公務員制度改革にかかわる資料



新たな公務員人事の方向性について(中馬プラン)

平成18年9月22日
国務大臣(規制改革・行政改革担当)
中馬 弘毅

T 視点

1 (1)戦後、焼け野原から復興し高い経済成長を遂げた我が国の経済社会の中で、「官」が果たしてきた機能は大きく、行政を担う公務員も、使命感を持って相応の役割を果たしてきた。
 公務を担う者が、今後とも、国家・国民のため高い気概と使命感を持ち続けていることが必要であることは、いささかも変わりはない。問題なのは、これからの官の果たすべき役割とこれに対応した公務員のあり方である。
 時代は大きく変化している。我が国経済は、官主導経済から民主導経済へ移って久しく、国際化もますます進展している。また、これからの行政に求 められているのは、「官から民へ」、「国から地方へ」の改革の基本方向に沿った、簡素で効率的な政府である。民間にできることは民間に、地方にできること は地方に行わせることで、これからの国の業務は、企画立案などが中心となっていくべきである。行政を担う公務員のあり方やその意識も、こうした経済社会の 変化や行政改革の方向性に対応して、変わるべき時代にきている。
 民の自立的意思決定を重視した効率的・効果的行政運営、各国との利害関係の調整、環境など地球規模の課題への対応など、新しい時代に対応し て、公務員がその職責を果たしていくためには、これまでにない幅広い知識・経験が要求されるようになっている。こうした知識・経験は、従来どおりの公務部 内の体験のみでは十分に蓄積されえず、今後は公務員においても、民間、海外、地方等のより幅広い勤務経験が必要とされると考える。また、行政手法の面で も、従前の官主導型の行政指導ではなく、国民の意向を踏まえつつ、説明責任を果たしていくことが必要となっている。
 こうした点から、今日求められる公務員は、気概のある高い使命感を持って行政課題に当たる精鋭ではあるものの、民間・地方を指導するという意 識ではなく、国民に平易で理解しやすく説明できる能力を持ち、国民と同じ高さの目線に立って、ともに行政課題に当たっていく、真に有為な者にならなければ ならない。他方、行政内容の精緻化・複雑化が進展しており、特定の行政分野においては、時間をかけなければ習得できない専門的な深い知識と経験の積み重ね を有するスペシャリストがますます必要になっている。今後は、このような特定の行政分野の専門家についても、一定の高い評価を与えつつ育成を進めていく必 要があると考える。さらに、経済社会の激しい変化に行政が対応していくため、民間企業における実務経験を備えた者を官において適切に活用する必要が高まる 一方、民間企業においても、コンプライアンス等の対応のため、官を含めた外部人材のニーズが高まっている。こうした要請を踏まえ、官民間の人材の移動を活 性化させ、公務員のキャリア設計に公務外の経験も組み込むとともに、社会経験のある者も積極的に活用するなど、公務員の人事制度をより柔軟な制度に変革し ていかなければならない。

(2)先の通常国会における行政改革推進法の審議において取り上げられたとおり、国家公務員のいわゆる天下り問題について、早急な対応が求められている。
 しかしながら、この天下り問題は、現行の再就職規制の手直しなどの対症療法では解決できない。(1)で述べたように、経済社会情勢が大きく変化 している中で、今の時代にふさわしい国家公務員像の実現に向け、官民間の人材の移動を活発化させるとともに、人材の移動により生ずると想定しうる問題を取 り除くための実効性のある対策を講じていくべきであると考える。

2(1)以上のような基本的考え方に立てば、今後は、
 @官民間の人材の活発な移動
 A定年まで勤務することも可能な人事の構築(複線的人事管理を行うため、本府省幹部の厳選と専門行政分野のスペシャリストについてスタッフ職を創設)
 B再就職規制の抜本的見直し
により新たな公務員人事を構築していく必要がある。

 (2)まず、官民の間で人材の移動を拡大すべきである。民間での勤務は、国民感覚・経営感覚にもつながることから、海外経験、地方における勤務とともに、これからの公務員に求められる職業経験の一つとすべきである。
 また、実務経験のある専門性の高い優秀な人材を確保するため、公務員を辞して民間で経験を積んだ者の任用や中途採用等を行うことにより、民から 官へ積極的な人材の登用を図るべきである。共済と厚生年金の統合が予定されていることは、官民間の人材の移動にプラスの要因になると考えられる。
 さらに、現在、官民間の人事交流のうち官から民への交流派遣は、民から官への交流採用に比しても著しく低調にとどまっているが、交流人事の量的拡大を図るため、抜本的方策を講ずる必要がある。

