NETニュースNO.973 ILOが労働基本権回復もとめて勧告(6/13)



公務労働者の労働基本権回復もとめ11度目の勧告

= ILO総会で日本政府に対する勧告を採択 =

 
ILO本部 ILO(国際労働機関)の第107回総会が、18年5月28日から6月8日まで開かれました。今年の総会では、公務員の労働基本権の回復を求めて、日本政府への2つの勧告が採択されました(結論部分は別掲)。

 一つは、「総会基準適用委員会」で日本の公務員の労働基本権問題が個別案件としてとりあげられたもので、勧告は日本政府に対して、「自律的労使関係制度」や消防署・刑務所職員の団結権について検討することを求め、また、人事院勧告などの手続きについて、「公平で迅速なあっせんと仲裁となっているのか」と疑問を呈しています。

 もう一つは、全労連が02年にILOに提訴した「公務員制度改革」に関する案件にかかわる勧告で、日本政府に対して労働組合との「意味ある協議を、これ以上の遅滞なく、これまでの勧告に沿って実施すること」を繰り返し求めました。この案件での勧告は、これで11度目となります。

 ILOの度重なる勧告にもかかわらず、「自律的労使関係」をはじめ労働基本権確立にむけた検討を放置してきた日本政府の不当性が、あらためて国際社会に明らかにされました。
 今後、安倍政権はILO勧告に対する説明責任が求められています。国際的な世論も背景にして、労働基本権確立にむけて運動をさらに前進させていくことが重要となっています。

 ILO総会ではまた、「労働の世界における暴力とハラスメント」基準設定委員会で、新たな国際基準づくりにむけた議論が深められました。
  勧告等をうけて、全労連は別掲の事務局長(代行)談話を発表しました。


第107回ILO総会基準適用委員会

日本案件結論(全労連訳)


 委員会は、政府代表の提供した情報と、その後と討論に留意する。

 委員会は、2018年1月に消防職員委員会機能に関する問題を特定する特別調査を実施したこと、2018年3月以降この問題で労働者と使用者との間で数次にわたり協議したという情報、および政府が使用者と労働者と協議を継続させながら消防職員委員会の機能改善計画を実施すると述べたことに留意する。

 委員会は、消防職員と刑務所職員が自身の選択で労働組合を結成し加入する権利に関する立法化と実態の不一致について、専門家委員会が数十年にわたって所見を述べていることに懸念をもって監視する。委員会は、自律的労使関係制度に関して必要な措置について、意味のある前進が欠けていることに留意する。

 政府からの情報とその後の討論を考慮し、委員会は政府に対し以下を求める、

 ・ 社会パートナーと協議し、自律的労使関係制度について様々な問題があるという政府の発言も考慮し、同制度について詳細に検討すること、

 ・ 消防職員委員会の機能に関する問題の特定とその後の措置について、委員会での議論を踏まえて取られた措置についての情報を提供すること、

 ・ 全国レベルの社会パートナーとの間で、政府が消防職員は警察の一部であり、この見解が同条約に対応しているか協議を行い、協議の結果に関する情報を提供すること、

 ・ 社会パートナーと協議し、刑務所職員のうち警察の一部と考えられ、団結権の対象から外れるカテゴリーは何であり、警察の一部とされず団結権を付与すべき職員のカテゴリーは何かを検討すること、

 ・ 社会パートナーと協議し、人事院の手続きが公平で迅速なあっせんと仲裁となっているのか検討すること。

 委員会は、政府に対しこれらの勧告の実施のために社会パートナーとともに期限を区切った行動計画を策定することを呼びかけ、2018年11月の次回の専門家委員会前に報告するよう求める。(以上)

(参考)「総会基準適用委員会」とは

 ILOの条約監視機構として設置されている。ILO条約の批准国に、「条約の深刻な侵害」があった場合、総会基準適用委員会が当該国政府に早期の改善を勧告する。「総会委員会の場は相当に厳しいものであり、説明責任を負う政府にとっては、一種の制裁として機能する」(吾郷眞一立命館大学教授=ILO条約・勧告適用専門家委員会委員)とされている。


ILO理事会確認 結社の自由委員会386期報告(公務員制度改革)

事件番号2177号および2183号中間報告(全労連訳・抜粋)


委員会の勧告

(a) 委員会は政府に対し、関係する社会パートナーとの意味ある協議を、これ以上の遅滞なく、これまでの勧告に沿って実施することを再度要請する。

 (i) 公務員への労働基本権の付与

 (ⅱ) 消防職員への団結権と団体交渉権の完全な付与。委員会は、消防職員の団結権と団体交渉権の付与への合意形成を視野に現在続けられている努力の追求を、関係者に強く要請する。

