No.364
2002年11月14日
公務労組連絡会FAXニュース
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給与法案が参議院総務委員会で可決
=ILO結社の自由委員会勧告にかかわっても政府を追及=
 参議院に送付された国家公務員一般職の給与法案は、14日の総務委員会で審議され、共産・社民をのぞく各党の賛成多数で可決されました。
 また、衆議院と同様に、民主・社民の共同で修正案が提出されましたが、賛成少数で否決されました。さらに、附帯決議も全会一致で採択されています。
 給与法案は、明日(15日)午前に予定されている本会議にかけられ、初の月例給引き下げとなる給与法の成立が強行される見通しです。
 公務労組連絡会では、衆議院につづき委員会傍聴行動にとりくみ、駒場議長はじめ11人が参加し、法案審議を監視しました。
「特例措置」は国民感情を考えた一つの選択だ
 午前10時から始まった給与法案の質疑では、山下栄一(公明)、高嶋良充(民主)、椎名一保(自民)、八田ひろ子(共産)、渡辺秀央(自由)、又市征治(社民)の各議員が質問に立ちました。
 民主党の高嶋議員は、日本経済にあたえる影響について、「賃下げにより6,930億円の人件費が減る。総務省の家計調査では、4千億円の消費減となり、年金への連動などで国民生活に多大な影響が出る」と指摘し、「民間準拠によるマイナス人勧の要因はデフレにある。このままでは景気悪化の悪循環となる。明らかに政府の失政だ」と追及しました。
 片山総務大臣は、「世界同時デフレの状況だ。政府としては、不良債権処理の加速などの政策を着実に実行する」と答弁し、「マイナス勧告」が消費や経済にあたえる影響についての言明を避けました。
 また、4月からの賃下げを遡及する「特例措置」の問題では、「年間給与の均衡をはかる調整措置であり、遡及にはあたらない」との答弁を繰り返す政府・人事院に対して、「その考え方は、形式論に過ぎない。実質的に4月に遡及して引き下げることと同額の調整がされる。不利益遡及と同等の効果が生まれる特例措置は、脱法行為だ。11月中に法律が成立しなければ、調整は不可能となるが、そのときの対応はどうするのか?」と追及しました。
 人事院の中島総裁は、「法的に詳しく議論したわけではない。国民感情にあった内容にするための一つの選択だ」とし、最後には、「反対の人に説明しても、右の耳から左の耳へと抜けていくだけだ」「法律が成立しないなどとは考えたこともない」と不誠実な答弁をつづけました。
過労死も起こりかねない残業実態を改善せよ
 共産党の八田議員は、第3子以降の子どもへの扶養手当の改善や、中央省庁の長時間労働を改善するための政府としての対策を追及しました。八田議員は、霞ヶ関国公共闘がとりくんだ「残業実態調査」の結果も示して、「3人に1人が過労死の危険を感じている。約3割が家族と夕食をしていない。これでは家族的責任など果たせない。人たるに値する生活とは言えない。そのうえ、賃金を下げて使用者として心が痛まないのか」と、片山総務大臣を質しました。
 片山大臣は、「それらの超過勤務が、果たして任命権者が正式に命令を出したものかどうか」などとしつつも、「いっせい退庁などで政府としても努力している。みんなで残業を減らすよう努力することが大切だ。今後とも、公務員制度改革の重要課題として、超過勤務の縮減に務めていく」と答弁しました。
 公務員賃金引き下げによる民間企業や経済への影響について、「消費への影響は1兆円を軽く超える。日本経団連の奥田会長も、公務員にならって経営者は賃下げをすすめるだろうと発言している。公務員の賃下げは、消費後退、デフレを加速する」と、八田議員が政府の失政を指摘すると、片山大臣は、「それならば、どんどん公務員の給料が上がれば、それだけで景気が回復するのか。それで国民の納得が得られるのか。そうやって批判することは簡単だ」と、言葉をあらげる場面もありました。
 また、八田議員は、「労働組合と誠実に対応し、大臣は2回にわたって労働組合と会ったと言うが、なぜ連合としか会わないのか。より多くの非現業国家公務員を組織する組合(国公労連)となぜ会おうとしないのか」と、政府の交渉対応にかかわって問い質しました。片山総務大臣が、「長い歴史の間で積み重ねられてきた慣行にしたがって、交渉対応は関係部局が決めている」と発言したことに対して、八田議員は、「慣行と言うが、今年は、初の賃下げとなる異常事態だ。それは口実にならない」と強く是正を求めました。
 午後からの社民党の又市議員の質問では、「4月にさかのぼって賃下げを調整せざるをえないのは、そもそも労働基本権制約の代償としての人事院勧告制度が、制度的に欠陥を持っているからだ。最低限、調整実施の方法について、労働組合の理解と納得が必要だった」とのべ、労働基本権の問題について質しました。
