No. 826
    2012年3月7日
「賃上げでこそ景気回復を」と政府・人事院と交渉

= 総務省交渉では「賃下げ法」成立 をめぐって激しく追及 =

 3月8日の春闘最大の中央行動をひかえ、公務労組連絡 会は7日、総務省・人事院との中間交渉にのぞみました。
 とくに、2月末に「賃下げ法」の成立が強行された直後であり、総務省との交 渉では、使用者責任を放棄した政府への怒りが集中しました。
 公務労組連絡会では、今後、総務省・人事院との交渉を積み重ね、3月下 旬に最終回答の引き出しをめざします。

「給与 改善要求は切実なものと受けとめる」と総務省

 総務省との交渉 は、公務労組連絡会から、野村議長、北村副議長、黒田事務局長、米田・関口の各事務局次長、国公労連から細川中執が参加しました。総務省は、人事・恩給局 総務課の越尾総括課長補佐、小泉課長補佐ほかが対応しました。
 はじめに、野村議長は、結果的には政府法案が店ざらしにされたまま、 議員立法で「賃下げ法」が成立したことが「人事院勧告制度を無視するばかりか、労働組合の意見も聞かないままに民自公の法案が提出されるなど、労働基本権 が二重三重にも蹂躙される重大な事態だ」と厳しく指摘し、「一部の政党間の協議に法案の扱いをゆだねたことは、使用者責任を放棄するものだ」として強く抗 議しました。
 そのうえで、春闘要求に対する現段階での検討状況を質すと、越尾総括課長補佐は、以下のように回答しました。
●  労働基本権の回復にむけては、政府としては、国家公務員制度改革基本法にもとづく自律的労使関係制度を措置するための法案を昨年6月3日に国会に提出し ているところであり、本法案をできるだけ早く成立させていただきたいと考えている。
● 退職手当について、国家公務員の退職手当の支 給水準については、おおむね5・6年ごとに実施する民間企業退職給付実態調査の結果をふまえ、官民均衡をはかっている。現在、人事院で民間企業の退職給付 の実態調査の結果を取りまとめているところであり、当該結果と人事院の見解を踏まえつつ、政府として、12年度中にその水準を見直すための改正法案を国会 に提出したい。いずれにしても、退職手当は職員の重要な関心事項であり、この検討に際してはみなさんからの意見は十分うかがっていく。
●  給与改善に対するみなさんの要求は切実なものとして受けとめる。今後、政府として検討していきたい。
● 超過勤務の縮減は、職員の 健康、士気の向上はもとより、自己研鑽や家族との時間の確保のために重要であると認識している。このため、従来から全省庁一斉の超過勤務縮減キャンペーン 等のほか、60時間を超える超過勤務手当の割増や、超勤代休時間制度の新設によりコスト意識を持った超過勤務抑制に努めるとともに、超過勤務縮減を管理職 員の人事評価の対象として明確化した。今後とも、超過勤務縮減のためのとりくみをすすめる。
● 心の健康づくり対策については、昨年 4月に見直した「国家公務員福利厚生基本計画」において、これまでの職員一人ひとりの心の健康の保持増進、心が不健康な状態になった職員への早期対応、円 滑な職場復帰の支援と再発防止等の施策に加え、「心が不健康になりつつある職員への配慮」、「職場復帰の際の受入方針のモデル作成」、「管理職員に対する 教育の徹底」等の充実を図ることとしており、今年度からe―ラーニングによる新任管理者のためのメンタルヘルス講習を開始したところだ。いずれにせよ、心 の健康づくり対策に当たっては、当局としても十分に配慮していく。

「政府 は使用者責任を自覚せよ」と厳しく追及

 これに対して黒田事務 局長は、以下の点を追及しました。
○ 今回の賃下げ法の成立では、政府には使用者としての責任がまったく感じられない。とりわけ以下 の点は重大だ。
・ 昨年6月、政府は「自律的労使関係の先取り」と言って、一部の労働組合と交渉で合意して賃下げ法案の提出を強行し たが、そうした労使間の交渉とも離れて、民自公三党の議員立法で法案が提出されたことは、自律的労使関係とも相いれない。
・ 川端総 務大臣は、国会答弁で「政府法案が踏襲されている」とのべたが、政府法案では人勧実施を見送り、議員立法は昨年4月にさかのぼって実施する点で、180度 違っている。どこが「踏襲」しているのか。そもそも、人事院勧告の取り扱いを決めるのは使用者の責任だ。
・ 国会審議では、提出者で ある自民党の議員から、議員立法による法案提出は、「今後十分あり得るやり方だ」との答弁があった。自律的労使関係が確立されたもとでも、労使交渉を離れ て一部の政党間協議で決められるという点で重大だ。使用者・政府として、きちんと反論すべきではないのか。
○ 春闘交渉にあたって、 あらためて使用者としての責任を自覚し、以下のような点について検討を深めるよう求める。
・ 行革実行本部では、社会保障・税の「一 体改革」と「行政改革」を車の両輪として、公務員総人件費削減をめざしている。賃下げにつづいて採用抑制が検討されている。公務員削減を消費税増税の突破 口にするのは認められない。震災復興にむけて公務・公共サービスを拡充せよ。
・ 賃上げ要求は、マイナス7.8%をもとにもどしたう えで、「平均10,000円」の引き上げを求める。
・ 一時金は一律10%の削減となる。この6月はさらに減らされる。ボーナスで生 活費を補填し、ローンの支払いに回している実態をふまえれば、影響ははかりしれない。地方自治体では、独自の賃下げにあたって、融資制度をつくったところ もある。実損に対する使用者責任をどのように果たそうとしているのか。
・ 定年延長にかかわって、全員の雇用をきちんと確保すること からも、あくまで定年延長で対応すべきだ。また、退職金は人事院で調査集計がすすんでいるが、現行水準の維持を求める。