 (ⅲ) 刑務所職員への団結権と団体交渉権の完全な付与。この点で、委員会は社会パートナーとそのほかの関係者と、司法警察の特定任務をもつ者以外の刑務所職員に自身の選択で職業上の権利を守るために労働組合を結成し加入することを保障する措置に関する対話における前進を報告するよう要請する。

 (ⅳ) 国の行政に関与しない公務員に団体交渉権と団体協約締結権を保障し、団体交渉に関して法的制限がある職員に関して適切な代償措置が保障されること。

 (ⅴ) 国の名において権限を行使しない公務員が結社の自由原則に則ってスト権を行使でき、この権利を正当に行使した組合員や役員が重い民事・刑事罰を課されることがないよう保障すること。

 (ⅵ)公務分野における交渉の範囲。

 委員会は、必要な法改正が遅滞なく国会に提出されることを期待し、政府に対しこの点における情報提供を継続するよう要請する。

(b)  委員会は再度日本政府に対し、労働基本権が公務員に付与されるまでの代償措置としての、人事院勧告制度の機能に関する情報提供の継続を要請する。

(c) 委員会は政府と申立者に対し、国立大学機構のいくつかの職員組合が一方的賃金切り下げに反対して、継続している裁判結果に関する情報の提供を要請する。(以上)


暴力とハラスメントで新基準設定へ、公務の労働基本権問題で勧告

~第107回ILO総会を終えて(談話)~

2018年6月13日
全労連事務局長代行 橋口紀塩

 第107回国際労働総会(ILO総会)が5月28日から6月8日まで、スイス・ジュネーブで開催された。

 総会では、第5議題「労働の世界における暴力とハラスメント」に関する基準設定にむけた第1回討議が行われた。これまで暴力とハラスメントについて、そ の行為を定義し、問題を解決するための包括的な国際労働基準は存在しなかった。今回の議論をうけ、2019年に第2回討議がおこなわれ、「労働の世界にお ける暴力とハラスメント」に関する勧告で補完される法的拘束力を持つ条約が制定される見込みとなった。

 討議の経過では、移民やLGBTなどのカテゴリーを明示して規制するとした条約の原案部分が採用されず、今後の討議で改善すべき点も残した。また日本政府は、基準設定に消極的な姿勢をとっており、国内での取り組みの強化も課題となっている。

 今回の討議による基準設定に向けた大きな一歩を心から歓迎し、全労連としても国内の関連法制や制度の設定に向けて行動を強め、職場での暴力、ハラスメントの根絶に向けた取り組みを前進させる。

 公務員の労働基本権に関しては、総会基準適用委員会で日本案件として審査が行われた。日本は1965年に結社の自由に関する87号条約を批准している が、公務員の労働基本権制約について半世紀にわたって条約勧告適用専門家委員会や結社の自由委員会から繰り返し勧告を受けている。ILOは特に、公務員全 般に団結権や争議権に制約があることを問題視し、特に消防職員と刑務所職員には直ちに団結権を付与するよう日本政府に求め続けてきた。

 今総会に提出された条約勧告適用専門家委員会の報告でも、消防職員の労働組合結成禁止の代償措置として導入された消防職員委員会、労働基本権剥奪の代償 機関とされる人事院についてもその機能を疑問視し、団結権と団体交渉権を広く公務員労働者に認めるよう日本政府に求めている。

 日本の個別審査では、日本政府、労使グループの各代表と日本の労使代表が意見を述べ、いくつかの政府や労働側の代表が討論に参加した。採択された基準委 員会の結論では、2012年の公務員制度改革の議論から依然として、労働基本権の問題で前進がないことを指摘した。そのうえで、これまでの結論同様に消防 職員と刑務所職員に直ちに団結権を認めること、自律的労使関係の確立にむけた期限を切った行動計画を、労使と協議の上定めることを求めた。日本政府には早 急に行動計画策定に向けた協議の場を設けることを求める。

 なお、総会後の理事会で確認された第386期結社の自由委員会報告においても、公務員の労働基本権問題について11回目となる勧告が出された。勧告で は、国の名による権限行使に関与しない公務員に広く団結権と団体交渉権、スト権行使を認めることを求め、消防職員と刑務所職員への団結権、団体交渉権付与 を強く求めている。

 全労連は、国際基準に著しく反する公務員労働者の労働基本権の回復に向けて、引き続き取り組みを強める。(以 上)