No. 821
    2012年2月23日
1日で趣旨説明・質疑・採決、本会議採決強行の暴挙

= 民自公三党提出「賃下げ法案」を 総務委員会で審議 =

 衆議院総務委員会は23日、民主・自民・公明の3党の 密室協議によって作成され、22日に提出されたばかりの「給与臨時特例法案」(賃下げ法案)が審議されました。
  すでにネットニュースNO.928でも明らかにしてきたように、議員立法による賃下げ法案の提出は、使用者たる政府の責任放棄であり、公務労働者の労働基 本権を根底から踏みにじることとなります。また、法案提出にあたって、当事者たる労働組合の意見を反映させる努力もされていません。
  こうしたことから、総務委員会は、人事院勧告制度を無視して大幅賃下げをせまる法案の内容とともに、そもそも議員立法で法案を提出することへの問題点が審 議されました。
 しかし、答弁に立った民自公の代表者は、「政府法案の修正だ。労使交渉は反映されている」と強弁するばかりか、「き わめて異例の事態だが、今後も議員立法での提出はありうる」などと現行法制にも反する答弁を繰り返しました。
 わずか2時間半程度の 質疑の後、採決が強行され、法案は賛成多数で採択されました。
 総務委員会の傍聴には、国公労連7名、自治労連・全教から各1名が参 加しました。

政府は使用者責任を放棄、各党代表が答弁する異常な委員会審議

  総務委員会で質問に立ったのは、斎藤やすのり(きづな)、坂本哲志・今津寛(自民)、西博義(公明)、塩川鉄也(共産)、柿澤未途(みんな)、重野安正 (社民)の各議員で、民主党は質問を放棄しました。
  議員立法で法案が提出されることについて、共産党の塩川議員は、「政府提出法案も一部の労働組合との合意で法案が提出され、人事院総裁も、遺憾と言わざる を得ないと問題点を指摘している。ましてや、今回は、議員立法で法案を提出したものであり、労働組合の意見を聞くのは、提出者としての最低限の責務ではな いのか」と厳しく指摘しました。
 これに対して、法案提出者の一人である民主党の稲見議員は、「三党で共同提出したが、あくまで政府 法案を踏襲したものだ。政府法案は、政府と労働組合で交渉して提出されたという経過がある」と正当化しました。
  塩川議員は、正式文書として委員会に配布された国公労連の岡部書記長談話(2/21)、全労連の「意見書」(2/7、いずれも別添)を示し、「それぞれ法 案に対する明確な反対意見がのべられ、憲法上の疑義が生じることも明快に指摘されている。こうした意見を持っている労働組合を国会に呼んで話を聞き、法案 提出者が答えるのが責任ではないか。少なくとも、国家公務員を代表する労働組合の意見を聴取せよ」とせまりました。これに対して、稲見議員は、「指摘を受 けて、国公労連・全労連の見解は配布させてもらうことにした。一方の連合・公務員連絡会にも聞いたが、労使合意にしたがって政府法案がつくられ、それを踏 襲した議員立法ならば、国会審議にゆだねるとのことだった」などとのべました。
 塩川議員は、「話も聞かずに法成立を急ぐのは、まと もな審議をし たくないからだ。労働組合の意見を聞かずに採決するのは許されない。法律ができれば事実上、複数年にわたって人事院勧告が実施されなくなり、労働基本権無 視の違憲状態がつづく。さらに、議員立法は異常なやり方であり、憲法違反であることを指摘する」と強い口調でのべました。
 これにか かわって、自 民党の坂本議員は、「労使交渉の当事者ではなく、国会が公務員の給与を決めたことになる。論理的には難しいところだ」と問題点を指摘しつつも、「これは特 殊な例なのか、それとも今後もありうるのか」と提案者にただしました。自民党の平井議員は、「異例だが、今後、十分にありうる」と答弁し、議員立法による 法案提出を今後とも繰り返すとした点はきわめて重大です。

