No.341
2002年9月6日
公務労組連絡会FAXニュース
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官民較差、不利益不遡及などを中心に審議
= 勧告めぐって衆議院総務委員会が国会閉会中審査 =
 衆議院総務委員会は6日、2002年人事院勧告などにかかわって、国会閉会中の審査を開きました。公務労組連絡会では、傍聴行動にとりくみ、13名が参加しました。
 この日は、各会派から7名が質問に立ち、おもに賃下げ勧告による景気への影響や、賃下げを4月にさかのぼって減額調整する「賃下げの遡及」、さらに、政府がすすめている公務員の退職手当削減などをめぐって、政府・人事院と質疑がかわされました。
 基本給引き下げの勧告について、人事院中島総裁は「民間賃金を正確に反映したもの」と強弁し、片山総務大臣も「勧告は最大限尊重したい」との態度をあらためて明らかにしました。また、「不利益不遡及」にかかわっても、中島総裁は「民間との均衡をとるために必要」との答弁を繰り返しました。
 しかし、その一方で、賃下げ勧告による景気への悪影響を追及されると、「ある程度のマイナス面はある」と政府も認めざるをえず、あらためて、「賃下げの悪循環」をもたらす勧告の問題点が明らかになっています。そのことからも、国民生活を守る立場から、公務員賃金の引き下げの不当性をひろく明らかにしていくとりくみが求められています。
 
2%を超え大きすぎる官民較差に疑問の声
 9時30分から開かれた衆議院総務委員会では、川崎二郎(自民)、後藤斎(民主)、桝屋敬悟(公明)、黄川田徹(自由)、春名直章(共産)、重野安正(社民)、小池百合子(保守)の各議員が質問に立ちました。
 民間相場を大きく下回る「2.03%、7,770円」という水準にかかわって、「民間の春闘相場は、定期昇給を引けばマイナス0.3%程度だ。2.03%は大きすぎる数字だ」(民主・後藤議員)、「どの集計結果をみても、民間賃金との開きはあまりにも大きい。その原因は、人事院の民間賃金実態の調査方法の変更にあったのではないか」(共産・春名議員)などと、各議員から今回の官民較差への疑問が出されました。
 これに対して、中島人事院総裁は、「春闘相場とは、引き上げた企業だけを集計したものだ。人事院の調査は、賃金カットした企業をふくめて水準を調査している」とのべ、調査方法の変更については、「調査対象が大企業中心ではないかとの疑問が出ており、産業構造も変化しているので抽出のしかたを変更した。意図的に低くするために変えたのではない」などと答弁しました。春名議員が、「それならば、昨年までの調査方法でやればどのような結果が出るのか、今年との比較を示せ。人事院は説明責任があり、職員の納得が必要だ」と追及すると、中島総裁は、「その考えはない。調査結果には自信を持っている。専門家からはおかしいという声は出ていない」などとはねつけました。
 こうした質疑を通しても、2%を超える逆較差が出されるにいたった実態調査の経過や、納得できる詳細なデータの公表などは不透明なままで、調査方法の変更によって人事院が数字を操作したのではないかとの疑問は増すばかりです。
「賃下げの遡及は国民の理解と納得のため」と強弁
 一方、「不利益不遡及」の原則を踏み破った勧告に対しても、多くの疑問や問題点が指摘されました。「最高裁の判決でも不利益の遡及適用は許されないと断じている。原則をふまえるといいながら、減額調整するのはおかしい」(民主・後藤議員)、「一度出したものをさかのぼって否定するもので、不利益の遡及そのものだ」(共産・春名議員)、「労働基準法でも禁じている。遡及して給料を返せという理論的な裏付けはあるのか」(社民・重野議員)などの質問に対して、「あくまでも年間における民間との均衡をとるための措置だ。プラスのときは4月から、マイナスならば4月にしないということでは、国民の理解と納得はえられない」(中島総裁)、「国民の理解を得るには調整が必要だ。法律の原則はあるが、給与法の審議を通して、国会の意思として決まれば、そのことは排除できない」(片山総務大臣)など答弁しました。
 しかし、民間企業への波及や、そもそもの問題として、労働基本権が制約されている公務員に対して、一方的な不利益遡及が許されているのかという点は、今後の国会審議のなかで踏み込んだ解明が求められています。「不利益不遡及の原則を守っているという人事院の言い分こそ屁理屈だ。労働基準監督署の現場では、公務員にならって賃下げ分を取り返すという企業が出てきたら、どう指導していいのかという声もすでにでている。公務員は労働協約権もなく、一方的にルールを踏み破るならば、労働基本権の侵害だ」(春名議員)との追及に対しては、憲法ともかかわる労働基本権制約の「代償」性の議論を明らかに回避したうえで、「国民の理解と納得のための措置」との答弁を繰り返しました。
日本経済への影響はあっても勧告は尊重する
 また、今年の勧告を実施した場合、GDPが0.1から0.2%下がるとの民間機関の調査や、年金の物価スライド凍結解除への連動、地方交付税の削減など、マイナス勧告がもたらす日本経済への影響を危惧する声も与野党を問わず聞かれました。
 これに対しては、政府は、「勧告をそのまま実施すれば、経済にある程度のマイナスは出る。しかし、今後の政府の経済成長見通しの範囲内と考える。引き続き経済情勢を見ていきたい」とし、片山総務大臣も「全力をあげて景気対策をはかることこそ必要だ。いろいろ議論もあるが、専門的な調査機関である人事院が民間実態を調べて勧告を出した以上、政府としてはそれを尊重する。そのうえで、経済や財政状況など、総合的な観点から取り扱いを検討する」と答弁し、経済への影響はあっても、賃下げ勧告の「完全実施」を強く示唆しました。
 総務委員会では、公務員の退職金についても若干の質疑があり、片山総務大臣は、「総務省として調査をしてきた。結果は近日中に出したい。その結果、官民の較差があれば見直しをしたい。ただし、マスコミ報道されているような『一律10%削減』などとは思っていない」としたうえで、「引き下げの作業に着手し、来年の通常国会で法律を改正する」と答弁し、総務省として国家公務員の退職手当の見直しの方向を示しました。
「200万署名」を軸にして国民世論をひろげよう
 委員会審議を通して、賃下げ勧告の実施に反対の態度を明確にしたのは共産党だけで、他の政党からは、野党をふくめて「賃下げもやむなし」「リストラなど民間のきびしさを考えれば当然の結果」などとの発言も見られました。
 こうしたことからも、勧告の実施に反対して政府追及を強めるとともに、「公務員制度署名」(200万署名)を軸にした「対話と共同」を秋季年末闘争のなかでいっそうひろげ、「賃下げの悪循環を許すな」「公務員にたたかう権利を返せ」の国民的な世論を急速に発展させていくことがいよいよ重要となっています。
以 上