No.362
2002年11月7日
公務労組連絡会FAXニュース
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「賃下げ給与法案」を衆院総務委員会で採択
=4月遡及の「減額調整」、経済への影響などが審議の焦点に=

 衆議院総務委員会に付託されていた一般職・特別職の給与法案は、7日午前に開かれた同委員会で審議され、賛成多数で可決されました。
 初めて国家公務員の基本給を引き下げ、それを事実上4月にさかのぼって実施する法案は、きわめて重大な問題を持っていたにもかかわらず、与党が質問を放棄するなかで、わずか2時間30分という短時間の審議ののち採決が強行され、共産・社民をのぞく各会派の賛成により採択されました。
 また、賃下げ分を12月の一時金で「減額調整」する部分の削除などを内容とする修正案が、民主・社民の共同で提出されましたが、否決されました。修正案には、共産も賛成しました

 また、すべての会派の共同提案による「付帯決議」も全会一致で採択されています。
 公務労組連絡会は、総務委員会の傍聴行動にとりくみ、各単産から14名(国公労連7、自治労連2、全教2、郵産労1、事務局1)が参加し、法案審議を監視しました。
 給与法案は、8日の本会議で採択され、参議院に送付される見通しです。引き続き、参議院にむけて、法案の徹底審議と廃案を求めていく必要があります。
一時金の調整は民間賃金との均衡のための措置
 午前9時30分から開かれた総務委員会では、安住淳(民主)、桑原豊(民主)、黄川田徹(自由)、矢島恒夫(共産)、重野安正(社民)の各議員が質問に立ちました。
 法案審議のポイントは、@4月のさかのぼって賃金を引き下げ、12月の一時金で減額調整する特例措置の問題点、A公務員賃金引き下げによる消費後退など日本経済への影響、B「公務員制度改革」とも関連して公務員労働者の労働基本権の問題などであり、とりわけ、「不利益不遡及の原則」をふまえて、各議員が、賃下げ遡及の不当性についてとりあげたことが特徴です。
 各議員からは、「4月に遡及して一人づつ給料を計算し直し、12月の一時金で減額する方法は、不利益遡及そのものであり、最高裁の判例にも抵触するもの」(民主・桑原)、「いくら調整という形をとっても、実質的に4月に遡及させる点は、政府みずからが脱法行為をおかすもの」(共産・矢島)、「年間給与で民間とバランスをとり、月例給の官民較差を一時金で調整するのは制度的におかしい。公務員は、年俸制のプロ野球選手ではない」(社民・重野)など、政府や人事院に対するきびしい追及が集中しました。
 これに対して、片山総務大臣は、「今回の措置は、国公法上の『情勢適応の原則』にもとづき、年間で民間賃金と均衡をはかるもの。給与引き下げ自体は、法律施行後の12月からの実施であり、4月遡及という指摘は当たらない。内閣法制局も同じ判断だ」などとし、また、人事院の中島総裁も、「民間とバランスをとる方法の選択の問題だ。そのためにどのような方法がいいのかといろいろ検討した結果、人事院として決めたものだ」など、あくまで「年間賃金における民間との均衡」のための「調整措置」との答弁を繰り返しました。
 さらに、「民間は4月に賃金が決まるが、公務員はその8か月から1年後にやっと給与が決定する。民間と決定時期が離れている制度自体に問題がある」(民主・桑原)、「月例給と一時金とでは、官民の比較方式も調査時期も一致しない。それが理屈に合うのか?」(共産・矢島)などと、人事院勧告制度の「欠陥」を追及されると、中島人事院総裁は、「反対している人にいくら説明しても、納得してもらえない」と最後には開き直りました。
 また、今後の民間への影響について「この方法を悪用して、業績が悪化したことを理由に、労使交渉で決めた賃金をさかのぼって引き下げる例も出てくる。民間に影響しないと言明できるか?」(社民・重野)と質すと、「民間と公務では仕組みが違うが、影響はあるべきではないと思う」(片山総務大臣)、「民間にどう影響するかはわからないが、民間は、あくまで労使交渉によって賃金を決めるシステムがある」(厚生労働省奥田勤労生活部長)などと答弁し、民間と公務の違いだけを強調しました。