川端総 務大臣は「三党合意」をほめたたえる卑屈な態度

  公明党の西議員が、「一部の組合とだけ合意して、政府が法案提出したことが大混乱をもたらした」として政治責任を問われた川端総務大臣は、「自律的労使関 係の先取りとして、異例の措置として労働組合の理解をえて提出した。わが国の未曾有の国難に対処するため、やむを得ない措置だ」とのべつつ、「三党間の真 摯な協議の結果として、法案を提出していただいたことは、きわめて強くうけとめさせていただく」として、政府法案が店ざらしにされながらも、「三党合意」 をほめたたえる態度に終始しました。
 西議員が今後の人事院勧告の取り扱いをただすと、同じ公明党の提案者である稲津議員が、「人事 院勧告制度 は、労働基本権制約の代償措置であり、11年勧告は実施することになる。12年勧告も尊重すべきは当然だ」と答弁すると、西議員も「現行制度が継続される 以上、人事院勧告を尊重するのは当然と考える」とこれを受けました。
 また、賃下げ法の期限となる2年後の公務員給与について、民主 党の前原政調 会長が恒常的な引き下げに言及したことともかかわって、みんなの党の柿澤議員は、「2年間限定では国民の理解はえられない。恒久的に引き下げよ」と主張す ると、川端総務大臣は、「総務省としては、2年間の臨時特例措置として提案してきた。それまでに新たな人勧が出るかもしれないし、公務員制度改革関連法が できているかもしれない。2年経って、その時の状況をふまえて政府として判断すべきだ」と他人事のように見解を示しました。
 地方公 務員への賃下 げの波及にかかわって、自民・坂本、みんな・柿澤の両議員は、法案に明記することをふくめて地方公務員にも賃下げを求めるべきと主張しました。見解を問わ れた川端大臣は、「国準拠は一つの基準だが、地方自治体が自律的に判断するのが基本だ」と一般論をのべ、提出者の平井議員は、「三党間でもいろいろな議論 があったが、附則に盛り込む修正案を自民・公明で共同提出することとなった」と答弁しました。
 社民党の重野議員は、「地方公務員に 波及させることの影響は大きい。負の連鎖が起こり、公務・民間の給与全体が引き下げられる」と指摘しました。

セクハ ラによる減給処分と同じだけの賃下げを強要

  この他の質問では、共産党の塩川議員は、被災地をふくめて日夜奮闘している公務員に大幅賃下げをせまる問題点を追及するなかで、「10%の減給は、懲戒処 分ではどのような行為にあたるのか」との質問に、人事院の江利川総裁は、「たとえば、12か月10%の減給は、酒に酔ってタクシーのなかで部下にセクハラ 行為をしたときなどの例がある」と答えたことから、塩川議員は、「そんな懲戒処分と同様の賃下げでは、職員の働く意欲がなくなる。職員自身が納得できない のも当然だ」と指摘しました。
 そのうえで、塩川議員が、民間の労働基準法でも、労働者の生活を保障するために、減給する場合でも1 割を超えては ならないと定めていることを示すと、提案者の稲見議員は、「職員には厳しいが、復興財源として、政府としてムダを削り7兆円を生み出す必要がある。公務員 削減で2900億円の財源が確保され、結果として被災地を励ますこととなる」などとのべたことから、塩川議員は、「公務員賃金はムダや浪費ではない。削減 の対象でもなく、削るところはもっと他にある」と厳しく追及しました。

