No. 876
   2013年11月9日

 道州制を許さず、憲法にもとづく国と自治体の
あり方を考えるシンポジウムを開催

= 各界からシンポジストをまねき議論を深める =

 先の通常国会で「道州制推進基本法案」の提出がねらわれ、それにともない中央省庁の再編まで構想され 「この国のかたち」を根本から変える重大な問題が浮き彫りになっています。
 道州制のねらいと問題点を明らかにし、憲法にもとづいた国と自治体のあり方について議論を深めるため、全労連は11月9日、日本教育会館で「道州制を許 さず、憲法にもとづく国と自治体のあり方を考えるシンポジウム」を開催しました。
コーディネーターに行財政総合研究所の永山利和理事長、シンポジストに三重県朝日町の田代兼二朗町長、自由法曹団の尾林芳匡弁護士、全生連の前田美津恵事 務局次長の3人を迎え、今後の展望や運動の方向について議論しました。各団体から90人が参加しました。


「国 のかたち」を変える攻撃の本質が明らかに

 13時から国公労連の橋本恵美子書記次長の司会でシンポジウムを開会しました。主催者を代表して、全労連の大黒作治議長は、「地方分権改革の推進によっ て、国の出先機関の廃止などが検討され、地方では民間委託などで、公務・公共サービス切り捨てや住民への負担が強められてきた。日本の新自由主義的分権化 論は20年前から始まり、2011年4月に民主党政権下で成立した地域主権関連3法は、国・自治体の役割分担を根本から変えるものだ。全労連は10月29 日から12月6日まで「かがやけ憲法!全国縦断キャラバン」で自治体首長・地方議会・地元経済団体、JAなどとの懇談や、駅頭宣伝に取り組んでいる最中 だ。本シンポジウムで財界が『究極の構造改革』と位置づけている『道州制』の導入について国民の暮らし、権利、地方自治、教育にどのような影響をもたらす のかという問題点を学び、一緒に国と自治体のありかたを考えよう」とあいさつしました。
 
 基調講演では、行財政総合研究所理事長で元日本大学教授の永山利和氏が、「道州制」議論に関する経緯と道州制をめぐる現状を年表で時系列に解説し、新し い国家づくりと称して、義務付け・枠付けの見直しで地方に権限を委譲していった経緯を説明しました。
 状況については、道州制の議論がこれまでになく具体性を帯びてきており、憲法改悪、解釈改憲への道筋にも絡んで自公案を軸に維新、みんなを加え「道州制 推進基本法案」を策定し次の通常国会へ提出する可能性が大きいこと、政府は日本経済の景気回復を強調しているものの、アベノミクスの行方は不確実であり、 消費税増税と社会保障制度の改悪がすすむことにより、一部の大企業の一時金上昇などではカバーしきれないことなどに触れました。
 憲法キャラバンを地域の課題と結びつけながら、公務労働運動の大きな役割を発揮していくことを呼びかけました。
 
 シンポジウムに移り、永山氏をコーディネーターに3人のシンポジストが各分野からの発言をおこないました。
 
小規模自治体は必至だった〜多様なまちづくりをめざして
(三重県朝日町 田代 兼二朗 町長)
 平成の大合併から10年のなかで1万人以下の自治体は、3分の2近くが合併をせざるをえなくなり3,000を超える自治体は1,720自治体になった。 職員を減員していくことは住民サービスの低下につながる。1万人以下の自治体は一人前でないので国の支援をうけなさいという腹立たしさを感じてきた。
 経験を積みながら逆に小さくなければできない町づくりを進めてきた。雪深い栄町の「げたばきヘルパー」や矢祭町の「貧しくても貧せず」誇り高き村づくり や三重県多気町の養殖マグロなどを参考に学び知恵を出し合ってきた。
 教訓として住民の顔がみえること。会うたびに体は大丈夫かと尋ねている。嬉しいことに子どもの増加が日本一になった。見守隊が毎日80歳を超えている人 を訪問している。あらためて人材や地域力が町の発展につながることを実感している。
 国は再度お堀をうめようとする動きがあるが、いいかげんおせっかいはやめてほしい。11月19・20日に町村会の全国大会を開く。住民と協働のまちづく りを進めていくことが大事である。

