【第2回ILO勧告:2003年6月20日】


ILO結社の自由委員会中間報告(結論および勧告部分のみ)


委員会の結論

547.委員会はこの案件が現在日本ですすめられている公務員制度改革の内容および手続の双方に関するものであることを想起する。委員会は、求め ていた補足情報および追加的な意見を提訴組合および政府から受けとっているが、それらの大部分は多くの場合すでに提供されたものの繰り返しであり、他方、 改正法律案が国会に提出されようとしているにもかかわらず、委員会はいまだにそれら実際の法文を受けとっていないことに留意する。したがって委員会は、当 該法文を参照することなく、双方からこれまで提出されている情報にもとづいて本審査をすすめなければならない。委員会は政府にたいしいかなるものであれ改 正法案文を提出するよう要請する。

548.本件の内容を審査するまえに委員会は、労働条件および結社の自由の促進に関してILOが取り扱う事項は主権国家の内政にたいする不当な千 渉であると見なされてはならないことを想起する。なぜなら、このような問題はILOが加盟各国から委託を受けて行う任務の範疇に含まれており、各国はそれ ぞれがその目標を達成するために協力することを約束しているからである。[結社の自由委員会決定と原則の判例集、第4版1996、パラグラフ3]

消防職員と監獄職員の団結権

549.前回本件を審査した際、委員会はこの問題に関するその見解を想起したが、それを直接参照する(第329次報告パラグラフ633、および勧 告652 (b) (i))。それ以後、専門家委員会は2003年報告でこの立場をあらためて是認している(パラグラフ271〜272)。委員会は、政府の見解には何らの新 しい要素もなく、様々な討論の場で数々の議論がなされたにもかかわらず、これらの問題に関してまったく何の進展も見られないことを深く遺憾とする。第87 号条約に定められた唯一の例外が軍隊および警察のみであることをあらためて想起しつつ、委員会はもう一度政府にたいし、消防職員および監獄職員が団結権を 持つことを確保するために法改正をおこなうとともに、ひきつづきこの点に関する進展について委員会に報告するよう強く求める。


専従組合役員の任期

550.委員会はまた政府にたいし公務員組合が専従組合役員の任期を自ら定めることを認めるよう求めた。政府は本質的には、公務部門の方が民間部 門よりもこの点では恵まれている、また、専門家委員会は1994年の報告でこの件は条約第1条に該当しないと結論している、と回答している。委員会は、こ の問題が官民両部門間の比較規定の問題ではなく、公務員制度における現在の制約が結社の自由原則に合致しているかどうかの問題であること、また、ここでの 問題は労働者団体が完全に自由に自らの代表を選ぶ権利に関する第87号条約の原則であるのに、政府が述べている専門家委員会の見解は、87号条約ではな く、98号条約に関係するものであることを強調する。したがって委員会はこの点での前回の意見(第329次報告パラグラフ633)を参照し、政府にたいし て専従組合役員の任期を労働者団体が自ら決めることができるように法改正することを再度要請する。

管理職の除外の範囲

551.委員会はこの点に関してなされた一般的なコメントおよび大宇陀町裁判についての情報に留意する。大宇陀町裁判では組合登録取り消しが無効 とされたようである。委員会はこの点に関して前回の審査で表明された原則(第329次報告パラグラフ633)を想起し、大宇陀町の事件でだされる最終判決 ならびにそうした事案に一般的に適用しうる法および慣行が上記の原則に合致するものと期待する。委員会は政府にたいし、最終判決が出されたときにはそれを 提出するよう要請する。

