No. 846
   2012年9月24日
憲法と国際基準にそって労働基本権回復を

= 全労連闘争本部が総務省・有識者 会議のヒアリングで意見表明 =

 地方公務員の協約締結権回復にむけて、政府が関連法案 の国会提出をめざしているもと、総務省は現在、5人の有識者による「地方公務員の自律的労使関係制度に関する会議」(以下、有識者会議)を設置して、制度 のあり方についての検討をすすめています。
 9月12日に第1回の会議が開かれ、21日の第2回目は各団体からのヒアリングの場が持 たれ、全労連公務員制度改革闘争本部として会議に出席し、地方公務員の労働基本権回復にむけた考え方を表明しました。

国とは 異なる地方自治体の実態をふまえた検討こそ必要

 有識者会議の構成 員は、渡辺章氏(労委協会理事長)を座長に、下井康史(筑波大学大学院教授)、平勝典(元郵政省東北郵政局長)、西村美香(成蹊大学教授)、長谷川真一 (日本ILO協議会理事)の各氏が委員となっています。
 第1回会議では、この間の公務員制度改革をめぐる経過や現状などが事務局 (自治行政局公務員部公務員課)から報告され、フリーな意見交換がおこなわれました。
 第2回会議のヒアリングには、有識者会議の要 請に応じて、全労連闘争本部から、黒田事務局長、猿橋委員(自治労連書記長)、今谷委員(全教書記長)が出席しました。また、使用者側からは、全国町村会 の渡邊廣吉行政委員会副会長(新潟県北蒲原郡聖籠町長)が出席しました。
 ヒアリングでは、猿橋委員が、地方自治体の実態をふまえた 地方公務員の労働基本権回復の必要性とともに、現状の地方自治体における労使関係の実態についてのべ、今谷委員が教職員の権利回復に関わって補強的に意見 をのべました(別掲)。
 また、その後の質疑・応答では、各有識者から、職場における労使交渉の現実や、中央交渉と地方交渉の関係と それに対する考え方、現行の地方人事委員会は存続させるべきかどうか、中央交渉での妥結結果に対する対応など、多岐にわたる質問が出されました。
  これらに対して、この間の闘争本部での議論や、2度にわたって総務省に提出してきた「意見書」もふまえながら質問に答え、憲法と国際基準にそった公務労働 者の労働基本権のすみやかな回復を強く主張しました。全労連闘争本部に対するヒアリングは1時間近くにおよぶものとなりました。
 有識者会議は、今後、他団体からもヒアリングをうけながら、10月中にも何らかの方向性を示すため議論・検討がすすめられ るものと見られます。今後とも会議の動向に注視しつつ、あらゆる機会を通して必要な意見反映に努力していきます。

