No. 914
   2016年8月7日
全国の公務労働者の労苦に報いる改善を政府に求める

= 公務労組連絡会が人事院勧告にかかわる要求を提出し内閣人事局と交渉 =

 人事院勧告が出された8月6日午後、公務労組連絡会は、内閣人事局に対して勧告の取り扱いにかかわる要求書を提出して交渉をおこないました。
  勧告では、昨年に続く月例給と一時金の改善となったものの、その水準は生活を改善するには遠く及ばない不満なものであり、使用者である政府として臨時・非 常勤職員を含めたすべて公務労働者の積極的な賃金改善を行うよう求めました。また、一方的な「フレックスタイム制」の導入は行わないことや、フルタイム再 任用による確実な雇用と年金の接続を改めて求めました。
 今後は、地方人事委員会での賃金改善の勧告をめざすとともに、確定闘争や独立行政法人での賃上げを勝ちとるたたかいに奮闘することが求められます。

「勧告尊重」にととまらず、積極的な賃金改善をおこなえ

 内閣人事局との交渉には、公務労組連絡会から蟹澤議長、川村事務局長、米田・杉本両事務局次長が参加しました。内閣人事局側は、辻総括参事官補佐をはじめ、西山参事官補佐、萩原課長補、各担当の参事官補佐らが対応しました。

  交渉の冒頭、蟹沢議長が、「本日、人事院勧告が国会と内閣に提出された。昨年に引き続き月例給・一時金ともに引き上げ改定される一方で、『フレックスタイ ム制』の拡大が勧告された。今後、勧告の取り扱いの議論が政府ですすめられることとなるが、要求書にもとづいて公務労働者の賃金・労働条件の改善に尽力す るよう求める」と述べました。

 続いて、要求書の要点について、川村事務局長が以下のとおり説明しました。
○ 昨年に続くベア勧 告となったが、消費税増税や物価上昇をふまえれば、勧告は公務労働者の生活を改善するまでにはいたらない。同時に、「給与制度の総合的見直し」による平均 2%賃下げのもとでは大半の職員の賃金支給額は増えない。政府として景気回復には労働者の賃上げが必要としていることからも、「勧告尊重」にとどまらずよ り積極的な賃金改善にむけた検討を求める。
○ 長時間過密労働を強いられつつも全国で奮闘している公務員労働者の労苦に報いることが政府に求めら れる。その点で、ベア勧告の原資を一部の地域手当の支給割合の引き上げに充てることは認められない。すべての公務員労働者に配分するように求める。同時 に、国公法の「職務給の原則」に反して賃金の地域間格差を拡大することは、最低賃金の地域間格差とあわせて、地方からの人口流出を増大させることになる。 地方の活性化とは真逆のものであり、この点からも「給与制度の総合的見直し」の中止を求める。
○ 「フレックスタイム制」の拡大は、業務量に比し て職員数が大幅に不足し長時間過密労働が深刻になっている職場実態を十分に踏まえた検討と対応が求められる。我々は、こうした職場実態が改善されないもと で、勤務時間を変形させる「フレックスタイム制」の拡大には断固反対である。一方的に導入実施を決定するのではなく、すべての公務員労働者が安心して公務 に専念できる環境をどう整備するのか、公務労組連絡会との十分な協議を求める。
○ 勧告では、臨時・非常勤職員の労働条件の改善には触れていない が、政府としての雇用責任、均等待遇の実現にかかる責任が免罪されたものではない。最終交渉の際にも申し上げたが、公務の能率的、効果的な運営の点から、 臨時・非常勤職員の処遇問題を検討することが不可欠だ。たとえば、正規職員と同じ窓口に座って国民との対応業務をしていて、正規職員には夏季休暇があるが 非常勤職員にはないということが士気に影響しないと言えるのか。政府・内閣人事局としての真摯な対応を求める。 
○ 雇用と年金の接続にかかわっ て、いまだに検討内容すらも示されないことは極めて問題だ。これ以上、高齢層職員の不安をあおるような対応は許されない。とくに、フルタイムによる確実な 再任用確保とそのための定員管理の柔軟化が必要だ。本日、明確な回答ができないのであれば、早急に説明・協議の場を設けるよう求める。
○ 地方自治体や独立行政法人での賃金決定は労使自治の問題であり、交付金などを背景にして不当な介入や干渉は行わないよう求める。また、労働基本権問題などについての協議も求めておく。

