No. 878
   2013年11月15日

労働基本権回復を求めてILOに追加情報を提出

= ジュネーブのILO本部を訪問し、公務員制度改革の現状を伝える =

 全労連は、政府の「公務員制度改革」がすすめられるなか、労働基本権回復を求めてILO(国際労働機 関)に02年に提訴した案件にかかわる「追加情報」(別掲)を、11月6日にILO結社の自由部に提出しました。
 「追加情報」は正式に受理され、今後、結社の自由委員会や理事会などで審議されます。02年11月以降、ILOはすでに8度にわたって日本政府に是正勧 告を出しており、安倍自公政権が労働基本権の課題を先送りしながら、使用者権限を強化する「公務員制度改革」関連法の成立をねらうなか、新たな勧告をふく めて日本政府に対するILOからの厳しい措置が期待されます。
 「追加情報」の提出にあたって、全労連公務員制度改革闘争本部は、公務三単産によるILO要請団をスイス・ジュネーブのILO本部に派遣、要請団は11 月5・6の両日、ILOを訪問し、結社の自由部やILOの労働者活動局などの代表と面会しました。
 要請団は、その後、ドイツ・ポルトガルの各国を訪れ、11日に日本に帰ってきました。


権 利を後退させる「公務員制度改革」関連法案の問題点を報告

 岡部国公労連副委員長を団長とする13名の要請団は、6日に結社の自由委員会の事務局を担当する国際労働基準局結社の自由部を訪問しました。結社の自由 部からは、同部の副責任者を務めるアルベルト・オデロ氏、法律担当のチッタラス・プアンガサバス氏が対応しました。
 はじめに、岡部団長が今回の訪問の趣旨をのべ、対応に感謝するとともに、「追加情報」をオデロ氏に手交しました。
 岡部団長は、ちょうど前日の11月5日に安倍自公政権が「公務員制度改革」関連法案を国会提出したことを伝えつつ、自公政権が労働基本権回復を棚上げに していること、「賃下げ法」の違憲性をめぐる裁判のなかで、政府が「ILO勧告は法的な強制力は持たない」と主張していることなど最近の状況を報告したう えで、「ILOとしても、日本政府に対してさらに強い措置をとってもらいたい」と要請しました。
 国公労連の九後書記次長は、「公務員制度改革」関連法案の内容を中心に報告し、労働基本権を制約しながら、重要な労働条件となる級別定数の設定を人事院 から使用者機関である内閣人事局に移行させようとしていること、人事院の意見を尊重するとしつつも、その保証はまったくないことなど、公務労働者の労働基 本権を後退させるものだと訴えました。また、国公労連と政府との5回にわたる交渉でも、政府側は、聞き置くだけの態度でまともな交渉になっていないことも 示しました。
 要請団副団長で自治労連の猿橋書記長は、地方自治体では、大阪市の橋下市長のような強権的な首長が、労働組合活動を一方的に制限したり、公務員の政治的 活動を禁止する事態が起きていることをのべ、「公務員制度改革」による管理・統制の先取りであると指摘しました。また、政府による国に準じた賃下げの押し つけで、1千を超える自治体で賃下げがひろがり、その中で、具体的な理由も示されず、まともな交渉もなく一方的に賃下げが強行されるなど、不当労働行為が まかり通っている実態も示しました。そのうえで、「世界標準の労働基本権を制約している政府の責任を追及し、たたかいの支えとなるような強力な措置を要請 する」と強く求めました。
 全教の米田書記次長は、ILO・ユネスコ勧告が、当局と労働組合との間での意味のある交渉・協議の必要性を指摘しつつ、全教の勤務実態調査で月90時間 もの超過勤務の実態が明らかになるなかで、これを是正していくためにも文科省と労働組合との交渉が重要であることを強調しました。そのうえで、引き続き日 本政府を厳しく追及し、ILOの積極的な意見表明を要請しました。

