)と法人毎に設立せざるを得なかった7つの労働組合に分割された。7つの労働組合の内、最大の組織人員は122名であり、最小は 23名に過ぎない。

 d) 2002年7月1日に設立された自動車検査独立行政法人の場合は、より特徴的である。
 同独立行政法人は、自動車の登録、検査事務を行っている国土交通省の下部組織、陸運支局などの事務の内、検査事務のみを分離して、独立行政法人 化を行ったものである。同一の事業所にはたらき、場合によっては机を並べている職員が、かたや国土交通省職員、かたや独立行政法人職員に区分されることに なった。それに伴い、労働組合も分割再編を余儀なくされ、独立行政法人の職員は、事業所単位では数名しか組織できない労働組合を設立せざるを得なかった。

 e) 全労連は、勤務条件決定システムの違いによって、職員団体と労働組合に分離・分割することが当然だとする日本政府の主張を受け入れることはできない。
 制度改変による突然の職員団体と労働組合との分離は、職員団体登録制度を不変のものとする前提で主張されている。今日、日本において進められる 行政組織等の再編は、事務事業の民営化、民間化を伴っており、同一事業所に複数以上の雇用形態の存在を当然視して進められている。
 職員団体は職員だけで構成しなければならないとする職員団体登録制度が存続する以上、民営化、民間化にともなって、職員団体は組織対象人員そ のものが減少し続けることになる。一方で、独立行政法人への移行によって、前述したような交渉の経験を蓄積していない細分化された労働組合が乱立すること も避けられない。これらは、いずれも、労働組合の闘争力を低下させ、ひいては労働者の団結に悪影響をあたえる危険性をもっている。

 f) 行政一般の職員であっても、特定独立行政法人の職員であっても、一般の独立行政法人職員であっても、いずれも団結権が保障され ている。しかし、それらの職員が同一の職員団体を選択することは簡単ではない。それは、本年3月18日付で、全労連が提出した「追加情報」でも言及したよ うに、職員団体登録の抹消によるリスク(例えば、専従役員の許可の取り消しなど)を覚悟しなければならないからである。
 職員団体登録制度は、従来は同一の組織員であったものを強制的に分離させ、労働者の団体選択の自由を制約する効果を発揮している。全労連が、現行公務員制度の問題点の一つとして、繰り返し指摘しているのは、この点である。

(2) 第2に、独立行政法人の運営実態とかかわって、団体交渉権が事実上制約されている実態を報告する。

 a) 独立行政法人は、その長が主務大臣の任命とされ、中期目標が主務大臣から付与され、その目標達成のための中期計画についても主務 大臣の認可が必要とされている。そして、中期計画終了時に目標の達成度を評価し、場合によっては組織の廃止が勧告される制度となっている。
 法人運営に必要な運営費交付金(法人の経費)は、各年度毎に、主務大臣が要求し財務大臣の査定を受けることとされている。なお、人件費についても、運営費交付金の一部として査定されている。
 確かに、独立行政法人では、賃金をはじめとする労働条件について、労働協約締結権は認められているが、それは、前述した諸々の制約の下でのものである。なお、この点は、特定独立行政法人も一般の独立行政法人も基本的に変わるものではない。

 b) 2001年4月以降、各法人においては、二度の賃金改定が行われている。その経緯は、二年とも、全ての独立行政法人で、非現業国 家公務員の賃金改定(人事院勧告とそれに基づく給与法改定)が政府によって決定された以降に、実質的な賃金交渉が行われるというものであった。そして、賃 金改定の内容は、人事院勧告にほぼ完全に準拠するものであった。

 c) とりわけ、2002年の賃金改定では、人事院が、本俸引き下げとその効果を4月に遡及させることなどの勧告をおこなった。各法 人は、この勧告に完全に準拠した本俸、諸手当の引き下げ、4月遡及の回答をおこない、就業規則改定を強行した。また、一部組合は中央労働委員会に調停申請 をおこなったが、4月遡及実施に反対する労働組合の意見は、中央労働委員会においても受け容れられることはなかった。

 d) 労働時間、休暇などでも、総じて非現業国家公務員の労働条件に準じた内容となっている。
 これらのことは、法人移行後、間もないことや、労働組合が労使交渉についての経験を十分もっていないことも一因であるかもしれない。しかし、根 本的には、先にも述べたような主務大臣による法人運営への介入の強さがあるものと考えている。制度上は容認される団体交渉権も、法人運営への主務大臣の関 与の強さで制約される実態にある。

 e) 全労連が、独立行政法人化にともない職員団体と労働組合に分離・再編されることや、独立行政法人毎に労働組合が細分化されるこ とで、結果として労働組合の闘争力、交渉力が低下していると主張しているのは、このような法人運営への政府の介入が事実上公然と行われることとも無関係で はない。

Ⅱ. 協議プロセスについて

 第331次報告では、政府と関係団体との交渉協議の状況等についての情報提供を求めている(第331次報告 パラグラフ557)。
 結論的に言えば、ILO結社の自由委員会からの二度にわたる「勧告」にもかかわらず、日本政府と全労連(その傘下組織を含む)との間では、「全面的で率直かつ意味のある協議」は、未だ開始されていない。
 その原因は、全労連が、提訴以来、繰り返し主張してきたこととも重複する以下の点にあると考える。

 a) 第一は、日本政府が、「労働基本権制約の現状維持」とする公務員制度改革大綱に固執し、その見直しを頑なに拒否し続けていることである。
 加えて、協議を困難にしているのは、日本政府が、ILOからの「勧告」を「中間報告」だとして、必要な検討すら行おうとしていないこともある。

 b) 第二は、政府が、今回の公務員制度改革の「目玉」としている能力等級制について、その勤務条件性を否定する見解に立って作業を進めていることである。
 改革の「目玉」(=中心課題)とする事項について、労働組合との交渉・協議を否定しているため、改革内容全体の交渉・協議も進展しない状況にある。
 なお、能力等級制の勤務条件性にかかわっては、作業を進めている内閣官房と、現在、人事行政機関とされている人事院との間にも、意見の違いが表面化している状況にある。

 c) 第三は、日本政府の改革作業の進め方が、引き続き、関係者からの意見を「聞き置く」姿勢に終始していることである。
 政府は、7月初旬に、公務員制度法改革関連法案(国家公務員法「改正」法案、能力等級法案など4法案)の閣議決定を前提に、各府省との非公式協 議を開始した。その非公式協議は、関係者との協議という性格ではなく、単に法案決定の手続きとして行われたに過ぎない。全労連に対しては、法案の内容すら 正式に提示されなかった。
 多くの問題が発生したこともあって、法案の閣議決定は一時的に断念されてはいるが、「労働組合とは誠実に話し合いを行う」とする日本政府の約束は、一度たりとも履行されていない。

 以上、第331次報告で、ILOから情報提供が求められている事項について、全労連としての情報を提供する。

以  上