公 務員制度改革にかかわる資料


【人事院の「意見書」】

平成21年3月31日
内閣総理大臣
 麻生 太郎 殿

人事院総裁  谷  公 士

国家公務員法等の一部を改正する法律案について


 人事院は、縦割り行政の弊害排除などを目的とした国家公務員制度改革基本法の予定す る改革を進めることの必要性、重要性は十分認識しておりますが、標記法律案については 重大な問題があると考えますので、以下のとおり、人事院としての意見を申し述べます。

 公務員は憲法で全体の奉仕者とされ (憲法第15条)、その人事行政の基準は法律で定め る(憲法第73条第4号)こととされています。人事院は、このような憲法の趣旨を受け、 中立・公正な公務員人事行政を実現するため、その業務執行については、内閣から独立し て、法律の委任に基づき、任用の基準を設定し、採用試験・研修の企画立案・実施を担う とともに、国家公務員にも保障されている労働基本権 (憲法第28条) を制約することに 伴う代償措置として、給与等勤務条件に関する基準設定に当たっています。
 標記法律案のとおり改正を行った場合は、これまで、人事院が中央人事行政機関として国家公務員法に基づいて人事行政上必要な基準設 定に当たり、内閣総理大臣は使用者の立 場からの基準設定と人事管理の総合調整に当たるという国家公務員法第2章の中央人事行 政機関の考え方は根本的に変更され、公務員制度に係る基準の大部分を使用者たる内閣総 理大臣が設定し、中立・第三者機関である人事院の中央人事行政機関としての機能は著し く低下することとなるものと考えます。こうした議論は国家公務員制度改革基本法制定の 際には全く行われておらず、同法の予定するものではないと考えます。
 同法の枠を超えて根幹的な国家公務員制度の転換を行うのであれば、憲法に定める全体 の奉仕者性を実現する観点から、中立・公正性の確保など公務員制度の基本理念をいかに 実現するか議論し、それらの理念を実現するにふさわしい人事行政機関の在り方について、十分に検討を尽くした上で改正の是非を判断する必要があると考えま す。

 標記法律案についての具体的な修正意見は、次のとおりです。

1 中央人事行政機関としての人事院及び内閣総理大臣の役割分担について

 今回の国家公務員法及び一般職の職員の給与に関する法律の改正法案では、これまで 人事院の担ってきた機能のうち、任用の基準設定及び採用試験・研修の企画立案並びに 給与のうち指定職俸給表の適用を受ける職員の号俸決定及び職務の級の定数の設定・改 定に関する機能を、使用者たる内閣総理大臣の機能に移管することとしておりますが、 前述の国家公務員制度の趣旨に照らして、公務員人事管理の中立・公正性が確保できな くなることを懸念するとともに、労働基本権制約の代償機能が損なわれるものと考えま す。したがって、これらの関連改正規定は、今回の改正法案から削除することが必要と 考えます。

 なお、国家公務員制度改革基本法に定める幹部職員等の一元管理については、幹部職 員に係る指定職俸給表の号俸格付けを人事院指令による定めから内閣総理大臣の承認 得て各府省の大臣が行うこととすること、内閣総理大臣の定める基本的な方針 (人材基 本戦略)を踏まえつつ、中立・第三者機関たる人事院が任用の基準の設定や採用試験の 企画立案・実施を行うとともに、内閣総理大臣と人事院が連携を図りながらそれぞれの 立場で研修の企画立案・実施を行うことによって、必要な措置が実現できるものと考えます。

2 職員の公募、幹部職員の任用等に係る特例及び幹部候補育成課程について

 新たに設けられる公募に係る基準や手続、幹部職員の任用等に係る基準、幹部候補育 成課程の課程対象者に係る選定方法・基準等については、人事院が関与する規定が一切 設けられておりませんが、恋意的任用を防止するための基準など公務員人事管理の中立・公正性を確保する観点から必要な基準等については、中立・第三者機関 である人事院 が定める必要があると考えます。具体的には、一般職員を含めた公募に係る規定につい ては、その基準や手続を人事院規則で定めることとするとともに、幹部職員に関する規 定については、これらの関係条文に人事行政の公正性を確保するための基準についての 人事院規則への委任規定を設けることが必要と考えます。