No.410
2003年7月25日
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「地域給」研究会が地方公務員給与見直しにも言及
=「基本報告」の発表にあたって、公務労組連絡会が人事院に申し入れ=
 人事院は7月18日、「地域に勤務する公務員の給与に関する研究会」の「基本報告」を発表しました(概要を資料@に掲載)。
 報告は、昨年9月から16回にわたる議論を経てまとめられたものですが、その内容は、「現在の公務員給与の地域差は不十分であり、今まで以上に地域の民間給与等を反映させることが必要である」という認識のもとに、俸給等の水準引き下げにむけた新たな地域手当や、「転勤手当」の導入などを示しています。
 とくに、検討範囲を国家公務員の給与に限定しておきながら、「基本報告」では、「地域の公務員給与問題としては、地方公務員給与の在り方についても議論があり、地方公共団体関係者においては、この問題に適切に対処されることを期待する」などと、地方公務員の給与見直しにまで言及している点は、自治体職員・教員の給与引き下げにつながる問題を持っています。
 こうした点を重視し、公務労組連絡会は23日、研究会の「基本報告」で、唐突に地方公務員の給与について「適切な対応を求める」と記述したことに対して、人事院に申し入れました(「申し入れ書」を資料A−1、2に掲載)。
 申し入れには若井事務局長、新堰幹事(全教副委員長)、松本幹事(自治労連執行委員)が参加、「研究会は、国家公務員給与を議論の対象としており、地方公務員給与を議論の対象としておらず、実情等の意見聴取したのは東京都及び鳥取県の2団体のみで、いずれも人事委員会勧告に加えて独自の賃金カットしている団体のみである」「地方公務員給与を議題にして集中した議論をしていない」「研究会報告とはいえ国が地方に言及するのは地方自治の本旨に抵触する」「『適切に対処』とはマスコミでは引き下げることと同義語として用いている」など問題点を指摘しました。
 これに対して、人事院側は関係者に伝え対応したいと回答しました。
【資料@】
「地域に勤務する公務員の給与に関する研究会」基本報告(概要)
 本研究会は、人事院事務総長から、国家公務員(以下「公務員」という)を対象に、地域に勤務する公務員にふさわしい給与の在り方について検討を行うよう依頼を受け、昨年9月以来、16回にわたり、各方面からのヒアリングや、公務員の人事・給与の制度と実情の分析を行いつつ、具体的な措置の方向について様々な角度から検討を重ねた。
 今般、その結果を提言として、取りまとめ、報告を行ったものである。

【主な提言】
(1)公務員の給与水準を民間準拠方式により決定することは妥当であるが、民間企業における人事・組織形態の変化に応じた調査・比較方法の見直しは必要である
(2)地域における官民の給与の状況を見ると、現在の公務員給与の地域差は不十分であり、今まで以上に地域の民間給与等を反映させることが必要である
(3)地域の民間給与をより反映させるため、俸給等を引き下げることも念頭に置いて、支給地域、支給割合等を基本的に見直した地域手当を導入する
(4)給与の地域差を拡大する場合には、必要な転勤を円滑に行えるようにするため、転勤の在り方を見直し、総数を縮減していくことを前提に、転勤により給与額が下がる場合には一定期間、逓減型の転勤手当(仮称)を支給する
(5)地域に勤務する公務員の給与の問題に基本的に対応するためには、年功的運用となりがちな給与制度全体の見直しが必要であり、給与カーブのフラット化や昇給制度の在り方の見直し、職務に応じた処遇の徹底、ボーナスの成績査定分の拡大等が必要である

