No. 766
 2010年9月20日
公務・公共サービス拡充へ2つのシンポ

= 組織内外から幅広い団体・個人が参加 =

  地域主権改革では、国の出先機関の原則廃止を前提に具体的な動きが強まるなか、各組織でも公務・公共サービスの縮小をねらう動きを阻止るため、シンポジウ ムが開かれています。9月10日には東京都内で公務部会・国公労連・特殊法人労連主催、自由法曹団の共催による「はたらく権利を守るシンポジウム」が開催 され、報道機関8社を含む93人が参加しました。
 また、翌9月11日には、「地域主権改革」シンポジウムが、16団体の共同実行委員会主催で開催されました。地域主権改革に対する関心の高まりを反映して、100名を越える参加者があり、地域主権改革の問題点を明らかにする集会となりました。

雇用・能力開発機構の廃止は時代の要請に逆行
= 「はたらく権利を守るシンポジウム」を開催 =

  シンポジウムでは宮垣公務部会代表員(国公労連委員長)があいさつに立ち、「臨時国会に提出がねらわれる雇用・能力開発機構廃止の法案要綱では、機構の廃 止に際し全ての職員を解雇し、厚生労働大臣と機構が再就職に必要な措置を講ずることとされているが、国鉄や社保庁の民営化と同様の手法で、労働者を路頭に 迷わすことが前提となっている。撤回すべき」と厳しく指摘しました。
 つづいて都留文科大学の後藤道夫教授が、「公的職業訓練と国の責任」と題し て講演し「機構の廃止そのものが間違っている。構造改革のもとで非正規化により日本型雇用が破壊され、社会保障改悪などにより所得再配分機能も低下がすす められた。労働権保障と社会保障の抜本的拡充こそ求められており、機構には学校教育と職業訓練との連動の具体化を担って欲しい。財政赤字と債務が巨額であ れば小さな社会保障しか選択の余地がないというのは大きな誤り」と指摘しました。
 平井哲史弁護士(自由法曹団)から特別報告があり、「日本は憲 法27条に『勤労権』を掲げ、職業能力開発促進法や雇用対策法、機構法で具体化し、ILO第142号条約(人的資源開発条約)の批准もしているにもかかわ らず、これらに反して機構を廃止することとしている。また、EUでは指令(企業譲渡指令)により事業と雇用の譲渡が一体とされているが、日本ではこうした ルールが確立せず労働者保護の不備となっている。地方自治体への事業移管は財政事情からいずれ民営化されることが容易に想像でき、「地域主権改革」の先取 りとも言える」と機構廃止法案の問題点を指摘しました。
 その後、特別発言では「職業訓練は専門知識・技能の習得とともに生活リズムを整えるな ど、特に離職者にとって重要な役割を果たしている。中小零細企業は即戦力を求めており、職業訓練が再就職を円滑にしている」(全労働の浜野さん)、「製造 業派遣の4年間では再就職に結びつく技術が習得できなかった。現在は介護の職業訓練に通っているが、学びならが将来のことを考えられる喜びを感じている。 今の職業訓練のシステムをもっとよくして欲しい」(首都圏青年ユニオンの鈴木さん)と報告がありました。
 最後に全厚生不当解雇撤回闘争団の児島さんが、社会保険庁の廃止にともなう不当解雇の実態と不当性を明らかにし、闘争支援を訴えました。
 閉会のあいさつで特殊法人労連の岩井議長は、「今回の廃止は公務員も看板を付け替えればクビにできるシステムづくりに他ならない。国は果たすべき職業訓練の責任を守らなければならない。機構廃止法案を国会に提出させないようにとりくもう」と呼びかけました。

憲法を生かし、社会保障と地方自治の拡充を
=9・11「地域主権改革」シンポジウム=

  開会あいさつで自治労連野村委員長は、地域主権改革が「構造改革」の路線を継承するものであり、住民の参画、自己責任、負担を明記し、国の責任を防衛・外 交などに限定するとしていることについて、害はあっても益の無いものであると指摘し、住民生活がどうなるかを検証し、住民生活の課題を解決する自治体の役 割を強調しました。
 第1部では、立命館大学の平岡和久教授が「地域主権改革と一括交付金化・2011年度予算編成の問題点」と題して講演。本来 自治体財政の論点は地域の住民の生活保障がされているかどうかが問題であり、財政政策を目的化することは、本末転倒であると指摘。地域主権改革でひも付き 補助金の廃止、国庫補助金の一括交付金化が進められようとしているが、その目的が、地方の自由度の拡大というよりも国の歳出削減目的に実施されようとして いること、2011年度予算編成では、各省庁の歳出一割削減として、教育、中小企業対策、農林業対策をはじめ、人件費などの義務的経費も削減対象となって おり、自治体にも極めて深刻な影響を及ぼすことを指摘しました。
 第2部のシンポジウムでは、日本大学の永山利和教授をコーディネーターに4人の シンポジストから地域主権改革の問題点を提起しました。全保連の逆井直紀さんは、地域主権改革により児童福祉法で規定された保育所の最低基準が、地方条例 化により引き下げられる問題、保育所給食の外部搬入問題、保育所運営費国庫負担金の一般財源化により私立保育所運営の財政的危機を招く問題、保育制度改革 の「子ども・子育て新システム」が福祉としての保育を解体して市場化・民営化を進める問題を指摘しました。
 京都府職労の佐藤良弘さんは、都道府 県から市町村への権限移譲により住民の生活がどう変わるのかについて、合併日本一の広島県を例に取り、専門性の確保と業務の経験・習熟が困難になり住民 サービス向上に繋がらない問題、保健所や児童相談所の権限移譲では専門化する感染症対策や児童虐待へのきめ細かな対応ができなくなることを指摘しました。
  全労働の森崎巌さんは、地域主権改革の国の出先機関原則廃止について、ハローワークの地方移管を例に、憲法が保障する労働と雇用の保障、労働基準と雇用均 等行政の地方移管について、ある首長は「うちではとても受けられないから、移管されたら民間に委託する」とし、ハローワークの民営化・廃止に繋がるものと 指摘しました。
 障全協の家平悟さんは、「政府は障害者に関わる問題を当事者抜きに決めないと合意したのに、地域主権改革関連法案では自分たちに 何ら知らされないまま障害者施設の基準緩和をしようとしている。障害者施策に関する各種計画の策定を条例委任することは当事者参画の後退である。民主党は 社会保障全体のあり方、ナショナルミニマム保障の内容を示していない」と指摘しました。
 会場発言は新婦人の玉田さん、全教の今谷さん、福祉保育労の仲野さん、公害地球懇の大島さんから、それぞれの分野で、地域主権改革により、憲法が保障する国民の権利が地方に丸投げされようとしている問題点が指摘されました。
 シンポのまとめとして、コーディネーターの永山教授は、「国と地方のあり方について地域主権改革の内容を吟味するとともに、地域主権改革に対する国民的共同の運動をつくっていくことが求められている」とまとめました。
 最後に、全生連の前田美津恵さんが閉会あいさつし、公営住宅の維持・整備など地方の責任とされた場合にどこまで保障されるのか、地域主権改革の問題点を指摘し、憲法で保障された生存権を守るために共同の運動を進めていこうと行動提起しました。

以 上