2月中 の成立をねらい法案をただちに参議院送付

  質疑が終わった後、「地方公務員の給与については、地方公務員法及びこの法律の趣旨をふまえ、地方公共団体において自主的かつ適切に対応されるものとす る」との文言を附則に盛り込む修正案が自民・公明の共同で提案され、その後、討論に入り、共産・塩川、社民・重野の両議員が法案反対の立場から、みんな・ 柿澤議員が賛成の立場から意見をのべました。
 共産党の塩川議員は、「きわめて短時間のうちに、趣旨説明、討論・採決、本会議緊急上 程までして押 し通すという暴挙に断固抗議する」とのべたうえ、法案が3党の密室協議の結果であり、労働組合代表からの参考人質疑は不可欠なこと、人事院勧告制度さえ無 視して一方的な不利益を国家公務員に押しつける憲法違反であること、労働基本権の全面回復こそ国会のやるべきことであり、「国家公務員の手足をしばったま までの給与削減は、議員立法という前例のない異常なやり方だ」と指摘しました。また、公務員の賃下げが国民所得減少の悪循環をまねき、財政と経済のいっそ うの悪化をもたらすことなどをあげて法案に反対の態度をあらためて明らかにしました。
 その後、採決に移り、三党法案・修正案とも に、共産・社民を除く各党の賛成多数で採択されました。総務委員会終了後ただちに衆議院本会議が開かれ、賛成多数で法案が可決し、ただちに参議院に送付さ れました。

参議院では労働組合からの参考人質疑を実現させよう

  民主・自民・公明の各党は、28日の参議院総務委員会で審議・採決、2月中に賃下げ法を成立させ、3月の給与から人勧分(▲0.23%)の引き下げを強行 する構えです。
  衆議院総務委員会の審議を通して明らかになったように、労働者に不利益をせまる法案を、労使交渉もなく議員立法で提出することは、公務労働者の労働基本権 を根底から踏みにじる前代未聞の暴挙です。委員会に提出された国公労連・全労連の見解は、正式文書として扱われ、国会議事録にも掲載されることとなりまし た。民自公三党もそのことを了解せざるをえなかったのは、原口総務委員長をはじめ委員会のなかで、賃下げ法案の内容とともに、議員立法による法案提出とい う手続きへの疑念がひろがっていたからにほかなりません。これらは、少なくとも労働組合の声を聞くよう求めてきた道理ある主張と運動の反映です。
  参議院では、労働組合出席のうえでの参考人質疑を実現させるため、引き続き、憲法違反の法案は廃案にしろと言う声を国会に集中させていく必要があります。  

以 上


【(参考資料)衆議院総務委員会に配布された諸文書】

党利党略の談合は憲法を二重三重に蹂躙する暴挙
「賃下げ法案」等に関わる「3党合意」は認められない(談話)

2012年 2月21日
 日本 国家公務員労働組合連合会
                                            書記長  岡部  勘市


  民主・自民・公明3党は2月17日、継続審議となっている政府提出の「国家公務員給与の臨時特例に関する法律案」(以下、「賃下げ法案」)と「国家公務員 制度改革関連4法案」(以下、「改革関連4法案」)の取り扱いについて「合意」し、今週中に衆議院通過を目論んでいるとされる。
  「合意」の内容は、@2011年の人事院勧告を実施し、さらに7.8%まで国家公務員の給与削減を深掘りするため、自民・公明両党共同提出の「一般職の国 家公務員の給与の改定及び臨時特例等に関する法律案」を基本に、a)経過措置額の廃止は2014年4月1日に一度に実施するが、それまでの間、2012年 4月1日及び2013年4月1日に経過措置所要額の自然減に対応した昇給回復を実施する、b)東日本大震災に10万人を超える体制で対処した自衛官等の給 与減額支給措置は、特段の配慮をして政令で定める、ことで修正する。A地方公務員の給与については、地方公務員法及び給与臨時特例法案の趣旨をふまえ、各 地方公共団体での対応のあり方について国会審議を通じて合意を得る。B「改革関連4法案」については、「国家公務員制度改革基本法」の趣旨をふまえ、審議 入りと合意形成に向けての環境整備を図る、というものである。