独立行政法人(IAI)に移管された職員

552.この点に関して委員会は、この政策の理論的根拠や政府が行政再編の実施を決めたことについてコメントする権限はないものの、それをすすめ る上で政府が結社の自由原則を犯していないかどうか、また、公務員が団結権および団体交渉権を享受しているかどうかを審査する権限はあるということを指摘 する(329次報告パラグラフ648)。委員会は、この点に関して政府および両提訴団体によって提出された追加情報に留意する。委員会は、提訴団体が、例 えば、行政再編によってその後組合員が混合状態となり労働組合の再編を余儀なくされた(そして将来そのようになる)という事実に異議を唱えていることに留 意する。提訴団体は、これは団結権の侵害であると申し立てている。委員会は、行政再編が労働組合構造に大再編を引き起こすことは疑いないが、現在、特定お よび非特定独立行政法人に雇用されている労働者は、(特定独立行政法人におけるように)公務員に留まるか、あるいは(非特定独立行政法人のように)公務員 の身分を失い労働組合法の対象とされている通常の労働者になるかにかかわりなく、双方とも団結権があることに留意する。しかしながら委員会は、政府および 提訴団体にたいしこの再編がこれらの労働者および労働組合の団体交渉権にどのような影響があるのかを示すよう要請する。

公務員の団体交渉権・団体協約締結権

553.委員会は、公務部門職員が依然として省庁および類似の機関に雇用されているか、あるいは、すでに(特定および非特定)独立行政法人に移管 されたかにかかわりなく、これらの点に関して、適用される原則を想起する。団体交渉権は民間および公務部門のいずれにおいても認められるべき労働者の基本 的権利であり、認めうる数少ない例外は、軍隊、警察および国家の運営に携わる公務員のみである(第329次報告パラグラフ643参照)。これらの権利から 正当に除外されうる公務員は、こうして自らの職業に関係する利益を守る基本的な手段を奪われた労働者の利益を完全に擁護するための、すべての関係者が信頼 できる適切な保証を享受すべきである(第329次報告パラグラフ648)。最初の申し立ておよびその後の追加情報においてなされた提訴団体による数多くの 批判は、現在の人事院制度が適切な代償措置として労働者団体の信頼を得ているものではないということを明らかにしている。委員会は、政府によれば、すべて の地方自治体が人事委員会の勧告にそって賃金改訂を実施しているわけではないことに留意する。したがって委員会は、公務員の団体交渉権および団体協約締結 権、ならびに、そのような権利が正当に制約されることの認められる者のためには、適切な代償措置から利益を得る権利に関する前回のコメントを参照し、政府 にたいして、改正立法がこれらの原則に完全に合致したものとなることを確実にするよう要請する。

スト権と罰則

554.委員会は、公務部門職員も、民間部門労働者と同様に、ストライキ権を享受すべきであることを想起する。例外として認めうるのは、軍隊およ び警察、国家の名において権限を行使する公務員、厳密な意味での重要不可欠業務に従事する労働者、あるいは重大な国家的緊急事態である。この権利が奪われ るか若しくは制限される公務員の場合はそれに代わる適切な保証が与えられるべきである。加えて、労働者および組合役員は正当なストライキを行ったがために 処罰されることがあってはならない。したがって委員会は、この点に関する前回のコメント(第329次報告パラグラフ641)に言及する。委員会は、政府が 過去20年間ストライキを理由とした公務員の投獄はなかったと述べていることに留意しつつ、そのような場合に罰金等の他の処罰が課されたかどうかを示すよ う要請する。委員会はまた政府にたいして改正立法がこれらの原則に完全に含致したものとなることを確実にするよう要請する。

地方レベルでの労働者団体の登録

555.この問題について委員会は、本件に関する前回の審査でコメントし(第329次報告パラ635)、実情調査調停委員会のコメントに言及した その前の委員会の決定について述べた。提訴団体は、問題の核心は現在の登録制度にあると主張し、それが労働組合を細分化する事実上の影響を及ぼしていると している。政府は、地方職員は自治体の枠を越えて団結することが許されているし、連合体および総連合体に加入することができるとの従来の主張を繰り返して いる。これらの状況のもとで、結局、委員会にできることは、過度の細分化は労働組合を弱め、労働者の権利を守る活動を弱める恐れがあることを想起し、地方 レベルの公務員が自らの選択する組織を設立することができるよう法改正されることを勧告するだけである。