  最後に、野村議長は、「賃下げが強行されたうえ、公務・公共サービスの切り捨てや公務員総人件費削減が検討されるなかで、働きがいを持って仕事ができる職 場環境を作ることが使用者としての総務省の役割だ。とりわけ、理不尽な賃下げへの怒りが高まっている。賃上げでこそ景気回復ができる。最終交渉にむけて、 要求に対する誠意ある検討を求める」とのべ、交渉を閉じました。

ベアゼ ロなど民間の厳しい状況をひときわ強調する人事院

 人事院との 交渉は、野村議長を先頭に総務省交渉と同じ交渉団でのぞみ、人事院側は、給与局給与第1課の箕浦(みのうら)企画室長、職員福祉局職員福祉課の柳田課長補 佐が対応しました。
 野村議長は、「賃下げ法が成立し、野田政権が公務員総人件費の削減をめざし、国の出先機関廃止や採用抑制などが 検討され、職場では将来への不安がひろがっている。公務労働者の生活・労働条件の改善にむけて、人事院が果たすべき役割は大きい。提出した要求はどれも切 実なものであり、非常勤職員をふくめて、すべての公務労働者の賃金改善を強く求める」として、要求に対する現時点の人事院の回答を質しました。
  人事院側からは、以下のような回答が示されました。
● 失業率が高水準で推移するなど、引き続き厳しい経済・雇用情勢のもと、連合の 1%を目安にした賃金要求に対して、財界は、ベースアップは論外とし、定期昇給も延期・凍結などの基本姿勢を示している。民間では引き続き厳しい交渉にな るが、今後、3月中旬以降の回答・妥結の動向を注視していく。国家公務員の給与は、情勢適応の原則に基づき、国家公務員の給与と民間企業の給与の実態を精 緻に調査した上で、その精確な比較を行い、必要な勧告を行うことを基本に臨む。また、住居手当等、諸手当の見直しについては、民間の状況、官民較差の状況 等を踏まえながら検討する。
● 非常勤職員の任用、給与、休暇等については、みなさんの意見も聴きながら、民間の状況等を踏まえて対 処してき。今後も同様のスタンスで必要な見直しをおこなう。
● 超過勤務の適正な管理へ、職員の在庁時間の的確な把握が必要だ。その ために、厳正な勤務時間管理を徹底することが重要である。とりわけ、管理職員が部下の在庁状況を把握するとともに、その業務内容や在庁理由を確認し、不必 要に在庁している場合の指導をおこなうなどが必要だ。勧告時の報告でものべており、在庁時間削減のとりくみは各府省に浸透しつつある。人事院としても、今 後とも在庁時間の削減にとりくみたい。
● 職員の休暇、休業等の要求については、今後とも民間の状況等を見定めつつ必要な検討をおこ なう。
● 男女共同参画の実現にむけて、10年12月に閣議決定された第3次男女共同参画基本計画をふまえ、翌年1月に「女性国家公 務員の採用・登用の拡大等に関する指針」を改定し、各府省では、「女性職員の採用・登用拡大計画」を策定している。人事院としては、定期的に会議を通して 各府省のとりくみを積極的に支援していく。
● メンタルヘルス対策等は重要な事項であると認識しており、人事院では、各府省における 心の健康づくり実施にむけて、各府省連絡会議を年2回程度開催するなど、関係方面と連携しつつ、心の健康づくりをはじめとした健康管理対策等の推進に努め てきた。今後とも努力していく。

食費・教育費まで切り詰めざるをえない実態の改善を求める

  これに対して黒田事務局長は、以下のように主張しました。
○ 春闘要求アンケートの結果を見ると、「かなり苦しい」「やや苦しい」と の回答は、国公労連が67.2%、自治労連が56.1%、全教55.6%など過半数を上回っている。「月額10,000円」の水準引き上げは、きわめて控 えめな要求だ。とくに、初任給は、人事院の調査でも、高卒・大卒ともに、民間の初任給よりも低くなっており、官民の賃金格差はひろがる一方だ。優秀な人材 を確保するためにも、緊急な改善を要求する。
○ 11年勧告では、被災地の状況を類推して一時金の改善を見送ったのはきわめて不当で あることをあらためて指摘する。一時金は生活費の一部ともなっており、生活改善のためにも引き上げを求める。
○ 職場では依然として 長時間労働が強いられており、労働時間短縮は引き続く重要課題だ。とりわけ、慢性的な超過勤務は健康破壊にも結びつき、行政組織全体にとってもマイナスで しかない。勤務時間の管理強化にむけて人事院として真剣な検討を求める。
○ 非常勤職員は、時給を100円以上引き上げるよう求め る。とくに、非常勤職員の最低額は、少なくとも高卒初任給(1級5号俸)にあわせるべきであり、08年に示された「指針」の見直しをふくめて検討すべき だ。
○ 増加しているメンタルヘルス不全にむけて、人事院としての対策強化を求める。人事院が1月に発表したパワーハラスメントのア ンケート結果をふまえて、具体的な対策を求める。とくに、明確な指針の策定など職場環境改善にむけたとりくみが急がれる。

  最後に野村議長は、「人事院からは民間賃金の厳しい動向がさまざまのべられたが、公務員賃金が民間賃金にも影響をおよぼすことからも、景気回復など幅広い 視点に立った検討こそ必要だ。自公民三党の議員立法で成立した賃下げ法や大阪の動きなど、公務員の権利がこれほどまでに侵害されていることはかつてなかっ た。その点でも、公正・公平な人事行政にむけての人事院の役割は重要だ。統一要求についての引き続く誠意ある検討を求める」とのべて交渉を終えました。

以上