  この三党協議は法的に何ら根拠のない談合であり、民主党が国会運営を有利にすすめるため、党利党略で自公案を事実上「丸飲み」したものと言え、「合意」は 到底認められない。
  それは第一に、議員立法によって合理的根拠のない大幅な賃下げを行うことは、「勤務条件法定主義」と「財政民主主義」のもとであっても憲法の趣旨をふまえ たものでなければならないこと。第二に、政府提出の「賃下げ法案」は棚ざらしとなり、「情勢適応の原則」にもとづき内閣と国会に対して出された国家公務員 の唯一の賃金決定のルールである人事院勧告を、政府は引き続き無視すること。第三に、当事者である国家公務員を代表する産別労働組合・国公労連の合意を得 るどころか何の説明もないこと、など行政府も立法府も基本的人権を保障する憲法を、二重三重に蹂躙する暴挙と言わなければならない。
  加えて、「改革関連4法案」も、「合意形成に向けての環境整備」の扱いにとどめたことは、法案の審議入りすら棚上げにしたことに等しく、重大である。

  民主党の2009年総選挙時のマニフェストであった、国の財政事情を口実とした「国家公務員総人件費2割削減」を発端に、直接的には2010年人事院勧告 の「深掘り」議論から始まった国家公務員の賃下げ攻撃に対して国公労連は、一貫して現行制度にもとづかない憲法違反の賃下げに反対してたたかってきた。
と りわけ、東日本大震災を経て昨年5月に具体的な提案が行われて以降、@「2割削減」マニフェストや賃下げ提案には何の根拠も道理もないこと、Aデフレ経済 下で625万人以上の労働者をはじめ地域経済にも多大なマイナス影響を及ぼすこと、B消費税増税など国民負担増を強いるための露払いであること、C労働基 本権制約のもとで国家公務員労働者の生活や権利を顧みず、現場第一線の職員の士気を下げることは復興にもマイナスであること、などを内外に堂々と主張し、 公務大産別一体で各県労連や民間労働組合とも共同した全国各地での宣伝や賛同署名、国会議員地元要請などのとりくみを旺盛に展開し、国民的な理解と共感を 広げてきた。

 政府・野田内閣は2月17日、年金・介護・子育てなど社会保障制度を改悪する一方で国民に消費税 大増税を押し付ける社会保 障と税の一体改革の「大綱」を閣議決定し、「国民の納得と信頼を得るため」に衆院比例定数の80削減法案の提出と「賃下げ法案」及び「改革関連4法案」を 位置づけ、早期成立をはかると明記した。同時に、政府・民主党は、「賃下げ」による6000億円を復旧・復興財源の税外収入にすり替え、マスコミも動員し ながら世論誘導を行っている。
  国公労連は、あくまで「賃下げ法案」の廃案を求めてとりくみを継続・強化するとともに、使用者たる政府に対し、この間の経過説明を含めて2012年統一要 求を正面から受け止めた責任ある回答を迫る交渉を強化する。
 また、「改革関連4法案」については、戦後60有余年も無権利状態に置 かれてきた公務員労働者の権利回復に向けた一定の到達点であることはふまえつつも、看過できない重大な問題点が含まれていることから「抜本修正要求」を堅 持し、引き続きその実現を求める運動を強める。
 そして、今春闘で「すべての労働者の賃上げと安定した雇用の確保」など国民的な要求 課題の実現をめざし、職場・地域から全力をあげて奮闘する決意である。(以 上)


消費税増税のための「公務員賃金引き下げ協議」への意見

全国労働組合総連合
事務局長  小田川 義和

 貴党におかれましては、日頃から、労働者の雇用と暮らしの安定のためにご 尽力いただいていますことに、感謝を申し上げます。
  さて、1月25日に行われた民主党、自民党、公明党3党の実務者会談で民主党は、国家公務員の賃金を平均0.23%引き下げるとした人事院勧告を実施した 上で、すでに政府が提出している国家公務員の給与削減にかかわる「特例措置」の内容である平均7.8%の賃下げを実施するとの提案を行ったとされていま す。
 また、1月31日に発足した政府の行政改革実行本部(本部長・野田首相)では、検討の中心課題に国家公務員総人件費に上限を設 けて超過勤務手当などの「改革」推進や、人事・給与制度「改革」などを位置づけています。
 以上のような公務員給与削減の姿勢を政 府・与党が再度強めている背景には、消費税率引き上げの地ならしに国家公務員総人件費2割削減を位置付け直した野田政権の政治姿勢があると考えます。
  公務員賃金引き下げ協議をはじめとする政府等の動きに対し、全国組織である労働組合として以下の意見を申し上げ、貴党の対応を要請しますので、よろしくお 願いします。


