No. 897
   2014年10月25日

道州制を許さず、憲法にもとづく国と自治体の役割を

= 全労連がシンポジウムを開催、幅広い団体が参加 =

 全労連は10月25 日、東京都内で「道州制を許さず、憲法にもとづく国と自治体の役割を考えるシンポジウム」を開催しました。
 日本経団連が一貫して「道州制推進基本法案」の早期制定を求めているもとで、国民のくらしと権利、地方自治、教育、福祉にもたらす道州制の問題点や財界 のねらいを明らかにし、憲法を守りいかす国のあり方について議論を深め、今後の展望を示してくために開いたものです。
 今回で6回をかさねる「道州制シンポジウム」には、幅広い団体から75人が参加しました。こうしたねばり強いとりくみが、法案提出を許さない力となって います。

「富国強兵」こそ安倍首相がめざす「この国のかたち」

  シンポジウムは、自治労連の松繁美和副委員長の司会ではじまり、主催者を代表してあいさつした全労連の根本隆副議長は、「憲法キャラバンを実施中であり、 自治体との懇談をおこなっている。道州制について自民党の佐田本部長が都道府県を廃止する『道州制推進基本法』の棚上げを表明し、一方で宮城県の村井知事 は、『道州制は国家のフルモデルチェンジだ』と反発している。そうしたせめぎあい合いのなかで開催する集会である。介護ヘルパーが地方の高齢者を支えてい るのに、最低賃金にも211円もの差がある。安倍内閣の財界いいなりの政治を転換し、まちの疲弊をくいとめることが大事である。秋から来春闘にむけて全力 をつくそう」と呼びかけました。

 京都大学の岡田知弘教氏は、「『地方消滅』とショックドクトリンと新たな道州制導入論〜『自治体消滅』論に基づく安倍流『地方創生』に対抗する道」と題 して基調講演しました。
 岡田氏は、日本創性成会議が今年5月8日にだした「増田レポート」といわれる「ストップ少子化・地方元気戦略」での自治体の反応を紹介し、安倍首相がめ ざす国のかたちは、安倍流の「富国強兵国家」論であり、世界で一番ビジネスのしやすい環境をつくることに狙いがあると指摘し、TPPや国家戦略特区、道州 制を批判しました。
 「道州制推進基本法」をめぐる情勢にもふれ、市町村合併や構造改革の矛盾が深刻になっていることや地域産業を衰退させるTPPや消費税増税への反発、来 春のいっせい地方選挙などから「基本法」が自民党内でもまとまらない要因を指摘しました。
 また、大飯原発差し止めの訴訟判決の画期的な意義について、憲法にもとづく人格権を最高の価値としていると述べ、これは豊かな国とそこに国民が根を下ろ して生活していることが富国となることを強調しました。

各分野のシンポジス トがさまざまな方面から分析

 シンポジウムでは、コーディネーターをつとめた行財政総合研究所の永山利和理事長がシンポジストの紹介とあわせてシンポジウムの課題と狙いを述べ、「マ スコミ報道そのものをうたがってみる必要があり、東京に人を集中させることは頻発する災害の面からみても危ない。なぜ集中するのか議論をして政策をつくっ ていくことが大事である。一人ひとりができることからはじめよう」と訴えました。

 長野県栄村の前村長の高橋彦芳氏は、現役時代から「地方自治体は自立行動を起こせ」と呼びかけ、30数年間の職員経験も経て行政活動の企画、実践の舞台 に直接住民を登場させる「実践的住民自治」の考えを提唱してきたと強調しました。手始めに圃場整備は「田直し」、村道整備は「道直し」として住民に企画さ せたこと、住民にヘルパーを担ってもらい住民の居宅介護でつながりと生きる誇りと主体性をもってきたことを紹介。「小さくとも輝く自治体」ではなく「小さ いからからこそ輝く自治体」であると強調しました。
 また、グローバルな市場主義社会のなかで、みんなが自己疎外感を抱きながら生きているとし、「農山村と都市との交流、過密と過疎の交流がもっとも有意義 である」と含蓄のある発言をおこないました。86歳になる高橋氏は、現在、「飯水岳北九条の会」も代表委員もつとめておられ、憲法改悪がねらわれるもと、 「自治体よ、めざめよ」と強調しました。
 
 自由法曹団の尾林芳匡弁護士は、「地方創生」の対決点として、若年層の労働が非正規に置き換えかられ、貧困化がすすみ疲弊していること。教育・保育など 希望をもつことができる社会が形成されるよう「環境の整備」が必要だと指摘しました。
 真の「地方再生」に必要なことは、憲法25条にもとづいて国が社会権を保障することであるとし、自民党の「憲法改正草案」の前文にある「家族や社会全体 がお互いに助け合って国家を形成する」「活力ある経済活動を通じ国を成長させる」などの国家観を批判。労動と福祉の質の確保こそ大事なことであり、当面の 運動に全力をあげようと呼びかけました。
 
「農業改革」は郵政 民営化と同じ地域つぶしの攻撃

 会場からの「がんばらない自治体への支援はどうしたらよいのか」との率直な質問にたいして、尾林弁護士が「地方を競わせること自体が誤った方向。理念に 問題があり、正しい循環型に提起する必要があり地方創生は使えない。実践的住民自治として、栄村の例でたとえられ、国のやることは地域との知恵が必要であ る」と答えました。

 フロアから4人が発言。全農協労連の農業・農協問題対策部長で全国食健連の
坂口正明事 務局長が、政府・財界が描く「農業・農政改革」問題を報告し、「そもそも農業の役割は、食の確保・環境保全・水田の機能を持っている。安倍農政改革では、 真逆の方向でがらりと変えられる。企業参入させ、農協と農業委員会をつぶして郵政改革と同様に株式会社にしてしまう。これでは地域に人が住めなくなる」と 安倍政権の狙いと問題点を訴えました。

 国土交通労組の依田書記次長は、公共インフラの維持管理で自然災害にどうかかわったかについて発言し、国公労連の千葉中執、自治労連の久保中執、全教の 田倉書記次長からそれぞれの単産課題から道州制の問題を明らかにしました。
 閉会あいさつした全労連公務部会の猿橋均代表委員は、「自民党は揺れている。道州制を葬り去るチャンスだ」と述べ、いっせい地方選挙も念頭において地域 おこしの実践やとりくみの強化を呼びかけてシンポジウムを終了しました。
以 上