生活保護・ナショナルミニマム(憲法25条)の崩壊を許さないために 
(全国生活と健康を守る会連合会 前田 美津恵 事務局次長)
 「生活保護受給者が増加している。年金など社会保障の改悪と労働政策に起因がある。お笑い芸人がたたかれたり、昨年4月から不正受給キャンペーンがくり ひろげられ、戦後最大の生活保護基準引き下げに対して、1万人以上が審査請求を提出した。これができたのは、今でも大変な実態に、もうだまっていられない という怒りが突き動かした。審査請求の代理人は応援団として後押ししてくれた。個人住民税非課税は6,789万人いる。就学援助や地域やくらしにかかわる 制度が影響してくるという問題が運動につながった。
 道州制は福祉を市町村へ「丸投げ」し、国の責任を放棄することにつながる。国庫負担が1985年まで8割であったものが、86年〜88年まで7割になっ たときには、母娘餓死事件や自殺がおこった。10月10日に大阪で査察捜査がはいった。大生連と全生連の関係をつかもうと運動を敵視する組織弾圧に屈する ことなく、日本の生活保護は世界の非常識だと運動を広げていく。
 
道州制のねらいは財界本位の財源集中と公務労働者の首切り
(自由法曹団 尾林 芳匡 弁護士)
 自由法曹団作成のリーフ「県がなくなる日」と意見書「住民の声とくらしを切り捨てる道州制を批判する」をもって回っている。道州制とは行政区画として道 と州を置く地方行政制度であり、維新は失墜したかに見えるが関西財界や商工会議所は可能な限り道州制へ動いており、関西広域連合へむけて展開することにな りかねない。道州制のねらいは財界本位の財源を集中させることにある。住民の声が反映されず、公務労働者の大幅削減で地域間格差と大量の首切りがおこる。 関西広域連合が何をやろうとしているのか、時間軸として合わせて観察していく必要があるのではないか。
 
 シンポジストへの質問では、「道州制法案が廃案になっても政府は何らかの方針を示し、実行に移す可能性があるが、次のたたかいに備えるための運動は」 「総合特区と戦略特区と道州制の関係」「小規模自治体に対する府県の補完についての現状と課題」「関西財界の動向や自公案と維新みんなの道州制法案の違い とは」などの質問が寄せられました。
 フロアーからの発言では、千葉県職労の白鳥裕一さん、国土交通労組の西岡総さん、全労働の大村章栄さん、全教の田倉孝衛兵さんが発言しました。
 
 シンポジウムの最後に補足とまとめとして、「自治体の現場での状況報告を聞いた。それぞれの地域・分野ごとに道州制でどうなるのか議論を深め示していく ことで、反対運動を広げてほしい」(尾林氏)「生活保護の学習会で全労働の方のハローワークでの実情を聞き、見えないところで仕事をされているみなさんの 話が参考になった」(前田氏)「道州制を打ちくだいていくためには、現場からの学習が必要であり、全国で運動を進めなければならない。憲法をくらしのなか にいかすこと。あらためて自分たちの仕事にがんばることだ」(田代町長)などの点を強調しました。
 最後に永山氏は、「安倍政権は多くの矛盾をかかえ運営せざるをえない状況にあり馬脚を現すだろう。国民や各団体のかかわりで起きる変化を道州制や地方分 権のなかできちんと見破り、行政の守り手として改善させることが不可欠だ。国民の受けるサービス拡充やひいては憲法改悪を阻止する土台になる。課題を明ら かにして押し広げ運動にエネルギーを注入する人を増やしていってほしい」と締めくくりました。
 
 最後に公務部会の野村幸裕代表委員が閉会あいさつし、「今、国や自治体のあり方や役割は何なのかを問うたたかいが焦点になっている。臨時国会で国家公務 員制度改革法案、機密保護法案など多くの悪法が一気に審議入りしている。シンポジストからは、あらためて自治体として住民のくらしと命をまもることに奮闘 したいと熱い決意のべられ、抽象的議論でなく、ひとりひとりの生活者の声を反映する運動の重要性が確認できた。それぞれの運動を様々な課題のなかでたたか いを進めると同時に、共通課題を一緒に手を取り合ってすすめる時期にきている」と展望を示し閉会しました。
以 上