 片山大臣は、「公務員にストライキをやられたら、全体の奉仕者としての使命は達成できない。公務員はガマンすべきだ」などと強弁し、労働基本権回復を正面から否定しました。
ILO勧告が出れば政府として対応を決める
 委員会審議では、この他に、新人事制度や採用制度など「公務員制度改革」の問題が追及されるとともに、おりしも結論が間近にせまっているILO結社の自由委員会の勧告について、各議員が政府としての対応を質しました。
 「全労連・連合のILO提訴に対する結論が示されるとのマスコミ報道がある。この通りならば、日本政府は、公務員に労働基本権を与えるか、ILO条約を廃棄するかの2つの選択肢しかなくなる」(民主・高嶋議員)、「日本政府に国際的な批判が集中している。政府は、公務員労働者の労働基本権回復にむけて、誠実な交渉・協議をおこなえ」(共産・八田議員)、「予想される勧告の内容から見ても、日本の特殊事情というこれまでの言い訳は通用しない。ILO勧告が出れば、政府は、公務員制度改革の変更をせまられる」(社民・又市議員)など、集中して政府を追及しました。
 政府側(厚生労働省)は、「ILO結社の自由委員会は非公開の会議であり、まだ出ていない勧告の内容について、政府としては承知していない」と逃げの答弁をしつつも、片山大臣からは、「勧告の中身を見て、政府として詳細に検討し、関係省庁とも協議して対応を決める。誠意ある対応をしたい」との答弁を引き出しました。
附帯決議を全会一致で採択
 すべての質議が終わった後、共産党の宮本岳志議員、社民党・又市議員の法案に対する討論があり、宮本議員は、法案が、不況をいっそう深刻にすること、国民生活を切り下げ、際限のない賃下げを労働者にせまること、4月からの賃下げ調整は、不利益遡及そのものであり、人事院勧告制度の根幹にかかわる問題を持っていることなどを理由にして、法案に反対の態度を表明しました。又市議員も、法案反対の討論をおこないました。
 その後、民主・社民の共同による修正案が提案されました。修正案の内容は、衆議院で提出されたものと同様で、@賃下げ分を12月の一時金で「減額調整」する条項の削除、A民間賃金との均衡にむけた必要な措置は、来年の3月末までに労働組合との話し合いで決めること、B3月期の期末手当の廃止をやめることなどを内容としたものでした。
 修正案に対しては、民主・社民・共産が賛成し、少数否決され、その後の原案採決では、共産・社民をのぞく各会派の賛成多数で14時30分に採択されました。
 最後に、全会派の共同提案による「附帯決議」(別掲)が、全会一致で採択され、委員会は閉会しました。
労働基本権の回復などを求めて引き続く奮闘を
 給与法は、明日午前に予定されている参議院本会議にかけられ、成立がはかられる見通しです。
 初の月例給引き下げ、「不利益不遡及」の原則を踏み破る「特例措置」など、勧告制度始まって以来の数々の重大な問題をもった給与法は、衆議院と参議院あわせてわずか6時間にも満たない審議時間ののちに、成立が強行されることとなります。
 不十分な審議ではあっても、「不利益遡及」の法的側面からの問題、労働基本権制約の「代償措置」としての勧告制度のあり方、さらには、それともかかわる「公務員制度改革」の問題点など、今後、さらに政府を追及していくべき数々の課題が明らかにされています。
 また、委員会審議でふれられたように、近々出されるILO勧告を背景にして、国会で政府を追及し、労働基本権制約の維持をねらう「公務員制度改革」を断念させていくことが緊急に求められています。
 こうした点を確認しながら、労働基本権の回復、民主的公務員制度の確立、さらには、「賃下げの悪循環」を断ち切るため、「公務員制度200万国会請願署名」の目標達成をはじめとした引き続く奮闘が重要となっています。
以 上
一般職の職員の給与に関する法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議

 政府及び人事院は、本法施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。
1、今回の月例給の引下げが公務員の士気や民間給与・経済に与える影響等を重く受けとめ、公務員の適正な処遇の確保に努めるとともに、デフレ克服のための積極的な総合施策を一刻も早く実施すること。
2、年間における官民給与を均衡させる方法等を決定するに当たっては、職員団体等の意見を十分聴取し、納得を得るよう最大限の努力をすること。
3、今回の給与の減額調整措置は、公務員給与の改定時期が民間と乖離している人事院勧告制度特有の在り方に起因していることから、民間等へ影響を及ぼさないよう十分留意すること。
4、公務員制度改革に当たっては、人事院勧告制度が労働基本権制約の代償措置であることにかんがみ、、職員団体等の意見を十分聴取し、納得を得るよう最大限の努力をすること。
 右決議する。