 このように、4月からの「不利益遡及」の違法性を追及した野党各党に対して、政府・人事院は、「民間との均衡」「国民の理解をえるための措置」とする答弁に終始しました。
公務員の労働基本権回復には大議論が必要だ
 日本経済への影響について、「きびしい不況のなかで民間準拠はやむえないが、不況やデフレは政府の政策に責任がある」(民主・桑原)、「賃下げで6930億円の予算減となる。勧告準拠の750万人に影響し、年金とも連動する。それが消費を冷え込ませ、不況をさらに深刻にする。国民の不安をなくすのが政府の責任だ」(共産・矢島)などの追及に対しては、片山総務大臣は、「不況・デフレ対策には、政府として万全の体制でのぞむ。着実に実行し、景気の建て直しをはかる。そのことと公務員賃金の問題は別だ」と強弁しました。
 労働基本権問題にもかかわって、「デフレのもとで、勧告制度自体に限界がきており、制度を見直す必要がある。賃金の決定過程に公務員労働組合が関与するしくみこそ必要だ」(民主・桑原)、「勧告制度はマイナスを想定していなかった。『減額調整』という苦肉の策も、その根源には労働基本権の制約がある。だからこそ労働基本権を回復すべき」(社民・重野)など政府の考え方を質しました。
 片山総務大臣は、「国民生活への影響、公務の特殊性などから公務員の労働基本権を制約している。これを回復させるには、大議論になる。国民と国会の理解が必要だ。現状では、今の制度がベターだ」などと追及をしりぞけ、「『代償措置』としての人事院勧告制度は一つの知恵だ。世界的に見ても、公務員にすべての労働基本権を保障しているところはない」などとのべ、おりしも、労働基本権を引き続き制約する「公務員制度改革」がILOで議論になり、国際的に問題が明らかにされようとしていることも、まったく関心がないかのような態度でした。
全会一致で「附帯決議」を採択
 すべての審議が終わった後、共産党の春名議員が反対討論に立ち、給与法案は、@不況に追い打ちをかけ、賃下げの悪循環をまねき、個人消費を引き下げる、A不利益の遡及は脱法行為であり、人事院勧告の原則が問われる。話し合いなく決めることは、公務員労働者の労働基本権制約の代償措置としての人事院勧告制度を否定するものであるとして、断じて容認できないことを、あらためて明らかにしました。
 その後、民主・社民の共同による修正案が提案されました。修正案の内容は、@賃下げ分を12月の一時金で「減額調整」する条項の削除、A民間賃金との均衡にむけた必要な措置は、来年の3月末までに労働組合との話し合いで決めること、B3月期の期末手当の廃止をやめることなどとなっています。
 修正案に対しては、民主・社民とともに、共産党が賛成しましたが、賛成少数で否決され、その後の原案採決において、共産・社民をのぞく各会派の賛成多数で採択されました。
 最後に、全会派の共同提案による「附帯決議」(別掲)が、全会一致で採択され、委員会は閉会しました。
以 上
一般職の職員の給与に関する法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議

 政府及び人事院は、次の事項について、十分配慮すべきである。
1、今回の月例給与のマイナスが公務員の士気に与える影響、民間賃金・経済に与える影響等を重く受けとめ、政府は一刻も早くデフレ克服のための総合施策を実施すること。
2、今回の減額調整措置は、公務員給与の改定時期が民間と乖離している人事院勧告制度特有のあり方に起因していることに、政府は十分留意すること。
3、政府及び人事院は、年間における官民給与を均衡させる方法等を決定するに当たっては、職員団体等の意見を十分聴取し、理解を得るよう最大限の努力を払うこと。
4、政府は、人事院勧告制度が労働基本権制約の代償措置であることにかんがみ、公務員制度改革に当たっては、職員団体等の意見を十分聴取し、理解を得るよう最大限の努力を払うこと。