■検討に当たって 〜研究会の問題意識
 ○ これまで公務員給与は、民間準拠による外部との均衡や部内均衡を中心に制度設計を行い、地域別の給与の在り方は部内配分の問題として必ずしも重視してこなかったことが、給与制度の運用が年功的になっていることとあいまって、地域に勤務する公務員の給与に対する批判の背景となっている。
 ○ 民間企業や諸外国公務員制度においては、成果・実績重視の人事・給与体系への見直しが進められている。公務員給与を、公務内外の諸情勢の変化に対応させていくためには、公務部内での公平、外部との公平のほか、個人の公平(成績に応じた処遇)に配慮し、給与制度全体の在り方について抜本改革を進めることが、国民の批判に応え、広く国民の理解を得る上で必要である。
 ○ 公務員給与の検討に当たっては、有為な人材を公務に誘致し、能率的な公務運営を通じて国民に良質な行政サービスを提供する必要があること及び労働基本権制約の下での職員の適正な処遇の確保が求められることについて、納税者たる国民や公務の労使双方の理解を得ていくことが必要である。

■公務員人事・給与の制度と実情
1 公務員の在職実態等
 ○ 一般職非現業国家公務員(職員)(約48万人)は広く国民に多様な行政サービスを提供するため、本府省のほか離島・山間へき地を含め全国各地で勤務している。
 ○ 人事管理は各府省ごとに職種・職域、採用試験の区分の別により行われており、異動を繰り返しながら昇進していくのが一般的である。
 ○ 全国均一の行政サービスの提供、官民癒着の防止、昇進管理等の人事管理上の必要性等から住居を異にする転勤が行われており、民間企業に比べてその頻度が高い。

2 公務員給与の制度と実情
 ○ 公務員給与は社会一般の情勢に適応させるものとされており、そのための基本的な方法として、官民給与の調査・比較を通じ全国で見て公務員給与を民間の給与水準に均衡させている(民間準拠)。
 * 企業規模100人、事業所規模50人以上の全国7,900の民間事業所を実地調査
 * 主な給与決定要素(仕事の種類、役職段階、学歴、年齢、勤務地域)を同じくするもの同士を「ラスパイレス方式」で対比し、全体較差を算出−−地域別民間賃金の状況も反映
 ○ 公務員給与は、民間の賃金・物価・生計費が特に高い地域に在勤する職員に支給される調整手当(俸給等の一定率(最高12%))と、本府省・地方機関等の組織段階に応じた職務の級への格付けによって一定の地域差が生じている。職員の平均給与のブロック別地域差は、行政職(一)の場合、全国を100として95(北海道)〜107(東京都)である。
 * 現行の俸給表は、各級の金額の上下幅が大きく、級間の水準の重なりが大きいため、昇給によって給与水準が年功的に増加
 * 普通昇給は本来査定昇給だが自動昇給に近い運用となっているほか、特別昇給や勤勉手当、昇格などの成績反映の仕組みも、年功的な運用に陥っているとの批判
 ○ 民間における平均賃金のブロック別地域差は、全国を100として87(北海道、東北)〜116(東京都)である。また、賃金の地域差を役職別で見ると、公務内での地域差の状況に近付くが、民間における差の方が公務内での差より大きい。一方、全国展開を行っている同一企業内での地域差は大きくなく、地元企業との間の「民民」格差があると考えられるが、地域分社化や勤務地限定社員制度の導入などの取組も認められる。

■論点ごとの検討

1 民間準拠方式
 ○ 現行のラスパイレス方式を用いた民間準拠方式による全体の給与水準決定は、客観的な指標として納得性が高く、昨今のマイナス方向での改定にあっても適切に機能しており、その考え方や基本的な比較方法は今後とも維持するのが妥当である。
 ○ 民間給与実態調査について、民間企業における組織・役職段階のフラット化や組織・人員のスリム化等を踏まえ、役職者の定義の見直しやスタッフ職を調査対象とすることについて検討する必要がある。基幹となる支店従業員は、本店で一括採用されている場合が多いことを踏まえ、調査における支店従業員の取扱いについても検討していく必要がある。さらに、企業規模のスリム化により対象従業員数の減少が進む場合には、調査対象企業の在り方について改めて検討する必要がある。