はじめに
 全労連(全国 労働組合総連合)は、21単産・47地方組織(約120万人)を組織する労働組合のナショナル・センターである。
 国民に痛みを押し 付ける消費税増税の地ならしのために、10%もの大幅な賃金引き下げを一方的に公務員労働者押し付ける協議が、春闘期に政治の場で行われることに強い懸念 を持っている。

 (1) 消費税率引き上げの地ならしに公務員人件費削減を位置付けた政治の場の動きが顕在化し ている。
 1 月25日に行われた民主党、自民党、公明党3党の実務者会談で民主党は、国家公務員の賃金を平均0.23%引き下げるとした人事院勧告を実施した上で、す でに政府が提出している国家公務員の給与削減にかかわる「特例措置」の内容である平均7.8%の賃下げを実施するとの提案を行ったとされる。

 (2)  行政改革が進めば大増税を国民が受け入れる、という論理はありえない。
  国民は、税負担に見合った行政サービスの提供を求めている。人件費削減による公務員削減や賃金・労働条件引き下げは、行政サービス低下の可能性を有してい る。サービス低下と増税という「二つの痛み」の受け入れを国民に迫ることは、やらずぶったくりの論理であり、国民の附託に応えるものではない。

 (3)  深刻な国民生活の現状で、逆進性の高い消費税増税を行うことは、国民生活に深刻な打撃を与えることが懸念されることから、断じて認めることはできない。
  本来の行政改革は、軍事費の聖域化をはじめとする既得権益優先の硬直化した予算執行の見直しなど、真の無駄遣いを改めることにある。しかし、この間、その 点には手をつけずに、社会保障改革などが繰りかえされてきた。その結果、富の再配分機能が低下し、格差と貧困が拡大して深刻な社会問題を引き起こしてい る。
 3月11日に発生した東日本大震災と福島原発事故で、突然、生活基盤を奪われた多数の国民が、今、政府の支援を求めている。他 の課題に優先して、被災者支援と災害復興に施策を集中させるとともに、被災者の負担軽減をはかることが求められている。
 消費税増税 論議は、これらの国民生活の厳しさを顧みない暴挙である。

 (4) 春闘期に、公務員賃下げを国会で論議するこ とは、賃金改善要求を求める労働者のたたかいに否定的な影響を与え、さらに内需を縮小させるなどの悪影響が懸念される。
 90年代半 ば以降、労働者世帯の所得低下が続いていることが国内需要を長期に低迷させ、地域経済や中小零細企業経営を疲弊させてきた。
  今、労働組合は、賃金低下と内需縮小が繰り返される「悪魔のサイクル」に歯止めをうち、「雇用と仕事の確保、賃上げ、社会保障拡充で、内需中心の経済、震 災復興を」と2012年春闘をたたかい始めている。その時に、政治の場で公務員の賃下げや人員削減が論議されることの悪影響は計り知れない。

《意見その1》
 全労連は、労働者・国民、中小零細事業者などに「我慢を強いる」政治に 反対する。
 
 労働者・国民に我慢を強いる政治を転換し、税や社会保障に対する負担 は企業も含めて「応能負担原則」を徹底すること、憲法第25条に規定される生存権実現の立場にたって、社会保障制度の拡充と雇用、仕事の創出のための施策 による完全雇用の実現をめざすことを強く求める。
 
