No.660
2008年5月14日
官民交流、キャリア制度、労働基本権などで追及
= 公務員改革法案が衆議院内閣委員会で本格審議を開始 =
「公務員制度改革基本法案」は、5月14日の衆議院内閣委員会での審議が始まり、各党議員による約5時間の質疑がおこなわれました。
 この日は、本会議での代表質問に対する福田首相の答弁をうけて、野党各党は、法案の個別の問題点にかかわって政府を追及しました。
 全労連「公務員制度改革」闘争本部は、内閣委員会の傍聴行動にとりくみ、のべ10名(国公労連5、全教2、自治労連1、公務労組連絡会事務局2名)が参加し、法案審議を監視しました。

試験区分の変更だけでキャリア制度をなくせるのか

 内閣委員会で質問に立ったのは、大塚拓、土井亨、遠藤宣彦(以上、自民)、田端正広(公明)、馬淵澄夫、泉健太、松本剛明(以上、民主)、塩川鉄也(共産)の各議員でした。
 民主党の馬淵議員は、幹部職員の公正な人事管理について質問しました。基本法案では、幹部職員の人事管理を、新たにつくる「内閣人事庁」で一元的に管理することとしています。しかし、内閣人事庁の役割は、情報提供、助言などの支援にとどめられ、幹部人事の名簿は各府省で作成されます。
 馬淵議員は、「内閣人事庁による一元管理は実効性に疑問がある。各府省が名簿を提出するのならば、現在と何も変わらない。各府省の官僚の思惑にもとづいて幹部人事がおこなわれている問題は解決しない。これでは一元管理などはとても無理だ」と追及しました。
 渡辺行革担当大臣は、「内閣人事庁の設置すら、各省庁は猛反対した」などとのべ、「内閣人事庁が名簿作成までやるのは現実離れしている。現実的な方法として提案したものだ。また、幹部人事は、最終的には内閣総理大臣の承認が必要となる」と答弁し、内閣の管理が強められることを強調しました。
 また、馬淵議員は、採用試験の区分を、現行のT・U・V種から、総合職、一般職、専門職へと変えることについて質問し、「T種試験に合格して採用されただけで、幹部への道が約束されるという現行のキャリア制度の廃止が必要だ。法案では、総合職の採用者が内閣人事庁に採用され、将来的な幹部へのスタートとなる。試験区分にとらわれない人事をするといいながら、これではキャリア制度の本質的な解決とならない」と指摘すると、渡辺大臣は、「一般職採用でも、きわめて高い能力があれば、幹部育成過程に行くことは可能だ。いくらでも幹部になれる」とのべましたが、総合職試験とT種試験の違い、総合職の採用予定者数などを次々と質問されると、渡辺大臣は、「基本法成立後に、すみやかに検討し、制度設計をおこなう」との答弁に終始しまいた。
 これにつづいて、泉議員は、「高校卒業者は、総合職試験の対象ではないと認識している。高卒でも、将来はトップになれるような人事制度をめざすべき。あらゆる人にあらゆるチャンスを与えるべきだ」と迫りました。渡辺大臣は、「幹部育成過程は、人事評価にもとづいて選抜する。高卒でも可能だ」と繰り返しました。

官民交流が企業側には「ビジネスチャンス」となっている

 労働基本権の取り扱いについて、民主党の松本議員は、「政府の専門調査会の最終報告では、公務員に労働協約締結権を付与することが示された。しかし、法案は、協約締結権について検討するとしただけで、権利を付与する方向が示されていない。専門調査会報告より後退したのもではないのか」と質しました。
 渡辺大臣は「そのような後退したという評価があることは知っているが、あくまでも、慎重な検討と、国民の理解の必要性を指摘した専門調査会の報告をふまえて法案化したものだ。専門調査会の報告は尊重していく」と答弁しつつ、「法案としては、このような文言にしないと国会に提出できなかった」などとのべ、協約権付与については明確な答弁を避けました。
 これに対して、松本議員は、「検討するにしても、1〜2年で結論を出すべきだ。基本法が成立したら、速やかに次の段階に移り、政府としての意思を示せ」と求めました。
 共産党の塩川議員は、官民交流による政官財癒着の問題に集中して政府を追及しました。塩川議員は、官民人事交流法では同一企業による連続した採用を制限するなどの規制がある一方で、任期付任用制度によって民間から職員の受けいれる場合は、こうした規制が大幅に緩められることを指摘し、実際に、原子力保安委員会の事務局の職員を、何年にもわたって三菱や日立などから連続して採用してきたことを示しました。こうした職員は、数年でふたたび元の企業に戻り、そのことで官民癒着の疑念が生じています。
 これに対して、政府側が、「任期付任用制度は、元の企業に戻ることを想定していない」などと答弁したことから、塩川議員は、「官民人事交流法の規制を逃れるための脱法行為ではないのか。監督官庁が、監督される側の企業の社員を採用している。これでは、官民癒着の疑念が持たれるのも当然だ」と指摘しました。
 また、塩川議員は、総務省の調査では、官民交流のメリットとして企業側が「ビジネス機会の創出」をあげていることを示し、「ビジネスチャンス、つまり、企業は儲けのために利用しようとしている。まさに、官民の癒着そのものではないか。法案では、こうした事態をいっそう拡大させることになる。是正すべきだ」と強く求めました。
 渡辺大臣は、「癒着の疑念が生じないよう、公務の中立性、公正性に十分留意して、官民交流を促進する」とのべつつも、規制の方法を追及されると、「法案は、基本方針をさだめるものであり、具体的にはこれから検討する」などと答弁するにとどまりました。
 最後に、塩川議員は、「官民の交流と癒着は紙一重だ。癒着防止の制限を緩和するのでは、さらに官民癒着がひろがる懸念がある」と厳しく指摘しました。
以 上