社 保庁職員の分限解雇の不当性を当事者みずから訴える

 これを受けて、結社の自由部のオデロ氏は、「みなさんの話は思っていた以上にレベルの高い話だった。直接、話をうかがえたことに満足している」とのべつ つ、日本をはじめ各国で公務の民営化がすすめられ、公務サービスの低下が起きており、公務サービスをより適切に住民に提供するには、公務労働者の労働条件 が適正に確保される必要性を指摘しました。そのためにも、労使対等の団体交渉に裏付けられた労働条件の確保が不可欠である点を強調しました。
 法律担当のチッタラス氏も、「みなさんの案件については、結社の自由委員会でも、重きを置いて注目してきた」とし、とりわけ、自公政権のもとで、最近の 労働基本権をめぐる状況がILO勧告とも反対の方向に動いていることに着目していることなどがのべられました。そのうえで、「この案件を決して脇に置いて いないので、今後とも、情報提供してもらいたい」との要望ものべられました。
 また、社保庁職員の不当な分限解雇をめぐって、今回、「追加情報」と同時に国公労連がILOに「申立書」を提出しました。これにかかわって、京都で不当 解雇された当事者の川口さんが全厚生闘争団を代表して要請団行動に参加、全厚生京都支部書記長として労働組合活動をしていたみずからの体験をのべました。
 川口さんは、よりよい公務サービスをすすめるため、労使間で話し合いながら労働条件の改善をはかってきたにもかかわらず、年金制度改悪を目的にして、当 時の自民党政権が労働組合敵視政策に転換し、労使合意を当局が一方的に破棄する事態に陥ったことや、「無許可専従」などとして懲戒処分された経験をのべま した。与党の失政の責任を労働組合に転嫁することは団結権の侵害にあたり、ILO87号、98号条約に違反するとして、「解雇された全員が一日も早く職場 に戻れるように、ILOとして日本政府に対して具体的な厳しい働きかけをお願いする」と要請しました。
 これに対してオデロ氏は、「川口さんのケースは、結社の自由違反を示すきわめてわかりやすい事例だ。処分歴などをまとめた追加情報を、結社の自由委員会 にたたちに提出すべきだ。非常に重大な問題であり、労働組合活動によって解雇されたことをもっと強調すべきだ」とのべるなど、ILO結社の自由部の注目が 集まりました。
 国公労連の「申立書」は、オデロ氏からのアドバイスもあり、迅速な処理をすすめるため、全労連の「追加情報」の一部として受理され、結社の自由委員会に 報告されることとなりました。

ILOの労働者代表となごやかに懇談、多方面に意見交換

 要請団は、結社の自由部への要請に先立ち、前日の5日にはILO労働者活動局を訪問し、アナ・ビヨンディ次長、アジア担当のラグワン・ラグワン氏と懇談 しました。
 結社の自由部要請と同じように、日本の「公務員制度改革」など労働基本権をめぐる現状や、国会提出されている関連法案の問題点を伝えながら、これまで以 上に日本国内での運動を前進させる決意をのべるともに、国際的にも日本でのたたかいへの支援と協力を求めました。
 ビヨンディ次長は、「みなさんからの重要な情報に感謝する。公務員制度改革でも社保庁職員の解雇の問題でも、より強い言葉で日本政府に対応を求めるよう に努力したい」とのべ、世界中の公務員が過酷な攻撃を受けながら、各国の公務労働組合が労働組合運動の支柱としての機能を果たしていること、社保庁職員へ の攻撃は公的社会保障への攻撃でもあることなどを強調しました。ビヨンディ次長は、「自公政権のもとで労働基本権回復の課題が後退していることがよく理解 できた。引き続き日本の動きに注視したい」とのべました。
 2時間以上におよんだ懇談では、世界に共通する公務の民営化の動きをはじめ、さまざまな問題が意見交換され、有意義な訪問になりました。
 2日間のジュネーブでの行動を終えた要請団は、その後、ドイツとポルトガルに分かれ、ドイツでは公務員制度の調査にとりくみ、また、ポルトガルでは、北 村全教委員長を団長にして、国家公務員・自治体職員・教員のそれぞれの産別組織との交流を深めました。とりわけ、ポルトガルではちょうどストライキでたた かっている自治体労働組合を訪問、労働者を激励し、地元テレビ局の取材を受けるなど、公務労働者の国際的連帯をひろげました。
以 上

【資料:ILOに提出した追加情報】

日 本政府の「公務員制度改革」に関する提訴
(2183号)案件に係る「追加情報」

2013年11月6日
全国労働組合総連合

 全国労働組合総連合(ZENROREN)が申し立てた2183号案件に関わって、12年12月の政権交代もふまえた公務員制度改革のその後の状況につい て、申し立て組合からの情報を以下のとおり提供する。

