No. 774
 2010年11月26日
憲法違反の公務員給与引き下げ論議に終始

= 給与法案が参院総務委員会で可決、26日に成立 =

 11月25日の参議院総務委員会において、国家公務員給与法「改正」法案等が審議され、一般職の給与法「改正」法案は賛成多数、育児休業等に関する改正法案は全会一致で可決されました。
 質疑・討論を通して、自民党などが、公務員給与のさらなる削減を主張、政府も、次期通常国会に「マイナス勧告」をさらに引き下げる法案提出を繰り返し表明するなど、各党が公務員の賃下げを競い合いました。
 公務部会は委員会の傍聴行動にとりくみました。また、
各法案は、26日午後の本会議でも可決され、成立しました。公務労組連絡会は、給与法等の成立にあたって、事務局長談話を発表しました。

「公務員給与の引き下げはまだ途中の段階だ」などと強弁

 総務委員会では、片山さつき(自民)、石川博崇(公明)、寺田典城(みんな)、山下芳生(共産)、片山虎之助(日改)の各議員が質問に立ちました。
  自民党の片山議員は、「民主党が公約する公務員総人件費2割削減を達成するには、3年間で9千億円をカットしなければならない。普通に給与を下げるだけで は無理で、定員の純減計画が必要だ。また、事業仕分けでも、定員問題にはふれていない。どうやって削減するのか」と質しました。
 片山総務大臣は、「地域主権改革にかかわる国の出先機関改革が目鼻がついた時期に、純減計画を検討する」とのべ、蓮舫行政刷新担当大臣は、「事業仕分けは、定員削減が直接の目的ではない。仕分けの結果をふまえて、総務大臣が定員を決定することになる」と答弁しました。
  公明党の石川議員は、菅首相の政治姿勢についいて、「勧告を上回る給与削減が民主党代表選挙の菅首相の公約だったが、結果的には勧告どおりとなった。菅首 相は、準備も覚悟もなく、認識が甘かった」と批判すると、片山大臣は、「今回は勧告どおりの給与法となったが、次期通常国会に給与引き下げ法案を提出する ことを閣議決定している。まだ途中の段階であり、来年の通常国会で公約を実現する」など強弁し、労働組合との合意は可能なのかと追及されると、片山大臣 は、「異例の措置であり、できるだけ労働組合との合意を得るよう最善の努力をする」と答弁しました。
 みんなの党の寺田議員は、「給与を削ればムダな仕事はしなくなるし、予算要求の内容を見直すようにもなる」と秋田県知事時代の経験論を展開し、「大胆な賃金カットを断行しろ」と主張しました。

過去の政府答弁にも反する給与法案の国会提出

  共産党の山下議員は、「人事院勧告の尊重を前提に政府が給与法案を提案し、国会で決定することが国家公務員の給与を決める仕組みではないのか」と質すと、 片山大臣は、「人事院勧告の尊重は、基本的な大原則だ。しかし、財政状況などから人事院勧告と違ったやり方もあるべき」と主張しました。
 これに 対して、山下議員が、「次期通常国会に給与削減の法律を提出するとなると、8月の勧告が出る前に給与法を改正することとなる。自公政権時代の昨年5月に鳩 山総務大臣(当時)は、『勧告を受けずに政府が給与法案を提出することは憲法違反の可能性がある』と明確に答弁している。これを変えるとなると、憲法とも かかわる深い検討が必要だ」と求めると、片山大臣は、「あくまでも異例の措置だ。これまでも人勧を政府が下げたことはあるし、地方自治体でも給与カットし ている。勧告の前と言うが、10年度の勧告と一体という考え方が基本だ。実際の給与引き下げは来年になるが、今年の勧告からの一連の作業という位置づけ だ」などと答弁しました。
 最後に山下議員は、「異例であっても、できることとできないことはある。憲法違反の給与法案提出は、当然、やってはならないことだ。その点で、政府には、国民に対してきちんと説明する責任がある」と厳しく指摘しました。
 たちあがれ日本・新党改革の片山議員は、給与法「改正」法案などに賛成の立場をとりつつ、「難しいことを先延ばししたに過ぎない。公務員制度改革や国の出先機関改革も含め、何がどこまで進んでいるのかを明らかにしろ」と民主党の政治姿勢を追及しました。
争議権をふくめて労働基本権回復へ幅広く議論すすめる
  この日の総務委員会では、労働基本権にかかわってもやり取りがありました。自民・片山議員は、「民主党は公務員の争議権をふくめた労働基本権回復を公約に している。人件費を削減しようとするときに、争議権まで付与して労働組合とどのように賃下げの交渉していくのか」と質すと、片山大臣は、「これからの検討 課題だ。憲法上は公務員にもスト権をふくむ労働基本権があって当然だ。どこまで回復するのかは、今後の議論となる。指摘された問題点は否定はしないが、そ れらのこともふくめて検討していく」と答弁しました。
 また、公明・石川議員は、26日から議論がはじまった「国家公務員の労働基本権(争議権) に関する懇談会」にも触れながら、「諸外国では公務員のストライキが相当な頻度で発生している。国と公務員が協力して国民に責任を負う立場から、両者がス トライキで対立するという関係が成り立つのか」などと追及しました。蓮舫公務員制度改革担当大臣は、「自律的労使関係制度の検討は不可欠だ。ストライキに ついては、民間でも禁止規定はある。懇談会を立ち上げ、争議権についても幅広く議論したい」とのべました。