 (1) 1月29日に放送されたNHKの「日曜討論」で民 主党の樽床幹事長代行は、「これからの(社会保障と税の一体)改革にあたっては国民に我慢をお願いしないといけない」と述べている。
  事実、政府・与党が1月6日に決定した「社会保障・税一体改革素案」では、消費税率の10%への引き上げで13兆円、年金支給額の切り下げなどで3兆円、 合計で16兆円もの新たな国民への負担の押し付け計画となっている。

 (2) 3月11日に発生した東日本大震 災と東京電力福島第一発電所の事故によって、住まいを失い、追われた方々約33万人が今でも困難な避難生活を強いられている。被災地では、12万人を超え る労働者などが仕事を失ったままである。
 「社会保障・税一体改革素案」は、全てを失ったに等しい状態で10カ月以上も我慢を強いら れている方々に、さらに追い打ちをかける施策である。
 (3) 労働者は、1997年をピークに賃金が低下し続け、低賃金の非正規労 働者は増加の一途を辿っている。このように雇用が劣化するもとでも社会保障や税負担が年々高まり、可処分所得の低下は激しい。
 巨額 な内部留保にも明らかなように、一部の大企業に富が偏在し、格差と貧困が労働者に広がっている現状を直視すれば、総額16兆円もの新たな負担を労働者国民 に押し付ける政策の間違いは明らかである。


《意見その2》
 合理的理由のない公務員賃金の引き下げには強く反対する。
 
  労働基本権が制約され続けるもとでの公務員労働者の労働条件改定については、憲法上の配慮が必要である。
 労働基本権制約の代償措置 という憲法上の制度である人事院勧告をふまえることなく、国権の最高機関が制度を蹂躙し、説明責任も果たさずに公務員労働者の労働条件を不利益に変更する こと自体が憲法への配慮を欠くとの批判を免れない。
 (1) 賃金をはじめとする公務員の労働条件については、国会において決定され る勤務条件法定主義がとられている。
 これは、主権者である国民の理解を得ること、労働基本権が制約されるもとでの公務員労働者の納 得性、労働市場での公務員人材確保などを考慮したものとされる。
 
 (2)  一方で、公務員も憲法第27条や第28条が直接適用される「労働者」であることは法制上も判例でも、学説でも確定している。そのことから、労働者として の基本的人権と財政民主主義・勤務条件法定主義といういずれも憲法上の課題の調和をはかるために、「情勢適応の原則」が同時に確認されている。

 (3)  公務員の労働条件が国会(議会)の統制のもとにあるとしても、それは憲法上の要請をふまえることが必要であり、国会においても国家公務員法などの公務員 労働法制の尊重が求められることは当然である。

 (4) 現行制度では、公務員労働者の労働条件を民間労働者と 均衡させることが「情勢適応の原則」の中心課題とされ、国会においても、国家公務員法第28条の人事院勧告を判断のよりどころに、国家公務員の労働条件の 変更を行うこととされている。
 換言すれば、国会においても、何らの根拠も持たない政党間協議で、人事院勧告以上の賃金引き下げを決 定できるとすることは、国家公務員の基本的人権を侵害することになりかねない。

 (5) 人事院勧告制度は、労 働協約締結権と争議権が制約される非現業公務員を対象にする制度であり、集団的労使関係が不完全にしか認められない公務員の基本的人権を代償しているもの である。労働基本権を制約すること自体が不当であることは言うまでもない。
 仮に、公務員労働者に労働基本権が回復された時に、政府 と労働組合の合意にかかわりなく、国会において自由に公務員の労働条件が決定されうるとすれば、公務員の労働基本権は画餅に期すことになる。
  このような憲法上の課題についての検討や、公務員労働者への説明責任が果たされないままに、大幅な賃下げを決定すべきではない。

 (6)  なお、公務員賃金にかかわる三党実務者協議の前提に、一部公務員労働組合と政府との間で、国家公務員の賃金を平均7.8%引き下げるとの「合意」を置く ことにも同意できない。その「合意」に瑕疵と不当性があることは、「労働組合がルール破りを「要求」する愚挙を批判する(2011年10月21日付け・全 労連事務局長談話)」で指摘している。

以上