【猿橋自治労連書記長の意見表明(要旨)】
  地方公共団体は多様であり、任命権者も分立している。首長と議会の「二元代表制」など国とは異なった独自の権限を持っている。また、一般職員は労働基準法 や労働安全衛生法が適用され、すでに協約締結権を持つ労働者も多く存在しているもとで、国家公務員の制度改革を単に横引きした総務省の「地方公務員の労使 関係制度に係る基本的な考え方」(11年6月)は不十分だ。地方の自主性や多様性を尊重した地方公務員の労働基本権の回復が必要だ。
  労働基本権は憲法第28条に基づくものであり、再三のILO勧告を踏まえた公務労働者の基本的人権の確立が必要だ。同時に、憲法15条の「全体の奉仕者」 性の確保や「地方自治の発展と住民福祉・教育の向上」に寄与するものであるべきだ。
 したがって、争議権も含めた労働基本権を全面的 に回復し、憲法原則やILO条約、「教員の地位に関する勧告」などの国際基準にのっとった検討を求める。
 労働組合法第1条で明記さ れている「労使が対等の立場で団体交渉を行い、協約締結を結ぶこと」を基本に、「全体の奉仕者」「勤労者の権利」など憲法が基本的人権を保障している。こ うしたことから、消防職員を含めた労働基本権回復の検討にあたっては、労組法等の全面適用をはかりつつ、当面、地方公営企業等の労働関係に関する法律を最 低基準に新たな労使関係制度を構築すべきだ。とりわけ、現在の労使関係の到達点が後退することは、決してあってはならない。
 今回、 本有識者会議が設置されるにあたり、総務大臣からは「公務員への労働基本権を付与することについて、とりわけ地方3団体との間で、共通の認識に立てていな い」とし、「共通認識に立てるよう努力をしたい」との考え方が示された。地方3団体からは、「なぜ今、地方公務員についての制度改正が必要か」「公務員優 遇であり、国民の批判に耐えられない」、行政コストの増大、給与総額の増加で「現場が混乱」などの懸念が示されている。
 しかしなが ら、第1には、ILOの再三にわたる指摘がある。今年3月のILO勧告では、従来の内容に加えて「完全な回復」との強い論調で指摘されている。グローバル 化が叫ばれるなかで、先進国で日本だけが公務員の権利が制限されている現状こそ、すぐにでも解決すべきだ。
 第2に、「公務員優遇」 と言うが、労働基本権制約の「代償措置」である人事院勧告・人事委員会勧告さえ無視した賃下げが国・地方自治体ともにおこなわれており、最近では、労使交 渉の当事者でさえない議員提案による賃金労働条件の切り下げが強行されているのが現状だ。
 第3に、「行政コストの増大」について は、権利保障の問題を「コスト」で計ること自体が本末転倒の議論であり、「賃金・労働条件は労使交渉によって決める」という大原則を無視すれば、「労働委 員会申立」「裁判提訴」などの事態が増加し、「行政コストの増加」につながりかねない。また、「給与総額の増加」についても、地方公務員・教員としての役 割を果たすために、必要な賃金・労働条件を担保するため自治体当局が行政執行上必要な費用を確保することは、使用者として当然の責務だ。
  最後に、現状の労使関係について、労働組合と使用者当局では立場の違いもあり、労使間で対立することもしばしばある。しかし、住民のいのちや暮らし・教育 を守り、発展させる立場では認識は労使間で共有できているし、その認識にもとづいて、従来から労使関係をつくってきた。労働基本権回復がはかられることに より、こうした労使間の基本的関係がより明確になるものと考えている。

【今谷全教連書記長の意見表明(要旨)】
  まず第1に、貧困や格差のひろがり、いじめや自殺などの問題もあり、多くの教職員が深刻な長時間・過密労働におかれている実態をふまえた検討が必要だ。教 職員の労働基本権保障は、人間らしい労働と子どもたちに正面から向き合うことのできる条件をつくることとなる。すべての子どもの成長と発達を保障する学校 と教育は圧倒的な国民の願いであり、今回の検討はこうした課題とも向き合うものだ。
 第2は、憲法と国際基準にもとづく労働基本権の 保障について、教職員にかかわっては、ILO・ユネスコの「教員の地域に関する勧告」があり、「教員の賃金と労働条件は、教員団体と教員の雇用主の間の交 渉過程を通じて決定されなければならない」と明確にのべている。こうした到達点に立った検討を求める。
 第3に、教職員の制度的実態 に立った検討が必要だ。公立学校教職員にかかわっては、義務教育費国庫負担制度と県費負担教職員制度が基本となっている。給与等の労働条件の基本的な部分 は都道府県の条例により定められ、給与表は全人連がモデル給料表を作成、諸手当も含めて義務教育費国庫負担法等によって枠組みが決まる。一方で服務監督 は、市町村教育委員会とされ、労働安全衛生も市町村の責任とされている。さらに勤務割り振りや休暇承認など相当部分が学校長に委任されている。これに対応 してさまざまな段階で交渉・協議がおこなわれている現状をふまえた検討を求める。

以 上