 辻総括補佐は、以下のように回答しました。
● 本日、人事院から給与改定に関する勧告が提出されたところであり、速やかに給与関係閣僚会議の開催をお願いし、その取扱いの検討に着手したいと考えている。
● 国家公務員の給与については、国家公務員の労働基本権制約の代償措置である人事院勧告制度を尊重するとの基本姿勢に立ち、国政全般の観点から、その取扱いの検討を進めていくこととしている。その過程においては、皆様方の意見も十分にお聞きしたいと考えている。
● フレックスタイム制を拡充する勧告については、国家公務員の女性活躍やワークライフバランスの推進の観点も踏まえ、皆様方の意見も十分にお聞きしつつ、必要な対応を検討してまいりたいと考えている。

  この回答を受けて参加者から、「最低賃金の目安では神奈川は19円アップで906円となり、月例賃金に換算すれば、公務の高卒初任給は勧告で上げてもまだ 3千円程度下回る。低額勧告が新たな矛盾を生み出している」「改善勧告も大半の職員は実質的な賃上げにならない。今年の官民較差の原資の大半を地域手当の 引き上げにまわせば、地方との格差拡大が促進される。地域手当の出ない地方自治体は何の改善もない」「地域手当を3年がかりで見直していくとする当初の予 定を2年に短縮した。地域間格差の拡大の促進は採用にも影響する」「マイナス勧告の際に現給保障は引き下げているが、プラス勧告の際に引き上げないのは問 題だ」「地域手当のために今年1月の昇給を1号抑制し、4月に遡って地域手当を改善すれば、格差は拡大する」「フレックスタイム制は、公務の運営に支障の ない範囲という制限を設けてまで拡大する必要があるのか。育児や介護の支援をフレックスタイム制で行うことには無理がある」「国家公務員の短時間再任用者 の27%は希望に反したものだ。厳格な定員管理が足かせであり、柔軟な対応が必要だ」などと発言し、政府としての対応を求めました。

 辻 総括補佐は、「現段階でコメントできるものはない」としつつ、「人事院にも必要な確認をし、対応していきたい」「フレックスタイム制は、ご指摘のようなこ とにならないように検討していく」「雇用と年金の接続では、再任用希望者が増大する。これまでのような福祉政策的な対応ではなく、やりがいを持って仕事が できる条件をつくることが必要だと思う」などと答えました。

 最後に蟹澤議長が、「ベア勧告があったにもかかわらず、実際の賃金支給額が 上がらないのは異常だし、公務労働者の失望感は大きい。人事院勧告を尊重することが基本としても、使用者としての政府に問われているのは、先進国で最小の 公務員数で国民の暮らしと権利を守るために日夜奮闘しているすべての公務労働者を励ますことだ。同時に、地域間格差を拡げるのではなく、『給与制度の総合 的見直し』を中止して公務員賃金を改善し、最低賃金の改善で賃金の底上げをはかることこそが、日本の景気を回復させ、地域を活性化させるという政府の政策 にも合致するものである。『フレックスタイム制』の拡大や雇用と年金の接続問題など、公務労組連絡会との協議を求めた点についての真摯な対応とともに、人 事院勧告の取り扱いについては、公務労組連絡会と十分な交渉・協議をすすめ、本日提出した要求実現にむけた検討をすすめるよう求める」と述べて交渉を終わ りました。

要求をふまえた閣僚会議での対応を厚労省と財務省に要請
 
 公務労組連絡会は勧告日翌日の8月7日に厚生労働省と財務省に「公務員賃金等に関する要求書」を提出して、人事院勧告による賃金改善の早期実施と「フレックスタイム制」の拙速な導入を行わないことなどを要請しました。