1、国家公務員制度改革をめぐる状況

(1) 2012年12月の衆議院選挙の結果、民主党政権から自公政権へと政権が交代し、公務員制度改革の検討作業も、2012年12月に発足した第2次 安倍内閣へと引き継がれた。
 安倍首相を本部長とする国家公務員制度改革推進本部は6月28日、新政権のもとでの公務員制度改革の方針を示した「今後の公務員制度改革について」を決 定した。
 その内容は、第1次安倍内閣(2007年9月〜2008年8月)における国家公務員制度改革の延長線上に位置づけられるものであるといる。そのうえで、 「国家公務員制度改革基本法の条文に即し、機動的な運用が可能な制度設計を行う」として、@幹部人事の一元管理、A幹部候補育成課程、B内閣人事局の設 置、C国家戦略スタッフ、政務スタッフ、Dその他の法制上の取扱い等を掲げている。

(2) 一方で、公務員の労働基本権の保障については、政府方針では一言も触れられていない。そのことは、廃案とはなったものの、協約締結権回復をめざし た政府による公務員制度改革関連4法案の提出という到達点を後退させるばかりか、「政府は、協約締結権を付与する職員の範囲の拡大に伴う便益及び費用を含 む全体像を国民に提示し、その理解のもとに、国民に開かれた自律的労使関係制度を措置する」とした基本法第12条を無視したものである。
 国家公務員制度改革基本法に即して改革を行うというのであれば、労働基本権の回復課題が検討課題に掲げられることは当然である。

(3) 政府は、推進本部の方針決定を受けて、法案の検討作業をすすめてきたが、法案は、自公政権下で09年3月に提出され、同年7月に衆議院解散に伴っ て廃案となった国家公務員制度改革関連法案を踏襲している。この法案の問題点については、2009年3月に全労連が提出した追加情報でも指摘してきたが、 労働条件である級別定数管理事務を内閣人事局に移管することなど人事院の機能を縮小させることは、公務員の労働基本権にかかわる重大な問題を持っている。
 政府は、今年度中の内閣人事局の設置にむけて、11月5日に法案を提出し、2013年秋の臨時国会での成立をめざしている。

(4) 一方、人事院は8月8日、みずからの実態調査によって、国家公務員給与が民間よりも7.78%(29,282円)下回っていたにもかかわらず、公 務員給与改訂の勧告を見送った。こうした措置は昨年に続くものであり、労働基本権制約の代償措置としての人事院勧告制度の形骸化がさらに進行していること を表している。
 以上のさまざまな経過が示すように、労働基本権回復の課題を放置し、公務員を引き続き無権利状態に置きながら、その代償措置さえ機能せず、使用者・政府 の権限を強化する公務員制度改革が、自公政権下ですすめられようとしていることは極めて重大な事態である。

2、給与引き下げ法の違憲・無効を求めた東京地裁提訴事件をめぐる状況

(1) 国会が人事院勧告を超える給与引き下げ法案を一方的に成立させたことは、労働基本権保障を定めた憲法28条及び結社の自由を保障するILO条約に 違反するとして、日本国家公務員労働組合連合会(KOKKOROREN)が給与引き下げ法の成立に抗議し、2012年5月25日に東京地方裁判所に提訴し たことに関しては、前回情報提供した。

(2) 裁判は、これまで6回口頭弁論が開かれ、双方の主張が明らかになっている。
 原告・国公労連等の主張は、第一に、労働基本権制約下にあって、その代償措置である人事院勧告を無視した給与引き下げ法は憲法及びILO条約に違反し、 無効である、第二に、給与引き下げ法案について、国公労連と団体交渉が行なわれなかったことは団体交渉権の侵害であり、憲法及びILO条約に違反し、無効 であるというものである。
 これに対して被告・国の主張は、第一に、労働基本権制約の代償措置である人事院勧告には国会や内閣に対する法的拘束力はなく、国家公務員の勤務条件は国 家公務員法第28条によって、「国会により社会一般の情勢に適応するように随時これを変更することができる」と規定しており、最終的には国会が決定すれば よいことになっていることから憲法には違反しない、第二に、国家公務員には団体協約締結権が認められていないことから、労使による勤務条件の共同決定を内 容とする団体交渉権は保障されておらず、憲法に違反しないというものである。これらの主張は労働基本権制約の代償措置を否定し、かつ、団体交渉権をも否定 するものである。

(3) 被告・国は、ILO条約等に関し、「ILOの条約勧告適用専門家委員会は、条約の適用状況等に関し、ILOとしての統一的な見解を与える権限を有 しておらず、加盟国もその見解に拘束されるものではない」、「ILOの結社の自由委員会の行なった勧告は、条約の解釈を示したものではなく、また、法的拘 束力も有しないものである」として、ILOの報告や勧告に従う必要はないとの主張を繰り返している。