2 今後の公務員給与の決定原則
 ○ 公務員給与の基本は、今後とも職務に置くことが最も明確で公務内外の納得性も高い。その上で、職員の実績や業績を適切に評価し、これらを反映できる制度・運用に改めていく必要がある。

3 地域の給与差の反映の在り方
 ○ 本研究会においては、国家公務員である以上、地方公務員と異なり、必ずしも地域の民間給与にそろえる必要はないとの意見もあったが、地域における官民の給与の状況を見ると、現在の公務員給与の地域差は不十分であり、転勤や人材確保を十分に考慮しつつ、今まで以上に地域の民間給与等を反映させていくことが必要との意見であった。
 ○ 地域の実情を表す主な指標としては、地域の物価及び生計費も反映される民間賃金を基本とするのが適当である。
 ○ 本府省と地方機関等のそれぞれのポストについて、適切な職務評価を行うことを通じて給与差を確保することも重要であり、民間における手法も踏まえつつ、新たな職務評価を実施していくことが課題である。

■具体的な措置(給与制度の改革)の方向

1 俸給による対応
 ○ 地域等に応じた複数の俸給表を設ける案も検討したが、職務給原則の下で、組織としての一体性や人材確保を進めるためには、全国共通型の俸給表を維持することが適当との結論に至った。この場合には、年功的な俸給表構造の見直しと、地域関連手当の抜本的な見直しを併せて行うことがその前提とされた。
 ○ ただ、実態として転勤が少なく、都道府県内あるいはブロック組織(管区)内の異動に限られる人事グループについては、今後、地域限定勤務俸給表を設定することができないか、更に検討すべきとの意見もあった。

2 手当による対応
(1) 新たな地域手当
 ○ 現行の調整手当を、主として都市部の民間賃金に着目し、支給地域、支給割合等を基本的に見直した、新たな地域手当に再構築する。
 ○ 支給地域の単位は、転勤の実態等を踏まえ、現行の市町村単位からより広域化を図ることが望ましいが、具体的には専門的・多面的に検討を行うべきである。
 ○ 全体の給与原資の中で俸給と手当の配分を見直し、俸給等を引き下げることをも念頭に置いた上で、地域差をできるだけ反映できるよう措置する。
(2) 転勤手当
 ○ 公務における転勤は、諸外国の場合とは異なり公務運営上の必要性に基づき職務命令で行われる。転勤は、経済的負担及び心身の負担を伴うため、必要な転勤については給与処遇の面からの措置が必要である。
 ○ 転勤の在り方を見直し、総数を縮減していくことを前提に、必要な転勤の円滑化のため、転勤により給与額が下がる場合には、一定期間、転勤前の地域手当額からの減額分を補う逓減型の転勤手当を支給する。
 ○ 不適切な運用(ワンタッチ)を防止するため転勤前の在勤地での勤務期間に要件を設定する。

3 給与構造の見直し
 ○ 年功的給与上昇を抑制する観点からは、(1)昇給制度を含めた給与カーブの見直し(フラット化)、(2)等級間の重なりの縮小など、俸給表の構造自体を改めることが必要である。
 ○ 公務員の早期退職慣行の是正・在職期間の長期化が求められる中、職責反映を徹底するとともに職員の士気を確保する観点から、(1)等級構成の再編、(2)適切な職務評価に基づく等級格付の適正化、(3)細かな時々の具体的な職務・職責の違いを適切に反映させるための職責手当の新設、(4)本府省組織等を中心に複線型人事制度の導入に併せ、スタッフ職を対象とした俸給表の新設、(5)ボーナスにおける成績査定分の拡大、などについても検討すべきである。

■その他の提言

1 転勤の必要性とその在り方の見直し
 ○ 転勤が必要とされるそれぞれの観点に照らし、現在のような転勤の在り方が真に必要なのかどうか、再点検し、今後、転勤のサイクルを見直し、全体としての頻度を縮小していくことが必要である。