 (3)第2に、公務部内における人事システムについては、その能力に応じて定年まで勤務することも可能とし、また、スペシャリスト的な専門家と しての能力の活用が図られるよう、今後は複線的なものとしていくべきである。すなわち、重要性の高まっている専門家について、公務部内で適切な評価を与 え、その育成に努めるべきであり、新たに、このような専門家に対する適切な処遇を検討するべきである。一方、幅広い知識経験に基づき総合的な判断力を求め られる本府省幹部については、これを厳しく選抜していかねばならない。

 (4)第3に、公務員の再就職規制については、憲法により何人にも職業選択の自由が保障されていることを念頭に置きつつ、現行の隔離政策は廃止 し、官民の垣根を低くしつつも、公務の公正性に対する国民の信頼に疑念を生じる行為は厳しく禁止して、その違反を厳格に取り締まり、制裁を科すとの考え方 に転換していくべきである。
 現在の再就職規制は、官民の画一的、外形的な隔離を図るものであって、そもそもこれから求められる公務員像にはそぐわないものとなっている。また、現在の規制により再就職が制限されている2年間、いわゆる待避を行うといった現象も生じている。
 むしろ、官民の枠を越えた幅広い勤務経験により蓄積された公務員の知識・経験がニーズに応じ有効活用されるよう、公務の公正性に対する信頼を損なう行為を明らかにし、それを禁止するとともに、それを第三者的立場から監視することで、透明性を高めていくことが望ましい。
 また、予算等を背景とした押し付け的あっせんによる営利企業への再就職を絶つためには、入札及び契約等の公共調達の適正化措置を断行していくこ とが何より効果的であると考えるが、さらに、公共調達の適正化等を阻害する働きかけが営利企業に再就職した元公務員からなされないよう、厳しく取り締まる ことが重要である。これらによって、予算等を背景とした元公務員の再就職の受け入れによって企業側が不当な利益を受けたり、そのような期待を持つことがな いようにすることが、公務の公正性を担保する上で最も効果的である。

3 こうした視点に立って、これからの公務員人事の方向性を以下のとおりとりまとめた。
 これらは、今後のあるべき経済社会を踏まえた公務員制度のあり方に関わる大きな検討課題であり、この提案を契機として、関係者間で十分な検討が 早急に行われ、可能なものから早期に実施に移すとともに、法律改正が必要なものについては早期に関連法案が国会に提出される運びとなることを期待する。
 関係者の真摯な御議論をいただきたい。

U これからの公務員人事の方向性
 〜官民間の人材移動の拡大と複線的な人事管理の構築及び再就職規制の抜本的な見直しに向けて〜

1.官民間の人材の活発な移動

(1)時代の変化に対応して、幅広い知識・経験と確かな能力を有する求められる公務員像を実現するとともに、併せて特定の行政分野における専門家 も育てていく複線的人事管理を本格的に公務員人事システムに根付かせるためには、長期的に、若年の国家公務員の時からキャリア形成の中に官民の人事交流を 組み込み、官と民の垣根が低い人事が行われるようにしていく必要がある。
 また、官民間の人の移動を全体として拡大していく必要があることから、実務経験を有する民間の人材や、一度退職し、実務経験を積んだ元公務員の中途採用等による登用も、積極的に推進すべきである。
 さらに、特に民から官に受け入れている人数に比し、官から民への交流人数がごく少数にとどまっている現状に鑑み、民から官への交流人数の増加とともに、官から民への交流人数についても大幅に増加させていく必要がある。

(2)このためには、
 @官民間の人材移動の支援体制の整備を図るため、官民の参加を得て協議会を設置し、人材移動の支援方策の検討、官民交流に参加する企業数の増加を図るなど、人材移動の抜本的拡充を図るべきである
 A官民人事交流法により規定されている官民交流のルールについても、再就職のルールの見直しと同様、現在規制されている所管関係にある民間企業等であっても交流を可能とする一方、公務の公正性を損なう行為を厳しく監視する方向で見直すべきである
 B官民間で人材の有効活用が図られるよう、公務員が自ら希望して民の業務を経験することを支援するなど、官の人材の有効活用方策の検討を進めるべきである
 C各府省においては、官民交流計画を策定し、具体的な目標を設定して交流人数を拡大していくべきである
 Dなお、人材バンクに関しても、その運用の効率性と透明性を確保する観点から、上記協議会と連携を図るべきである

2.定年まで勤務することも可能な人事の構築

(1)これまでT種(旧上級職)採用の国家公務員を中心に、勧奨による早期退職が実施されてきているが、引き続き退職年齢の引き上げ措置に取り組みつつ、今後、定年まで国家公務員として勤務することも可能な、新たなキャリアパスを設けていくことが必要である。