(4) 以上のような主張も背景にして、政府は、給与引き下げが2年間の臨時的措置だと繰り返し説明していたにも関わらず、特例法による減額措置終了後の 新たな給与引き下げ措置の可能性を示唆している。
 2013年6月13日、参議院総務委員会において、委員の「給与減額特例措置は、政府としていつまで続けるのか」との質問に対して、新藤総務大臣は、 「給与減額措置は来年3月までの臨時異例の措置だが、それ以降については、景気の動向、財政健全化の計画、その他の諸情勢を含めて総合的に判断する」と答 弁しており、給与引き下げ措置が2年で終了するとは明言しなかった。

3、国家公務員に準じた賃下げの地方公務員・独立行政法人等職員への波 及

(1) 安倍内閣は2013年1月24日、地方公務員にも国家公務員に準じた平均7.8%の給与の引き下げについて、同年7月までに実施するよう各地方自 治体に要請するとの閣議決定を行った。また、2013年度予算において、地方公務員や教職員の給与費に係る地方交付税および義務教育費国庫負担金等を一方 的に削減した。

(2) 政府によるこの措置は、本来、地方自治のもとで、地方人事委員会勧告や労使間交渉によって決められるべき地方公務員給与に対する政府による介入で あり、国による事実上の賃下げの強要である。
 その点を重大視した全国知事会は、政府がこの閣議決定に基づき、2013年1月27日に地方公務員人件費に係る地方交付税を一方的に削減する方針を決定 した際に、また、この決定に基づいて2013年3月29日に地方交付税を削減する内容の地方交付税法が改正された際にも、地方自治の根幹にかかわる問題で あり「極めて不適切である」との声明等を発表して抗議した。全国市長会、全国町村会も同様の意思表明を行っている。

(3) しかし、実際に地方交付税等が削減されたことや、総務省による執拗な介入の継続のもとで、各地方公共団体は国家公務員に準じた給与の引き下げを受 け入れざるを得ず、2013年10月から、1,069の地方自治体(全自治体の59.8%)において政府の「要請」にもとづいた給与の引き下げが実施され ている。また、この課程において、少なからぬ自治体で、労使交渉が軽視され、一方的な給与引き下げが実施された。
 その後も政府は、8月29日にも全国の自治体代表を集めて、賃下げを実施していない自治体に対し、国家公務員に準じた賃下げ実施を強くせまっている。

(4) 各府省が所管する独立行政法人と国立大学法人に対しても、政府は国家公務員に準じた賃金引き下げを要請してきた。これらの法人は、政府や各府省か ら業績評価を受ける関係から、政府の要請を拒否することはマイナス評価につながりかねず、賃金引き下げの「要請」も一定の強制力を持ったものにならざるを えない。
 その結果、例えば、独立行政法人・労働者健康福祉機構が運営する全国各地の労災病院では、使用者側が就業規則を無視して一方的に一時金の引き下げを強行 したことから、労働組合側は労働委員会に不当労働行為救済を申し立てている。また、国立大学法人では、一方的な賃金引き下げに対して、昨年11月以降、全 国8大学等の労働組合が裁判所に提訴している。

4、おわりに

(1) ILO理事会は、2013年3月17日の中間報告において、結社の自由原則の完全な尊重を確保するために必要な措置をとるとともに、@国家・地方 公務員制度改革法案が再提出されるか示すこと、A国公労連が東京地方裁判所に訴えた裁判等の結果について報告を継続することを日本政府に勧告したことをふ まえ、今回、全労連として情報提供するものである。

(2) 上述したとおり、日本政府は、引き続き公務員制度改革を国政上の重要課題に位置づけているものの、公務員への労働基本権回復は検討課題にさえ掲げ ておらず、ILO勧告を無視し続けている。また、給与引き下げ法の無効を求めて提訴した裁判に関しては、ILOの報告や勧告に従う必要はないとの主張を繰 り返している。また、政府による事実上の給与引き下げが、地方公務員や独立行政法人にもおよび、労使関係を著しく破壊している。
 このような日本政府の姿勢は許されるものではない。02年の提訴以降、10年が経過し、この間、8度にもおよぶILOからの勧告を無視し続ける日本政府 の姿勢を踏まえ、公務員労働者の労働基本権回復を目的とした公務員制度改革の実現と、それに向けたすべての関係労働組合との交渉・協議を強めることを日本 政府に迫るよう強く要請する。

以 上