「55歳を超える職員の賃下げは、職務給原則に反する」と反対討論

 総務委員会では、約2時間で質疑は終局し、その後、みんなの党が、衆議院と同様に、国税庁の民間給与実態調査をふまえて、公務員給与を一般職員は5%、指定職は10%削減するという内容の修正案を提案しました。
  これらをうけて、各党による討論に入り、自民党の藤川政人議員が、勧告そのままの給与法案は、公務員総人件費2割削減のマニフェストで政権をとった民主党 の公約違反であり、「勧告を上回る公務員給与引き下げ」という菅首相の公約にも違反するなどの理由から、給与法案に反対の態度を明らかにしました。
  共産党の山下議員は、「2年連続の年収減であり、55歳を超える職員を狙い撃ちにしたことは職務給原則に反し重大だ。人事院勧告は580万に直接影響し、 民間賃金にも波及する。そのことで、消費をいっそう冷え込ませることになる。また、人件費削減にむけた法案提出もきわめて重大だ。労働基本権制約の代償措 置としての人事院勧告制度を根本からくつがえすことになる。そのことが、国民の生活と権利を脅かすことにもなる」と、公務員にさらなる賃下げをせまる政府 の不当性をかさねて指摘しました。
 この後におこなわれた各法案の採決では、修正案は、みんなの党以外のすべての会派の反対で否決され、給与法 「改正」法案(政府原案)は、民主・公明・日改の賛成多数で、育児休業等に関する法律改正法案は全会一致で採択されました。また、民主・自民など5会派共 同提案による附帯決議(衆議院と同文、ネットニュースNO.772参照)も、全会一致で採択されています。

国家公務員給与法等の成立にあたって(談話)

2010年11月26日
公 務 労 組 連 絡 会
事務局長 黒田 健司

1、第176回臨時国会で審議されていた一般職国家公務員の給与法案は、本日開かれた参議院本会議で、与党と公明・社民などの各党の賛成多数で可決・成立した。同時に審議されていた非常勤職員にかかわる育児休業法の改正法案も全会一致で可決された。
 昨年に引き続く月例給・一時金の引き下げにより年収で9万4千円が減額され、2年間の累計では25万円もの年収減となり、公務労働者の生活悪化は避けられないばかりか、民間賃金にも影響をおよぼす点からもきわめて重大である。

2、今回の給与法は、55歳を超える職員の一律給与減額という勧告制度はじまって以来初の年齢で区切った賃下げが盛り込まれた。「職務給原則」にも反した年齢による賃金差別であり、定年延長にむけた今後の高年齢層の賃下げに道を開く問題をもっていた。
 このような給与制度の根幹にもかかわる勧告の問題点や、2年連続の「マイナス勧告」が景気に与える悪影響などの観点が十分に掘り下げられることなく、衆参あわせてもわずか5時間程度の審議で採決されたことはきわめて不満である。

3、問題はこれらにとどまらない。給与法案の審議では、公務員総人件費削減を具体化するため、政府は、「マイナス勧告」をさらに引き下げる「給与法案」を次期通常国会に提出することを明言した。
  労働基本権が制約されたもとで、その「代償措置」である人事院勧告制度をふみにじり、政府の手によって賃下げが強行されれば、明確に憲法に違反することと なる。また、政府が次期通常国会に提出するとしている協約締結権回復にかかわる法案も、現時点では、その制度の骨格さえ定かではない。
 このように、憲法も無視した不当な賃下げ攻撃には、職場の団結を強め、毅然としてたたかう決意である。同時に、争議権をふくめた労働基本権のすみやかな回復を求める。

4、菅内閣が執拗にねらう公務員給与削減は、消費税増税をはじめ社会保障制度の後退などで国民に犠牲をせまる突破口として位置づけられるものにほかならない。それだけに、国民共同の運動がこれまで以上に重要となっている。
  来るべき11年春闘では、職場や地域から「総対話と共同」を大きくひろげ、国の責任を投げ捨てる「地域主権改革」や、公務員を財界など「一部の奉仕者」に 変質させる公務員制度改革などを許さず、憲法を生かし、国民のいのちと暮らし守る公務・公共サービスの拡充にむけて、意気高く奮闘する決意を新たにする。

以 上