(2)このため、早期退職勧奨の対象年齢層の国家公務員については、次のように複線的な人事管理を行うべきと考える。
 @組織として指揮命令系統の枢軸となっている本府省の幹部職員については、
 (ア)幅広い知識と強い使命感をもって、複雑な状況やリスクを的確に把握・管理しつつ、常に国家的・国民的視野からあるべき姿を判断し、その結 果を関係者に浸透させるよう力を尽くすとともに、高い職業倫理を保持し、部下に対してリーダーシップを持って行動することが求められており、
 (イ)このような観点から、指揮命令系統を担うにふさわしい厳選された人事配置が、厳格な選抜の実施により、行われるべきことは言うまでもない。
 A他方、行政内容の精緻化・専門化が進展する中で、公務の中には、時間をかけて習得しなければならない深い知識と経験の積み重ねを持ったスペシャリストが必要な分野が生じている。このような行政分野に対応する専門家についても、育成を進めていく必要がある。
 特に、この年齢層の職員には、長年の経験に裏打ちされた深い専門知識を有する者が多いことから、こうした人材の活用も図りつつ、定年まで勤務することも可能なキャリアパスの構築を急ぐべきである。
 Bこれらの人事の実現のため、具体的には、
 (ア)T種職員であっても、本府省課長職への昇任時に管理職としての適性等を厳格に審査し、絞り込むこととする
 (イ)本府省課長職にある職員について、厳格に評価を実施する
 (ウ)職務やポスト構造の見直しを行い、深い知識や経験の蓄積が必要な専門的な職務については、比較的長期に在任することを前提とする専門ス タッフ職への移行を計画的に進めるとともに、併せて職務内容に応じた適切な処遇が図られるよう速やかに専門スタッフ職俸給表を導入すべきである。

3.国家公務員の再就職のあり方の変革
 
(1)権限・予算等を背景とした押し付け的あっせんによる再就職を根絶するための仕組みを構築し、国家公務員のいわゆる天下りによる弊害を防止するには、T視点で述べた考え方に基づき、
 @現在の再就職ルールの下でこれまで問題となった事例も踏まえ、弊害除去に効果的な透明なルールで、かつ、人的資源の有効活用の観点から再チャレンジの道も担保された、新たな再就職ルールを具体化するとともに、
 A新たな再就職ルールの実効性の担保のため、監視機関の設置を図り、
 B併せて、権限・予算等が官の側の行うあっせんの背景にあるとの疑念を生じさせないよう、公共調達の適正化を断行すべきである。

(2)このため、再就職ルールについては、新たに、
 (ア)離職後一定期間、再就職を行う場合は全て、退職時に在籍していた府省経由で内閣へ届出を求め、内閣において再就職情報の一元管理を行うとともに、
 
 (イ)営利企業への再就職については、以下の3つの行為類型をともに禁止するとともに(3)の監視体制を確立することにより、営利企業への再就 職は原則認めつつも、問題のある行為は厳格に規制し監視するためのルールを導入すべきである。これにより現在の再就職ルールは廃止する。
 @自らの職務(契約・行政処分)に密接に関係する企業に対して、現職国家公務員が自らの再就職の打診、依頼等を行うことを禁止する
 A再就職後の元国家公務員について、退職前一定の期間在職していた機関に対し、退職後一定の期間、就職先企業に関する契約・行政処分につき不正な働きかけを行うことを禁止する
 B再就職後の元国家公務員からAの働きかけ行為を受けた現職国家公務員について、働きかけを受けた事実を監察官へ届出させるとともに、不正な取扱を行うことを禁止する また、これらのルールに違反した場合の、罰則を含む制裁措置を検討する。

 (3)新たな再就職ルールの実効性を担保するため、監視体制を次のとおり確立すべきである。
 (中央組織)国家公務員倫理審査会を改組し、ルール違反の疑いのある事案に関する調査、ルールに違反する事実を認知した場合の懲戒処分の勧告、犯罪を知った場合の告発等を実施させる
 (各機関に監察官を設置)各府省、特定独立行政法人等に、第三者的な立場の監察官を設置し、ルール違反のあった事案や届出等のあった事実につい て現職公務員に対する調査、必要な処分の実施のための任命権者への報告を実施させる(4)実効ある再就職ルールへの転換と再就職の透明性の確保とともに、 定年まで勤務することの可能な人事の構築により定年前の退職勧奨を減らしていくことと併せて、再就職が予算・権限等を背景にしたものであるとの疑惑を持た れないよう、
 @入札及び契約といった公共調達の適正化の着実な推進
 A透明性ある再就職を支援する人材バンクについて、民間の人材サービス会社の活用などによる抜本的強化を実施すべきである。