不当労働行為の救済措置

556.委員会は、この点で政府および提訴団体から提出された情報に留意する。有明町(鹿児島県)で起きた例にもとづき、委員会には、現業職員 (ブルーカラー労働者)および非現業職員(ホワイトカラー職員)が、異なる法律が適用されているために、類似した状況の下で差別的な待遇を受けていたよう に思われる。政府は、あらゆる状況に適用する適切な救済措置がとられていると明言する一方で、有明町の特定の事例についてはコメントしなかった。委員会は 政府にたいし、この件に関してその見解を提供するよう要請する。

協議プロセス

557.委員会は、協議経過に関して政府および提訴団体から提出された情報に留意する。そして、この問題に関して双方の主張がひきつづきまったく 相容れないものであることをあらためて認めざるを得ない。したがって委員会は、この点に関する前回の幅広いコメントを参照し(第329次報告パラ 651)、とくに、将来にわたって多くの公務員に影響を及ぼそうというそうした状況のもとでは、全面的で率直かつ意味のある協議の重要性に、再度、政府の 注意を引かなければならない。これに関連して、委員会は、政府にたいし公務における交渉事項の範囲に関する関係労働組合との対話の進展状況についてひきつ づき報告するよう求めていた(第329次報告、勧告652(e)および(g))。しかし、この点では何らの情報も提供されていない。委員会は関係者にたい し、87号および98号条約に具体化されている結社の自由原則に合致した合意に達するよう努力すること、およびこの点に関してひきつづき情報を提供するよ うあらためて強く求める。


委員会の勧告


558.前述の中間的な結論をふまえ、委員会は理事会にたいし次の勧告を承認するよう求める。

(a) 委員会は政府にたいし公務員の基本的権利にたいする現行の制約を維持するという、その言明した意図を再考するようあらためて強く要請する。

(b) 委員会は、日本が批准している87号および98号条約に具体的に示されている結社の自由原則に合致した公務員制度改革および法改正に関し て速やかに合意に達するよう努力すること、また、この点に関してひきつづき通知することを、再度、関係者にたいし強く要請する。協議はとくに次の問題に焦 点をあてるべきである:

(i) 消防職員及び監獄職員に団結権を保障すること。

(ii) 地方レベルの公務員が、登録制度実施の結果として過度の細分化を被ることなく、自ら選択する組織を結成できることを確実にすること。

(iii) 公務員団体が専従組合役員の任期を自ら定めることを認めること。

(iv) 公務員が団体交渉権および労働協約締結権を持ち、また、それらの権利が合法的に制約されている公務員は適切な代償措置を享受することを確実にすること。それらはいずれもが完全に結社の自由原則に合致するものでなければならない。

(v) 公務員が結社の自由原則に合致してストライキ権を付与され、そのような権利を正当に行使する労働組合員と役員が重い民事または刑事罰をうけることのないことを確実にすること。

(c) 委員会は政府に対し、公務における交渉事項の範囲について労働組合と意味のある対話を行うことを要請する。

(d) 委員会は政府に対し、過去においてスト行為に訴えた公務員が投獄以外の制裁、たとえば罰金等を受けたかどうかを知らせるよう要請する。

(e) 委員会は政府に対し、公務員労使関係制度を改正するいかなる法案についても委員会に提供するよう要請する。

(f) 委員会は政府に対し、大宇陀町裁判の最終判決が下されたならば直ちに委員会に提供するよう要請する。

(g) 委員会は政府に対し、有明町の事案における不当労働行為の差別的取扱いに関する申し立てについての意見を委員会に提供するよう要請する。

(h) 委員会は政府および提訴団体に対し、独立行政法人(IAI)へ移動した職員およびその労働組合の団体交渉権の再組織の結果に関する情報を提供するよう要請する。

(i) 委員会は政府に対し、上記のすべての事項の進展について委員会にひきつづき情報を提供するよう要請する。

(j) 委員会は政府に対し、望むならばILO事務局の技術的援助を利用することができることに注意を喚起する。
以 上