2 恒常的な超過勤務対策
 ○ 本府省等を中心とした恒常的超過勤務の問題については、管理職のコスト意識の徹底を図りつつ、仕事のやり方を見直し、業務遂行を効率化・合理化することが不可欠である。必要な業務については明確な超過勤務命令を出して適切に超過勤務手当を支給すべきである。

   この報告を受けて、人事院では、現行制度の内容や合理性について、国民に十分に理解されるよう、説明責任を果たすとともに、改革すべき事項については、各府省、職員団体等と意見交換を行いつつ、具体化措置に向けて早急に検討することを期待する。
 地域の公務員給与問題としては、地方公務員給与の在り方についても議論があり、地方公共団体関係者がこの問題に適切に対処されることを期待する。
                                以 上
【添付資料A-1】
人事院総裁
   中島 忠能 殿
公 務 労 組 連 絡 会
議 長    石元  巌
日本自治体労働組合総連合 
中央執行委員長 駒場 忠親
       全日本教職員組合     
                       中央執行委員長 石元 巌
地域に勤務する公務員の給与に関する
研究会基本報告に係る申し入れ
地域に勤務する公務員の給与に関する研究会(以下「研究会」と言う。)は、7月18日人事院事務総長に対して「基本報告書」を提出し、この中で「本研究会は、国家公務員を対象に検討を行ったが、地域の公務員給与問題としては、地方公務員給与の在り方についても議論があり、地方公共団体関係者においては、この問題に適切に対処されることを期待する。」と述べています。
研究会は人事院事務総長の私的研究会として位置付けられ、専ら地域に勤務する国家公務員の給与について検討することに限定しており、そのことから東京都及び鳥取県の2団体から実情等を聴取したのみで、議題として集中して議論もなされていません。
しかし、結論部分で地方公務員給与に言及したことは、「基本報告」の持つ影響力を踏まえれば、問題は大きく、しかも「適切に対処」の中身も極めて曖昧です。
こうした観点から、今回の「基本報告」の発表に当たって、以下のとおり申し入れるものです。
           記

1、人事院勧告にあたっては、勧告及び報告で地方公務員給与に関わって一切言及しないこと。

2、研究会との懇談、意見交流の場を設けること。

                               以 上
【添付資料A-2】
地域に勤務する公務員の給与に関する研究会
           座長 神代 和欣 殿
       公 務 労 組 連 絡 会
            議 長    石元  巌
             日本自治体労働組合総連合 
             中央執行委員長 駒場 忠親
             全日本教職員組合     
中央執行委員長 石元 巌
地域に勤務する公務員の給与に関する研究会
基本報告についての質問・申し入れ
地域に勤務する公務員の給与に関する研究会(以下「研究会」と言う。)は、7月18日人事院事務総長に対して基本報告書を提出し、この中で「本研究会は、国家公務員を対象に検討を行ったが、地域の公務員給与問題としては、地方公務員給与の在り方についても議論があり、地方公共団体関係者においては、この問題に適切に対処されることを期待する。」と述べています。
研究会は人事院事務総長の私的研究会として位置付けられ、専ら地域に勤務する国家公務員の給与のついて検討することに限定しており、そのことから東京都及び鳥取県の2団体から実情等を聴取したのみで、議題として集中して議論もなされていません。
しかし、結論部分で地方公務員給与に言及したことは、「基本報告」の持つ影響力を踏まえれば、問題は大きく、しかも「適切に対処」の中身も極めて曖昧です。
こうした観点から、今回の「基本報告」の発表に当たって、以下の質問とともに意見交換の場を設けられるよう申し入れるものです。

             記

1、「適切に対処」の具体的内容を示すことを含め地方公務員給与について言及され意図を明らかにされたい。

2、研究会との懇談、意見交流の場を設けられたい。

以 上