  厚生労働省への要請は、蟹澤議長と川村事務局長、米田・杉本両事務局長で行い、厚生労働省は労使関係担当参事官室の伊藤明彦参事官と前田憲孝室長補佐、渡 辺正道調査官らが対応しました。蟹澤議長が、要求書の趣旨を説明し、「フレックスタイム制」の拡大について「労働時間や労使関係を所管する省として、導入 についての慎重な検討と労働組合との協議に尽力されたい」と述べました。伊藤参事官は、本日の朝に開かれた第1回給与関係閣僚会議での「勧告尊重」との大 臣の発言も紹介しつつ、「フレックスタイム制」については「無理のない形で実施することが大事。要望をふまえて中身を詰めていく」と述べました。

  財務省への要請は、川村事務局長と米田・杉本両事務局長で行い、財務省主計局の内野洋次郎給与共済課長と藤中康生課長補佐らが対応しました。公務労組連絡 会から賃金改善の必要性や地域手当の問題など要求の趣旨を述べた後、内野課長は、「勧告を尊重する基本姿勢ではあるが、きびしい財政状況でもある」「緊縮 財政一辺倒ではなく、経済成長によって財政再建をはかることは当然だが、甘い見通しは持てない」「国民の信頼あっての給与だ」などと答えました。

【政府への要求書】
2015年8月6日
内閣総理大臣 安倍 晋三 殿
内閣官房長官 菅  義偉 殿
公 務 労 組 連 絡 会
 議長  蟹澤 昭三

公務員賃金等に関する要求書
 
 人事院は8月6日、国家公務員給与にかかわって、月例給および一時金の引き上げ改定とあわせて、「フレックスタイム制」の拡大などを内容とした勧告・報告を内閣と国会に対しておこないました。
  物価上昇等で労働者の実質賃金が前年比26か月連続で減少・停滞し、また、公務員労働者には今年4月から平均で2%も賃下げが強行されているもとで、昨年 に続く賃金と一時金の改善勧告が早期に実施されることは当然のことです。しかし、消費税増税や円安などによる物価上昇に到底およばず、私たちの生活と労働 実態からすれば勧告内容は非常に不満なものです。政府が重要課題に掲げる「景気回復」を確実なものとするためにも、公務員賃金の社会的影響力をふまえ、政 府が率先して大幅賃上げをおこない、すべての労働者の賃金改善につなげていくことが重要です。

 一方で、すべての公務員労働者を対象とし た「フレックスタイム制」の拡大も勧告されました。この間の定員削減によって限界を超えた行政や教育の職場実態のもとで、業務量や超過勤務縮減の具体的方 策が示されないなかでの勤務時間の「弾力化」は、職場にさらなる労働強化と混乱をもたらすだけです。政府として、「フレックスタイム制」を一方的に実施す るのではなく、職場の実態をふまえて労働組合との十分な協議を尽くすことが必要です。
また、年金支給開始年齢の繰り延べのもとで、雇用と年金の確実な接続が重要な課題であり、そのためにも定年延長の段階的実施が不可欠です。少なくとも確実なフルタイム再任用制度を確立するとともに、賃金と諸手当の改善が必要です。

 人事院勧告を受けて、今後、給与関係閣僚会議で勧告の取り扱いが議論されるにあたり、貴職に対して、下記要求にそって公務労働者の賃金・労働条件改善に全力をあげるよう求めます。



1、職員の働きがいや仕事に対する誇りとともに、公務員賃金の持つ社会的影響力をふまえ、初任給をはじめ公務労働者の賃金・労働条件の積極的な改善をはかること。

2、職場に労働強化と混乱をまねく「フレックスタイム制」の導入はおこなわないこと。また、労働組合の合意がないまま勤務時間の変更をおこなわないこと。

3、地域の公務員賃金を引き下げ、高齢層の賃金抑制、地域間格差を拡大する「給与制度の総合的見直し」は中止すること。

4、臨時・非常勤職員の賃金・労働条件改善をはかり、均等待遇を実現すること。

5、雇用と年金の確実な接続をはかるため、定年延長を早期に実現すること。当面、フルタイム再任用の定員は別枠とするとともに、希望者全員の再任用を保障すること。また、再任用職員の賃金・諸手当は、年金支給開始までの生活を維持するにふさわしく改善すること。

6、地方自治体、独立行政法人等の賃金決定に不当な介入・干渉をおこなわないこと。

7、労働基本権の全面回復など憲法とILO勧告に沿った民主的公務員制度を確立すること。
以 上