No.500
2004年10月22日
給与法案・寒冷地手当改悪法案が衆議院を通過
= わずか2時間の審議で総務委員会で採決を強行 =
 衆議院総務委員会に付託されていた国家公務員の給与法案、寒冷地手当改悪法案は、22日午前の委員会で審議され、共産党をのぞく各党の賛成多数により採択されました。各法案は、午後からの本会議でも採択され、参議院に送付されました。
 自民・公明の各党が質疑時間を「放棄」するもと、わずか2時間にも満たないきわめて不十分な質疑で採択されたことは、とりわけ、大幅な支給地域の廃止や手当減額が寒冷積雪地域に働く職員の生活悪化をまねく点からも認められません。
 こうしたもと、公務労組連絡会は、総務委員会の傍聴行動にとりくみ、8名(国公労連5、自治労連・全教各1、事務局1)が参加し、法案審議を監視しました。

「賃下げの悪循環」にまったく目をむけない麻生総務大臣

 衆議院総務委員会では、9時40分の開会予定時間になっても、委員会の半数を占める自民党議員がわずか数名しか着席しておらず、これに野党側が抗議するもと、開会は15分以上遅れました。自民党の国会軽視の姿勢が、こうした態度にも表れています。
 質疑に立ったのは、民主党の大出彰、稲見哲男、共産党の高橋千鶴子、社民党の横光克彦の各議員で、給与法案を中心に地域給与や公務員制度などで政府を追及しました。
 民主党の大出議員は、地域給与の見直しともかかわって、公務員賃金の社会的な影響力について、政府の考え方をただしました。大出議員が、「民間企業では、公務員給与引き下げが、賃下げの口実にされている。こうした悪循環があることについて、政府はどう認識しているのか」と質すと、麻生総務大臣は、「5400万人の民間労働者にくらべて、国・地方の公務員は410万人。わずか10分の1にも満たない。影響はない」などと答弁し、「賃下げの悪循環」の実態を正面から否定しました。
 また、稲見議員は、寒冷地手当にかかわって、「手当の性格を生計費補填から民間準拠に変えた根拠は何か?また、公務サービスという職務の特殊性や、地域経済の冷え込みなどを考慮すべきではないのか」とせまりました。
 これに対して、佐藤人事院総裁は、「石炭手当として始まり、生計費を補ってきた。しかし、今は東京でも夏はクーラーを使うのが当たり前の時代に、札幌と東京でどれだけの生計費の差があるのかわからない」などとのべ、あくまで「民間準拠」による見直しの正当性を強調しました。また、地域経済への影響についても、佐藤総裁は、「人事院の立場として、地域の経済状況を勧告の判断材料にするべきではない」などと強弁しました。

灯油急騰のなかでの手当改悪は国会付帯決議に反する

 共産党の高橋議員は、青森県出身者として寒冷地手当問題を集中して追及しました。
 高橋議員は、国公東北ブロックが実施した実態調査を示し、「7割強の人が、現在の寒冷地手当でも足りないと回答している。にもかかわらず、4割もの手当を削減するのは許されない」と指摘しつつ、最近の石油高騰の実態をあげて、「88年の手当見直しの際の国会付帯決議は、今後の燃料費の価格変動に応じて改定すべきとしている。灯油価格が高値となっている現在、付帯決議の主旨からも手当を引き下げるべきではない」と指摘しました。
 麻生総務大臣は、「確かに灯油価格は20%程度あがっている。しかし、その影響は、公務員だけではなく、民間でも同じだ。北海道や青森の冬の生活が厳しいのは間違いないが、各方面からは、民間との乖離(かいり)が指摘され、今回の見直しとなった。また、指摘の点は、6年間の経過措置を設けることによって配慮した」とのべ、人事院と同様に「民間準拠」のみを根拠にして、改悪を正当化しました。
 また、高橋議員は、北海道の気象データで線引きして、本州の支給地域を廃止したことの矛盾点について、「本州の各地域の気象データを見てみると、北海道の2級地、3級地と同程度に気象条件が厳しい市町村が多数存在している。それなのに、手当額は2万円以上もの格差がある」と追及したことに対して、人事院の山野給与局長は、「北海道は民間の8割が出ているので手当を残す。民間で2割以下しか支給されていない本州は、北海道との『権衡地域』として残した。基準がもともと違う」とのべたうえ、「気温が氷点下以上でも支給地域となる本州の基準は、北海道の基準よりもゆるい」などと答弁しました。
 高橋議員は、「民間準拠だけを根拠にする見直しは、生計費補填を主旨としてきた寒冷地手当の性格との整合性がない」とのべつつ、「自治体への交付税交付金など多方面に影響する寒冷地手当の廃止・削減は、地域経済にも重大な影響を与えることを考慮すべきだ」と強く指摘し、質問を締めくくりました。

国民的な観点での議論もなくきわめて不十分な法案審議

 社民党の横光議員が公務員制度問題を中心に質問したあと、共産党の塩川鉄也議員が反対討論に立ち、寒冷地手当改悪について、北海道の気象データを本州にあわせることには合理性がないこと、寒冷積雪地域の生活実態をふまえず、単に民間準拠を根拠にした見直しであること、国・地方の公務員の手当見直しで推定で560億円が失われ、そのことが地域経済に打撃を与えることを理由にあげ、改悪法案に反対する立場を明らかにしました。
 討論が終結したあと、ただちに採決に移り、自民・公明・民主・社民の各党の賛成多数で採択されました。質疑開始から採決にまでかかった時間は、わずか2時間でした。民間賃金や地域経済、自治体財政への影響など、国会では、寒冷地手当改悪がもたらすさまざまな問題点を、国民的な観点から十分に議論することが求められていましたが、そうした問題が明らかにされないままの衆議院通過となりました。
以 上